軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-90:二年目の川遊び

「じゃーん、これが、ごうらいごう、かいだよ!」

「おおお、何かカッコイイ! これどうやって遊ぶんだ?」

「うーん……もうちょっとかわいいのないの?」

「うわぁ、なんかすごいね! そら、ぼくにもかして!」

念願叶って、皆での川遊びの日がやってきた。

子供たちは全員前の日の朝からそわそわしていて、時々青空を眺めては晴れろ晴れろと順番に呟いていた。

その甲斐あってか今朝は快晴で、東地区の子供たちは川遊びをしてもいい、という連絡が回ってきて空たちは跳び上がって喜んだ。

今日はもちろん明良や武志たちも参加して皆で一緒に川遊びだ。

バスに乗って川原に行き、準備が整ったところで、空は雪乃に預けてあった善三特製の水鉄砲を兄弟たちにお 披露目(ひろめ) した。

水鉄砲と呼ぶには随分と厳ついその姿に男の子たちは目を輝かせ、小雪はもう少し可愛いほうがいいと首を傾げている。

それを見て引率の紗雪や雪乃はクスクスと笑う。今日は美枝がいない代わりに幸生も護衛として付いてきている。空が嬉しそうに水鉄砲を自慢しているのを見て、幸生は心なしか嬉しそうだった。

「そら、おれもつくってもらったんだ! ほら!」

「わたしとおにいちゃんも!」

空が 豪雷号(ごうらいごう) (改)を自慢しているのを見て、明良や結衣が自分たちの水鉄砲も出して見せる。

二人の物は空の物とよく似ているが、少しずつどこかが違っているようにも見えた。

「あ、アキちゃんのは、ここにせんがはいってるんだね! なんかかっこいい! ユイちゃんのはちょっとかざりがすくなめ?」

空が水鉄砲を眺めて感想を伝えると、二人共ウンウンと頷く。

「おれのはね、ちょっとけずって、せんをいれてもらったんだ。なんかかっこいいかなって!」

明良の物は太い筒の皮を部分的に削り、所々に模様として斜めの線が入れてあった。

「わたしはねー、あんまりゴツゴツしてないほうが、すっきりしてかわいいとおもうんだよね!」

「俺はもっとゴツゴツしてるほうがいいと思うんだけどさ。兄妹で一つにしろって言われたから、しょうがないかなって」

確かに、結衣の物は割とシンプルな見た目だ。武志は自分の希望は曲げて、妹に譲ってあげたらしい。

話を聞けば、どうやら善三は最初のうちに頼まれた分にはそういう個別対応も多少してくれていたようだ。それはさぞ忙しかっただろうと、空は善三に心の中でそっと手を合わせた。

「空、それ俺にも貸して!」

「ぼくも!」

「いいよ。じゃあ、みんなであそぼ!」

空は豪雷号(改)をよいしょと持ち上げて川に向かって歩き出した。大きいので、陸も半分持って手伝ってくれる。

しかし川のすぐ手前まで来たところで、ザバアッといきなり目の前に水柱が立ち、全員が驚いて足を止めた。

「待った待った! 初顔の子いるでしょ、まだ遊ぶときの注意を聞いてないよ!」

「あ、スイちゃん!」

現れたのは川原の監視員、河童の 川流翠(かわながれすい) だった。どうやら離れた場所から空たちを見つけて急いで泳いできてくれたらしい。

川の浅そうな場所から突然アロハシャツの男が現れ、杉山家の子供たちは驚いて固まっている。その子供たちの顔を見回し、やはり新顔がいると翠は頷いた。

「わぁ、スイちゃん久しぶり!」

「え、あれ、紗雪ちゃん?」

新顔の子供たちを紹介してもらう前に、後ろにいた紗雪が翠に声を掛けた。

「え~、すっごい久しぶりだねぇ! こっち帰ってきたの?」

「夏休みの帰省だよ! あ、この子たちは私の子供なの。上から樹、小雪、あと空と双子の陸ね。皆、この人は川遊びを見守ってくれる、河童のスイちゃんだよ」

紗雪は割と簡単に子供たちと翠を互いに紹介した。

子供たちは母と翠の仲が良さそうな様子を見て、少し安心したらしい。ぺこりと頭を下げたり手を振ったりしてそれぞれ翠に名乗る。

樹たちは河童という言葉に少しばかり首を傾げていたが、どうやら河童自体をよく知らなかったらしく、何かそういう名前の人なんだなと思っている節があった。

空はそれを何となく察したが、妖怪だと教えて理解されるかはわからなかったので、とりあえず放っておくことにしたのだった。

「紗雪ちゃんちの子、いっぱいいるんだねぇ。とりあえず、初めての子には僕が川のことを教えることになってるんだよね。いい?」

「はーい!」

皆は元気に返事をすると、翠の説明を真剣に聞いた。赤い球が浮いていたり、赤い印が付けてあったり、赤い布を付けた棒が立っていたりするところは危険なので、近づいてはいけないこと。

空や陸のような小さな子だけにしたり、一人だけ離れたところで遊ばないこと、何かあったらすぐに声を上げて周りの大人や翠を呼ぶこと、などなどだ。

「それと……一番上の子はもう少し上流で遊んでもいい歳なんだけど……紗雪ちゃん、東京生まれだとどのくらい戦えるの?」

泳げるのかではなく、戦えるのかと聞かれるところがさすが魔砕村だ。

紗雪は樹を見て少し考え、それから首を横に振った。

「うーん……樹にはまだ早いかな? 水泳の授業はあるから泳げると思うけど、深い場所は噛んでくる魚なんかもいるし。もう少し魔力が増えて体が硬くならないと駄目ね」

「了解。じゃあやっぱり今日のところはこの周辺で遊んでてね。浅いとこだけど、ここも色々楽しいよ。あと今年はカニが多いから、カニ漁もお勧めだよ」

「かに!!」

一年ぶりのその言葉に、当然空が即座に食いついた。その反応を見て、紗雪が懐かしそうに川を見る。

「沢ガニ……もう随分食べてないなぁ。空、カニ好き?」

「だいすき!」

去年ここで獲ったカニを食べてから、空はそれが大好きになった。

例え何故か羽根が生えていようとも、それで飛んで逃げようとも、ちゃんとカニの味がしたし美味しかったからだ。

ついでに油でパリッと揚げた羽根も、勇気を出して食べてみたら海老煎餅のような味がしてちゃんと美味しかった。最初は目を瞑って食べたのだが。

「かに、いっぱいとろ!」

「空、カニ捕れるようになったの?」

まだ小さな空にカニ漁が出来るのかと紗雪が驚くと、空は自慢げに豪雷号(改)をぐいっと持ち上げた。

「うん! ごうらいごうがあれば、ぼくもとれるんだよ!」

「そうなんだ……後で見せてね!」

「うん!」

とりあえず注意事項も聞いたことだし、子供たちはさっそくまずは川遊びに慣れるため、水鉄砲を抱えて川の中に入った。

夏が少々苦手な雪乃は川原の木陰に敷物を敷いて荷物番をしていると言って残り、幸生も一緒に隣に腰を下ろして子供たちを眺めている。

紗雪は子供たちと一緒に川に入り、空が水鉄砲を設置するのを手伝ってくれた。

「ここをひらいて、そんで、ここからみずがはいるから、これをみずにつけて……」

「こんな感じでいいかしら?」

「うん!」

本体の筒に押し込むための棒を取り付け、二本の脚を広げて、横からは切り替え用のレバーを出す。

「まま、ここのぼう、おくまでおしこんでからひっぱって!」

「こう?」

紗雪が給水のための棒をぎゅっと押し込み、それからゆっくりと手前に引くと、給水用の筒の奥からゴボゴボと水が入る音が聞こえてきた。

豪雷号(改)は押し棒が継ぎ手になっていて、給水が終わった後は邪魔にならないように折りたたむことが出来る。しかも、二本の脚の根元がくるくると回るようになっているので、後ろを少し持ち上げれば向きが簡単に変えられて、的を狙いやすい。

豪雷号(改)は、空のアイデアと善三の技術が光る逸品なのだ。ただの玩具には勿体ないような仕上がりだ。

空は組み立てられた豪雷号(改)を満足そうに見て、それから少し試し打ちをしてみた。周りに立つ兄弟たちも興味津々だ。空は皆に使い方を説明しながら、実際に何回か撃って見せた。

「ここのればーをこっちにうごかすと、みずがとおくまでとぶんだよ! で、ぎゃくにうごかすと、ひろがるの!」

「よく出来てるのね。さすが善三さん」

「おお~、すっげー! ちょっと俺にもやらせて!」

「ぼくも!」

「私もー!」

組み立てて空が試しに撃ってみせると、どうやらただの水鉄砲ではないことに気付き、小雪も興味を持ったらしい。明良も武志も自分たちの水鉄砲をせっせと組み立てて遊ぶ準備をしている。

それが揃ったら皆でカニを獲ろうと話をしていると、まだ近くで子供たちの様子を見ていた翠がそわそわしながら近づいてきて、空に声を掛けた。

「ね、空くん。皆の後でいいから、ちょっとだけ僕にも撃たせて!」

「いいけど……スイちゃん、ぜんぞーさんにつくってもらわなかったの?」

去年の川遊びで空の水鉄砲を見た翠はすっかりそれを気に入り、自分も頼んで作ってもらおうと言っていたはずだ。それを思い出して空がそう聞くと、翠はしょんぼりと肩を落とした。

「それがさぁ、ひどいんだよ善三ってば。頼みにいったら忙しいって言われて、『大人は後回しだ! っつーか、お前には水魔法があるくせに、こんな玩具で何しようってんだ!』なんて言って、結局作ってくれなかったんだよ! そりゃ僕らは水魔法が得意だけどさぁ、それとこれとは別じゃない!?」

河童という種族柄か、翠は水魔法が当然得意なようだ。それなら多分水鉄砲がなくても同じことがもっと簡単に出来るのだろう。しかし、それと玩具で遊ぶのとはまた別、というのもわかる気がする。

「そっか……ざんねんだね。じゃあ、スイちゃんもあそんでどうぞ!」

注文を断るほどの善三の忙しさの原因に大いに心当たりがある空はそっと目を逸らし、豪雷号(改)で遊んでいいよと快く許可を出すしかない。

翠は空の内心には気付かず、ありがとう! と喜びはしゃぎ、ちゃんと順番を守って豪雷号(改)を撃たせてもらっていた。