軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-4.サビレの街

「そろそろ行こうか」

日が暮れる前に、次の街へ行きたい。

「ネコ、イヌ、この袋に使っていた食器を入れなさい」

「あい」

「はいなのです」

蜥蜴人の子はトカゲ、犬人の子はイヌ、猫人の子はネコという雑なネーミングだ。

人様の名前にケチをつけるのもなんだけど、気になっていたので街への移動中に尋ねてみた。

「――私達の名前、ですか? この名は前の主人であるウース様が名付けました」

他の奴隷達も熊人がクマ、蛇頭族の母子がヘビとコヘビ、鼠人がネズミという感じのネーミングだったらしい。

彼女達の前の主人のネーミングセンスのなさに、ちょっとだけ共感を覚えてしまった。

「奴隷になる前の名前はないのかい?」

さすがにトカゲとかよりはマシな名前のはずだ。

「私はありますが、イヌとネコは赤ん坊の頃に拾われて奴隷になったので……」

蜥蜴人の子が目を伏せる。

「私達に名前を付けていただけないでしょうか?」

そう頼まれたがネーミングセンスには自信がない。

ちなみにトカゲは擦過音の混ざる長々しい名前で、そのままでは発音するのが難しい。

「君は最初の二文字をとって、リザでどうだい?」

「はい、感謝いたします」

蜥蜴人の子、改めリザが満足そうに頭を下げる。

「わくわく~」「なのです!」

猫人と犬人の子が期待に満ちた目をオレに向けた。

そんなに期待されても困る。

「ペットみたいにタマやポチって訳にもいかないし」

その呟きを名付けと勘違いされてしまったのか――。

「ポチ!」

「タマ!」

それを聞いた二人が満面の笑みで踊り出す。

ここまで喜ばれると、名付けじゃないとは言いづらい。

「――げっ」

言い出せずにいるうちに、いつの間にか、三人の横にAR表示される名前欄が、ポチ、タマ、リザになっていた。

どういう仕組みなんだろう?

システムさんがオレ達の会話を聞いているのだろうか……。

相変わらず、謎な世界だ。

こうなっては仕方ないので、そのまま仮の名前として使ってもらう事になってしまった。

「ご主人様、見えて参りました」

リザが丘の向こうに見張り塔の天辺らしきものを指し示す。

わいわいやっているうちに、オレ達は次の街――サビレに到着したようだ。

「難民の人達かな?」

サビレの街を守る立派な外壁の外に、幾つものテントや焚き火を囲んだ人達が、小さな集落のようなものを形成していた。

「はい、おそらくは。入市税が払えなくて外で夜を明かすのでしょう」

オレの呟きにリザが答える。

「入市税って幾らくらいなんだ?」

「私もあまりよく知りませんが、平民で大銅貨一枚、奴隷で銅貨数枚だったと思います」

大銅貨や銅貨の価値がよく分からないけど、それほど高いわけじゃないようだ。

外壁の前にできた列の最後に並ぶ。

「次!」

それほど長い列じゃなかったので、すぐに順番が来た。

「うん? 他国の者か? ずいぶんと、少ない荷物だな」

門番が訝しげな視線をオレに向ける。

「他国のカンジャかもしれん。荷物と身分証を見せろ」

――カンジャ?

ああ、スパイ的な意味の「間者」か。

「これでよろしいですか?」

門番に、荷物とマリエンテール嬢から貰った書き付けを見せる。

「ほう? 領軍の許可証とは珍しい。伯爵領に貢献した恩人とあるが、何をしたんだ?」

そんな事を書いてあったっけ? そこまで熟読していなかった。

「たぶん、伯爵領の方に『竜の鱗』をお譲りした事だと思います」

「なるほど、鱗を求めて『竜の谷』の結界ぎわを旅する山師か。獣人奴隷を連れているのも分かる。蜥蜴人が護衛で、犬人や猫人のガキは 飛竜(ワイバーン) どもに見つかった時の囮にするんだな」

門番の一人が訳知り顔で的外れな事を言う。

ポチやタマが怖がるから、そういう失礼な冗談は止めてほしい。

「荷物にも異常はない。入市税を払ったら行って良し」

とりあえず許可が出たので、大銅貨一枚と銅貨三枚の入市税を払って門を潜る。

「……ご主人様」

門前広場を横切る途中で、リザが固い声でオレを呼んだ。

「どうかした?」

「飛竜に遭遇したら、私が囮になります。ですから、この二人はお許しください」

真剣な顔で言うリザの左右から、ポチとタマが抱きついた。

どうやら、この子達は門番の失礼な発言を真に受けていたらしい。

「心配しなくても、誰も囮になんてしないよ。オレは山師じゃないし、そもそも危ない場所に行く趣味はないから」

「承知、いたしました。ご主人様を信じます」

弁明したらリザはそう返事してくれたのだが、三人の顔の強張りは最後まで取れなかった。

まあ、今後の態度で分かってもらえばいいか。

それがダメなら、この子達を任せられるような商会とか人物を探すしかないね。

「とりあえず、旅に必要な物を買い集めよう」

道行く人に教えてもらった市場へと向かう。

市場は市民らしき人達に紛れて、旅装の人達がそれなりにいる。

セーリュー市で上級魔族とやらが暴れ回る大事件があったせいか、誰も彼も表情が暗い。

「ずいぶんと高くなっていますね」

チーズや干し肉を買っていると、リザがぽつりと呟いた。

「そうなのか?」

「はい、前の主人の荷物持ちで買い物に同行する事がありましたが、この半値くらいが相場だったように思います」

予算は潤沢だけど、あまりカモにされるのも業腹だ。

そう思って主人に値下げ交渉しようとしたら、高騰の理由を教えてくれた。

「言っておくが俺が値段を吊り上げてるんじゃないぞ。いつもの何倍もの人数が買いに来る上に、卸商人どもが売り渋ってやがるのさ」

特に食品関係や旅に必要な品々の物価が上昇しているらしい。

オレ達にとってはピンポイントに嫌な状況だが、幸いにして「竜の鱗」のお陰で資金には余裕がある。

旅の途中で困らないように、必要な物は躊躇わずに買おう。

「まったく、困ったもんだぜ」

「こうも値段があがったら、あたしらが干上がっちまうよ」

近くの露店でも同じような会話が繰り広げられていた。

地元民から厄介者を見る目を向けられて、ちょっと居心地が悪い。

早めに物資を購入して、今晩の宿を探そう。

「ご主人様、生野菜は重いので最低限にした方が……」

「そうだね。二、三日分だけにしておくよ」

白菜っぽい野菜やほうれん草っぽい野菜を買っていると、リザからダメ出しを受けた。

ストレージがあるから重さはどうでもいいんだけど、それについては話していないので、ここはリザの忠告に従って少量だけに 止(とど) めておく。

保存食も入れて全部で十日分もあればいいだろう。

普通の食品が三日分、保存食が一週間分ほどあれば、次の街の出入りでトラブルがあっても、その次の街まで余裕で行けるはずだ。

保存食は固く焼き締めたパンや甘くないビスケット、漬物、干し野菜、干し肉、チーズ、干したイチジクなどを中心に買い求める。

リザの勧めで、小麦や大麦なんかも買う。

残念ながら米は売ってなかった。

お湯がどうとかいう南の領地で作られているそうなので、そのうち手に入れたいと思う。

「ご主人様、スリです」

リザが警告してくれて、ギリギリで財布をすられずに済んだ。

「ありがとう、リザ。助かったよ」

金貨や宝石類はストレージに入っているとはいえ、小銭入れがすられると買い物前に両替屋まで行って小銭に崩さないといけないので面倒なんだよね。

それにしても治安が悪い。

通りで喧嘩やひったくりを何度も見かけたし、スリ未遂に遭うのもこれで三回目だ。

人相の悪い男達が路地裏から通りを行く人達を値踏みしているしね。

「あ! お肉なのです!」

ポチにはそんな治安の悪さも関係ないらしい。

「ハムとソーセージみたいだね」

値段を尋ねたら、ちょっと躊躇してしまうくらい割高だった。

干し肉の五倍から七倍というのは凄い。

まあ、買うんだけどさ。ハムを一塊とソーセージを人数分×数個くらい買った。

「おっ、服屋だ」

服屋と言っても、トルソーなどは一つもなく、無造作に台の上に服が積み上げられただけの古着屋だ。

「リザ、君達三人の服を選んで。二着ずつね。下着があったら下着も何枚か選んでおいて」

「私達の服、ですか?」

オレが自分用の外套や着替えを選びながら言うと、リザが不思議そうな顔になった。ポチとタマも顔を見合わせている。

「そうだけど、何か問題が?」

「問題だらけだ! 汚らしい獣人に服を触らせるなよ! もし触れやがったら、その服も買い取りだからな!」

リザに尋ねたのに、語気荒く答えたのは露店主だった。

日本の服屋さんの丁寧な接客になれているせいか、驚いて二度見してしまいそうだ。

「なら、オレが三人に見せて買えばいいね」

こういう手合いに喧嘩腰で対応するのは面倒なだけなので、軽くスルーしてリザ達に話を振る。

「わざわざ買っていただかなくても、私達の服は一応ありますが……」

「破れているし、着替えもいるだろ?」

露店主が「ふん、獣人なんか自前の毛か腰蓑一つで十分だろ」とか言っているが、聞くに堪えないので完全に聞き流す。

ここまであからさまな差別発言は、日本だとなかなか耳にしないね。

他に店があればそっちに行くのだが、ここまでの間見かけなかったので仕方ない。

「このくらいで入るかな?」

「はいなのです! 身体の方を合わせるのですよ!」

「ういうい~」

子供達に触れないように注意して、衣服を合わせて購入する。

ポチは黄色、タマはピンク色が好きなようだ。

「針と糸を買っていただければ、私が調整いたします」

リザは武人っぽいのに、意外と女子力が高い。

尻尾穴も開けないといけないし、後で裁ちばさみも一緒に買い求めよう。

古着屋での買い物を終え、外套を売っている別の店で四人分の外套を買う。

オレは一緒に売っていたローブというのを買ってみた。露店主が「こんなの置いていたっけ?」と首を傾げていたが、気にせず売ってくれた。

AR表示によると、このローブはユリハ繊維という聞いたことのない素材で作られた魔法道具の一種みたいだ。魔法防御と物理防御の数値が凄く高い。変な特殊効果もないようだ。

そんな高機能アイテムなのに、わずか銀貨数枚だったのでお買い得だった。たぶん、露店主は鑑定スキル系を持っていなかったのだろう。

竜の谷での運の良さが、ここでも発揮されたみたいだ。

「靴は残念だったね」

「私達は足の裏も丈夫ですから、お気になさらないでください」

靴屋では獣娘達がフィッティングを拒否されて買えなかった。

「ごしゅ~、あれ~?」

タマが雑貨屋の一角を指さす。

「サンダルか。あれなら、大体のサイズが合ってたら履けるね」

獣娘達にヒモで縛るサンダルを買う。一個銅貨一枚とリーズナブルだ。

ついでに、背負い袋や小袋、それからシャベルなんかも買った。トイレの穴を掘ったり埋めたりするのに必要らしい。

「……これは? 野菜、いや薬草かな?」

「惜しい。これは虫除けだよ。焚き火に入れて燻せば虫が寄ってこないんだ」

雑貨屋で見かけた虫除けも買っておく。

点火用の道具が入った火口箱も一緒に購入してみた。

「良い匂いなのです」

ポチが鼻をすんすんさせる。

漂ってくるこの香りは芋かな?

「匂いの方向は分かる?」

「はいなのです! ポチにお任せなのですよ!」

「タマも行く~」

駆けだそうとしたポチとタマを、リザが素早く掴んで止めた。

「ありがとう、リザ。二人とも、人が多いから走ったら迷子になるよ」

「ごめんなさいなのです」

「反省」

叱られた二人が、怯えた顔で 頭(こうべ) を 垂(た) れる。

そんなに強く叱ったつもりはないけど、思った以上に怖がられてしまったようだ。

「反省できて偉いぞ」

オレはそう言って二人の頭を優しく撫でる。

手が触れた一瞬だけビクッとしたが、すぐに力をぬいておとなしく撫でられてくれていた。

「芋の串か。何本くらい食べられそう?」

ごっつい串に、小ぶりの芋が三個くらい刺してある。

一本で賤貨二枚だ。

賤貨というのは銅貨の下の貨幣らしい。

「ポチは何本でも食べれるのです!」

「タマもいっぱい食べれる~」

「ご主人様、三人で一本で大丈夫です」

子供らしい答えをするポチとタマを遮って、リザが遠慮した事を言う。

「それじゃ、一人一本ずつにしよう」

多かったら後でまた食べればいいし、足りなかったらまた買えばいい。

銅貨と交換で手に入れた芋串を三人に配る。

――あれ?

ポチとタマが手に持った芋串を見て涎を垂らす。

なのに、三人とも芋串に手を付けない。

「どうした? 食べないのか?」

「食べていい~?」

「もちろんだよ。よく噛んで食べなさい」

「あい」

「はいなのです!」

オレが勧めるとようやく三人が芋串を囓り出す。

さっきの廃村でもそうだったけど、許可がないと食べない習慣のようだ。

はぐはぐと懸命に芋串を囓る子達を眺めながら、オレも芋串に手を付ける。

パサついたジャガイモという感じで、正直言ってあまり美味しくない。

ポチとタマの口には合ったようで、オレが芋を一個食べる間にペロリと串に刺さっていた三個の芋を平らげてしまった。

リザはまだ食べている最中だったので、食べ足りない感じのタマとポチにオレの串に残った二個の芋をあげる。

「二人は芋は好きかい?」

「はいなのです」

「ざっそーより美味しい~」

うん、その比較はおかしい。

「干し肉とどっちが好き?」

「肉! なのです!」

「肉~?」

二人が即答した。そんなに好きか、肉。

芋串を囓っている途中のリザまで、視線がオレにロックオンしている。

うん、この子も肉が好きらしい。

「なら、今日の夕飯は肉料理にしようか」

オレがそう言うと、三人が歓声を上げて賛成した。

笑顔で喜んだ自分に気付いたリザが、恥ずかしそうに目を伏せる姿がちょっと可愛かった。意外な性癖に目覚めそうで怖い。

そんな風に買い物を楽しんでいると、街の東西を結ぶ大通りに出た。

まあ、大通りといっても馬車がすれ違える程度の道幅しかない。

「首輪が流行ってるのか?」

荷車を引いている人はだいたい首輪をつけている。検索すると奴隷の人だった。不思議と全ての奴隷が首輪をしているわけではなく、理由は不明だ。

街中のせいか馬車も人が早足で歩くくらいの速さまで速度を落としている。

ちょうど目の前を馬車が通り過ぎる。女奴隷を四人ほど乗せていた。

その中の一人に目が釘付けになる。長旅でよれているが黒髪黒目の大和撫子風の日本人ぽい顔立ちの少女だ。北欧風の顔立ちが大多数を占める中でアジア系は初めて見たかもしれない。

その少女は目を伏せていたので、目が合ったりとかドラマちっくな展開とかにはならなかったが、その隣にいた薄紫色のゆるふわ髪の正統派北欧系幼女と目が合った。

なぜかその幼女は酷く驚いた顔でこちらを見つめてくる。

いや、そんなに切実な目で真剣に見られても困ってしまう……ごめんね、ロリ属性は無いんだよ。

幼女を長く見ていたせいか幼女の横にポップアップで名前とレベルがポップアップする。

アリサ。レベル10。幼女のくせにレベル高っ。

さらに情報が増えていく。

11歳。

称号:「亡国の魔女」「気狂い王女」

スキル:不明

このへんまで見た所で馬車が視界から西通りのほうへ消える。

あからさまにトラブルを呼びそうな称号だ。

……いやいや近づかないよ?

絶対にだ!