作品タイトル不明
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友人たちの声が私を諫める。
「どうしてそんなにレミアンが好きなの?」
「エレナなら、もっと良い相手がいるでしょう?」
「まさか侯爵夫人になりたいから?」
違う。
そんな理由じゃない。
全ての始まりは――三年前。
レミアンと初めて会った、お見合いの日だった。
本当なら、この縁談は断るはずだったのよ。
ユーグ侯爵家の評判は最悪。
父も乗り気じゃなくて、お断り前提のお見合いだった。
なのに。
輝く金髪。
吸い込まれそうな青い瞳。
信じられないくらい整った顔立ち。
初めてレミアンを見た瞬間、私は一目で恋に落ちてしまった。
お見合いの途中、私たちは侯爵家の庭園を歩いていた。
そのときだった。
ブーン……。
不気味な羽音が聞こえた。
振り返ると、蜂の群れがこちらへ向かって飛んできていた。
『うわぁああ──!』
悲鳴を上げてレミアンが走り出した。
私も慌てて後を追う。
だけど。
『きゃっ!』
ドレスの裾を踏んで転んでしまった。
耳元で鳴り響く羽音……怖い!
私はその場でうずくまることしかできなかった。
すると突然。
ふわり、と何か、頭から被せられる。
次の瞬間、身体が浮いた。
誰かに抱き上げられ、私は安全な場所まで運ばれた。
『じっとしていて』
耳元で優しい声が囁く。
安全な場所に下ろされても、私は目を閉じて震えていた。
しばらくして。
『もう大丈夫だよ』
恐る恐る顔を上げると、レミアンが立っていた。
少し息を切らせながら、困ったような顔で。
『あ……ありがとう』
『うん。怖がらせてごめんね』
陽の光を浴びた金色の髪がきらきら輝いていた。
まるで神話の太陽神みたいに。
彼は手を差し出した。
私は……その手を掴んで起き上がった。
その瞬間。
私は完全に恋に落ちたのだ。
◇◆◇
今日はレミアンとのデートの日。
……とはいえ、彼は迎えに来てくれない。
『うちのボロの馬車に、美しいエレナを乗せられないよ』
そう言うから、いつも私が迎えに行っていた。
だけど、
『この日は、別々に行こう』
そう言われたのだ。
私は護衛を馬車のそばに残し、一人で待ち合わせのカフェへ向かった。
レミアンは護衛付きのデートを嫌がる。
『お金持ちだって見せつけているみたいで嫌なんだ』
そう言って不機嫌になるから。
『エレナは僕が守るよ』
なんて言われたら、断れないじゃない。
カフェに入る前、ふと窓の中を覗く。
すると。
三人が楽しそうに笑っていた。
まるで私を待っているというより、最初から三人だけの世界が完成しているみたいだった。
胸が少しだけ痛む。
店に入ると、ネリアがこちらを見た。
「エレナ遅~い」
「時間を間違えたのかしら?」
冗談のつもりで言ったのに、誰も反応しない。
ユゼフがネリアへ話しかける。
「ネリア、ケーキ、お替りする?」
「もうお腹いっぱい」
「じゃあ次、行く?」
……面白くない。
お替りするほど長い時間、三人で楽しんでいたのね。
「エレナ、何か飲む?」
「いらないわ」
そう答えると、レミアンは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ごめんね。本当は迎えに行くべきだった。でも今日は両親が馬車を使っていて、それでユゼフに迎えに来てもらったんだ」
そう言いながら、私の手をそっと握る。
その温もりに、機嫌が直ってしまう自分が悔しい。
「侯爵家なのに馬車が一台だけなの?」
ユゼフがくすりと笑う。
レミアンも肩をすくめた。
「うちは貧乏なんだ。仕方ないさ」
……なんだか妙に芝居がかっている。
欲しいなら素直に言えばいいのに。
「じゃあ、レミアン専用の馬車を贈るわ」
「ほんと? ありがとう」
ぱっと明るくなる顔。
その笑顔を見ると、つい甘くなってしまう。
「これでいつでもレミアンに送り迎えしてもらえるわね。良かったわね、エレナ」
ネリアが無邪気に笑う。
ユゼフもレミアンも楽しそうに笑った。
……なぜか、その光景がひどく不快だった。
当然、お会計は私が済ませる。
店を出ると、いつものようにネリアを真ん中にして三人が腕を組んで歩き出す。
私を置いて。
しばらく歩いたところで、レミアンが振り返った。
「あっ」
思い出したように私のもとへ駆け寄ってくる。
そして、きゅっと私の手を握った。
嬉しい!
――だから私は、この手を離せない。
どれだけ不満があっても、寂しくても。
レミアンが好きだから。