軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-5.出会い(2)

「……空き部屋がないね」

トラブルに愛されそうな紫髪の幼女を見送った後、気を取り直してサビレの街で宿を探したのだが、どこも一杯でけんもほろろに塩対応されてしまった。

セーリュー市から避難してきた人達が多いのだろう。

馬小屋も埋まっているくらいだしね。

たぶん、それで多くの人達が街の外でキャンプしていたんだと思う。

「申し訳ございません、ご主人様。私達のせいで」

なぜかリザが詫びてきた。

「どういう事?」

「おそらく、私達がご一緒しているせいで、どの宿も断っているのだと思います」

マジで? そんな事ある?

人種差別にもほどがある。

「ご主人様、私達はどこかの路地裏で夜を明かすので、お一人で宿にお泊まりください」

「野営するなら皆でだよ。オレ達も外の人達みたいに街の外で野営しよう」

こっちに来てから野営ばっかりだから、もう慣れっこだしね。

門を目指しながら薪を買い求める。

なんでも、外で勝手な伐採は禁止らしいのだ。

入ってきた東門ではなく、カゲゥス伯爵領への街道がある西門から街の外に出る。

「こっち側でも野営している人が多いね」

東門前ほどじゃないけど、それなりの人数が焚き火を囲んで野営をしていた。

オレ達もそんな人達の端っこに行って野営の準備を始める。

「おい、そこのガキ!」

とりあえず暗くなる前にテントを張ろうと荷ほどきをしていたら、お隣さんから険のある声で怒鳴りつけれらた。

ポチとタマが怯えてリザの陰に隠れる。

「なんで――」

「もっと離れた所に行け!」

「ケモノ臭いんだよ!」

理由を聞こうとしたら罵声を浴びせられた。

どうやら、彼らは獣人奴隷を差別するタイプの人達らしい。

「リザ、行こう」

こんな連中の言いなりになるのは業腹だが、意地を張ってあんな連中の傍で野営するのは危険すぎる。

衛兵のいる都市内ならともかく、こんな場所だと不審な死体があっても、詳しく調べずに無縁仏の仲間入りをして終わりそうな雰囲気があるんだよね。

「この辺ならいいかな?」

離れた場所に、獣人奴隷を連れた人達がいたので、そちらに行く。

「おい、クズ猫! 何を怠けてやがる! 水を汲んでこいって命じただろうが!」

「み、水なら、そこに!」

「ゴミが浮いてるんだよ! もう一度、汲み直してこい!」

獣人の奴隷達が酷い扱いを受けている。

理不尽に蹴られた猫人が、一人で運べないような大きな壷を抱えて歩いていく。

「また保存食かよ。街の中で食事がしたかったぜ」

「全くだ。獣人奴隷どもの引率なんて貧乏くじもいいところだ」

「何見てやがる! お前らは骨でも囓ってろ!」

その隣では空腹そうな獣人奴隷達の横で、男達が見せびらかすように食事をしている。

男の一人が投げ捨てた骨に、獣人奴隷達が殺到し、それを見た男達がゲラゲラと下品に嗤う。

なんていうか、見ていて気分が悪い。

それに、暴力を見るたびに、ポチタマがビクッとするので、もう少し離れた場所に行こう。

「このくらい離れたら十分だろう」

岩陰の向こうに、さっきの連中の焚き火が微かに見えるくらいだ。

野営に都合がいい事に、近くの岩の間から湧き水が出ていて遠くまで水を汲みに行く必要がない。

どうして、誰もこんな便利な場所に陣取らないのかは謎だ。

まるで誰かが用意してくれたかのよう――なんていうのは考えすぎだろう。

「ご主人様、申し訳ございません」

「謝らなくていいよ。悪いのは差別をする連中だから」

オレはそう言って、ポチとタマの頭を撫でてやる。

ポチやタマに手伝ってもらってテントを張り、その横でリザが竈を組んで火を焚いた。

リザは意外と女子力が高いようで、街で買った食材でスープを作ってくれる。

「その量だと足りなくないか?」

一人分なら十分だけど、四人分にしては少ない。

「もう少し足しましょうか?」

「うん、今の四倍くらいで頼む」

「そんなに、ですか?」

リザが困惑する。

こっちの人は朝とかお昼にいっぱい食べる習慣なのかな?

よく分からないけど、オレは料理ができないのでリザにお任せだ。

良い匂いがしてくると、ポチとタマが鍋の傍で良い子座りをしてパタパタと尻尾を揺らしている。

「ご主人様、できました」

リザが深皿に盛ったスープを渡してくれる。

パンやチーズやハムはカットして、清潔な布の上に並べてある。

――あれ?

「皆の分は?」

オレの前にしか食事が置かれていない。

「私達はご主人様の食べ残しをいただきますので……」

リザが当然のように言う。

ポチとタマもそれが当たり前と思っているような顔だ。

「人数分あるんだから、一緒に食べよう」

わざわざ残飯を食べなくて良いと思う。

リザは最初戸惑っていたが、くるくると合奏するポチとタマのお腹の音に負けて、オレの提案を受け入れてくれた。

「びみびみ~?」

「パンがゴリゴリして美味しいのです!」

さすがは獣人族だ。

オレの歯だとスープでふやかさないと食べられない固いパンも、平気で食べている。

「チーズや肉は嫌いか?」

「そんな事無い~?」

「ポチはなんでも食べる良い子なのですよ!」

「それはご主人様の食料ですので……」

遠慮してパンとスープしか食べない子達に、ハムやチーズを勧める。

「お肉さんやチーズさんが載るとパンがとっても美味しいのです」

「二人とも、少しは遠慮なさい」

「気にせずたくさん食べていいよ。リザもちゃんと肉を食べて」

「……は、はい」

パンとスープにしか手を付けないリザに、干し肉やチーズを押しつける。

リザも肉やチーズが嫌いというわけではないようで、口元や目元が緩んでいて満足そうだ。

獣娘達がちゃんと食事を始めたのを確認して、オレも食事を進める。

調味料を買い忘れたので、スープは塩だけの優しい味付けだったが、これはこれで美味しい。

旅の間はリザに調理を担当してもらおう。

食後に皿くらい洗おうと思ったのだが、「それは私達の仕事です」と言って拒否されてしまった。

せめて食後のお茶でも淹れようと思ったけど、残念ながら茶葉を買い忘れていた。

明日、店が開く時間になったら、調味料と一緒に茶葉も買ってこよう。

「リザ、これの――」

食後に虫除けの事を思い出したので、リザに使い方を教えてもらおうと思ったのだが、視界の隅に表示されたレーダーが不審な 赤い光点(・・・・) を表示しているのに気付いて声を詰まらせた。

赤い光点、つまりはオレ達に害意を持つ者達だ。

「やっぱり、トカゲだ」

「げっ、本当にいやがった」

「ノロの一人勝ちかよ」

「へへっ、イヌとネコを見かけたから、絶対そうだと思ったのさ」

こちらを威嚇するように、仲間内で喋りながら人相の悪い男達が闇の向こうから現れた。

ポチとタマが青い顔でリザの背後に隠れる。

「あなた方は……」

リザが蒼白な顔で一歩後じさった。

AR表示される彼らの所属は犯罪ギルド「ドブネズミ」。

どうやら、リザ達の古巣にいた犯罪者達のようだ。

「よう、トカゲ。生きてやがったかよ」

「腹を刺されて生きてるとは、さすがは畜生だけあって頑丈だぜ」

「知らねぇガキが一緒だな」

「よう小僧、他人の奴隷を奪うのは犯罪だぜ?」

男達は抜き身の剣をチラつかせながら、こちらを恫喝する。

リザが無言で尖った棒を構えた。

「おお、怖い怖い」

マズい。相手は余裕の顔だ。

向こうの方がレベルも高いし、防具も身に着けている。

オレに格闘技や剣道の経験はない。

せいぜい、ボクシング映画や剣道マンガで覚えたエセ武術くらいだ。

――巻物。

脳裏に二本の巻物が思い浮かぶ。

魔法屋のお婆さんが持たせてくれた護身用の巻物だ。

一つは単体攻撃用の衝撃波魔法で、もう一つは範囲攻撃用の放電魔法。どちらも非殺傷用でせいぜい怯ませたり隙を作ったりするだけの効果しかない。

「トカゲ、選ばせてやるぜ」

「何を、ですか?」

「そのガキとイヌとネコを殺せ。そうしたら、また俺達が飼ってやる」

「ご主人様、ポチとタマを連れてお逃げください」

リザが小声で言う。

「私が時間を稼ぎます!」

その言葉と同時に、リザがリーダー格の男に棒を突き入れた。

男が剣でリザの棒を弾いたが、それほど余裕のない感じだ。

もしかしたら、レベル差ほどの戦力差はないのかもしれない。

「ちっ、お前ら、囲め! 三対一なら余裕だ!」

男達がリザを囲む。

オレはAR表示される男達とリザのステータスに目を走らせる。

リザはレベル2だが槍術スキルを持っている。それに対して男達はレベル2から4もあるが、一人が格闘術を持つ以外は、喧嘩や威圧や根性なんかの補助スキルを持っているくらいだ。

リザが一人を打ち倒した。

だが、二人目を突こうとしたタイミングで打ち倒した男に足を掴まれて隙ができる。

そこに別の男がリザに剣を振り下ろした。

――危ない!

オレはストレージから取り出した巻物を紐解く。

それと同時に何かがオレの手を伝って魔法の巻物に流れ込み、巻物から魔法「 短気絶弾(ショート・スタン) 」が放たれる。

不可視の砲弾が、横合いから男を吹き飛ばした。

その間にリザは体勢を立て直し、正面に立つリーダー格の男の攻撃を避ける。

リザのピンチを救えたが、状況の改善にはなっていないようだ。

「くそっ、ガキが魔法使いだったか!」

「巻物だ! そう何発も撃てねぇ」

吹き飛ばされた男が頭を振って立ち上がり、リザが最初に打ち倒した男もそれに続く。

「ガキを殺せ!」

鉈を持った男がオレの方にやってくる。

「ご主人様!」

「おおっと、行かせないぜ」

オレの援護に向かおうとするリザを、リーダー格の男ともう一人が邪魔をする。

「にゅぅ~」

「く、来る、来ちゃうのです!」

震えるタマとポチが、オレの背中に張り付いた。

ヤバい。

この状態だと、鉈を避ける事もできない。

オレは一か八かで、もう一枚の巻物をストレージから取り出した。

「どこから出しやがった!」

それを見た鉈男が突っ込んできた。

巻物を縛る紐を――げっ、焦って巻物がすっぽ抜けた。

転がる巻物に手を伸ばす。

ヤバい。鉈男がオレを真っ二つにしようと――。

「えい~」

「やー、なのです!」

幼いかけ声と同時に、二つの石が鉈男に命中した。

「この畜生どもが!」

鉈男の注意がポチとタマに向かう。

転がる巻物に手が届いた。紐を引っ張って巻物を解く。

くらえ―― 放電網(スパーキング・ネット) !

巻物から投網のような放電が放たれる。

理科の実験でやった陰極管の放電現象を思い出す。

「ぐあっ」

鉈男が悲鳴を上げて地面を転がる。

オレは鉈を拾い上げ――って、痛っ。静電気で鉈を取り落とす。

「――ご主人様!」

リザの叫びと同時に、オレは横っ腹に強い衝撃を受けた。

視界が二転三転する。地面? オレは殴られたのか?

「けっ、こんなガキに伸されやがって――起きろ!」

リーダー格の男が、鉈男を引っ張り上げて立たせる。

リザはもう一人の男に組み伏せられていた。

絶体絶命。

フィクションならヒーローが駆けつける瞬間だが、現実はそんなに甘くない。

オレは逆転の目をつかみ取るため、必死に思考を巡らせる。

――オレは何を持っている。

――オレは何ができる。

――オレが今するべきは、なんだ。

AR表示されるメニューがパタパタと開いては閉じ、魔法欄を開いた。

新しい魔法が増えている。さっき巻物から使った二つの魔法が登録されている。

どうして?

理由なんか今はいい。

初心者救済策の「全マップ探査」アイコンを使った時も、魔法欄に「全マップ探査」の魔法が登録されていた。

魔法を使うか?

必要な魔法スキルを有効化していないからか、「全マップ探査」の魔法は発動できなかった。

一か八かに賭ける?

それはダメだ。どの魔法を使っても現状打破は難しい。

単発の「 短気絶弾(ショート・スタン) 」でリーダー格の男を気絶させられたとしても、他の二人にやられる。

範囲攻撃の「 放電網(スパーキング・ネット) 」で男達を痺れさせる?

それもダメだ。この位置からだとリザが巻き込まれる。痺れて動けないリザを抱えて逃げるのは分が悪い。

そんな時だ。

「 ちょほいと(・・・・・) 待ちなぁ!」

岩陰から芝居がかった幼い声がした。

昔の映画か何かで聞いたような言い回しだ。

「誰だ!」

リーダー格の男が 誰何(すいか) する。

岩の上に小さなシルエットが浮かんだ。

淡い光に照らされて、紫髪の幼女がキメ顔でこちらを見た。

あれは街で見た奴隷の少女だ。

「ショタの危機あらば、即参上! マジカル美少女アリサちゃん、見参!」

幼女が微妙に古くさい名乗りを上げた。

救い手、とは思えないが、彼女が作ってくれた隙を利用させてもらおう。