作品タイトル不明
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大通りを歩きながら、ネリアは終始ご機嫌だった。
「あっ、可愛い!」
「見て見て、今度あれが欲しいな!」
子供みたいにはしゃぐ彼女を、レミアンとユゼフが優しい目で見守っている。
やがて私たちは、高級ブランド店の前で足を止めた。
ガラス張りの美しい店。
大きな看板を見上げたネリアが目を輝かせる。
「ここでエレナはウェディングドレスを注文したの?」
「ええ。完成まで半年以上かかるみたい」
「ここはエレナの母上のお店なんだよ」
レミアンが得意げに説明する。
するとネリアが羨ましそうに頬を膨らませた。
「いいなぁ~。何でも無料なの?」
「いいえ。お金は払うわよ」
「親子なのに? あ、ご両親は離婚してたんだっけ」
悪気はないのだろう。
でも、いちいち説明する気力も沸かない。
そんな微妙な空気などまったく気づかず、レミアンが笑顔で爆弾を投下した。
「エレナ、ネリアのウェディングドレスを僕たちから贈ろうよ」
「へっ?」
「そんな~悪いわぁ」
「そうだよ。そこまで甘えられないよ」
口ではそう言っている。
でも二人とも、断る気なんてこれっぽっちもない顔だった。
私はにっこりと微笑む。
「あら、お二人はいつ結婚なさるの?」
「たぶん君たちの後かな。まだ資金を貯めないといけないから」
ユゼフが答えた、その瞬間、レミアンが私の手をぎゅっと握った。
「エレナ、構わないよね?」
青い瞳が期待に満ちている。
「どうせならユゼフの婚礼服も用意してあげようよ」
「お、お好きにどうぞ」
「ありがとう!」
ぱっと花が咲いたように笑うレミアン。
そのまま三人で店の中へ入っていった。
……最初の頃は、もっと遠慮していたのに。
今では当然のように私の財布をあてにしている。
分かってる。
私がずっと許してきたからだ。
別に大金じゃない。
私にとっては。
そう自分に言い聞かせながら店へ入った。
◇◆◇
「エレナお嬢様、いらっしゃいませ」
すぐに声を掛けてきたのは、若い男性、店長代理だった。
艶のある黒髪。
銀縁眼鏡。
整った顔立ち。
背が高く、妙に色気がある。
ラーシュだ。
母のお気に入り……多分、若い恋人。
「エレナと同じウェディングドレスを注文したいんだけど」
レミアンがそう言うと、ラーシュは口元を緩めた。
「お値段は五千万ゴールドになりますが」
「ご、五千万!?」
レミアンは慌てて私を振り返った。
「エレナ、いいよね?」
いいわけないでしょう!
そう言おうとしたのに。
「唯一無二のお品ですので、同じものはご用意できません」
ラーシュが先に断った。
「じゃあ同じくらいのドレスを注文しよう!」
レミアンの諦める気はゼロだ。
「エレナお嬢様、いかがなさいますか?」
ラーシュが私を見る。
同時にレミアンがまた私の手を握った。
すると今度はネリアが慌てて首を振る。
「そんな高価なのは結構です! 五百万くらいので十分だわ」
「そうだよレミアン。そのくらいでいいよ」
「そんな安物でいいのかい?」
……レミアン。
五百万ゴールドは十分高級品なのよ?
ラーシュは私たちのやり取りを眺めながら、にやりと笑った。
「お買い上げありがとうございます。採寸はこちらへどうぞ」
――ラーシュ!
私、まだ何も言ってないわよ!?
抗議する暇もなく、ネリアとユゼフは採寸室へ消えていった。
そしてレミアンはというと。
「せっかくだし僕も新しい服を見ようかな」
楽しそうに売り場へ向かっていく。
私は疲れ果ててソファへ腰を下ろした。
しばらくして、ラーシュが紅茶を運んでくる。
「どうぞ」
「ありがとう」
カップを受け取ると、ラーシュが盛大にため息をついた。
「はあ……お嬢様は本当に男を見る目がございませんね」
「失礼ね」
何よ。
母のお気に入りだからって偉そうに。
私は紅茶を一口飲んだ。
「そうだわ。馬車も注文したいのだけど、手配してくれる?」
「婚約者様のために?」
「そうよ」
するとラーシュは額を押さえた。
「救いようがありませんね」
カチンときた。
そもそも貴方だって母のお気に入りじゃないの。
レミアンと大して変わらないくせに!
私は思いきりラーシュを睨みつけた。
けれど彼は涼しい顔。
本当に、いつも憎らしい!
その後も私はソファに座ったまま。
延々と。
本当に延々と。
三人組が、ウェディングドレスのデザインを選ぶ様子を、眺め続けるハメになったのだった!