作品タイトル不明
136.窮地にかつての敵が駆けつけてくれる展開は王道
被るパンツにディザスさんの加護が与えられた。
……うん、素直に喜べない。
だって股間部分からキノコが生えたパンツを被るんだぜ?
俺の人としての尊厳ってだいぶ地に落ちたと思ったけど、まだ下があったんだなぁ……。
落ちるときはあっという間だっていうけど、こうやって段階を踏んで落ちるのもきついよね。
心が死んでゆくみたいだ。
「先輩、元気出してくだ……ぶふぅっ」
「おい、せめて励ましてから噴き出せ」
「いや、だって絵面がほんと……すいません。でも……あは、あはははっ! 無理! 我慢できない! あーっはっはっはwww」
「よーし、ぶん殴ってほしいんだな? いいだろう、時代は男女平等だ。女だろうが、相手に非があれば、俺は容赦なくぶん殴れる男だぞ?」
「はい、ごめんなさい! 先輩かっこいい! 好き! 抱いて!」
「おらぁ! 死ねやぁ!」
「ぎゃ~、冗談ですよ冗談ー!」
わざとらしい悲鳴を上げながら、井口は逃げた。
コイツ、無駄に逃げ足はえぇ。
「おい、まてこら!」
「へへ~ん。そんなスピードで私を捕まえられると――きゃっ!?」
がくんと、井口の足が止まる。
みれば、地面から生えた手が、彼女の足首をがっちり掴んでいた。
「なにこれ土……? あ、まさかこれ、セイランちゃんの精霊まほ――」
「りゅーぅをばかにしちゃだめーっ」
「ウキキーッ」
「あぎゃぁぁあああああああああ~~~~……」
身動きの取れない井口は、そのままセイランの精霊魔法で作ったゲンコツと夜空の炎を浴びて倒れた。
ありがとう、二人とも。
悪は滅びた。
「仲いいねぇ」
「エイトさん、至急、眼科に行った方が良い。目の検査が必要だ」
「あいにくと視力は両目ともに4.0さ」
「え、すごっ」
マサイ族かよ。
エイトさんって色んなスペックがちょいちょい素でおかしくないか?
流石、トップアイドル。
てか、ディザスさんの加護ってどんなだろうか?
「ディザスさん、これ調べたいので、とっても大丈夫ですか?」
『かまわないよ。時間が経てばまた生える』
また生えるのか。
じゃあ、とっても問題ないな。
俺はパンツに生えたキノコをとって調べてみる。
・パワーアップキノコ
食べるとステータスが20%アップ。
更に『巨大化』、『飛行』、『火炎攻撃』、『無敵化』の
いずれかのバフが手に入る。
効果時間は巨大化、飛行、火炎攻撃が60秒、無敵化が5秒。
キノコは300秒後に再生する。
マ〇オのキノコだ、これ!
いいのか? 大丈夫なのかこれ!?
ディザスさんは期待に満ちた眼差しを俺に向けてくる。
『さあ、食べなさい』
「……頂きます」
断ることなど出来るわけもない。
俺は覚悟を決めてキノコを食べた。
もぐもぐ、ごっくん。
……あら、やだ。意外と美味しい。
「ッ……」
ドクンッと心臓が脈打ち、体が熱くなる。
同時に新たな力を獲得したのを感じた。
使い方も自然と理解できる。
俺は大きく息を吸い込むと、上空へ向けて炎を吐いた。
直径10メートルにもなる巨大な火の玉が出現した。
「これが……『火炎攻撃』か。凄まじい火力だな」
夜空の最大火力にも匹敵するほどの威力だ。
しかもこの能力、CTが発生しない。
制限時間60秒以内なら、何度でも連射することが出来る。
『火炎攻撃』でこれなら、『巨大化』や『飛行』、『無敵化』も期待できそうだ。
「……素晴らしい加護をありがとうございます」
『うむ、有効に使ってくれると嬉しい』
絵面は最悪だけどね。
『ただ、気を付けたまえ。得られる効果はランダムだ。どれが当たるかは食べてみるまで分からない。それにそのキノコは保存が出来ない。すぐに食べなければ消えてしまうからね』
「分かりました」
それくらいなら全然、問題ない。
ランダムであっても、どれも十分すぎるほどの効果だ。
ただまあ、被ったパンツに生えたキノコをもいで食べるから、絵面は最悪だけどね。
『では、余は消える。そろそろこの体を維持するのも限界だ。……エイト』
「ん、なに?」
『彼と共に行動しなさい。そうすれば、前のような不覚は取らないはずだ』
「……忠告ありがと。でもそれなら、あの時も少しは手を貸してくれても良かったんじゃない?」
あの時とは、終末の狙撃兵によって無限EKに陥った時のことだろう。
ディザスさんはふっと笑うような仕草をする。
『余が手を貸さずとも、君なら何とかすると思ったからだよ。実際、なんとかなっただろう?』
「結果論じゃんかー」
『ふふ、そうかもね。……彼を逃がすんじゃないぞ。ではな――』
そう言うと、ディザスさんの体は胞子となって消えた。
エイトさんは、残された原木を8の下部分にある空洞へと戻す。
「むぅ、余計なことばっかり言って。ホントに気まぐれな奴なんだから」
「でも礼を言うよ。エイトさんが彼を呼んでくれたおかげで、色々知ることも出来た」
俺が礼を言うと、エイトさんはぽりぽりと照れくさそうに頬をかく仕草をする。
「……まあ、リュウが喜んでくれたなら、それでいいか。これからどうするの?」
「ひとまずは キノコ(これ) について検証する。その後に『終末世界』に行くよ」
「……いよいよだね」
俺の言葉に、エイトさんは表情を変える。
「当然、私もついていくよ。いいよね?」
「ああ、勿論」
エイトさんが加わってくれるなら心強い。
「じゃあ、まずはこのキノコが、俺以外でも食べれるかどうか調べてみるか。雷蔵、食べてくれ」
「………………ウガゥ」
雷蔵は首を横に振った。
物凄くいやそうな顔をしている。
「そんな顔すんなって。ほら、味は美味しいから」
「………………」
キノコを近づけるが、雷蔵は決して口をあけようとしない。
イラッ。
「いいから食えおらぁ! 俺だけ尊厳を失うくらいならお前も道連れだぁ!」
「ウ、ウガァ!? ウガォォォ……ムグァゥ」
『雷蔵の忠誠度が最良から良へ減少しました』
んなこと、どうでもいいわぁ!
結果、雷蔵は『飛行』を獲得し、60秒間自由に空を飛びまわった。
俺以外もキノコは食えるし、効果も発生するってことだな。
ただ一つ分かった注意点だが、キノコのCTは俺がパンツを被っていないと発生しないという点だ。
被っていなければ、いつまで経っても新しいキノコは生えてこなかった。
またディザスさんが言った通り、採ったキノコも数秒もすれば萎んで消えてしまう。
仲間に食わせるならば、自分のすぐ近くに居なければいけない。
効果時間も考慮すれば、重ね掛けは不可能。
食べる瞬間は隙になるし、逆に相手に食われないようにもしなきゃいけないな。
その辺は注意しなければ。
何度もキノコを食べて、残りの『巨大化』と『無敵化』の効果も検証完了。
巨大化はサイズが2倍~5倍になり、調節は可能。
サイズに応じて、パワーは増えるが、自重による敏捷の低下はない。
無敵化状態は、お星様みたいなキラキラエフェクトが発生する。
……これ、本当に大丈夫か? その、色々と。
統計としては『巨大化』と『飛行』が35%、『火炎攻撃』が20%、『無敵化』が10%って感じかな。
尊厳が無くなる以外は全くリスクもない。
性能だけなら、間違いなく最高の効果だ。
絵面は最悪だけどね。何度でも言うけど。
検証も終え、エイトさんとの話し合いも重ねた。
井口や『終末の狙撃兵』になった人たちから聞いた情報も、もう一度精査。
装備やアイテムも整え、いよいよ『終末世界』へ挑むこととなった。
「それじゃあ、行くか」
「そうだね」
俺とエイトさんは同時に『デイリーダンジョン』の項目に触れる。
『デイリーダンジョンに挑戦しますか?』
イエスを選択する。
同時に、俺とエイトさんの体が白い光に包まれた。
『次に終末世界を訪れた時、君たちは必ず出会う。
君たちの世界を終末に導いた人物とね』
ディザスさんの言葉が脳裏をよぎる。
あの口ぶりは、ただ終末世界を引き起こした人物を知っているという感じではなかった。
……ひょっとしてその人物は、俺の知っている人物なのか?
だが誰であろうとかまわない。
ソイツが誰か分かれば、現実で対策を立てられる。
少なくとも俺たちのいる現実世界の終末化は防ぐことが出来るはずだ。
『デイリーダンジョン 終末世界
クリア条件 マッピングを1%以上に広げる
世界の記憶を手に入れる
成功報酬 大空の欠片×10、終末の楽譜B、豊穣の雫』
視界が暗転し、俺たちは再び終末世界にやってきた。
クリア条件はマッピングとメインストーリーの解放条件にもあった『世界の記憶』の入手か。
(あの黒い人影の言うことが正しければ、おそらくは駅構内にあるはず)
まずは周囲の状況を確認し、雷蔵たちを呼び出す。
エイトさんも近くに居るはず。
「エイトさ――ッ!?」
声を上げようとして、異変に気付いた。
周りが……白い?
いや、正確に言えば白い糸のようなものが無数に張り巡らされている。
この白い糸、いやこの光景に俺は心当たりがあった。
「ッ……」
焦燥と共に、本能が警鐘を鳴らす。
それはかつてマッピングを広げる俺を阻むように、広大な巣を作っていたモンスター。
討伐推奨LV不明の厄災。
「……キシッ」
おおよそ生物とは思えない音が聞こえた。
だがそれがその生物の発した声であることは、何故か理解できた。
視線の先――無数の白い糸を足場にして、月を背景に宙に浮かぶ巨大な蜘蛛。
――釈迦蜘蛛。
八つの瞳が紅く光り、黒と白が織りなす腹部の独特な模様は、まるでお釈迦様が笑みを浮かべているかのよう。
ナトゥリアをして『厄介』と評される、最凶最悪の化け物。
それが何故、ここに居るのか?
(まさかコイツ、 縄張り(テリトリー) を変えやがったのか――!?)
あり得ない話ではない。
別にコイツらには、一か所に留まる理由などないのだ。
獲物を求め、徘徊し、新たな巣を作っただけ。
ただそれが、俺たちにとって最悪だったというだけ。
釈迦蜘蛛のすぐそばに、糸に絡め捕られたエイトさんが見えた。
「エイトさんっ!」
「……ぁ、ぁ~……ぁ」
返事はなかった。
エイトさんはただ虚ろな声を上げたまま身動き一つ取ろうとしない。
だが、その表情は囚われているとは思えないほど幸福に満ちた笑みを浮かべていた。
――釈迦蜘蛛の糸は、触れた者すべてに最高の幸福を与える。
おそらくエイトさんは、運悪く『終末世界』に来た瞬間に、その糸に触れてしまったのだろう。
「キシシ」
釈迦蜘蛛は糸に囚われたエイトさんを、まるで宝物のように優しく撫でる。
決して逃さず、殺さず、その命が無くなるまで、ずっとずっと愛しむのだ。
(マズイ、マズイ、マズイ、マズイ、マズイ)
なんだこの状況は?
ログインした瞬間にリスキル状態とかありえないだろ。
いや、違う。釈迦蜘蛛は糸に囚われた者を殺さず、死ぬまで愛で続ける。
つまり 死ぬこと(ログアウト) すら許されないのだ。
無限EKよりも遥かに最悪の事態――『無限強制ログイン』地獄。
――このままでは俺たちは永遠にこの終末世界に囚われることになる。
小雨には万が一があった時のために『迷宮扉』を開くように伝えてあるが、繋がる場所は俺のいるここだ。
最悪、小雨や待機室にいるメンバー、全員が釈迦蜘蛛の糸に囚われる可能性すらある。
(どうする? どうすればいい?)
『時間停止』……いや、無理だ。巣の範囲が広すぎるし、逃げきる前に時間切れになる。
『その場しのぎ』や『マジックミラー』と併用すればいけるか?
だがエイトさんはどうする?
俺だけ助かっても、エイトさんを助けられなければ――くそっ。
必死に頭を働かせるが、起死回生の手段が浮かばない。
釈迦蜘蛛がゆっくりと俺の方へ近づいてくる。
その白い糸が俺の体を絡め捕ろうとした瞬間――。
「大丈夫だ! 心配ない!」
叫び声が聞こえた。
視線を動かせば、誰かがビルの上に立っていた。
「とうっ」
その人影はビルから飛び降りると、体から紅蓮の炎が広がった。
それはまるで『火炎攻撃』並みの高温かつ広範囲。
瞬く間に、周囲の糸が燃え、巣が火の海へと変わってゆく。
「キ、キシッ!?」
すると、釈迦蜘蛛は侵入者を迎撃するかと思いきや、その身を翻し逃亡したではないか。
どういうことだ?
いや、それよりもマズイ。
糸によって、空中に囚われていたエイトさんが落下しそうになっている。
「……ぁ、あ……」
「エイトさん!」
虚ろなまま力なく落下するエイトさんをなんとかキャッチする。
「ぅぁ……ん? あれ? リュウ、私はいったい……?」
「エイトさん、よかった……」
どうやら意識も戻ったようだ。
周囲の糸は全て焼き払われ、駅前は元の姿を取り戻していた。
「た、助かった……のか?」
「どうやら間に合ったようだね」
再びあの声が聞こえた。
ぺたぺたと、足音が聞こえてくる。
暗くてよく見えないが、誰かがこちらに近づいてくる。
「釈迦蜘蛛は三害獣の中では、唯一戦闘を避けることが出来るモンスターだ。火と熱を異常なまでに嫌がるんだよ。だからこうして巣を燃やしてしまえば、自分より弱い相手であっても、逃亡を選ぶ。……まあ、何度も通じる方法じゃないがな」
徐々に、その姿が露わになる。
「アンタは……」
その人物を、俺は知っている。
でっぷりとした中年男性で、身に纏うのはブリーフのみ。
先ほどの炎で、胸毛とすね毛が焦げたのか、チリチリとした異臭が鼻を刺激する。
見た目は最低。しかし纏うオーラは歴戦の強者。
「やあ、久しぶりだね。 我が(マイ) 息子の(ベスト) 恩人(フレンド) 」
「ノンノンデニッシュさんっ!」
かつて俺と死闘を繰り広げたプレイヤー。
ノンノンデニッシュさんがそこに居た。