軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106.EXステージ6 その4

三体のウェザー・フェンリルが動き出すのと同時に、再び天候が変化する。

先ほどとは比べ物にならないほどの猛吹雪が一面を支配した。

「ッ……ラーーーーーーー♪」

「「ウッキウッキキ~~~♪」」

すぐに新月と音楽猿たちが演奏を再開する。

だが――。

(――相殺しきれないっ!)

先ほどまでは打ち消していた猛吹雪が、『憩いの歌』によって作られた空間を瞬く間に侵食してゆく。

派手なパンツの『温暖』でも打ち消せないほどの極寒。

このままじゃあっという間に凍死だ。

「ウッキイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

夜空がレインボー・マジカルステッキを構え、スキルを発動。

多重詠唱による火魔法と風魔法によって生まれた熱風の渦が吹雪を押し返す。

「ナイスだ夜空!」

「ウ、ウッキィィ~……」

夜空は嬉しそうにするが、呼吸が荒く、全身が震えている。

かなり無茶をしているのだろう。

聖歌猿たちもかなり苦しそうだ。

夜空と聖歌猿たちの全力でようやく相殺。

もう一体……いや、二体音楽猿を呼び出せれば、再び押し返せるかもしれないが、そちらに戦力を割く余裕はない。

――ステージで使用できるカードは九枚まで。

その制限が、ここにきて重くのしかかる。

ノンノンデニッシュさんのように『上下一心』があればと思わずにはいられないが、無いものねだりをしてもしょうがない。

「夜空たちが吹雪を食い止めてくれてる間に決着をつけるぞ!」

「ウガォゥ!」

幸い、ウェザー・フェンリルとの会話の間に、こちらの仕込みも全て終わっている。

「「「ウガォォオオオオオ!」」」

炎の竜巻を突き破って、三体のウェザー・フェンリルが突っ込んでくる。

「――マジックミラー!」

しかしその突撃は、四方に配置したマジックミラーによって阻まれる。

マジックミラーのCTは10秒。そして破壊されない限り、何枚でも作り出すことが可能だ。

さっきの会話の最中に仕込ませてもらった。

「雷蔵が一体! 骸骨騎士、月光、月影で一体! 呪い人形と屍狼は俺と来い! セイランは射撃で俺たちの援護を!」

「うんっ!」

俺の呼びかけにセイランは涙をぬぐって頷く。

大丈夫だ、セイラン。お前は強い。自信を持て。

「ウガォォオオオオオオウ!」

即座に雷蔵は雷神形態へと変化する。

雷蔵も会話の最中に、『紫電一閃』を既に刀に纏わせていたようだ。

鬼丸と数珠丸から紫電が迸っている。

特に数珠丸は、スキル効果が+20%加算されるからな。

威力は一気に跳ね上がる。

「……ォォオオウ!」

骸骨騎士も鎧を脱いで、金色のオーラを発動。

俺が試練を乗り越えたことで、月光、月影たちの指揮効果やバフも加算されるようになった。

(連携されたら厄介だ。個別に仕留める!)

『催眠』や『幻惑』が有効なら、一体ずつ確実に仕留められるが、こいつら分身体のせいか効果が見られない。

デバフに『時間停止』だけでなく、こっちまで無効化されるとはな。

おまけに極寒。

マジで相性が悪い。

ソウルイーターに『魂葬刃断』を纏わせ、ウェザー・フェンリルへと仕掛ける。

「キラキラエフェクト!」

「ッ……ガルォォオオオオオオン!」

キラキラエフェクトを目くらましに攻撃をするが、ウェザー・フェンリルは楽々と攻撃を躱す。幻と違い、実際に発生するエフェクトなら有効だが、効果はいまいちか。

お返しとばかりに、奴の周囲に無数の氷柱が発生。高速で射出される。

ズガガガガガガッ! とマジックミラーが凄まじい勢いで削られてゆく。

「呪い人形!」

『―― 闇撫(ヤミナデ) 』

呪い人形の周囲から無数のミイラのような手が、空間を割って現れる。

それらはゴムのように伸びて、ウェザー・フェンリルへと襲い掛かった。

呪い人形が、正式に俺の眷属になった際に覚えたスキルだ。

ウェザー・フェンリルはフィールドを高速で移動し、これを躱す。

『逃ガサナイ』

無数の腕は、ウェザー・フェンリルの放つ氷柱に次々と撃ち落されながらも、やがて何本かの手が奴の体を捕らえる。

「ワォンッ!」

その腕を足場に、屍狼が駆ける。

その速度はぐんぐんと加速し、更に回転が加わりドリルのように変化。

ウェザー・フェンリルの体を大きく抉り貫いた。

「ッ……ガルォゥ!?」

明確なダメージに、ウェザー・フェンリルの顔が歪む。

こちらも屍狼の新たなスキル『高速ワンワンドリル』だ。

ふざけたネーミングだが、その威力は本物。雷蔵の『紫電一閃』に匹敵する。

ただ動きが直線的で軌道を読まれやすいのが欠点だ。だからこうして、事前に敵の動きを阻害しておく必要がある。

(――今だ!)

俺は一気に加速し、ウェザー・フェンリルの体をソウルイーターで貫いた。

「ガルォォ……」

『魂葬刃断』によって、ウェザー・フェンリルの体は一気に黒く染まる。

そのままボロボロと塵になって消滅した。

まずは一体。

(雷蔵たちは!?)

すぐにそちらに目を向けると、雷蔵たちはなんとか持ちこたえていた。

雷蔵は互角、骸骨騎士たちは少し部が悪いか。

「すぐに加勢に――ッ!?」

『どこへいくというのか?』

「なっ――!?」

俺は絶句した。

なんと目の前に倒したはずのウェザー・フェンリルが居たのだ。

『これは分身体だと言ったはずだ。一体でも残っていれば、そこを起点にまた作れる』

「ッ……」

冗談きついぞ。

つまりコイツを仕留めるには、 三体(・・) 同時に(・・・) 倒さなきゃ駄目ってことか。

ふざけやがって、なにがステージの勝利条件は『モンスターの全滅』だ。

モンスターを同時に仕留めるの間違いじゃねーか。クソッたれが。

頭の中で悪態をつきつつも、俺は状況のこの上ない最悪さを理解する。

――ウェザー・フェンリルを三体同時に仕留めるのは不可能だ。

雷蔵たちも手いっぱいのこの状況で、仕留めるタイミングを合わせるなど、とても出来ない。

呪い人形の『闇撫』も一体か二体が限度。

まずいぞ……何か打開策を考えなきゃ全滅だ。

『どうした? 勝てぬことを悟ったのか?』

「……」

ふんっと、ウェザー・フェンリルは鼻を鳴らす。

その視線が、セイランに向けられる。

『まあ、それも仕方あるまい。あのような未熟者を連れていてはな』

「ッ……!」

ウェザー・フェンリルの言葉に、セイランがびくりと震える。

『この奇天烈な格好の男も、雷鬼も、幻獣も、猿共も、まあ及第点をくれてやる。だが貴様だけが落第だ小娘。もう一度、はっきり言おう。足手まといだ』

「ッ……」

セイランは今にも泣きそうだった。

銃を握る手が震え、うつむいてしまう。

『言い返せぬのは、貴様自身がそれを自覚しているからだろう? 今、どんな気持ちだ? 仲間の足手まといと理解した今、貴様はどんな気持ちだ?』

「おい……お前、もう黙れよ!」

ファントムバレットを放つが、ウェザー・フェンリルは紙一重で躱す。

「……がう、もん」

『なんだ? 聞こえぬぞ? もっと大きな声で言ってみろ』

バッ! とセイランは顔を上げる。

「ちがうもん! あたしは……あたしは! あしでまといなんかじゃ――ない!」

パンッ! とセイランは足元の地面に手を付ける。

すると地鳴りのような音が周囲のあちこちから聞こえてくる。

「な、なんだ……?」

「ウガォゥ?」

「ウ、ウッキィ……?」

地面が激しく揺れる。

困惑する俺たちを尻目に、セイランに変化が起きた。

終末の楽譜を演奏した時のように、その瞳が青く光り輝いていたのだ。

更に銀色だった髪の先端が燃えるように赤く染まる。

赤く、青く、そして銀色に光り輝くセイラン。

『ふっ……』

一瞬、その姿を見てウェザー・フェンリルが笑みを浮かべたように見えた。

「遺跡の精霊よ! 力を貸して!」

今までの未熟な発音じゃない、はっきりとした言葉遣い。

セイランの声に呼応するように、周囲の遺跡が形を変えた。

石畳の床が、レンガの壁が組み変わり、無数の『巨大な手』へと。

「捕まえろ!」

ゴゴゴゴゴゴ、と無数の巨大な手がウェザー・フェンリルへと殺到する。

『ぬぅ……!?』

即座にウェザー・フェンリルは回避しようとしたが、無駄だった。

四方八方から迫る来る無数の手は、呪い人形の闇撫よりも早く、しかも巨大で、三体のウェザー・フェンリルを瞬く間に絡め捕ってしまう。

『……なんという力だ! これは抜け出せぬ……ならば!』

ウェザー・フェンリルは周囲に無数の氷柱を発生させ、高速で射出する。

「防いで!」

対して、セイランは手を水平に動かす。

呼応するように、周囲に新たに生まれた岩の手が全ての氷柱を叩き落とした。

それを見て、ウェザー・フェンリルはたいそう愉快そうに笑みを浮かべた。

『ふは……ふははははは! やれば出来るではないか小娘! まだまだ未熟だが立つことは出来たか! 良いだろう! 先ほどの発言は撤回してやる! 見事だ!』

「――潰れろ!」

次の瞬間、三体のウェザー・フェンリルは握りつぶされ、消滅した。

「足手まといなんかじゃない。あたしはあしでまといなんかじゃ……あた……あたし……は……」

「セイラン!?」

光が収まると、セイランは倒れるように意識を失った。

すぐに支えると、髪の色も元に戻ってゆく。

『おめでとうございます。メインストーリー6 EX『氷狼の襲撃』をクリアしました』

頭の中に響くアナウンス。

だがそれすらも気が回らないほど、俺たちは目の前の光景に絶句していた。

すっかり様変わりした地形。

これまでの精霊魔法とは規模が違う圧倒的な威力。

これをセイランがやったのか……?

その力に、俺は戦慄するしかなかった。