軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

135.ネタバレ菌糸

ブリーフの匂いのおかげで、ディザス・マッシュリーに気にいられたらしい。

……うん、決して素直に喜べない。

流れ自体は凄くいいのに、なんだろう、この釈然としない気持ちは?

屍狼の頭の上に乗ったナトゥリアが声を上げる。

『久しいな、ディザス』

『……その犬臭い匂いはナトゥリアか。君が人間に与するなんて珍しいね』

『それはこっちの台詞だ。話好きではあれど、お前が人間に興味を持つなんてありえないと思っていたぞ。というか、犬臭いって言うんじゃねえよ。ぶっ殺すぞ、雑菌が』

『細菌と菌糸は全く別の生物だよ。まあ学もない犬っころには理解できないだろうがね』

『なんだと?』

『事実だろう?』

キノコと雪だるまの間で火花が散る。

なんだ、コイツら? 仲悪いのか?

最初に視線を逸らしたのはディザスだった。

……いや、雪だるまとキノコだから眼なんてついてないんだけどね。

『ふん、まあいい。適当に拾った棒を口に咥えて家宝のように喜ぶような馬鹿犬になど興味はない』

『おい、誰が馬鹿犬だ。訂正しろ、殺すぞ』

ディザスはナトゥリアを無視して、俺の方を見る。

『今、余が興味があるのは君だ。いい匂いがするパンツの人間よ、名前はなんというんだい?』

「……リュウだ」

てかパンツの人間って言わないでくれ。

後ろで井口とエイトさんが笑いをこらえてるし……。

井口のバカはともかく、エイトさんまで。……傷つく。

『リュウか。うむ、覚えたぞ。余の名はディザス・マッシュリー。この世全てのキノコを統べる王である』

ディザス・マッシュリーはナトゥリア同様に、尊大に自己紹介をする。

声がとても渋い。イケおじの重低音ボイスだ。

キノコに性別があるとは思えないけど、いちおう男性寄りなんだろうか?

「えっと、ディザスさんとお呼びしても?」

『許す』

「ありがとうございます」

『おい……なぜ俺様は呼び捨てで、ディザスはさん付けなんだ? 差を感じるぞ?』

ナトゥリア、うるさい。

お前と違って、こっちはなんか敬意を払わなきゃいけないような雰囲気があるんだよ。

俺の態度が気に入ったのか、ディザスから上機嫌な雰囲気が漂う。

『うん、リュウ、君はよく分かっている。余はそこに居る無能で、短気で、それでいて無駄に神経質な犬っころとは違う。とても賢く、常に知識を集め、己の知見を広めている』

ナトゥリア(雪だるま)から殺気があふれ出す。

……我慢しろって。

そんなだから、短気って言われるんだよ。

『それで? そんな余に何が聞きたい? 聞きたいことがあるから、余を呼んだのだろう?』

「ええ、そうです。まず確認なんですが、ディザスさんは本当にダンジョンに封印されていながら、外の情報を得ているんですよね?」

こくりと、ディザスさんは頭を曲げて、頷く動作する。

『そうだ。余はキノコのネットワークを介して、世界を見ている。この世に存在する全てのキノコは余の一部だ。正確にはその元となる胞子と菌糸だがね』

キノコのネットワーク、か。

そういや、一説によれば、地中に広がる菌糸のネットワークは想像以上に複雑かつ広大で、森一つが巨大なキノコの『脳』になっているらしい。

菌糸による電気信号すら行い、キノコ同士でコミュニケーションも取るんだとか。

確かに世界中に存在する胞子や菌糸を操れるなら、どこに居ようと確かにあらゆる情報を集めることが出来るだろう。

キノコってすげぇ。

『だからこそ、余はそこの犬っころやあの女狐は好かんのだ。余の胞子が届かぬからな』

「届かない……?」

どういう意味だろうと、俺はナトゥリアの方を見る。

『ふんっ。俺様のダンジョンは極寒の空間だ。雑菌なんぞ、入る隙間もないに決まってるだろう』

ああ、なるほど。寒いから菌が繁殖できないのか。

そういや、滅茶苦茶寒い地域だと、風邪をひかないって聞いたことがあるな。

「女狐ってのは?」

『コロドル大渓谷のダンジョンに封印されてるアバズレだ。俺様のダンジョンとは逆で灼熱で暑苦しいから、同じく菌が入れない』

なるほど。高熱も菌の天敵だもんな。

てか、アバズレって……。コロドル大渓谷の隠しダンジョンに封印されてるモンスターは女性なのか?

女狐ってことは、ひょっとして雲母の近縁? いや、でもアバズレって言ってるしな……。どういうモンスターなんだろう?

ナトゥリアは、ヌッチャラ湿原の隠しダンジョンの主も知ってるっぽかったし、四大ダンジョンの主、皆顔見知りなのか?

いや、今はまず質問だな。

「……貴方は俺たちプレイヤーや終末世界、旧世界について、どれだけ知っているんですか?」

『ふむ……抽象的だね。それならもっと単純にこう聞けばいいじゃないか。『異世界ポイントとはいったいなんなのか』とね』

「ッ……」

異世界ポイントについて知ってる!?

どういうことだ? プレイヤーじゃなければ、異世界ポイントは認識することすら出来ないはずだ。

それはメイちゃんやラヴィといった、この世界の人々も例外ではない。

『ぷれいやー』という呼称は知っていても、『異世界ポイント』そのものは別だ。

これにはエイトさんも驚いたような表情を浮かべている。

驚きのあまり体が6になって――ってそんなことある!?

あ、戻った。

うん……見なかったことにしよう。

『そこの犬っころと違い、余は例外中の例外だ。余の胞子はこの世の至る所に存在し、根を張っている。もはや世界そのものが余の一部と言っても過言ではない』

『ふんっ、俺様のダンジョンは例外だがな』

ナトゥリア、うるさい。

いちいち張り合うなって。

『君たち『ぷれいやー』にも、余の胞子は付着している。この世界に降り立った瞬間からね。そこから別の世界にも端末を伸ばすことに成功し、情報を集め続けている。異なる世界とネットワークを繋ぐのは中々至難の業だったが、その甲斐はあった。新たな知見を広げられた』

……この人、とんでもないな。

いや、人じゃなくキノコか。

本来なら認識できないことを認識できるって、俺たちプレイヤー以上の能力だ。

「てことは、現実や終末世界にも」

『勿論、余の胞子は存在している。戦国乱世にも、各ぷれいやーの待機室にも。君が気になっている『旧世界』と呼ばれる世界にもね』

ディザスさんは告げる。

『旧世界……あそこは君たちが『えねみー』と呼ぶ者たちが住む世界だ。つまり彼らの本拠地ということになる』

「ッ……なんだって?」

えねみーたちが居る世界。

『旧世界の鍵』を使えば、そこに行くことが出来るってことか?

「いや、ちょっと待てよ? だとすれば、おかしくないか? どうしてリリアンヌさんは、敵である俺にそんなアイテムを渡したんだ?」

リリアンヌさんが『えねみー』だとすれば、味方を裏切るに等しい行為だ。

「……『えねみー』側も一枚岩じゃないってことか?」

『余には人の心までは分からない。だが、彼女が君に鍵を渡したのなら、そこには必ず意味があると思うがね』

確かに魔女さんはこの世界を憎んでいた。

だが仲間たちとの思い出や良心と板挟みになり苦しんでいたのも事実。

魔女さんの日誌にはそう記されていた。

もしリリアンヌさんが、本当に魔女さんの弟子ならば、同じような苦しみを抱えているってことか?

井口が手を上げる。

「先輩、難しく考えすぎじゃないですか? もしかしたら、酔っぱらって、渡すアイテム間違えたって可能性も……」

「いや……流石にそれはないだろ」

「私もそれは無いと思うよ。いくらなんでも馬鹿すぎる」

「ですよねー」

エイトさんの言う通りだ。

あのクラウン・レディオの仲間だぞ? そんなポカするわけがない。

井口も自分でも流石にそれはないと思ったのか、すぐに訂正した。

おそらく、なにかリリアンヌさんなりの思惑があるのだろう。

話が脱線してしまったな。

旧世界の鍵については分かった。

じゃあ、本題だ。

「……教えてくれますか? 『異世界ポイント』ってのはなんなんですか?」

『一言でいうならば――■■■■■■だよ』

「えっ?」

『おや……?』

ディザスは首をかしげる仕草をする。

今、何を言おうとしたんだ?

まるでその部分だけ、言葉が抜き取られたような感じだった。

『■■■■■■……。■■、■■■■、■■■■■■……ふむ、発声、言語化が出来ないのか。プロテクトが掛けられているのか、もしくは……』

「どういうことですか?」

『余が異世界ポイントへ干渉できたように、向こうもまた余に干渉してきたということだ。多少のヒントならまだしも、根幹に触れる部分は喋らせたくないのだろう。君たちの言葉でいう所の『ネタバレ禁止』というやつだろうな』

「えぇ……」

旧世界については話せたのに、どうしてだよ?

いや、それだけディザスさんが知った情報が重要だってことか。

えねみーの拠点とは比べ物にならないほどの。

エイトさんが声を上げる。

「なら、それ以上はやめておいた方が良いよ、ディザス。たぶん、現実の私みたいになると思う」

「エイトさん……?」

「リュウ、忘れたの? 私、コンサートで皆に異世界ポイントのことを話そうとして病院に運ばれたんだよ? 甚だ悪質な行為には罰則が与えられる。それがディザスにも適用されるなら、避けた方が良い。これまでの会話で分かったと思うけど、ディザスの知識は、異世界ポイントを抜きにしても貴重過ぎるからね」

「……確かにその通りだな」

それに旧世界について分かっただけでもありがたい。

『余の心配をしてくれるとは嬉しいね。あくまで『異世界ポイント』の真意については、ぷれいやー自身で辿り着いてもらいたいのだろう。なら、君たちが進むべき道は一つ。メインストーリーを進める事、それだけだ』

「……それはつまり、メインストーリーの先に異世界ポイントの真意があると?」

『さあね。余から言えるのはそれだけだ』

ディザスさんはそれ以上は言わない。

でもそれは肯定と同じだ。

「メインストーリー、か。俺はまだ7をクリアしたばかりだけど、エイトさんは?」

「私は今33だね。……リュウ、ちょっと遅すぎない?」

「いや、でも代わりにEXシナリオは毎回クリアしてるし」

「え、すごっ」

エイトさんでもメインストーリーはそんなに進んでるのか。

掲示板を見た限り最低でも50以上はありそうだし、先は長いな……。

(それにメインストーリーを進めるには、先にこっちを何とかしなくちゃいけない)

俺は画面のメインストーリーの欄をタップする。

そこに記された条件を。

『メインストーリー8を開始するには、以下の条件を満たしてください』

『デイリーダンジョン『終末世界』で世界の記憶を手に入れる』

なんてあからさまなのだろう。

まるで早くあの世界へ向かえと、急かしているみたいだ。

世界の記憶ってのは、あの黒い影が言っていたやつだろうな。

『ふむ、次は終末世界とやらへ向かうのかい?』

俺の思考を読んだかのように、ディザスさんの声が響く。

頷くと、少し何かを考えるような素振りをする。

『ならば十分に気を付けたまえよ。おそらく、次が君に――いや、君たちにとっての大きな山場になる。なぜなら――』

ディザスさんは間をあけ、こう言った。

これから地獄へ向かう者たちへ、せめてもの手向けのように。

『次に終末世界を訪れた時、君たちは必ず出会う。

君たちの世界を終末に導いた人物とね』

「なっ……」

終末世界を引き起こした人物、だと……!?

「だ、誰なんですか、それは!」

『……悪いが、そこまでは言えないようだ。これ以上はエイトの言う通り、罰則が下るだろう。だが、そうだな。せめてもの贈り物をしよう』

ディザスさんは体をかすかに揺らす。

すると輝く胞子が体から放出され、それは俺が持っていたブリーフへと降り注がれた。

光が収まると、にょきっと。

ブリーフの丁度股間部分からエリンギみたいなキノコが生えてきた。

『余の加護を授けた。肌身離さず身に付けなさい。きっと君の役に立つだろう』

「……あ、はい」

加護については素直に嬉しいんですが、一言いいですか?

これ、絵面が最悪なんですけど……。

俺、股間部分からキノコが生えたブリーフ被って終末世界に行かなきゃいけないの?

終末世界を引き起こした人物と会わなきゃいけないの?

罰ゲームだろ、こんなの……。