軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第156話 本当のチート

舞い上がった砂塵や土煙を収めるため、風魔法を使う。

上空の大気は渦巻くように土煙を巻き込み、流れ落ちる水のように土砂を地上へと戻していく。

魔神王が作り出した巨大なクレーターに、更に深い穴が開いていた。大地には亀裂が入り、穴の淵の一部が崩落して穴の中や亀裂に落ちていっている。

穴の中から、ゆっくりと浮き上がってきた魔神王は元の大きさに戻っていた。

着ていた鎧や服などはそのままだ。恐らくあれは装備ではなくて、魔神王の体の一部が変化した物なんじゃないか?

破損しても、すぐに元に戻せるんだろう。反面、俺は着ている物がボロボロだ。

魔神王は下唇を噛むような表情で、俺を睨んでくる。見た目に大きなダメージを負っているようには見えないが、相当消耗してるはずだ。

音を立てることも無く、舞い降りるように地面に着地するのを見て、俺も大地に降り立った。

『貴様……いったい何者だ。人間にこんな力があるはずがない』

「ただの人間だよ。だが、お前を倒すためにラーゼスが協力してくれたんだ」

『ラーゼスだと……?』

「覚えていないのか? アイアスと共に、お前を倒そうと戦いを挑んだ錬金術師を」

『ああ……そうだった。“次元の迷宮”に逃げ込んだ男か……私を倒すためにコソコソと、まるでドブネズミのようだな』

「その 蔑(さげす) んだ人間にお前は負けるんだよ」

俺は切っ先を相手に向け、地面を蹴り出し、一直線に突き進む。対する魔神王も、手をかざし魔力を集める。

『 風の鉤爪(ハストゥール) !!』

放たれた魔法は、荒れ狂う風の刃となって無数に襲い掛かってきた。俺の体を切り裂いていくが、気にせず突き進んだ。

腕を、足を、頬を風の刃が切りつけていく。だが攻撃を止めるつもりはない、これが最後の一撃になるだろう。

風の嵐を抜け、魔神王の目の前まで辿り着くと、俺の剣は奴の心臓に迫る。腕でガードしてきたが、剣はその腕ごと心臓を貫いた。

『がはっ!』

剣には闇の魔力が流れ、貫いた肉を消滅させている。魔神王は口から浅黒い血を吐き、顔からは血の気が引いてゆく。

「これが、お前が殺したアイアスの……最強の勇者の剣だ!」

『や……やめろ』

突き刺さった剣は黒い輝きを放ち、鳴動して体を切り裂く。

「―― 次元斬 ――!!」

格子状(こうしじょう) の黒い斬撃によって魔神王の体は 四角形(スクウェア) の肉片に変わっていくが、俺は二度と再生できないように、もう一度“次元斬”で細切れにした。

バラバラになった肉片は風に流されながら、辺りに散らばってゆく。

「………終わった」

体を覆っていた黄金の“気”は徐々に小さくなり、消えていく。

神衣(カムイ) で肉体に相当の負担があったのか疲れが、どっと押し寄せてきた。骨が軋み、手足がしびれ、心臓は早鐘のように脈打っている。

剣を地面に突き刺し、体を支えるように体重を預け、膝を突く。

息は荒いまま、落ち着くには時間がかかりそうだ。そんな時、“敵意感知”にわずかな反応があった。

小さな魔力の“うねり”を感じ、顔を上げると細切れにしたはずの肉片が動き出していた。【超回復】でも蘇らないようにバラバラにしたはずなのに……。

俺は何とか立ち上がろうとするが、体が動かない。

俺を尻目に、その肉塊は舞い上がる砂塵と共に人の形へと変わっていく。砂塵が収まり現れたのは、自らの権威を誇るような金の鎧と、黒い長髪、完全に元の姿へと戻った魔神王がそこにいた。

『やれやれ、やっと忌まわしい魔法の効果が切れたか……。そんなに長くは続かないと思っていたが』

そう言った魔神王の姿は、すでにそこに無かった。

気づけば俺の側面に立ち、微かに笑っている。おもむろに剣を抜き、問答無用で横に薙ぎ払ってきた。

なんとか剣を地面から引き抜き、受け止めようとするが、受けた剣ごと吹っ飛ばされる。駒のように回転しながら、地面に激しく叩きつけられた。

「あぁ……くっ……」

『やはり魔法の効果がないと相手にならんな』

俺の体も【超回復】で急速に治っている。 神衣(カムイ) の反動もしばらくすれば消えるはずだ、なんとか時間を稼がないと……。

「……何故だ。何故この世界に来た? それほどの力があるのなら、元いた世界でも問題なく君臨できたはずだ」

俺の言葉を聞いて鼻で笑い、ゆっくりと近づいてきた。

「この世界を侵略するためか? 自分たちの領地を拡大したいのか?」

『フフフ……そんな物に興味はない。我らがこの世界に来たのには、それなりの理由がある』

「理由?」

手足の痺れが無くなってきた。だが、体が動いても、今の俺の力が通用するかどうか……。

『私が支配する世界では、吉凶を占う能力者がいてな。その者が言うには間もなく我々の住む星に小惑星がぶつかり、星もろとも消えて無くなるそうだ。残念なことに、その占いは必ず当たる。我々に選択の余地は無かったんだよ』

「それで自分の世界の人間を全員連れて、脱出しようとしたのか?」

『全員を連れて? バカを言うな、役に立つ一部の人間だけ連れてきたに決まっているだろう』

さも、当たり前と言わんばかりの口調だった。

「じゃあ……他の人たちは残してきたのか? お前はその世界を統べる王様なんだろ!?」

『王だからこそ取捨選択するんだ。人の上に立つこともない、貴様のような人間には分からんだろうがな』

「残してきた人たちはどうなるんだ?」

『下等な生物などいくら死んでも誰も困りはしない、必要なのは私と、私の役に立つ者だけだ』

「……お前の力があれば、小惑星ぐらい破壊できたんじゃないのか」

『ただの惑星ではない、“星喰い”と呼ばれる、あらゆる星々を飲み込んでいく 宇宙(そら) の化物だ。だれにも止められん』

達観しているように言っているが、その 言(い) い 様(よう) に 無性(むしょう) に腹が立った。

「何が取捨選択だ! 単に逃げ出しただけだろう、お前に“王”を名乗る資格なんて無い!」

『私よりも力の無い貴様が、ほざいていい言葉ではないわ!』

二人の視線が烈火の如く衝突し、俺が斬り上げた剣と、魔神王が振り下ろした剣がぶつかり合う。

斬り結んだ刃からは火花が飛び散り、大きな衝撃音が辺りに鳴り響く。

「くっ!」

全力で振り切った剣だが、やはり力負けしている。魔神王の剣に押し切られ、俺は後方に後ずさるしかなかった。

だが、心なしか以前より威力が下がっている気がする。

『魔力を使い過ぎてしまったが、お前も魔力はほとんど残っていまい。徹底的に 甚振(いたぶ) って殺してやる』

「なに?」

……今、なんて言った?

魔力を使い過ぎたと言ったのか……その言葉に一瞬驚いたが、どうやら俺の魔力もほとんど無いと思っているようだ。

「まさか……」

その時、フラッシュバックするようにラーゼスの言葉を思い出した。

――『君が魔神王に勝つのに必要なのは、十二体の召喚獣だ。それもAランク以上、より強力な召喚獣でなければならない』

――『そう、いるんだよ。魔神王を倒すために最も必要な魔物が、この“次元の迷宮”に……』

――『君に渡したスキルは魔神などの能力を模倣した物がほとんどだが、中には オ(・) リ(・) ジ(・) ナ(・) ル(・) で作った物もある……うまく活用してくれ』

ラーゼスはこの日のために、考え尽くしていたんだ。

そしてラーゼスが言ったオリジナルで作った能力が――

「お前…… 無(・) 限(・) 魔(・) 力(・) を(・) 持(・) っ(・) て(・) な(・) い(・) な(・) 」

俺の言葉に魔神王は眉をひそめる。

『無限魔力だと……そんなもの、あるわけがなかろう!』

やっと理解した。ラーゼスが何故、十二体の召喚獣が必要だと言ったのか、何故アガリアレプトの力が必要だと言ったのか。

俺は、全身の魔力を体の外へと放出する。

「うおおおおおおーーーーー!!」

魔力はハッキリと目に見え、噴き上がる蒸気のように上空へと昇ってゆく。

『なんだ!? 何故、それほどの魔力が残っている!』

「お前は魔力を使い過ぎた。ドラゴンブラストも時間を巻き戻す能力も、莫大な魔力を消費する。もう強力な能力や魔法は使えないはずだ」

これはラーゼスが何百年の時をかけて作り出した、千載一遇のチャンスだ。

「固有スキル発動! 【黒鉄の蝕装】!!」

俺の全身に黒い金属が巻き付いていく。腕、胴、腰回り、足と黒い鎧に覆われて最後に頭と顔の一部に黒い金属が装着された。

何も無い空中から、光の大剣が現れる。光の大剣は切っ先を下に向けた状態で、背中に三本、両肩に一本ずつ、計五本が浮遊したまま装備されるように張り付いた。

「【闘神気功】!!」

溢れ出ていた魔力のオーラが黄色い“気功”の色へと変わっていく、“闘気”はその形を自在に変え、炎のような形にも、あるいは怒り狂う龍のような形にも見えた。

俺は”闘気”が流れる【 王の聖剣(エクスカリバー) 】を後方に向かって水平に振り、大声で叫ぶ。

「来い! 不死鳥(フェニックス) !!」

空中に漂っていた一欠片の火の粉が、激しい炎となり、その中から不死鳥が現れる。神炎を纏う鳥は 甲高(かんだか) い鳴き声を上げて、真っ直ぐ剣に向かって滑空してきた。

剣に当たると、刀身に溶け込むように消えていき、白く神々しい炎となって剣に力を宿す。

『なんだ……その姿は!?』

「決着を着けよう、魔神王」