軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

107.ウェザー・フェンリルが思った以上に常識人だった件

クリアのアナウンスが流れたが、黒い空間には戻らない。

まだイベントが残っているのか。

「……凄いな」

セイランの精霊魔法によって変貌した遺跡は、また徐々に元の姿へと戻ってゆくではないか。

せいぜい武器を遠隔操作できるくらいの認識だったのが、完全に覆された。

やがて遺跡は、完全に元通りの姿になる。

足元の霜や、雪だるまも消えている。

いや、少し離れたところに一個だけ残っているな。

すると、その雪だるまがゆっくりと動くと、ぴょんっと飛び跳ねた。

『うむ、見事だった。まさか、目覚めたばかりであそこまで力を出せるとはな。まあ、使い方はまだまだだが……』

雪だるまが喋った!?

いや、この声、ウェザー・フェンリルか。

すぐに警戒する俺たちだったが、雪だるまは「待て待て」と声を上げる。

『安心しろ。戦うつもりはない。少し話をしようではないか』

「話……?」

『ああ……よいしょっと』

雪だるまに足が生え、トコトコとこちらへ近づいてくる。

わぁ、可愛い。蹴り飛ばしてやりたい。

『人間、名は何という?』

「……リュウだ」

『リュウか。では、リュウよ、鍵を出せ』

「鍵……? ダンジョンの鍵か? なんで?」

『ダンジョンを正式に閉じるために決まっておろうが!』

「え、でも今は閉じてるんじゃ?」

広場の中央にある噴水は元に戻っているように見える。

『閉じておらん。あれは俺様の力で閉じてるように見せてるだけだ。見ろ』

中央にある噴水が氷のように変化すると、音を立てて崩れ去った。

そこには最初に開いたままのダンジョンへ続く階段があった。

(本当に開きっぱなしだったのか……)

俺は収納リストから『グランバルの王鍵』を取り出す。

すると、ダンジョンの入り口が塞がり、元の枯れた噴水へと戻った。

ウェザー・フェンリルが安心したように、ため息をつく。

『ようやく閉じたか。まったく余計な手間を掛けさせおってからに』

「……いや、本当にごめんな」

まさかダンジョンの扉がそのまま開きっぱなしになってるなんて思いもしなかった。

ノンノンデニッシュさんとの戦いの後、普通に黒い空間に移動したから、完全に頭から抜けていた。

『先ほども言ったが、ダンジョンの扉は開いたままだと、中にいるモンスターが外へと溢れ出る。ダンジョンに生息するモンスターは地上のそれよりも強力な個体が多い。特に俺様のような存在が居るようなダンジョンはな。放っておけば地上の生態系が崩れてしまう』

口調は荒いが、言葉の節々に真面目さが出てるな、この狼。

見た目のわりに凄く常識人だ。

……モンスターなのに常識人?

「お前みたいな存在って……そういうダンジョンが他にもあるのか?」

『全部で四つある』

「四つ……ひょっとして、グランバルの森、パルムール王墓、ヌッチャラ湿原、コロドル大渓谷か?」

『ほう、よく分かったな。その通りだ』

やっぱりか。

プレイヤーのスタート地点にある隠しダンジョン。

それぞれに、コイツのような化け物が居るって事か。

魔女さんとの飲み会の時に、グランバルの王鍵だけじゃなく、パルムール王墓の王鍵も手に入れたからな。

『俺様も他の連中も強すぎるが故にダンジョンに封印された。だから俺様たちはずっと待ち続けているのだ。誰かがダンジョンを攻略し、解放してくれるその日をな』

「……で、俺たちがやってきて、そのまま帰ってしまったと」

『そうだ』

「……」

改めて背景を聞くと何とも言えない気持ちになってくるな。

そりゃ、ウェザー・フェンリルからしたら、怒るわ。

『まあ、結果的に良かったとも言える。今のお前らでは、入ったところで俺様のところまで辿り着けず死ぬだけだ』

あまつさえ、こちらの身を案じるようなことさえ言う。

本当に人間臭いなコイツ。

「……じゃあ、やっぱり、さっきセイランに言ってたことはわざとか? お前、セイランが力に目覚めた時、笑ってたよな?」

『……何か誤解をしているようだな』

ふんっと、ウェザー・フェンリルは無い鼻を鳴らす。

『あれは紛れもない本心だ。力を持ちながら、弱者に甘んじるなど言語道断。力あるものは強者にならねばならん。でなければ、力を持たぬ弱者がいらぬ勘違いをするからな』

「お前な。だからって言い方ってあるだろ。あんな形じゃなくとも……」

『その小娘にはあれくらいでちょうどいい。むしろお前らの方が甘やかし過ぎだ。あの小娘の言動を見ていれば、それくらい容易に想像がつく』

「うぐっ……」

それは確かにちょっと否定できない。

養護院でのことがあるし、セイランにはつい甘くなってしまうのは確かだ。

雷蔵や夜空たちも気まずそうに視線を逸らす。

コイツらもセイランには甘いもんな。

『まあ、いい。それよりも本題だ。お前の言っていた『プレイヤー』や『終末』とやらについて、知ってそうな奴に心当たりがある』

「! それは本当か?」

『あくまでかもしれないだ。外れたところで、俺様に文句を言うなよ』

「言う訳ないだろ。んで、誰なんだ?」

ウェザー・フェンリルは少しだけ間をあける。

『パルムール王墓の地下にあるダンジョンの主だ。俺様と同じようにダンジョンに囚われてはいるが、アイツはダンジョンに居ながら、外の情報を集める術を持っている。何かしら知っている可能性が高い』

「パルムール王墓……」

俺は収納リストから『パルムール王墓の王鍵』を取り出す。

それを見た瞬間、ウェザー・フェンリルから驚く気配が伝わって来た。

『ほぅ、既に鍵は持っていたか。なら、パルムール王墓にある『双鱗の間』に向かえ。俺様の名を出せば、話くらいは聞いてくれるはずだ』

「お前の名前?」

『ああ、そういえばまだ名乗っていなかったか』

これはしまったと、ウェザー・フェンリルは咳払いをする。

『俺様の名は『ナトゥリア・ハーデス』という。覚えておけ』

ナトゥリア・ハーデス、か。

そういや、最初から名前があるモンスターに出会うのは初めてだな。

『人間に名を名乗ったのは貴様で二度目だ。リュウよ、もっと強くなれ。いずれ、貴様らが俺様を解放しに来るのを待っているぞ。それと、これは土産だ。そこの犬にでも食わせておけ。では、さらばだ――……』

「あ、ちょっと待――」

そう言い残し、ナトゥリア――というか、雪だるまは溶けて消えた。

いや、パルムール王墓に居る奴のこととか教えて欲しいんだけど……。

雪だるまのあった場所には、青色の宝石が残されていた。

『氷狼の宝珠を手に入れました』

氷狼の宝珠か……どんなアイテムなのだろうか。

手に取ると、体が白く光り始める。

どうやらこれでイベントは終わりのようだ。

黒い空間に戻って確認するか。