軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-88:小雪の頑張り

「よし、次はあれにしようか。じゃあ、まず俺たちが引っ張り下ろすから……」

「おにいちゃん、わたしたちもまぜて!」

次の獲物を武志が決め皆に指示を出そうとしたところに、結衣は割り込むように声を掛けた。

武志は言葉を止め、結衣と一緒に来た小雪を見て頷いた。

「結衣、武器は? 火はダメだぞ、素材がいたむから」

「ちゃんとあるよ!」

結衣は自分用の棍棒をサッと取り出して武志に見せた。

「小雪ちゃんは武器ある? なかったら貸すけど」

武志がそう言うと、小雪は首を横に振って一歩前に出た。

「ね、私、たたくのヤなんだけど! 魔法でバーンってしてもいい?」

「えっと、魔法は皆に当たるかもしれないから、あんまり良くないんだけど」

武志がそう言って首を横に振る。しかし小雪はそれに頷き、サッと右手を振った。

「だから、私がおとす役をすればいいと思うの!」

小雪がそう宣言すると、周りに白っぽい石のようなものが幾つも現れた。

「小雪、何それ!」

「えへへ、氷のかたまり!」

氷の塊だという言葉の通り、ひんやりとした空気が辺りに流れる。氷の塊はどれも大人の拳ほどの大きさで、それをふわふわと自分の周りに浮かせて、小雪は自慢げに胸を張った。

「そんなのいつの間に出来るようになったんだよ!?」

「この前、ばぁばと九代さまにならったんだもんね! これならいけるでしょ!」

小雪はそう言って挙げた右手を大きく振り下ろした。

「いっけー!」

その掛け声と共に、氷の塊がヒュンヒュンとカブトムシ目がけて飛んで行く。ちゃんとコントロールも出来るようで、氷は狙いを外さず次々と甲殻や角にぶつかる。

そして、その固い甲殻に当たってパンとあっさり跳ね返され、弾けて粉々に砕け散った。

「えー! 何で!?」

「カブトムシの背中、固いから……」

武志がそう呟くと、小雪はむぅっと頬を膨らませてまた右手を挙げた。

「じゃあ、えっと、これをこうして、こう!」

なかなかの負けず嫌いである小雪の意思に従って、新たに現れた氷が形を変える。さっきよりも細長い流線型で、両端が尖った形状だ。

「あ、落としたいなら足を狙って! 木にしがみ付いてる、先の方!」

「わかった!」

攻撃を受けたと認識したカブトムシはもぞもぞと動き、もっと高い場所に行こうか飛び立とうか迷うような仕草を見せている。小雪はその動いた足先を狙って氷の塊を投げつけた。

「えーいっ!」

再び飛び立った氷は、カブトムシの足の何本かにぶつかった。それによって一本、二本と足が外れるが、しかしカブトムシの足は数が多い。少し体勢を崩したものの、他の足が木を掴んでいるので落とすところまでは行かなかった。一度離れた足も、足自体は無事だったせいかすぐにまた木にしがみ付く。

「小雪、氷の塊を投げつけたら、その周辺の木肌を凍りつかせるといいかもしれないわ」

「こおりつかせる……」

小雪は雪乃の助言を受けて考え、また新たな氷を生み出す。さっきと同じ、ぶつけるための鋭いものと、もっと小さく細いものと。

それをシュッと投げると、ぶつけるためのものは後ろ足の一本に当たって宙に浮かせた。小雪はそこにすかさず小さなものを投げて木に当て、当たった場所が凍りつくように魔法を広げる。

凍ってつるつるになってしまった木肌には、カブトムシも再び爪を立てることが出来ない。だが、それが出来たのはまだ一カ所だけだ。

「なかなか上手ね、でも落とすには他の足も何とかしないとね」

「むぅ~、じゃあ、えっとえっと……あ!」

次はどうしようか、と小雪が悩んでいると、カブトムシがバッと甲殻を開き、大きく羽根を伸ばした。遅ればせながら危険を感じ、逃げる気になったらしい。

「にげちゃう! えっと、じゃあ、こう!」

小雪は慌ててまた幾つもの流線型の氷を呼び出し、今度は開いた羽根や甲殻の隙間の胴体を狙った。その作戦は上手く行き、氷は羽根の一部に穴を空け、その体にもぶつかる。

羽根の付け根辺りに氷が一つ当たって食い込んだ瞬間、小雪はそこに空気中の水を集め一気に凍りつかせた。

「わっ、上手いな!」

「はねがこおった!」

武志や明良がその魔法の使い方に驚くが、まだカブトムシは落ちてこない。羽根が動かせないので飛び立てなくて困っているが、その分木にしっかりとしがみ付いたようだった。

けれど小雪はもうその解決策を思いついていた。

「水をあつめてー、そんで、木にくっつける!」

小雪は再び水を集め、木の表面に薄く滑らせる。カブトムシが足を引っかけている場所を狙って水を溜め、小さな水の塊を幾つも作る。

「そんで、こう!」

小雪がえいっと勢い良く手を振り下ろすと、木の表面に溜まった水はカブトムシの足の下で瞬時に凍りつき、三角のトゲのような形に一気に盛り上がった。

「やった!」

三角の氷のトゲによってカブトムシの六本の足が持ち上げられ、引っかかっていた木肌から一度に弾かれた。羽根を凍りつかせ、飛べなくなったカブトムシは慌てた様に宙を掻くがもはや為すすべもない。

「お兄ちゃんたち、あとおねがい!」

ドスン、と勢い良く落ちてきたカブトムシは、小雪の願いを受けた他の子供たちについに仕留められたのだった。

「はぁ~……つかれたぁ」

「小雪、大丈夫?」

小雪はカブトムシを落とした後、気が抜けたのかへなへなとその場にしゃがみ込んでしまった。魔法を何回も使ったので、魔力が大分減ったらしい。倒れるほどではないが疲労はかなりある。

「ばぁば、私の魔法、どうだった?」

「とっても良かったわよ。一回ダメでも、何回も色んな工夫をしたところが特に偉かったわ」

「えへへ……」

小雪は雪乃に褒められて嬉しそうに表情を緩め、それから小雪は側にいた紗雪の顔を見上げた。

「ママ、どうだった? 上手だった?」

「すっごく上手だったわ! 小雪、いつの間にあんなに水や氷を出せるようになったの? ほんとすごい!」

紗雪は小雪の魔法を見て、感動したように頬を染めて何度も褒めた。小雪はその顔を見て肩の力を抜き、安心したように笑顔を浮かべ――そして、ぽつりと呟いた。

「私、アオギリさまにばぁばみたいに魔法がつかえるかもって言われて、すごくうれしかったの……ママがいっつも、ばぁばみたいに魔法がつかえたらって言ってたから……だから、私がかわりにつかえたらなって」

「小雪……」

母が受け継がなかった素質を本当に自分が継いでいたなら。代わりになるわけではないけれど、たまに寂しそうな遠い目をする母を喜ばせることが出来るんじゃないか。

そう考えた小雪にとって、ご先祖様と雪乃が魔法を教えてくれたことが、本当に嬉しかった。

基礎だけでも魔法は何だか難しかったが、それでも小雪は短い間に習ったことを必死で憶えて、こっそり練習していたのだ。

「ママは、じぃじににたんでしょ? じゃあ、私がばぁばににてたら、きっとべんりだし、ステキじゃない?」

「うん……すごくステキだと思う。ママ、とっても嬉しい」

小雪は虫なんて嫌いだし、カブトムシにも興味はないけれど。

こういう狩りをするのが田舎の子供たちの日常だというのなら、負けていられない。

「私だって、けっこうすごいでしょ!」

そう言って武志たちの方を見ると、皆も笑顔で頷いてくれた。

負けず嫌いは、努力家でもあるのだ。