作品タイトル不明
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諦める気のない私に、お姉様は最後の切り札を持ち出した。
「それに、あの秘密の能力をレミアンに打ち明ける勇気はあるの?」
「それは……」
言葉に詰まる。
もし話したら、きっとレミアンはユゼフに話す。
ユゼフはネリアに話す。
そしてお喋りなネリアが、あっという間に噂を広げてしまう。
そんな未来が簡単に想像できた。
「今ならまだ引き返せるのよ!」
お姉様は本気で私を心配している。
「貴方は魅了にかかっているんだわ」
「魅了?」
「自分で気付かないと解けない愛の魔法よ。偽りの愛なんて捨ててしまいなさい」
――偽りの愛。
その言葉が胸に刺さる。
レミアンとの時間は楽しいはずなのに、気付けばいつもユゼフとネリアがいる。
今では楽しいよりも、疲れることの方が多かった。
いっそ婚約を――。
気持ちが傾いていた。
だが。
「ユーグ侯爵令息がお見えになっています」
使用人の声が響く。
私は反射的に立ち上がった。
エントランスへ向かうと、レミアンが立っていた。
「エレナ!」
私を見つけた瞬間、ぱっと顔を輝かせる。
その笑顔を見るだけで胸が苦しくなる。
ああ、やっぱり私は、この人が好き。
「急にどうしたの?」
「三日後の王太子殿下の成婚祝いパレード、一緒に見に行こうよ」
「オルガお姉様と行く予定なの」
そう答えると、レミアンは私の手を握った。
「最近、君に優しくできてなかったって反省してるんだ」
青い瞳が真っ直ぐ私を見る。
「怒らないでよ。一緒に行こう?」
彼の声は甘い。
「でも……」
ユゼフとネリアも一緒なんでしょう?
そう言いかけたら、
「僕のこと嫌いになったの?」
先回りするように言われた。
「いえ……」
「じゃあ一緒に行こう。迎えに来るから」
結局。
「……ええ」
私は頷いてしまった。
だって好きなのだ。
この気持ちが偽物だなんて思えない。
「チッ」
背後から聞こえた盛大な舌打ち。
お姉様だ。
私は肩を縮めた。
……認める。
私はたぶん、とんでもない恋愛脳なのだと思う。
◇◆◇
パレード当日。
春の柔らかな陽射しが街を包んでいた。
王太子殿下の成婚を祝う大行進。
色鮮やかな紙吹雪が空を舞い、人々の歓声が通りを埋め尽くしている。
誰もが笑顔だった。
幸せな一日になるはずだった。
やがて花火が打ち上がる。
先頭を進む騎士団の姿が見えた瞬間、街中から歓声が湧き上がった。
私はカフェの二階を貸し切り、レミアンたちと一緒に見物していた。
本当なら、ここにはオルガお姉様もいるはずだった。
でも怒ったまま来てくれなかった。
代わりにいるのはユゼフとネリア。
二人は窓から身を乗り出しながら興奮している。
「来たわ!」
ネリアの声に私も窓際へ近付く。
豪華なオープン馬車が、ちょうど目の前を通ろうとしていた。
王太子ご夫妻が笑顔で手を振っている。
幸せそう。
素敵だわ。
そう思った次の瞬間、世界が真っ赤に染まった。
「……え?」
凄まじい爆音に、窓ガラスが粉々に砕け散る。
テーブルも椅子も吹き飛び、私たちは床へ叩きつけられる。
「な、何が起きたの……!?」
悲鳴。
怒号。
泣き叫ぶ声。
一瞬で街が地獄へ変わった。
「襲撃だ!」
ユゼフが叫びながらネリアを抱き寄せる。
「エレナ、大丈夫?」
「ええ……」
「殿下は無事だろうか……」
レミアンの声が震えている。
「だ、大丈夫よ。馬車には防御魔法が張られているはずだもの……」
そう言いながら、自分の声も震えていた。
突然、レミアンが私の手首を掴んだ。
「戦いが始まる! 逃げよう!」
私たちは慌てて立ち上がる。
しかし。
ドドドドドッ!
大勢の足音が階段を駆け上がってくる。
「動くな!」
鋭い怒声に、私たちは反射的に床へ伏せた。
黒い覆面の男たちが部屋へ雪崩れ込む。
そのまま窓へ駆け寄り、外へ向かって魔法と矢を放ち始めた。
「カフェを貸し切りになんかするからよ……」
ネリアが泣きそうな声で呟く。
その直後――。
ドォォォン!!
建物全体が震えた。
衝撃に覆面の男たちが吹き飛ばされ、動かなくなった。
下から反撃魔法を受けたのだ。
「今だ! 逃げよう!」
ユゼフが叫ぶと、三人は一斉に駆け出した。
ネリアを真ん中にして、守るように支えながら。
――いつも通りに。
私も動いた。
ビリッ。
嫌な音が響く。
見ると、私のドレスが倒れたテーブルの脚に引っ掛かっていた。
「待って……!」
必死に手を伸ばす。
でも、手は空を掴む。
遠ざかっていくレミアンの背中。
私は思い出す。
この光景を。
蜂の群れが現れた時も、レミアンは私を置いて逃げた。
今、あの日の記憶と重なった。