軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-7.奴隷契約

「これで、この奴隷達はサトゥー殿の所有物です」

奴隷商人のニドーレンが笑顔で言う。

人の良さそうな中年男性だけど、こういった基本的人権を鼻で笑うような物言いは実に奴隷商人らしい。

「これで私達も、ご主人様の正式な奴隷になれました」

獣娘達が嬉しそうに言う。

そう、アリサとルルとの奴隷契約をする時に、ニドーレンがまだだった獣娘達との奴隷契約の儀式を一緒にしてくれたのだ。

もちろん、追加費用は取られたけれど、そのままだと領境を越える時に咎められる可能性があったそうなので、必要経費だったと思おう。

オレがニドーレンと話している間、獣娘達とアリサ達が互いに自己紹介をし合う。

「わたしはアリサ、こっちは姉のルル。母親は違うけど、ちゃんと姉妹なの」

「私は蜥蜴人族のリザ。こちらは犬人のポチと猫人のタマです」

「……ポチとタマ?」

アリサから「マジか」みたいな呆れを含む目で見られた。

「とっても ぷりて(・・・) ~?」

「ポチ達の名前はご主人様が付けてくれたのですよ!」

「かわいくて良い名前ね」

「はいなのです、ルルも良い名前なのですよ!」

「まあ、気に入った名前が一番、よね?」

ルルと話すポチとタマを見て、アリサも毒気が抜かれたような顔になった。

「ご主人様、ニドーレンと話は終わった?」

アリサが新しい敬称でオレを呼ぶ。

契約前はサトゥーさんと呼んでいたのだが、正式に奴隷になったから「ご主人様」と呼ぶとの事だ。

「後で細かなルールを紙に書いたのをくれるそうだ」

奴隷売買や奴隷の 解放(・・) に関するルールは、思ったよりも複雑そうだ。

オレとしてはサクサクと解放してやりたかったのだが、ニドーレンが言うにはそう単純なものではないらしい。

「それでさ、お金に余裕ある? もしあるなら、隣グループに生活魔法使いがいたから、清潔にしたいんだけど」

「アリサ、私達は奴隷なのです。その分を超えてはいけません」

アリサの言葉にリザが苦言を呈した。

「待って、リザ。生活魔法使いって言ってたけど、生活魔法で清潔にできるのか?」

「うん、大銅貨数枚くらいかかるから、平民はあんまり使わないみたいだけど、やっぱ 最初は(・・・) 綺麗な身体でしたいじゃない?」

後半はごにょごにょと聞き取れなかったが、シャワー的な魔法があるなら是非ともお願いしたい。

六人で大銅貨二十枚弱は高い気がするけど、たまにはいいだろう。大銅貨はそんなに持ってないけど、銀貨や金貨はまだあるし、換金用の宝石もあるしね。

「よし、それじゃ皆で行こうか」

オレがそう言って腰を上げた時、タマの耳がピクリと動いた。

「にゅ!」

のんびり屋のタマが目を見開いて毛を逆立てた。

「どうしたのです?」

「何か、来る~」

「ご主人様、警戒してください。タマの勘はよく当たります」

獣娘達が臨戦態勢になる。

「何か?」

タマの言葉をオウム返しにしながら、視界の隅に映るレーダーに目をやると――。

「――げっ」

幾つもの赤い光点が、凄い勢いでこっちに来る。

「魔物だぁあああああ!」

「逃げろぉおおおおおお!」

暗闇の向こうで、焚き火が蹴倒され人々が逃げ惑う。

「旦那様!」

「分かった」

ニドーレンと従者が最低限の荷物を担いで、ロバに乗って逃げ出した。

「オレ達も逃げよう」

「ご主人様、暗闇の中を宛てもなく逃げるのは危険です」

「岩よ! 岩の上に登って!」

アリサが風よけにしていた大きな岩を指さす。

リザに助けられて登り、ルルが登るのを手助けする。年少組はアリサも含めて岩に登るのが得意なのか、手助けされる事なくスルスルと登っていた。

「こっち来る~?」

「見た事ある人なのです!」

魔物――マップ情報によると 草魔狼(グラス・ウルフ) に追われた人達がこっちに来る。

先頭の男が振り回した松明に照らされた顔が見えた。

さっきの暴漢達だ。

アリサの精神魔法で逃げ出して、草魔狼のテリトリーに突っ込んだのだろう。

「ここまで魔物を引っ張ってくるなんて、迷惑なやつらね」

「草魔狼は獲物と決めた相手をどこまでも追ってきます。あいつらが追われている間は、野営地に被害は出ないでしょう」

リザはなかなか博識のようだ。

「ぐわっ」

「た、助けて」

暴漢達はオレ達のキャンプ地に辿り着く前に、草魔狼の群れに飲み込まれた。

彼らの絶叫もか細くなって、草魔狼の唸り声に掻き消される。

暗くて良かった。明るいところだったら、正視に耐えなかったに違いない。

「やつらを喰って満足して帰ってくれたらよいのですが……」

そんなリザの言葉を嘲笑うように、草魔狼の群れがこちらに寄ってくる。

「そんなっ、どうして――」

「お肉の匂いがするのです」

「あそこ~」

ルルが青い顔で絶句し、ポチとタマが置き去りにされたニドーレンの荷物からはみ出す干し肉の塊を見つけた。

草魔狼達は赤く濡れた口で、あっという間に干し肉を平らげると、物欲しそうな顔で岩の上で震えるオレ達を見上げた。

「――ご主人様」

覚悟完了と言いたげな顔でアリサが言う。

「使える攻撃魔法はさっきの単体スタン系だけ?」

「あとは『 放電網(スパーキング・ネット) 』だけだ」

初心者救済策で搭載した三発だけの「流星雨」はあるけど、あれをこんな場所で使ったらヤバい事になるのは間違いないので除外した。

「ただしスキルがないから、発動するかは賭けになる」

「上等よ! わたしの合図で発動するまで魔法を繰り返して」

失敗しても魔力を消費するので、試せるのは二回か三回だけだろう。

「分かった」

オレは気合いを入れて答えた。

「ご主人様、お待ちください。草魔狼は兵士でも一度に相手をできるのは二頭か三頭です。たとえ魔法使いでもあの数を相手にするのは……」

「大丈夫よ、リザさん。わたしとご主人様なら、あのくらい敵じゃないわ!」

リザが慎重な意見を言うが、アリサは自信満々の顔で断言する。

草魔狼は一番高いリーダーでレベル7、平均してレベル3くらいしかない。

レベル10のアリサの使う魔法なら、草魔狼相手でも通じるだろう。

岩の周りに草魔狼が集まってきた。

「ちぇいなのです!」

「こっちくんな~」

岩の側面を登ろうとする草魔狼を、ポチとタマが投石で迎撃する。

リザも岩に登る時に棒を置いてきたのか、一緒に投石の構えだ。

「こっちに誘導するから、リザさん達は後ろの狼を牽制して!」

「承知」

アリサの言葉の通りに草魔狼達が焚き火の周囲へと集まってくる。

おそらくは、何らかの精神魔法で誘導したのだろう。

「ご主人様、今よ! なるべく広範囲に撃ち込んで!」

草魔狼達が集結したタイミングでアリサが叫んだ。

「分かった!」

―― 放電網(スパーキング・ネット) 。

一回目は失敗だったが、二回目でなんとか発動できた。

ただし、効果範囲を広げたせいで、草魔狼達を怯ませる事はできたものの、ダメージらしいダメージは与えられていない。

「よっしゃー! これでも喰らえぇええ!」

アリサから不可視の何かが発っせられた。

水面に落とした波紋のように、見えない何かが広がっていく。

その波紋に触れた草魔狼達が、ぎゃうんぎゃうんと悲鳴を上げて撥ね飛ばされていく。

焚き火の傍に倒れ伏した個体しか見えないが、レーダー上の光点が次々に消えていった。

「今の一撃で全滅か……」

外縁部にいた数頭が、レーダーの圏外に逃げていく。

「わんだほ~」

「すごく凄いのです!」

アリサの魔法の威力に、タマとポチが目を丸くして驚いた。

「これがアリサちゃんの 実力(ジツリキ) よ!」

戦隊もののヒーローのようなポーズでアリサが勝ち誇り、ポチとタマが拍手する。

「どう? ご主人様。アリサちゃんは良い買い物だったでしょ?」

それに答えようとした時、三徹した時のような猛烈な眠気と、耐えがたい吐き気が同時に襲ってきた。

立っていられない。

視界が回る。

「ご主人様、危ない!」

誰かが抱き締めてくれた。

柔らかい。

視界にふぁさりと黒い髪が舞う。

「よくやりました、ルル!」

そのまま一緒に落下しそうな所を、誰かが力強く掴んで止めてくれた。

それを最後に、オレの意識は暗闇に飲み込まれた。