軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

レミアンが帰ると、お姉様は私に向かって言った。

「一刻も早く、あのクズとの婚約は破棄しましょう」

「ええ、そうします」

すると、その後ろから。

「やっとお嬢様も目が覚めたのかな?」

ラーシュが、嫌味っぽく口を挟んできた。

「……変な感じだわ。レミアンを好きだった気持ちが、綺麗さっぱり消えてしまったみたい」

「お嬢様の好意が消えて、《魅了》が効かなくなったんだろう」

「私……本当に魅了されていたのね」

「こうやってね」

ラーシュがそっと私の手を握る。

――ドキッ。

胸が小さく跳ねた。

でも、レミアンの時みたいな、不自然に夢中になる感覚じゃない。

もっと穏やかで。

自然と心がはずむような――そんな感じ。

ラーシュが真っ直ぐ私を見つめる。

「俺はずっと、エレナお嬢さんを見守ってきた。でも最近は、大きな危険なんて無かった。……だから今回は油断した」

彼のシュンとした顔は辛そうだ。

「本当に謝らないといけないのは俺だ。怪我をさせて、怖い思いまでさせた。……すまなかった」

……不思議。

私の心臓、

どうしてこんなにドキドキするの。

戸惑っていると──

バシィッ!!

突然、お姉様がラーシュの背中を思いきり叩いた。

「……っ!? い、痛っ!」

「肝心なところで遅れるんだから。役立たず!」

ラーシュは背中を丸めて顔をしかめる。

いつもは澄ましているくせに。

お姉様の前では、弟の顔になるのね。

「あはは」

笑えた。

……うん。

レミアンといる時より。

ずっと、心から笑えた。

それからしばらくして。

朝食の後、お姉様は真剣に私に尋ねた。

「婚約は、本当に破棄するわよ? 覚悟はできている?」

「ええ。……なんだか、長い夢を見ていたみたい。心配かけてごめんなさい」

「大切な貴方を守るのが、私の使命よ。私はただ、エレナの幸せだけを願っているの」

そう言って、そっと抱きしめてくれる。

──温かい。

「お姉様にも幸せになってほしいわ。もちろん、ラーシュもね」

「ふふ。孤児院から引き取られて、私達は十分幸せよ」

お姉様は懐かしそうに笑った。

「子供の頃なんて、まだラーシュも小柄だったから、私のフリをしてエレナと遊んでいたのよ?」

「……全然気づかなかったわ」

「双子だもの」

大好きなオルガお姉様と過ごして来た時間と思い出。

その中に、ラーシュも含まれていた。

嘘みたい。

──あのラーシュが、可愛いドレスを着て私の傍にいた?

女の子のフリをして、お人形遊びや、手を繋いで一緒にお昼寝をしていたなんて。

「でも背が伸びて誤魔化せなくなった。エレナの前から消えるしかなかったの」

ラーシュが鮮明な赤毛を黒く染めていたのは、目立たないようにするため。

そして――ずっと、私を陰から見守ってくれていたのだ。

「私、大切にされていたのね」

胸の奥がくすぐったくなった。

「では、始めましょうか!」

ぱっと立ち上がったお姉様は、まるで戦場に向かう騎士みたいに頼もしい。

「うちの高級レストランの個室を、レミアンが予約したと報告があったの」

「三人でご馳走パーティー?」

「いいえ。二人よ」

相手はユゼフね。

「そこに『ご子息とエレナの結婚についてご相談がある』と言って、ユーグ侯爵夫妻をお招きしたわ」

「大丈夫なの?」

「『ご子息には、絶対に内緒で』ってお願いしたわ。『先日の件。エレナが怒っていて、レミアンには会いたくないから』と言ってあるのよ」

「上手くいくかしら?」

「レミアンとユゼフは恋人同士なのでしょう?

お酒が入ると、きっと雰囲気も甘くなって……ふふふ」

なるほど。

あの二人の関係を暴露して、婚約を破棄させる。

完璧な罠である。

さすがお姉様。

――まもなく、私とレミアンの関係は終わる。

私は魅了されていた。

好意の上に重ねられる、愛の魔法。

でも。

ラーシュとの勘違いとはいえ、レミアンが好きだという気持ちは本物だった。

もし、貴方が誠実な人だったなら。

もし、本当に私を愛してくれていたなら。

違う未来もあったかもしれないのに……。

そんな感傷も秒で終わる。

私が捧げた愛もお金も、すべてが無駄だった。