軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

111:雪の日の衝撃

日が短くなり、寒い日が続くとある日のこと。

(最近、寒くなったなぁ。朝起きるのが段々嫌になってきた)

空は縁側の窓から外を眺めてぼんやりとそんな事を考えていた。

雪乃が用意してくれた冬用の服やセーターは防寒の魔法などを付与してあるらしく、着替えてしまえば寒さはさほど気にならなくなるのだが、その着替えがためらわれるようになってきたのだ。

暖かい布団から出たくない、と思ってぐずぐずしているとフクちゃんがずいずいと布団に入ってきて、その羽毛を楽しんでいるとさらに寝坊してしまう。

空はまだ寝相が悪いので、皆が寝る布団の頭の方に畳んだ毛布を置き、ヤナとフクちゃんはそこに入って寝ている。朝になるとフクちゃんは空と一緒にいたいらしく、布団にぐいぐい入ってくるのでとても可愛い。

その後しばらくしてから、おいて行かれたヤナがフクちゃんを追って布団に入ってきてピタリと張り付く。フクちゃんが嫌がってもぞもぞしている間にご飯が出来て、空が空腹に負けて起き出す……というのが最近のいつもの朝の風景だった。

空はまだ冬が始まったばかりなのに、もう春が待ち遠しいなぁと窓の外を見てため息を吐いた。

今日は朝から曇り空で木枯らしが吹き、徐々に天気が悪くなってきている。冷たい雨にみぞれが混じり、屋根に当たっては時折パラパラと音を立てた。

「きょうは、おそといけないね」

残念そうに呟くと隣で空模様を見ていた雪乃が頷く。

「そうね。明日は、多分雪が降るわね」

「ゆきふるの? いっぱい?」

雪未経験の空がその言葉に目を輝かせて雪乃を見た。雪乃は首を横に振って、沢山は降らないと教えてくれた。

「初雪だから、まだそんなに沢山は降らないわ。でも多分この雨は夜の間に雪になって……少しくらいは積もるかもしれないわね」

「つもるといいなー!」

どうせ寒いことが変わらないなら、いっそ雪が降ってほしいと空は思う。

そうしたら、雪遊びという空にとって未知の楽しみが増えるのだ。

「明日の朝のお楽しみね」

「うん!」

大きく頷いて、空は曇天に笑顔を向ける。

「いっぱいふりますように!」

そんな願い事をした、次の日の朝。

「……空、空。朝よ」

「ん……ううん、もうちょっと……」

空は雪乃に優しく揺り起こされ、ううんと唸って布団を掴んだ。

「空、雪が降ったわよ」

「ゆき……ゆきって」

なんだっけ、と呟いた空の目がパッと開く。

「ゆき!?」

がばりと勢い良く起き上がると、布団の中に潜り込んでいたフクちゃんとヤナが急に浴びた外気の冷たさに悲鳴を上げた。

「ピキョキョッ!?」

「寒い! 空寒いぞ!」

「ごめんね!」

空は寒さも二人の悲鳴も気にせず、パタパタと縁側に向かって走る。

ガラリと障子を開けて外を見ると、窓の外は既に真っ白だった。

「うわぁ……! まっしろ!」

縁側から見える庭の景色が、白い色に彩られてすっかり様変わりしている。茶色かった地面も池の縁の岩も、常緑樹の低木も皆白く染め変えられてしまった。

まだほんの二、三センチの積雪のようだが、それでも見慣れない景色には違いない。空は廊下の寒さに白い息を吐きながら、そんな事も気にならないくらい興奮していた。

「空、寒いから着替えてからゆっくり見ましょうね」

「うん! ばぁば、すごい、ほんとにゆ……」

横から声を掛けられ、空は興奮しながら雪乃の方を振り向き……そして、ピタリと固まった。

「……え。ええと……だぁれ?」

「あら。うふふ」

空が雪乃だと思って声をかけた人は、若くて美人の見知らぬお姉さんだった。

いや、見知らぬ、というのは少し違う。その顔は母である紗雪によく似ているからだ。紗雪と違うところと言えば髪の色だろう。青い髪に白い筋が一房入った、着物姿の美しい――

「も、もしかして……ばぁば!?」

「ええ、ばぁばよ」

「え、なんで!? ばぁばが、ばぁばじゃなくなっちゃった!?」

――何と雪乃は今や、紗雪と同じ歳か少し若いくらいに見える美しい女性に変貌していたのだった。

「ええええぇぇえ!?」

空は朝から大混乱だった。

「はい、空。お代わりどうぞ」

「あ、ありがと……」

空は美しく若返った雪乃からお代わりのどんぶりを受け取り、ぎこちなくお礼を言った。

ご飯を口に運びながら時折ちらりと視線を上げると、気付いた雪乃がにこりと微笑む。

その微笑みは紗雪によく似ていて、空はその度に何だかもじもじして顔を伏せた。

よく見れば雪乃の姿は昨日と別人のようになったというわけではないのだ。普段の雪乃も年を取っていても美しい容姿をしていた。

けれど今朝は肌からはすっかり皺が消え、顔にもふっくらとハリがあってどこもたるんでいない。心なしか姿勢もスタイルも若干良くなったように見える。それだけでいつもよりずっと綺麗だった。

空はもごもごとご飯を食べながらも、頭の中は疑問符でいっぱいで、味が良くわからない気分だった。

「ごちそうさまでした……」

ご飯を食べ終え、空は改めて雪乃を見上げた。

それからふと今朝はまだ幸生が一言も喋っていないことを思い出す。幸生に視線を動かすと、幸生はいつにも増して怖い顔で食後のお茶を飲んでいた。

(じぃじ、顔怖い……背景にゴゴゴゴゴ……とか書いてありそう)

じっと見つめてみるが視線が合わない。よく見れば幸生の視線はうろうろと定まらず、雪乃をちらりと見ては他所を見て、また雪乃を見て、他所を見て、を繰り返しているらしい。

「じぃじ」

「うむっ!? な、何だ空!」

挙動不審だ。空はそんな幸生と雪乃を交互に見て首を傾げた。

「じぃじ、なんかへん? ばぁばがばぁばじゃないせい?」

「ぐっ!」

幸生が返事に詰まると、雪乃が楽しそうに笑い声を上げた。そんな声まで若くなっていて鈴を転がすようだ。

「ふふ、じぃじはね、私がこうなると毎年慣れるまで時間が掛かるのよ。変でも許してあげて」

「そうなの? え、ばぁば、それまいとしなの!? なんで!?」

そういえば、そもそも何故雪乃が突然若返ったのかをまだ聞いていなかったと空は思い出した。

驚いて叫んだ直後にお腹が盛大に鳴り、とりあえず朝ご飯を食べてから説明するわねと言われて忘れていたのだ。

「あ、そういえば後でって言ってたわね。ばぁばが若返った理由ね?」

「うん! ばぁば、なんでそうなったの?」

空が問いかけると、雪乃は微笑んで窓の外を指さした。

「今日、雪が降ったでしょう?」

「うん」

「ばぁばは、雪が降ると若返るのよ。雪女の家系の出身だから」

「……ゆき、おんな?」

今言われたことがすんなり理解できなくて空はしばらく考えてから、一回目を閉じた。

(ゆきおんな……雪、女……昔話で出てくる……雪女?)

「え……ええええぇぇぇ!?」

本日二回目の驚愕だった。