軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-89:マスターは目指さない

「おねえちゃんもすごぉい……」

空はそれをまたも呆然と眺めていた。魔法を使っている姿なんて全然見たことがなかった小雪が、いつの間にかあんなにも色々出来るようになっていたなんて。

まだ魔法は早いと度々言われている空としては、とても羨ましいしちょっぴり悔しい。

そんな複雑な気持ちを抱く空の頭を雪乃が優しく撫で、その顔を覗き込む。

「さて、お姉ちゃんは頑張ったけど……空はどうする?」

「ぼく……ぼくも、やるよ! がんばるもん!」

その問いに、空はキリッと顔を上げた。

「じゃあ皆と一緒に挑戦してみる? 縄はまだ投げられないと思うけど、棒なら何とか……」

そう言って空用の棍棒を取り出そうとする雪乃を、空は待って、と止めた。

「えっと……ばぁば、ぼく、ひとりでいっかいちょうせんしたいんだけど、だめかなぁ。フクちゃんと、テルちゃんといっしょに」

それは空がここに来る前からずっと考えて準備していたことだった。今空が持つ最大戦力と言えば、当然フクちゃんやテルちゃんだ。

その力を借りて、空らしい狩りができるんじゃないかと作戦を考えてきたのだ。

空がそう説明すると、雪乃は少し考えてから頷いた。

「空が一人で前に出るんじゃないなら、構わないわよ。ばぁばは空の隣にいるけど、それはいい?」

「むしろいて!」

それは願ってもないことだ。空はぎゅっと雪乃の手を握りしめると、足元でピョンピョンと跳ねているテルちゃんと、側の草むらをうろうろしているフクちゃんを見た。

「フクちゃん、テルちゃん、いこう!」

「ホピピピッ!」

「ワーイ、テル、ガンバルヨ!」

空は気合いを入れ、雪乃の手を引いて林の中へと歩き出した。

「あ、空。空もやる?」

空が林の中へと入っていくと、丁度次のカブトムシを探していた武志がそれに気付いて声を掛けてくれた。

「んと……タケちゃん、かぶとむし、どこにいるかわかる?」

「近くにまだ沢山いるよ。あっちの方とかも」

「あんね、ぼく、いっぴきだけでいいから、フクちゃんたちととりたいの。やってみてもいい?」

「え、空一人で?」

武志が驚いて雪乃を見ると、雪乃は軽く頷いた。

「私が空の隣にずっといるから大丈夫よ。危なくはないわ」

「雪乃おばちゃんが一緒なら平気かな。じゃあ、一匹だけでいるやつ探してやるけど……俺たちも側で見てていい?」

武志は雪乃がいるとはいえ空を心配してくれているらしい。空は頷くと武志にカブトムシの捜索を頼んだ。

「そら、ひとりでだいじょぶ? おれてつだうよ?」

「オレも!」

「りくも!」

「危なくない? っていうか、テルちゃんたちって何が出来るんだ?」

「テルちゃんもフクちゃんもつよいから、だいじょうぶ!」

空がそう言って胸を張ると、フクちゃんはふわっと羽を膨らませ、テルちゃんは空の真似をして胸を張った。

皆はそれを心配そうに眺めていたが、空の隣に立つ雪乃が頷いたのを見てそれ以上は何も言わなかった。空のやる気があるのなら、見守ることにしたらしい。

「空、ちょうどいいのがいたよ。今のよりちょっと大きいんだけど、一匹だけ離れてるからじゃまが入らないと思うんだ」

「タケちゃん、ありがとう!」

武志に案内され、空はカブトムシが止まる木が見えるところまで急いで移動する。木に止まっているカブトムシは確かに今まで皆が狩っていたものより少し大きい。しかし去年の夏、空を持ち上げて空を飛んだ個体ほどではなかった。

「フクちゃん、テルちゃん、いくよ!」

「ピルルルルッ!」

「マカセルヨ!」

その返事を聞いて、空は竹籠に手を突っ込みそこに入れてあったものをぎゅっと握って取り出した。それは、端切れ布を袋代わりにして紐で縛った、小さな巾着のようなものだった。

「あら、それは何かしら?」

「これはねー、ななだいさまと、いっしょにそだてたまめ!」

端切れに包まれているのは、テルちゃんに頼んで種になるくらいまで育てた豆だ。

「豆……?」

「そう! それを、ヤナちゃんにたのんで、はぎれでつつんでもらったの! テルちゃん、なげるよ!」

「ハイヨー!」

空はさっと投石器を取り出すと、紐に小さな包みを当ててぐいと引っ張り、狙いを定めた。狙う場所はもちろん、カブトムシが止まっている木の根元の地面だ。

パッと指を離すと巾着袋は結構な勢いで飛んで行った。空の狙い通りの場所に無事に着弾し、簡単に結んだだけの紐がその衝撃で解けて、中の豆が周囲に散らばる。

空はそれを見て、テルちゃんの名を呼び、必要な魔力を少しだけテルちゃんに流した。

「テルちゃん、いくよ! まずは、はつが!」

「リョーカイダヨ! ミンナ、メヲサマスヨー!」

空の言葉と流れてくる魔力に従い、テルちゃんはピコピコと手を動かし、頭の天辺の葉っぱをくるくる回す。小さな種が発芽しても草の中に落ちたその姿は見えない。けれど空にはテルちゃんがちゃんと仕事をしたとわかっている。

「つぎ、せいちょう! いっきに、かぶとむしまでとどくくらい!」

「ググイットイクヨ!」

テルちゃんが嬉しそうに呼びかけると、頭の天辺の葉っぱがピンと上を向く。するとさっき種が落ちた周囲の草がざわっと揺れて、そこからしゅるしゅると蛇が首をもたげるように、太い豆の蔓が姿を現した。蔓は近くにある木やお互いの蔓を支えに、上を目指して長く伸びて行く。

「からめとって!」

「ハイヨー! ツカマエルヨ!」

テルちゃんの指示に従って、ぐんぐん伸びた豆の蔓が真っ直ぐカブトムシに迫る。一本の蔓がカブトムシに届くと、豆同士が何か合図したのか次々に全ての蔓がカブトムシに襲いかかり絡みついた。のんびりしたカブトムシが危機を感じる隙もなく、その大きな体は、あっという間に拘束されてしまった。

空はそれを見ながら、内心で一人激しく葛藤していた。

(ああ……言いたい! 行け、テルちゃん、つ○のムチ! とか言いたい!)

どうやら空の前世の人は、捕まえたモンスターを戦わせるゲームが結構好きだったらしい。

(ダメダメ、それはアウト! いくら今世では僕しか知らないかもでも、倫理的になんかダメ!)

「ソラ、ココカラドウスルヨー?」

「あ、えっと、つぎはフクちゃん!」

空が自分の心と戦っている間に、テルちゃんはカブトムシをすっかりぐるぐる巻きにしていた。

カブトムシはギチギチと手足を動かして逃げようとしているが、豆の蔓に全身絡みつかれては木にしがみ付くだけで精一杯らしい。

それを見た空は慌ててフクちゃんを抱き上げ、そっと肩に乗せる。

「フクちゃん、フクちゃんならあれをバーンって出来ると思うんだけど……もちごめをとってくれたときみたいに、できる?」

空はフクちゃんが自分を助けてくれたときのことは記憶にないが、去年の秋に田んぼのヌシからもち米をかすめ取ってきてくれたことなら憶えている。

「ホピルルルッ!」

フクちゃんは任せとけとばかりに高く囀った。

「テルちゃん、ぼくがさんっていったら、かぶとむしをきからはがして、ぽーんってなげて!」

「ワカッタヨ!」

「いくよ! いち、にの、さん!」

「エイッ!」

空の合図でテルちゃんは豆の蔓に向かってピッと手を動かした。蔓はすごい勢いでカブトムシを木から引き剥がし、その勢いのまましゅるりと蔓を解いて高く放り投げた。

チャンスは一瞬、落ちゆくカブトムシがその羽根を開いて飛び立つまでの――

「い、フクちゃん、いって!」

「ピルルルー!」

――空がカブトムシを指さした瞬間、フクちゃんはその肩からシュンッと飛び立った。

早すぎて目で追えないと考える時間すらなく、バンッという音がしてカブトムシが空中でさらに高く打ち上がる。その一撃で甲殻は割れて飛び散り、開きかけていた羽根には大きな穴が空き、足も何本か千切れ飛んだ。

哀れなカブトムシはもはや飛ぶことも出来ず、そのまま真っ直ぐ木々の間にドスンと落っこちた。

「うひゃっ」

大きな音に空はちょっとビクリと跳ねたが、それっきり落ちたカブトムシは動く気配もなく、地に伏したのだった。

「……すっげー、空! かっこいい!」

「そら、すごぉい!」

後ろで見ていた皆が集まってきて、口々に空の初めての狩りを賞賛してくれた。しかし空はそれを受けて笑顔を見せながら、全く別のことを考えていた。

(危ない……! 行け、フクちゃん、た○あたり! とか言うとこだったー!!)

もう完全に心は何とかトレーナーになっていた。危険だ。

空が内心で反省している間に、武志たちが動かなくなったカブトムシを確かめに行ってくれた。その間にフクちゃんは空の所までゆっくり羽ばたいて戻ってくる。そんなフクちゃんを受け止め、足元のテルちゃんを抱き上げ、空はぎゅっと抱きしめた。

「フクちゃんもテルちゃんも、ありがとう! すっごくつよかったよ!」

「ホピピッ、ホピルルッ!」

「ソレホドデモアルヨ!」

どちらも空に褒められてとても嬉しそうだ。

「空、すごいわ。とっても上手な狩りだったわ」

「かっこよかったよ、空!」

雪乃と紗雪にも褒められ、空は嬉しくて思わずフクちゃんたちを抱いたままピョンピョン跳ねる。そして、満面の笑みを浮かべて口を開いた。

「ぼく、もう、かぶとむしこわくないよ!」

仲間が一緒なら、空だって立派に狩りが出来るのだ。