軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-6.アリサ

「きらーん」

岩の上で口上を告げた紫髪の幼女アリサが、ポーズとともに口で効果音を言う。

「なんだ、ガキか」

予想外の闖入者に気を張っていた男達が、馬鹿馬鹿しいという顔になって力を抜いた。

――今だ。

短気絶弾(ショート・スタン) 。

オレは魔法欄から単体攻撃魔法を選ぶ。

命の危機に瀕して実力以上の力が出たのか、今回は失敗する事なく魔法の発動に成功し、不可視の衝撃弾がリザを組み伏せる男の顔面に激突した。

「うわっ」

男が悲鳴を上げて顔を押さえ、その隙にリザが拘束から抜け出す。

「――ちっ、まだ巻物を持ってやがったか」

リーダー格の男が忌々しげに言って、オレを凶眼で睨め付ける。

「ちゃーんす! 喰らえ、 恐怖(フィアー) !」

ぞわりと背中を悪寒が走った。

ポチとタマが足に張り付き、痛いほど爪を立てる。

リザも同じ事を感じたのか、青い顔でオレの傍に駆け寄ってきた。

だが、オレ達よりも劇的な反応をする者達がいた。

「ぐぎゃああああああああああ」

「ぬおおおおおおおおおおおおお」

「くるなぁあああああああああああ」

男達が絶叫を上げ、涙や鼻水や涎を撒き散らしながら逃げ出した。

恐ろしい何かから一刻も早く、一歩でも遠くへ逃げるんだというように、必死で駆けていく。

「……なんだ?」

思わず呟きが漏れたが、前後の因果関係からして、アリサが何かしたのは間違いない。

「ちょっと怖がらせちゃったみたいね」

アリサがゆっくりとした歩調でこっちにやってくる。

「もう大丈夫よ。怪我はない?」

言葉と同時に、安心感が身を包む。

やけに包容力のある幼女だ。

視界の隅で何か動くのが見えた。

ログ・ウィンドウだ。

一行表示モードにしていたそれを通常表示に切り替える。

>「雷魔法」スキルを得た。

>精神魔法「 恐怖(フィアー) 」の抵抗に失敗しました。

>「精神魔法」スキルを得た。

>「精神耐性」スキルを得た。

>精神魔法「 平静空間(カーム・フィールド) 」の抵抗に失敗しました。

>精神魔法「 安穏空間(コンフォート・フィールド) 」の抵抗に失敗しました。

……ほほう?

「このくらいかすり傷です。ご主人様に怪我はありませんか?」

「オレは大丈夫だよ、リザが守ってくれたからね」

夜が明けたら、街までポーションや軽い傷の治療に使う軟膏や消毒液なんかを買いにいかないとね。

「ありがとう、お嬢さん。君のお陰で悪漢を追い払えたよ」

「お役に立ててなによりね。わたしはアリサ――」

アリサはそう名乗ってから、イタズラ小僧のような顔になって続けた。

『よろしくね、佐藤さん』

「ああ、よろしく。オレは佐藤じゃなくて、サトゥーだよ」

答えてから気付いた。

アリサが使ったのは日本語だ。

オレの答えを聞いたアリサが「やっぱりね」と呟いてから、こっちの言葉で続けた。

「一緒に来て、あいつらが戻ってきたら大変だもの」

そう言って、アリサがオレ達を手招きする。

「ご主人様、行きましょう。ここにいては危険です」

「――分かった」

怪しげな幼女についていくか少し迷ったけど、ここはリザの助言に従おう。

アリサの案内先は意外に近かった。

丘の反対側くらいの場所に、彼女達の馬車が止まっていたのだ。

「アリサ!」

馬車の傍で中年男性と喋っていた黒髪の少女が、アリサに気がついて声を上げた。

前髪が鼻の辺りまで伸びているので、顔は下半分しか見えないが、顎や口元のラインはかなりの美貌を予感させる。

「もう! 心配したんだから」

「ごめんごめん。ただいま、ルル。ニドーレンにも心配させちゃった?」

「逃げ出したのかと思ったぞ。それで、そちらの少年と亜人達は?」

アリサが 中年男性(ニドーレン) とため口で話す。

AR表示によると、ニドーレンは奴隷商人らしい。

「こっちはサトゥーさん。 お花摘み(トイレ) に行った帰りに、変なヤツらに攫われそうになったところを助けてもらったの」

アリサが事実と逆の事を言う。

助けられたのはオレ達だ。

「そ、そうだったのか」

「あと、わたしとルルを買ってくれそうな人」

「お前と、お前の姉を?」

アリサの言葉に、ニドーレンが戸惑いの顔をオレに向ける。

――いやいや、そんな予定はないよ。

そんな内心の声が聞こえたかのように、アリサがとてとてとてと寄ってきて、オレに日本語で耳打ちする。

『レベル1って事は、こっちに来たばかりなんでしょ? わたしとルルを買ってくれたら、こっちの常識とか色々と教えられるし、さっきみたいに魔法で護衛もできてお買い得よ』

それは正直助かる。

だが、買う側とはいえ、人身売買に加担するのは正直遠慮したい。

「お願い――」

アリサがこっちの言葉に戻してオレに懇願する。

「ここで買ってもらえないと、わたしもルルもカゲゥス伯爵領の鉱山に売られちゃうのよ」

「鉱山に?」

こんな小さな女の子と中学生くらいの少女が、鉱山でなんの仕事を――。

思考を巡らせていると、胸糞が悪くなるような想像が頭を過ったので、そこで想像を止める。

「この子らはセーリュー市の奴隷市で売れ残ったんだ」

「そうなんですか?」

幼いとはいえ、アリサは将来性十分なほど可愛いし、複数の暴漢を一方的に排除できる魔法を行使できるほど強い。

黒髪の娘の顔は長い前髪で見えないけど、口元を見る限り、それなりに整った感じだ。

なんで売れ残ったんだろう?

もの凄く高くて商談が成立しなかったとか?

「ええ、このアリサという娘は利発で気が利くのですが、見ての通り忌み色の髪をした曰く付きですし、姉のルルは妹とは似ても似つかないほどの不細工でして」

忌み色?

紫色の髪の毛が忌避されているって事かな?

「サトゥーさん、こっち見て」

「ちょ、ちょっとアリサ!」

アリサがルルの前髪を上げてみせた。

――おおっ。

テレビのアイドルや美少女コンテストでも見た事がないような和風な美少女だ。

奴隷生活で傷んだであろうロングストレートの黒髪も、彼女の超越的な美貌をいささかも損なわない。

「もう、アリサ。私の顔なんて見せたら買ってもらえないわ。私はアリサと離ればなれは嫌」

「大丈夫よ。サトゥーさんは絶対に買ってくれるわ」

ルルが前髪で顔を隠してしまった。

彼女は若すぎてオレの恋愛対象にはならないけれど、その美貌は十分に目の保養になると思う。

あの美貌を隠す前髪だけは切らないと、人類全体の損失だね。

「あまりの不細工さに言葉もないでしょう?」

「……不細工?」

「ええ、顔が半分焼けた娘でさえ売れたっていうのに、ここまで不細工だと場末の娼館さえ買い取り拒否でした」

ニドーレンは本気で言っているのだろうか?

ここまでの美少女が不細工に見える?

もしかして、アリサが精神魔法とやらでニドーレンにそう思い込ませているんだろうか?

『わたしは何もしてないわよ。こっちの美醜判定だと、ルルは不美人に見えるみたいなの』

アリサが再びオレの傍に駆け寄り、オレに日本語で耳打ちした。

『疑うなら、ニドーレンのステータスを確認してみて。状態異常は何もないでしょ?』

確かに、アリサの言う通りだ。

「ニドーレン、わたしとルルの値段はいくら?」

「金貨1枚――と言いたいところだけど、鉱山だとその半分くらいがせいぜいだろうから、銀貨三枚で」

「もう一声!」

なぜかアリサが値段交渉を始めてしまった。

「なぜお前が交渉しているんだ?」

当然の疑問をニドーレンが口にする。

「この人に買ってほしいから!」

「仕方ない、なら銀貨二枚だ。そっちの蜥蜴人の奴隷と交換でもいいぞ」

ニドーレンの言葉に、獣娘達が身をこわばらせた。

「交換する気はありません」

だから、縋るような目でオレを見ないように。

獣娘達の肩や頭をポンポンと叩いて安心させる。

「サトゥーさん、人族の奴隷もいた方がいいわよ。お買い物をする時に、その子達だけだと入店拒否どころか売買拒否されちゃうわ。それにわたしなら、夜の方もオッケーよ!」

アリサが肩紐をずらして、「うっふん」とレトロなお色気ポーズでアピールする。

言うまでもなく似合っていない。小さい子が無理して振る舞っているようで、痛々しい。

「いらん」

オレに幼女趣味はない。

「そんなこと言わないで、お願い! 鉱山送りにされた奴隷の寿命は三ヶ月くらいなの!」

――え?

思わずリザの方を見て確認したら、彼女は神妙な顔で頷いた。

異世界の鉱山は、想像以上に危険な場所らしい。

「ルルも一緒にお願いしなさい」

「う、うん。旦那様、お願いします」

小中学生の女の子を買うというのは外聞が悪すぎるが、ここで拒否して彼女達が三ヶ月後に死んだりしたら、後悔で夜も眠れなくなりそうだ。

「分かった、買おう」

「お買い上げありが――」

「やったー! ショタご主人様げっとぉおおおおおおおおお!」

ニドーレンの言葉を掻き消すように、アリサの歓声が響き渡った。

うん、ちょっと選択を間違ったかもしれない……。