軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

2-87:狩りの始まり

「じゃあ行くぞー!」

カブトムシ狩りは武志の掛け声から始まった。

武志はさっき偵察したときに目を付けていた、離れた場所に一匹だけで止まっているカブトムシの所に皆を案内した。

小さめの個体だが、未経験者が多いのでまずはやり方に慣れるほうが先と判断したらしい。

空と小雪と結衣は、とりあえず最初は大人たちと共に少し距離を取って見学だ。

「まずは、アレで練習な! オレと勇馬が縄を投げるから、樹たちはちょっと離れてて。勇馬、行ける?」

「うん! タケちゃん、声かけて!」

「じゃあ、せーので投げるぞ!」

勇馬はちゃんと年上の子の指示を聞くことが出来るようになっていた。せーの、と武志と息を合わせてかぎ縄を投げ、その角を狙う。二人の縄は上手に角に絡まり、カブトムシが嫌そうに身じろぎした。

「よし、明良は勇馬のとこ行って! 一緒に引っ張るぞ!」

この大きさなら三人いればカブトムシを落とせる。そう判断した武志が指示を出し、明良は勇馬に駆け寄って縄に手を掛けた。

「引張れ!」

「よいしょー!」

三人が勢い良く縄を引っ張るとカブトムシは堪らず木から引き剥がされ、大きな音を立てて落ちてきた。

「うっわ!?」

「おちたー!」

樹がちょっと怯えたように声を上げ、陸はぴょんと跳び上がって嬉しそうだ。

「まま、いい!?」

「もうちょっと待って、陸」

棒を片手にぴょんぴょんと跳ねる陸を紗雪が宥める。

落ちたカブトムシは慌てて身を捩って体をひっくり返すと、角を振り上げて自分を取り囲む者たちを威嚇した。樹たちは刀や棒を手にカブトムシを囲み、距離を測ってジリジリと近づく。

「やれー!」

「てやっ!」

「とうっ!」

武志が号令を掛けると勇馬と明良がカブトムシに襲いかかった。二人は振り回される角をサッと避け、その体を棍棒で叩く。

「樹も試しにやってみて!」

「う、うん……」

樹は腰が引けた様子ながら、それでも棍棒をしっかり握ると果敢に前に出た。横から近づき、バシッとカブトムシを叩いたが、棒は背中に弾かれて跳ね上がる。樹はその甲殻の硬さに驚いて後退った。

「かたっ!?」

「背中はかたいから、頭か足を狙うといいよ。大きい角の根元が頭な!」

「わかった!」

樹は落ちてきたカブトムシの大きさに、これは確かに狩りとか戦いなのだと意識を改めたらしい。足を狙って後ろに回り、隙を狙うように少しずつ攻撃し始めた。

紗雪はそれを見守っていたが、戦いに余裕がありそうだと見てうずうずしている陸に声を掛けた。

「陸、どう? 出来そう? あの角の根元が弱いとこだって」

「うん! ぼく、できるよ!」

陸の身体能力について紗雪は心配していない。武器を振り回すことには不慣れかもしれないが、鬼ごっこのレベルはどんどん上がっているのだ。

「ぼくね、みみをだしたときの、ちからのいれかたならったんだよ!」

そう言って陸はむむむ、と小さく唸った。するとその頭の上にポコンと可愛い犬耳が現れる。

「あと、しっぽがあるといいんだよ!」

そう言ってくるりとその場で回ると、確かに陸の尻に茶色い尻尾が現れた。パタパタッと元気良く振られた尻尾は、陸のやる気を示しているかのようだ。

「まま、いい?」

「ええ。危なくなったらママが何とかするから、大丈夫よ。でもお兄ちゃんたちに棒を当てないようにだけ気をつけてね」

「うん!」

陸は元気良く頷くと、棒を両手で持ってぐっと上体を沈め、低く構えた。茶色い尻尾がパタンパタンと何回か揺れ、ピンと上を向いた。

「うわんっ!」

陸は合図のように一声吠えると、ダッと走り出した。その速度は離れた場所で見学していた空が目を疑うほど早い。

陸はカブトムシの二メートルほど手前まで一気に加速し、そこでドンと地を蹴った。

「てぇいっ!」

カブトムシが角を振り回して下げた瞬間、その真上に小さな体が飛び込む。高く飛び上がった陸は、くるりと体を回して勢い良くカブトムシの頭を殴りつけた。

バカン! と大きな音が周囲に響く。陸は一撃入れるとすかさずカブトムシの角を蹴り、安全圏へと跳びすさった。

カブトムシは陸の一撃に大きく身を震わせ、ぐらりと傾いた。まだ生きているようだが動きは鈍い。そのチャンスを武志は見逃さずに声を上げた。

「今だ!」

その声を合図に殺到した子供たちの攻撃を次々くらい、間もなくカブトムシは沈黙したのだった。

「うぇえぇぇ……あーもー、やばぁん!」

「やばんってなーに? こゆきちゃん、むずかしいことばしってるね!」

小雪と結衣、そして空は一連の狩りを見学していた。小雪は近くで見ると思っていたよりもさらに大きいカブトムシに恐怖し、雪乃の陰に隠れてチラチラと見ていたほどだ。

結衣は見慣れているが、とりあえず小雪に付き合っての見学だった。

空はと言えば、たった今陸が見せた軽やかな動きに驚愕を隠せなかった。陸の運動神経が良く、身体能力も年齢の割に高いことは知っていたが、あんな動きが出来るまでとは思ってもみなかったのだ。

「ば、ばぁば、りくが! りくがすごいんだけど!?」

「ええ、陸はなかなかいい動きをするわね」

「ぼ、ぼくあんなことできないよ!? ふたごなのに!」

空は思わず雪乃のシャツの裾をぎゅっと握りしめた。すると雪乃の腰にしがみついていた小雪が、空の顔を覗き込んで言った。

「そんなのしょーがないよ、空。だって陸、毎日帰って来ると公園行ってくんれんしてるんだよ。ママといっしょに、ごはんのしたくするまでずーっと!」

「そうなの?」

「うん。強くなって、早く空といっしょに学校行けるようにするんだって、がんばってるよ」

それを聞いて空は目を大きく見開いた。空は自分も毎日頑張っていると思っていた。けれど、陸もそうだと聞いて胸にじわりと何かが湧き上がる。

頑張ってくれていることが嬉しいような、けれど自分と違いすぎることが悔しいような、そして少し申し訳ないような、そんな複雑な気持ちだ。

「りく……りくが、おともだちとあそんだりするの、ぼく、じゃましてる?」

「え、ううん、それはだいじょぶ。陸、もう園の友だちはいらないんだって」

「はえ!?」

「どの子も陸の足に付いて来れなくて、おいかけっこもできないみたい。かくれんぼとかもだめだって。だから、早くいなかにひっこして、いっしょにあそべる強い友だちがほしいんだって」

空は呆気にとられて陸の方を見た。陸は武志や勇馬、明良に動きの良さを褒められているのか、嬉しそうに笑っている。折り取った角を渡してもらって、大事そうに胸に抱え瞳を輝かせていた。

「りく……ぼくよりぜったい、いなかむいてそう」

「そうだね……はー、しょうがないから私もやろうかな……私だけいなかに来れないなんてやだもんね」

「こゆきちゃんがこっちにきてくれたら、わたしもうれしいなぁ」

結衣がそういうと、小雪は嬉しそうに頷いた。年齢は少し違うが、お姉さんぶるのが好きな小雪と、純朴で素直な結衣はいつの間にかすっかり仲良くなっている。

「じゃあいっしょにやろ、ユイちゃん! そんで空と同じの、おそろいでかわいく作ってもらお!」

「うん!」

二人は頷き合い、手を繋いで皆のところに走って行った。