作品タイトル不明
第133話 追憶の剣 その②
私たちはアガルタを出て、南東の町クレーネに来ていた。
「それにしても、凄い剣だな。ラーゼスが作ったのか?」
「いや、研究室に保管されていた物で、かなり昔に作られたらしい。私が補修を任されていたんだが……」
「勝手に持ってきたってことか? ハハハ、お前が盗みを働く日が来るとはな。ところで、この剣に名前はあるのか?」
「鑑定した人間が言うには、“王の聖剣”とだけ表記されるみたいなんだ。研究所の人間はこの剣を 王の振るう聖剣(カレトヴルッフ) と呼んでいたよ」
「 王の振るう聖剣(カレトヴルッフ) か……いい名前だ」
アイアスは楽しそうに笑っている。
だが、私たちは追われる身だ。魔神の勢力と戦うということは魔神だけではなく、そこに 仕(つか) える一般の人間とも戦うということだ。
何度か追手の襲撃を受けるも切り抜けてきたが、次第に追い詰められていく。私たちには一緒に戦ってくれる仲間が必要だった。
「この町から東にいくとマクスウェル山がある。そこに“エリファス・バトラー”がいると 噂(うわさ) に聞いたことがあるんだ」
私は以前聞いたバトラーの話をアイアスにしてみる。
「あの大魔導士の!? しかし、仮にいたとしても結構な歳のはずだろう」
「今は 藁(わら) にもすがりたいところだからね。力を貸してくれる可能性があるなら行くしかないよ」
私たちは大魔導士バトラーが居るという、マクスウェル山に行くことにした。
バトラーは普通の人間でありながら、魔神をも超える魔法の数々を使ったといわれる伝説の人物だ。
四日以上かかり、陸路でマクスウェル山の 麓(ふもと) の町に入る。
意外にも地元では有名で、居場所はすぐに分かり私とアイアスは、バトラーがいるマクスウェル山の 中腹(ちゅうふく) へと向かう。
着いた場所にあったのは、かなり大きな屋敷だ。私たちが 訪(たず) ねると家の中から不機嫌そうな声が響く。
「なんじゃい。わしに何か用か?」
出てきたのは黒と灰色のローブを着た、70は超えていそうな老人だった。
「バトラーさんですか?」
「だからなんの用じゃ! わしは暇ではないぞ」
バトラーは白く長い髭をたくわえ、その髭を手でいじりながら私たちを値踏みするように観察している。
私とアイアスは今までの出来事をバトラーに話した。すると――
「魔神に喧嘩を売るとは……突き抜けた馬鹿者どもじゃのお」
「でも、あなたもかつて魔神と戦ったことがあると……」
「大昔の話じゃ、しかも腕試しがしたいと魔神の方から言ってきたんで、若かった頃のわしが乗っただけのことじゃ」
「連戦連勝だったんだろ! バトラーさん」
アイアスは目を輝かせながら聞いていた。
「フン! そんなことより、ここに来た目的はなんじゃ! まさか、この老いぼれに戦わせようというのか?」
「私たちには一緒に戦ってくれる仲間が必要なんです。どうか……」
「バカを言うな! 老い先短いじじいに何ができるというんじゃ。迷惑極まりないわ、とっとと帰れ!!」
「バトラーさん、あなたは昔、魔神の統治体制に異議を唱えたと聞いています。どうか私たちに力を貸してくれませんか!?」
「何を言われようが答えは変わらん! 早く帰れと――……」
バトラーの表情が変わる。
「お前ら……つけられたな」
「えっ!?」
バトラーの言葉に私とアイアスは驚いた。ここに来るまで追跡が無いかどうかは、かなり気を付けていたはずだ。
「まさか……」そう言って私とアイアスは窓まで行き、気づかれないように窓を覗き込む。外には何人もの兵士と魔神と思われる者までいた。
「すみません。バトラーさん、私たちの注意が足りませんでした」
「若造の注意など、たかが知れておるわ!」
バトラーはそう言って屋敷の奥の部屋へ向かう。私たちも一緒についていくと、バトラーは部屋の中にある長細い箱の 蓋(ふた) を開ける。
「魔神を殺したと言っていたな……だとしたら、その剣には“神殺し”の力が備わっているはずじゃ」
アイアスは自分の持つ剣に目を移す。
「魔神は普通の武器では殺せん! 特殊な力が付与されている武器が必要じゃ。そして、これも――」
バトラーが取り出したしたのは、重厚な威圧感を放つ黒い杖だった。
「“冥王の杖”……遥か 古(いにしえ) に作られた神話級の武器じゃ」
「私たちと戦ってくれるんですか!?」
「お主らのせいで、わしまで反逆者として見られとるじゃろう。今から弁明しても魔神どもが聞く耳を持つとは思えん」
バトラーはそう言って、少し笑みを浮かべる。
「それに、先も長くない人生じゃ。最後にうっぷんを晴らすために暴れるのも、悪くないかもしれんのう……」
私たち三人は屋敷が囲まれているのを確認して、玄関から堂々と外に出た。
「これはこれは、 高名(こうめい) なバトラー様がこのような罪人と一緒にどうされたのです? ご説明願えますか」
丁重な言葉遣いで話してきたのは魔神の一人であり、それ以外の魔神や兵士たちは私たちが逃げられないように周辺を囲い込んでいる。
どうあっても逃がさないつもりのようだ。
「なんじゃ、ただ世間話をしておっただけじゃよ。わしも、もう年だからのう争いごとは好まん。このまま引いてはくれんか?」
「ご冗談を………我々も大罪を犯した者たちを逃がすわけにはいきませんからね。あなたも一緒に来てもらいましょう」
魔神が手を上げると、周りにいた魔神を始め兵士たちも一緒に襲い掛かってきた。私とアイアスも戦闘態勢に入る。
人数が多いので、かなりの苦戦も覚悟していたが……。
「火焔龍!!」
バトラーが 掲(かか) げた杖から、巨大な炎の龍が 蜷局(とぐろ) を巻くように周囲に広がってゆく。一般の兵士は炎に飲まれ、そのまま焼き尽くされた。
魔神ですら、その魔法の威力に押されて動けないでいる。
「さすがですね……しかし、我々魔神に逆らったことを後悔しますよ」
「後悔なら今まで散々してきたわい。最後くらい自分のやりたいようにやってもバチは当たらんじゃろう!」
「やれっ!」
魔神が声を上げると、炎の向こうから別の魔神が飛び掛かってきた。短剣を持った魔神はバトラーに斬りかかる。
接近戦に弱い魔導士には致命的な距離だ。そう思いアイアスは助けに入ろうとするが――
「わしに接近戦を挑むとは、いい度胸じゃの!」
バトラーは黒い杖を振りかざし、魔法を発動する。
「複合魔法―― 不浄なる死者の国(ヘルヘイム) !!」
冥王の杖から噴き出したドス黒い炎は魔神の体を焼き尽くしていく。魔神は絶叫しながら、体を黒い灰にされ絶命する。
「ちっ! 老いてもまだそんな力があるのか」
魔神がバトラーに気を取られている間に、アイアスは一気に距離を詰め斬りかかった。タイミングは完璧だ。
「バカ垂れ! その魔神に近づくな。【精神支配】の固有スキルを持っとるんじゃぞ!」
「もう遅い。『止まれ!』」
魔神も固有スキルを使ったようだがアイアスの剣は止まることは無く、そのまま魔神の肩口から切り裂いていく。
「ガハッ!? 何故だ……」
魔神は血を噴き出しながら膝をつき、最後は血溜まりの中に倒れる。
「よく分からんが、助かったようじゃのう。だが、気を抜くな。すぐに追手が掛かるはずじゃ」
バトラーに 促(うなが) されて、私たちはその場を離れて山間を抜けた。魔神から逃げている間にアイアスの能力についてバトラーに話し、意見を聞いてみる。
「固有スキルを使えなくするのか……聞いたことの無いスキルじゃのお。確かにわしが魔法で攻撃してる時も、魔神が能力を使っているようには見えなんだ」
バトラーは感心するようにアイアスを見る。
「魔神は自分の能力を過信していることが多い、そんな相手に、その能力は絶大な効果があるやもしれんのう」
私たちは川辺で一息つくことにした。万が一襲われても、すぐに対応できるように見晴らしのいい場所で視界を確保している。
「ちょっと待って」
私は魔法陣を展開し、その中から一体の“精霊”を出現させた。小さな火の鳥で、体は 透(す) けている。
「ん? なんだそれ。召喚獣か?」
「ああ、以前テイムすることが出来た珍しい“精霊種”なんだ。【不死身】の固有スキルまで持ってるんだよ」
私とアイアスの会話を聞いて、バトラーさんが声をかけてきた。
「それは、ただの精霊ではない。成長すれば“不死鳥”という“神託の獣”となる。お主に育てられるかのう」
「こいつが“神託の獣”に? バトラーさんはなんでも知ってるんだな……。それでラーゼス、そいつに何をさせるつもりなんだ?」
「うん、まだ小さいから戦わせるのは無理だけど、辺りを警戒するための監視役としては充分役に立ってくれるよ」
私はそう言って、鳥を空に放った。
この鳥が“神託の獣”と言われても正直ピンと来なかったが今、私にとっては大事な仲間であることに変わりはない。
火の鳥が警戒している 間(あいだ) に、バトラーさんと今後のことについて話し合った。
「確かに、お主の能力なら魔神たちは倒せるかもしれん。だが大元である“魔神王”を倒すのは無理じゃ。次元の違う強さを持つ魔神じゃからのう」
「それでも俺たちの未来を作るためには“魔神王”を倒すしかないんだ。バトラーさん、俺たちにできることを教えてくれ」
アイアスがそう言うと、バトラーは 顎髭(あごひげ) を手でいじりながら考え込む。
「小さな可能性ではあるが、魔神王以外の“神将”と呼ばれる魔神を全て倒すことができれば……魔神王を孤立させ倒せるやもしれん」
「神将を全員……」
「いや……それでも万に一つの可能性に過ぎんがの」
アイアスは拳を握り、決意を固めたようだった。
「バトラーさんは魔神王のことをよく知ってるんですか?」
「いや、わしも詳しくは知らんのう。聞いた話では死んだ者の体を取り込む能力があるらしいが……それも定かではない」
魔神王の情報を詳しく知る者は誰もいなかった。だが、魔神を生み出すことができる以上、魔神王を倒さない限り魔神の世界は終わらない。
少し暗い気持ちでそんなことを考えていると、上空で警戒していた火の鳥が 甲高(かんだか) い鳴き声を上げた。
私たちは立ち上がり、辺りを見回すと東の空から巨大な鳥が飛んでくる。鳥の背にはフードを被った人物が乗っており、体格から見て男のようだ。
「まずい奴が来おったのう……」
バトラーがそう言うと、鳥はゆっくりと私たちの前に降り立つ。
「久しいな、バトラー」
鳥の背から男が降り、バトラーに声をかける。男の顔はフードで影になり、よく見えなかったが口元は笑っているように見えた。
「知り合いなんですか? バトラーさん」
私がそう聞くと、バトラーは苦々しい表情で男を見つめている。
「よく知っておる。若い頃一度だけ手合わせしたことがあるが、他の魔神と違いこやつだけには手も足も出んかったわい」
「そんなに強い魔神なんですか?」
「ああ、神将の一人であり、魔神王の側近でもある。最も古い魔神――」
男がフードをはずすと、老齢な顔が現れる。
「――海神、オーケアノスじゃ!」