作品タイトル不明
第154話 最後の輝石
【レオ・ガルシア――】
輸送機は五条がいた場所からどんどん離れていく。だが、凄まじい光や衝撃音がここまで届いていた。
五条が戦っているんだ。
俺たちにできることは何もないが、せめて戦いの行方がどうなっているかだけでも確認したかった。
「ねえ、これ見てよ!」
子供たちの一人、アーサーがスマホを取り出し声を上げていた。
「どうしたんだ?」
「先生が映ってる!」
「え?」
全員でスマホを覗き込むと、遠くからの映像ではあるが人影が映っている。
「これは……」
「間違いなく先生だよね!」
「うん、僕もそう思う」
興奮したアーサーに、ノアも同調した。
「だとしたら、この映像は軍事用のドローンが撮ってるんだろう。もう、あそこは人が近づける場所じゃないからな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
【大阪・首相官邸】
「五条ですね。もう一人は誰でしょうか?」
「分からん……だが、敵だとすれば相当強い者ではないのか?」
防衛大臣の言葉に総理の多田が答える。驚異的な数の戦艦が撃沈し、大地を覆い尽くしていたアメーバ状の怪物も死滅した。
多田は、それを行なったのが五条だと確信していたが、このまま終わるのかについては疑念を持っていた。
「なんにせよ中国からの情報では、数十機のドローンで状況を確認しているとのことです。映像は各国の政府に送られているようですが、その映像を公開するかは国によって判断が分かれています」
「日本では公開しているのだろう?」
「はい、情報公開の観点からマスコミを通じて映像は流しています。今は全国民が見ているかと」
「そうか……」
これが最後の戦いになるだろう、多田はそんな予感がしていた。勝つか負けるかは分からないが、日本を救ってくれた時のように五条を信じるしかない。
祈るような思いで、映像の中の五条を見ていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺の目の前に立っているのは、長い黒髪の男で金色の鎧を着ている。今まで見てきた銀色の鎧を着た魔神たちの鎧と、デザインは変わらないように見える。
だが、色が違うだけでなく性能も高そうだ。
“鑑定”を発動しても本人はおろか鎧も、腰に下げている剣も、何も鑑定することができない。
『ああ、君か……』
「なんの話だ?」
『アイアスを倒したという人間は、“次元の迷宮”に入ったと聞いていたが……なるほど、そこでアガリアレプトを見つけたのか』
「一応、聞いておくが、残った仲間を連れて元の世界へ帰る気は無いのか?」
『それは私に命令しているのかな?』
「どう思おうと構わないが、無駄な争いはしたくない。元の世界へ帰り、二度とこの世界に来ないと誓うなら見逃してもいい」
『ハハハ……何か勘違いしているようだが、強い魔法が使えるから私に勝てると思っているのか? だとしたら大きな思い違いだ』
魔神王は自分の腰に下げている 剣(つるぎ) の 柄(え) に右手をかけ、ゆっくりと引き抜いていく。キンッと澄んだ音がすると抜き身の剣が妖しく光る。
『それに、あれだけ強力な魔法だと何度も使えないんじゃないかな?』
「……確かに、今使った魔法は一度きりしか使うことができない。今から戦闘になれば、あんたの方が有利かもしれないな」
俺の言葉に、魔神王は軽く笑みを浮かべる。
『それなのに随分、余裕だな。私の力を見くびっているのか』
「あんたが強いのは充分知ってるよ。本来なら俺など相手にならないだろう、アガリアレプトにもボコボコにされたぐらいだからな」
少し笑ってしまったが、何故だろう。圧倒的に強い魔神王を前にしても、負ける気がしない。“冥王の十指”もさっき使った光魔法で九つ目……。
残っているのは、たった一つ。不利なのは間違いないんだが。
俺は空を見上げた、日は傾き始めているが、まだ明るい。
『なんだ?』
「太陽が出てるなって思って……」
『……何が言いたい』
「いや、気にしないでくれ、迷宮には無かったと思っただけだ。戦うのを止める気はないんだろ? 始めようか」
俺は左手に残った最後の宝石を見つめる。この宝石だけは色が付いておらず、透明な輝石だった。俺が魔力を流すと、今までで一番の輝きを放って砕け散る。
「強化系最高位魔法――」
俺の周りから無数の小さな光の玉が、放射線状に体の中に入り込んできた。体が発熱して、力が溢れてくる。
俺は両手を広げ、大きな声で叫んだ。
「―――― 神衣(カムイ) ――――!!」
体から爆発するように“気”が噴き出す。それは通常の“気功”とは明らかに違うものだ。黄金の“気”が体を包み込み、足は地面から浮き上がる。
魔神王は地面を蹴って向かってくる、衝撃で大地が爆散し、岩や煙を巻き上げながら加速してきた。
俺も剣を握りしめ、地面を蹴って真っ向から迎え撃つ。
通常の世界軸なら交わることのない二つの力がぶつかり合う。刃を交えた瞬間、俺の“気”と魔神王の“魔力”が弾け、衝撃で周囲の地面が消し飛んだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
世界の人々が見ていた映像が一時途絶える。それは五条の近くで撮影していたドローン数台が戦いの衝撃で吹き飛んでしまったからだ。
映像が戻ると、二人の姿はすでにない。
ドローンは十台以上あるため、撮影は問題なく行えるはずだった。だが、二人があまりにも速すぎるため、その姿を捉えることができない。
あちらこちらで空気が弾け、衝撃が起こり、遅れて破裂音が聞こえてくる。
見ている人たちは戦いが続いていることは理解できるが、どちらが優勢なのかはまったく分からなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
この男……私の動きに付いてくる。それどころか、この力………アガリアレプト以上ではないのか?
何度目かの斬撃がぶつかり合った時、私の剣が弾かれる。
相手は一気に間合いを詰めてきた。力や速度、技において私を上回ってくるというのか? ありえない。
時間を止める。身体能力がどれほど高かろうと、時の止まった世界では意味をなさない。そう考えていたが男の剣は止まらなかった。
横に薙ぎ払った奴の剣に、何とかこちらも剣で受けるが、力負けして弾き飛ばされてしまう。
『バカな……』
男は何事も無かったかのように動いている。時の止まった世界で動けるのは、私と同じ力を持つクロノスだけだ。
まさか……この男も時間を止める能力があるのか? 信じられないが、それしか考えられない。そして、この斬撃。一撃、一撃が重い。時間を止めている間も変わらない力で薙ぎ払ってきた。
だとすれば、今使っているのはただの“気功”ではない。気功は強化魔法を体の外に出す技術。
時間を止めれば使えなくなるはずだ。だが止まった時の中でも効果が続くなら、身体強化も同時に行われているということ。
これも私が知らない魔法か……。
男は恐ろしい速さで斬り込んでくる。
『おのれ……!』
背中から四つの肉塊の触手を出す。大部分の肉塊は排出してしまったが、まだ戦いに使うぐらいなら充分な量は残っている。
私が突き出した剣と、四方からは肉塊、計五ヶ所からの同時攻撃。これなら避けられまい。
「次元斬・四連!」
男の振った剣が四つの肉塊を粉々に切り裂く、斬られた肉塊は小さな四角形になり、返す刀で私の剣を弾き飛ばした。
男が剣を振り上げる。力まかせに攻撃するつもりか。
男の剣を受けるため、自分の持つ剣を上に構える。力強く振り抜かれた剣は、私の剣を両断し、肩から腹にかけて体を切り裂いた。
大した傷ではなかったが、これ以上ない屈辱だ。自分の剣を折られ、傷を負うなど許していい現実ではない。
私は時間を巻き戻す、傷が無くなっていき、折れた剣も元に戻っていく。男が邪魔をする様子はない。
やはり止まった時の中を動けても、巻き戻すことはできないんだろう。だとしたら、この男が持っているのは不完全な能力だ。
体が完全に元に戻ってから、剣で受けるのではなく、一歩下がってかわすことにした。やはり、私についてこられる者などいない。そう思っていると――
男は一歩踏み込み、斬り込んできた。
剣を引いていた私はかわすことができず、肩口に 鋭(するど) い斬撃を受ける。
それは、時間を巻き戻す前に受けた傷より、遥かに深い傷となって私の体を切り裂いていく。
『がっ!?』
血が噴き出し、体勢が崩れた。
「時間を巻き戻したのか? 凄いな……だが、時間が戻ってることを認識できる俺に使っても意味がないぞ」
膝を突いた私を、見下ろしながら男が言った。
肩口の傷は【超回復】のスキルで急速に治っていくが、私を見下ろすなど許せるはずがない。
『貴様!』
私が男に斬りかかろうとした瞬間、顔面に男の拳がめり込む。
肉が裂け、骨が砕け、深々と拳が私の頭蓋をつぶしていく。衝撃で意識が飛び、ハッとした時には男から数十メートル離れた地面に横たわっていた。
それはコンマ数秒の出来事だったかもしれない。
だが、この私が地面に叩き伏せられたと言うのか? この私が!? 今まで一度も味わったことのない屈辱だ。
顔の傷は急速に治っていくが、私の頭に上った血は収まる気配はない。
『おのれ……楽に死ねると思うなよ。手足を切り落として――』
そう言った時、男は軽く剣を振った。剣から光が伸び、私の体を通過する。
世界が中央から左右に分断してゆく。
何が起きたかはすぐに理解した。私は頭から足元にかけて、真っ二つに切り裂かれていた。