軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第132話 追憶の剣 その①

ラーゼスと共に下の階へ行くと、淡い緑色の結晶でできた階層だった。

その階の中央にある石柱に向かって歩いていく。石柱の近くには人の形をしたゴーレムが何体かいて静かに 佇(たたず) んでいた。

体長は1メートルから2メートルくらいの大きさだ。

ラーゼスが立ち止まり、上を見上げると結晶の中に人がいた。目を閉じ眠っているかのように穏やかな表情に見える。

「これがあんたの本体か?」

『ああ、悠久の時を生きるためにこうしたんだ。私の本体は動くことも、外に出ることもできない……永遠にね』

誰もいない洞窟の中で、ずっと過ごしてきたのか……。

「どうしてこんな所にいるんだ? 何か理由があるんだろ」

『そうなんだが………まず何から話そうか』

ラーゼスは少し考えてから、俺の目を見て話し始めた。

『まずは私の友……君たちが“黒騎士”と呼んでいた者について語ろう』

「黒騎士のことを知っているのか?」

『よく知っているよ。君は彼の本当の名前を知っているかな?』

黒騎士の名前……? 鑑定した時表記されていたな……確か――

「ヒュブリスだったか」

『いや、それは彼の本当の名前ではないよ。“ヒュブリス”とは無礼者という意味だ。魔人たちが 嘲(あざけ) りを込めて彼に付けたんだよ』

ラーゼスは無表情だったが、その目には怒りが浮かんでいるように見えた。

『彼の名はアイアス、我々の世界で英雄と呼ばれた男だ』

そう言った後、ラーゼスは俺に近づき腰に下げていたエクスカリバーに目を移す。どこか 懐(なつ) かしそうな目をしていた。

『その剣と共に様々な戦いに出たんだ…………少し長い話になるが聞いてくれるかな』

◇◇◇◇◇◇◇◇

「またか」

「広場で親子が殺されたらしい……やったのは魔神の 眷属(けんぞく) か。誰も文句なんて言えないだろう」

「ひでえ話だな」

………かつて、私がいた世界では一般の人々を支配する“魔神”と呼ばれる存在がいた。魔神は人の上位種とされ、超常の力を持つことが知られている。

その魔神の中でも頂点に君臨するのが“魔神王”だ。

世界の王であり、神であった。その姿は私のような 凡庸(ぼんよう) な人間では見ることも叶わず、 噂(うわさ) でしか聞いたことが無い。

ハッキリ分かっているのは、 数多(あまた) の能力を持ち、人を魔神に進化させることができる唯一の存在だということ。

そんな世界で私は、彼と共に生きていた。

「どうしたんだ? 暗い顔をして」

「ああ、アイアス」

研究施設の外にある木陰に置かれたベンチに座っていた時、明るく声を掛けてくれたのが友人のアイアスだ。

当時、私はアガルタという街の研究所で働く【錬金術師】、アイアスは軍で働く【魔法戦士】で、二人とも魔神の支配下にある組織に所属していた。

「また研究がうまくいかないのか?」

「いつものことだよ。落ち込んでいても仕方ないんだけどね」

子供の頃から仲が良かったアイアスとは、取り留めのない話で盛り上がり、お互いを励ましあった。

圧政が敷かれる世界ではあったが、二人はいつも自分たちの夢を語り合う。私の夢は研究が認められ、人々の生活が少しでも良くなる発明をすること。

アイアスの夢は平民から魔神となり、領地をもらい、そこで生活する人たちを幸せにすることだ。

「君ならなれるよ。誰にも負けない剣の腕があるからね」

「何言ってんだ。ラーゼスこそ天才だよ。認められないのはお前の上司に見る目がないだけだ。有用な発明だって、いくつもしてるじゃないか」

アイアスは誰よりも私の才能を認めてくれていた。

「ありがとう。そう言ってもらえるだけで嬉しいよ。アイアスは上官に恵まれてるみたいだね」

「直属の上官は魔神でも、その眷属でもないけど俺の能力を知って評価はしてくれてる。だけど、大っぴらには言わない方がいいらしい」

「そうなんだ……」

アイアスの持つ能力は特殊だった。自分が望めば他の全ての者の固有スキルを封じることができるというものだ。

それは魔神になるための能力というより、魔神を倒すための能力に見える。

普通、固有スキルを持っている者は少ないため、認められたいなら積極的に自分の能力をアピールするものだがアイアスはそれができない。

「まあ、いいさ! 俺には剣があるからな。魔神になって大きな領地や街の管理ができるようになればラーゼス、お前を引っ張り上げてやる」

前向きなアイアスには、いつも元気をもらっていた。

「楽しみにしているよ」

他人が聞けば 荒唐無稽(こうとうむけい) な話かもしれない。だが、その時の私たちは、きっといつか実現できると根拠も無く信じていた。

そんな 折(おり) 、事件が起こる。

魔神の眷属が、酒場で暴れ何人もの重傷者が出たというものだ。魔神の身内であっても同じ魔神とは限らないが、彼らは絶大な権力を持っていた。

街の運営管理において役職についていたり、親族が魔神なのを笠に着て横暴な振る舞いをしている。

私たちが住む街アガルタでは、特にそれが 顕著(けんちょ) だった。

「やめろ!」

「ああ? なんだ。街の兵士か」

アイアスを含めた三人の兵士が現場に駆け付ける。この世界では警察の役割を軍の兵士が担っていた。

見ると子供まで血だらけで倒れている。五人組の若者が、街の酒場で昼間っから飲んでいたようだ。

「お前たちを拘束する」

「おい! アイアス、まずいぞ」

「ああ、相手はこの街を支配する魔神の息子だ。ここは揉めない方がいい」

アイアス以外の兵士は魔神の怒りに触れることを恐れ、若者たちを見逃そうとしていた。だがアイアスは――

「彼らの行動は明らかに国の法に触れている。見逃すわけにはいかない」

バカが付くほど真面目なアイアスは一般市民に、それも子供にまで手を出した魔神の眷属たちが許せなかった。

「おいおい、怖いねー。俺たち捕まっちゃうみたいだぞ」

「だはははは、やれるもんならやってみろよ」

酔っぱらった男はアイアスに剣を向ける。

「謝るなら許してやるぞ」

「謝る理由が見つからないな」

「ぬかせ!」そう言って男は自分の持つ剣を大きく振り上げ、アイアスに向かって斬りかかった。

アイアスは軽く剣を 躱(かわ) し、相手の顔面を裏拳で殴った。歯が何本も折れ、店の壁まで飛んでいく。

残る二人も頭に血が上ったように、アイアスに向かってきたがアイアスは素手で全員を制圧し、そのまま街の留置所まで連行する。

アイアスは自分の仕事をしただけだが、これが大問題になった。

魔神の眷属を逮捕し、拘留するなど前代未聞の出来事でアイアスは役職を解かれ、謹慎することになる。

「落ち込んでるかと思ったけど、元気そうだね」

アイアスが住む軍の寮を 訪(たず) ね、部屋のベッドに横になりながら本を読んでいた彼に声をかけた。

「ラーゼスか、何も落ち込むことなんてないよ。国の法に 従(したが) っただけだ」

「もう少しうまくやらないと、軍を辞めさせられるだけじゃすまなくなるよ」

「俺の性格を知ってるだろ? たとえ軍を辞めることになっても、許せないものは許せないんだ」

なんらかの懲戒はあるだろうと思っていたが、事態は最悪の方向に向かう。

帝都に行っていた、この街を支配する魔神が帰ってくるとアイアスの話を聞いて激怒した。その魔神は懲戒どころか、適当な犯罪をでっち上げアイアスの処刑を命じてしまう。

周りに対する見せしめにするために、公開処刑にするという 悪辣(あくらつ) さだ。

魔神にも階級があり、最も上に“神将”と言われる魔神と、下位の魔神として統治などの仕事を担う者たちがいる。

下位の魔神ほど悪政を敷く者も多く、アガルタの魔神は特に酷かった。

アイアスは自分がしたことの結果だから後悔は無いと言っていたが、私は納得できない。

アイアスの公開処刑の日が決まり、私はアイアスを助けるため処刑会場に駆け付ける。助けだせるとしたら、この日しかない。

後ろ手に 枷(かせ) をはめられ、アイアスは処刑台の上に昇ってきた。首を斬るための斧を持った処刑人が待ち構えている。

大勢の人が集まり、魔神とその息子まで会場に来ていた。

嘲笑(ちょうしょう) を浮かべながら、まるでイベントでも楽しむかのようだ。私は群衆をかき分けながら、処刑台が見える場所まで移動する。

アイアスは目隠しをされたまま台の上で 跪(ひざまず) き、刑が執行されるその時を静かに待っているようだった。

私は魔結晶で作った小さな虫型の魔道具を会場に放つ。

虫型の魔道具は広場を飛び回り、処刑人や会場を警護する兵士に取り付く。殺傷能力を極力抑え、大量の煙幕が出るようにした物だ。

爆発が起こると処刑場は大混乱となり、辺り一面は白い煙で覆われる。

私はその隙に、アイアスのもとへ行き手枷をはずした。

「何やってるんだラーゼス!」

「君をむざむざ死なせるわけにはいかないよ」

「こんなことしたらお前もただじゃ済まないんだぞ! 分かってるのか!?」

確かに自分の生活も仕事も何もかも失い、捕まれば処刑されるだろう。だからと言って親友を見殺しにする理由にはならない。

「一緒に逃げようアイアス!」

二人で立ち上がり逃げ出そうとした時、背中に衝撃が走る。私は立ち止まり、その場で膝をつく。

「ラーゼス!!」

どうやら後ろから斬られたようだ。

アイアスの様子だと、私の傷は深いらしい。こうなることも覚悟の上でやったこと……悔いはなかった。

薄れゆく意識の中でアイアスの会話が聞こえてくる。どうやら私を斬ったのは、この会場に来ていた魔神モレクのようだ。

「逃げられると思ったのか? 罪人が!」

「キサマ……!」

アイアスは私が持ってきた剣を拾い上げ、魔神モレクと向かい合う。

「俺だけならまだいい。罪を 捏造(ねつぞう) してまで俺を殺したければ殺せ。だが友に手をかけることは絶対に許さん!」

「許さんだと? 人間風情(にんげんふぜい) が“鋼鉄の魔神”と言われる俺に歯向かうと言うのか。笑わせる」

モレクはその巨体を活かし、上からアイアスに斬りかかった。

アイアスは軽く剣を振り上げる。

すると、剣を 掴(つか) んだままのモレクの両手が宙を舞う。一瞬、何が起きたか分からなかったモレクは、しばらくしてから大声を上げた。

「ギィャアアアアアーーーーーーー! なんだ!? 何が起きた? 俺の両手はどこにいった!!」

両腕から血を噴き出し、モレクは後ずさっていく。

「何故だ? 俺の鋼鉄の体を剣で斬れるはずがない……お前はいったい!?」

「あんたみたいなお偉いさんは、俺みたいな 末端(まったん) の兵士の能力など知るまい」

アイアスはゆっくりモレクに近づき剣を突き付けた。

「ま……待て! 俺を殺したら、とんでもないことに……」

「次元斬!!」

アイアスの迷いのない剣が魔神を殺した時、二人の思い描いた夢は消えた。そして新しい目標ができる。魔神のいない世界を――

そのために私たちはアガルタの街を出たんだ。