軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第155話 神格化

俺の拳が、魔神王の顔面を叩き潰した。

そのまま吹っ飛んでいく姿を見て、自分の力が充分通用すると確信する。

太陽が出ている間は、勇者の職業スキル【光へ導く者】が発動し、更に“ 神衣(カムイ) ”の強化で魔神王を上回る力を手にしている。

この効果が持続する間に奴を倒す。

俺は手に持った剣を上に振り上げる。魔神王と何度も斬り結んだため、剣身にはかなりの衝撃が蓄積されたはずだ。

発光し始めた剣を、躊躇なく振り下ろす――

「 王が振るう聖剣(カレトヴルッフ) !!」

剣は光に包まれ、剣身自体が伸び、魔神王の頭上から斬り下ろした。なんの抵抗も無いまま、刃は体を通過する。

真っ二つになった魔神王の体からは、おびただしい量の血が噴き出す。普通の生物ならこれで死ぬはずだが……。

魔神王が自分の頭を両手で押さえつけた。すると、あっと言う間に傷が治っていく、やはり【超回復】の力だな。

簡単には倒せない、俺は剣を構え再び斬りかかろうとしたが、瞬間、四方八方から光が放たれる。

ギリギリかわすが、 僅(わず) かに触れた皮膚がえぐり取られていた。

「ドラゴンブラストか……」

周りを見れば、空間に亀裂が入り、そこから砲門のような物が覗いていた。空間をここまで巧みに操れるのか……。

少し感心したが、そんなことを考えてる場合じゃない。

光が交錯するように何発も撃ち出されたドラゴンブラストをかわしていく、普通なら苦戦するんだろうが――

俺は目の前に、亜空間への扉を開いた。ここは魔神王が使っている空間と同じはずだ。そう思い、どこまでも続く白い空間に目を移すと……やはりあった。

開かれた一つの亀裂から、無数の触手が伸び、別の亀裂が空いた複数の場所を経由して触手は外へ出ている。

亜空間に入り、一気に距離を詰めて全ての触手を切り落とした。

複数の触手が出ていた空間の亀裂を無理やりこじ開けると、そこには驚いた表情で振り返る魔神王がいた。

俺は空間から飛び出し、まだ体勢が整わない魔神王に斬りかかる。

剣を紙一重でかわした魔神王は、俺とは逆方向に亜空間の扉を開き、瞬間移動で逃れようとした。だが、俺も亜空間を開けるため空間に飛び込み、走っていく魔神王の背中を斬りつける。

『ぐっ!』と低い声を上げ、血を流しながらも外へ出るための扉を開き、倒れ込むように外へ出た。

俺も後を追って、外へ出るが魔神王は両手を合わせて一つの大きな砲門の形に変える。規模の大きなドラゴンブラストを放つと、辺りは光に包まれた。

これだけドラゴンブラストを連発できることに少し驚いたが、こんな真正面からの攻撃など簡単にかわせる。

俺は“神速”を使って魔神王の後ろに回り込み、闇魔法を纏った剣で背中を斬りつけた。

『があっ!?』と、短いうめき声を上げ、こちらに向き直る。

『おのれ、おのれ、おのれ!! 人間 如(ごと) きが、この私に!』

顔に血管が浮き上がり、紅潮した表情で睨みつけてきた。

「お前に勝ち目は無い」

『調子に乗るなよ人間……力を上げることなら私にもできるぞ』

怒りに満ちた声でそう言うと、ドス黒い空気が周りから集まり始めた。それはむせ返るほどの濃度の高い“魔素”で、魔神王に纏わりつくと、その体に異変が起こる。

魔力の塊だろうか、くすんだ半透明のエーテル体のようなものが魔神王を覆っていく。まるで肉付けしていくように、人型の体を形成していった。

それは数十……いや、百倍以上ある巨大な魔神がそびえ立つ。

『これが“神格化”の能力だ。王たる私しかできない、貴様の陳腐な魔法など遥かに超える力を見せてやろう!』

そう言って、足元にいる俺を見下ろす。

拳を大きく振り上げて、空気を切り裂く破裂音が響き渡る中、魔神王の正拳が俺に向かい真っすぐに叩きつけられる。

瞬間移動で攻撃をかわすが、百メートル以上先からどうなったか見ると、大地が爆散して粉塵が空高く舞い上がった。

威力だけならタイタンが使う“破滅の大斧”に匹敵する一撃だ。

『どうした? 逃げるだけか』

俺が空を飛び、奴に近づこうとすると、再び破裂音と共に拳を振るってくる。いくら巨大でも、まだ届く範囲じゃないだろうっと思っていたが――

全身が粟立つほどの衝撃が襲ってくる。慌ててかわすと、拳の射線上にある雲が道を開くように左右に分かれた。

大気が震えている。衝撃波だけでも想像を絶する威力だ。

その容姿は魔神王が巨人化したように見えるが、あくまで魔力で全身を覆う能力のように感じる。

だが、魔力の濃度が高すぎて実体があるのと変わらないだろう。

俺は瞬間移動で魔神王の目の前まで飛ぶ、それを見て拳を振り下ろしてくるが……それほどの脅威は感じない。

「力は上がったようだが、速さは変わらないか、むしろ 緩慢(かんまん) になったな」

振り下ろされる直前の拳に瞬間移動で近づき、闇魔法を纏った剣を放つ。

「次元斬!!」

拳は細かく 四角形(スクウェア) に切り刻まれ、その形を失った。切り落とされた場所からは血ではなく、淀んだ魔力が流出し空気の中へと溶けていく。

俺は切り落とした右腕に飛び乗り、「次元斬」を振るいながら肩へと昇っていった。俺が走った腕の側面は細切れにされ、四角形の破片は上空へと舞っている。

巨大化した魔神王はすぐに左手で、駆け上がる俺を捕まえようとするが、動作が遅い。

首筋に迫った時、持っている剣に魔力を流す。剣に帯びていた“気功”と魔力が合わさり黄金の炎となった。

「 神鳥滅殺魔炎斬(レーヴァテイン) !!」

顔から首筋にかけて剣が走る。斬撃はエーテル体を深く切り裂くと、同時に炎も一気に広がった。

遅れてやってきた左手を剣で斬り飛ばす。

顔が炎で覆われ苦しそうに悶えているところに、更に斬撃を叩き込もうと剣を構えて斬り込んだ。だが――

瞬間、魔神王の体が不気味に光りだす。その輝きは瞬く間に強くなり、近づくことさえできなくなった。

「まずい!」

俺は本能的に亜空間の扉を開き、その中へと逃げ込む。

近くに亜空間の出口を作ると危険だと思い、数百キロ離れた場所に瞬間移動した。自分が元いた場所を確認すると、目も開けられないほどの眩い光が地上から空へと昇っている。

光が収まったのを確認してから、瞬間移動で元いた場所に戻った。

目の前に広がった光景に絶句する。

「これは……」

大地が数十キロに渡って削り取られ、巨大なクレーターになっている。

その中心部で浮かんでいる魔神王。魔力を爆発させたのか? これ程の威力は見たことがない、水爆並なんじゃないのか……。

よく見れば切り落としたはずの手も元に戻っていた。エーテル体でできているから魔力を補充すれば元に戻るってことか。

◇◇◇◇◇◇◇◇

【レオ・ガルシア――】

「あれ? 映像が消えちゃったよ」

アーサーが慌ててスマホを振っているが、みんなで見ていた五条の映像が突然途切れる。敵が巨大化したのは確認できたが、その後光ったように見えた。

何が起きたのか分からないが、五条なら大丈夫だと信じたい。

「レオさん、もう映像は映らないんですかね?」ノアが心配そうに聞いてきた。

「近くにあった撮影用のドローンが破壊されたんだろう。新しいドローンが用意できれば、映像自体は、また見ることができるはずだ」

俺もこの戦いの結末を見てみたい。それがどんな結末であったとしても……。

◇◇◇◇◇◇◇◇

俺の姿を見つけると魔神王は、かすかに口角を上げる。

両手にバリバリと音を立てる稲妻が蛇のように纏わりつき、右手を上げると稲妻を槍の形にして、俺に狙いを定める。

『ゲイ・ボルグ――!!』

強力な 雷(いかづち) の槍が俺に向かって飛んできた。何よりも、驚異的なのはその巨大さだ。体が大きくなったことで魔法の威力も上がってるのか?

何発も撃ち出してくる 雷(いかづち) の槍を、瞬間移動を使って 掻(か) い 潜(くぐ) っていく。

一発、一発が俺が使った“ 神の雷(ケラウノス) ”並なんじゃないのか? そう思っていると、目の前に魔神王が現れる。

「何!?」

この巨体で瞬間移動してきたのか?

『貴様に追いつけないのなら、能力で追い付けばいいだけの話』

魔神王は両手の平をこちらに向け、 溢(あふ) れ出た炎が周囲に一気に広がる。

『 炎滅の都市(ソドム) !!』

亜空間を開くのが間に合わず、大気を焼き尽くす魔法の直撃を受けてしまう。“結界防御”があるが威力が強すぎる。

灼熱の魔法は、モンゴルの空一面を真っ赤に染めた。俺は炎に飲まれていく。

◇◇◇◇◇◇◇◇

こざかしい人間に 炎滅の都市(ソドム) を撃ち込んだ。この姿になって使う魔法は 桁違(けたちが) いの威力になる。確実に当たったはず、無事では済むまい。

空は炎と煙で覆われ、人間の姿は見えない。

だが、しばらくすると上空から何か聞こえてくる。なんの音か分からなかったが、炎の向こうからこちらに向かってきているようだ。

私は油断せず、人間の攻撃を迎え撃てるように構えた。

『どこからでも来るがいい!』

炎と煙に覆われた空に風穴を空けるように現れたものに、目を見張った。それは大きな黄金の玉だった。

突然現れた玉は凄まじい速度でこちらに向かってくる。かわすべきか、迎い撃つべきか一瞬迷ったことで判断が遅れた。

よく見れば玉の向こうには人間が並行して飛んでいた。これは……。

「喰らえ! ―― 隕石極大衝撃波(メテオ・インパクト) ――!!」

『まずい!』と思い、時間を止めるが、気づけば人間が目の前に来ていた。こいつは時間を止めても関係なく動ける。

人間が振るう剣が私の顔面を切り裂き、衝撃で時間が動き始めた。

右の拳を打ち出すが、“玉”は拳を粉砕し、勢いを弱めることなく体にめり込んでくる。これはオリハルコンでできた金属球か……。

落下する“玉”に体を押し潰され、そのまま地面に叩きつけられた。

目の前が真っ暗になり、衝撃が辺りに広がるのを感じる。この玉の落下エネルギーなら、恐らく地形が変わるほどの威力があるはずだ。

――その日、その瞬間、アジア各国で大規模な地震が観測された。舞い上がった土煙はキノコ雲となって、遥か遠方からも確認されることになる。