軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第134話 選ばれし者

「この青年かな? 魔神の固有スキルを封じることができるというのは」

バトラーがオーケアノスと呼んだ魔神は、アイアスの能力を知っているようだ。元々、アイアスがいた軍で把握されていたので当然といえば当然か……。

「わしが時間を稼いでいる間に、お主らは逃げるんじゃ!」

「そんなわけにはいかない!」

アイアスはそう言ってバトラーの前に出た。

「バカ垂れが! 死にたいのか!?」

アイアスは自分のために他人を犠牲にするような人間じゃない。彼が引かないのは、長い付き合いの私からすれば当然の行動だった。

「アイアスといったか………。君の能力は興味深い。はたして、その能力の有効範囲はどれくらいかな?」

オーケアノスは鳥の背に乗り、再び上空へと舞い上がった。

私たちと一定の距離を取ったかと思うと、川の下流の方から何か音がする。川の水が増し、河川から 溢(あふ) れ出した水は空へと昇っていく。

やがて日の光を 遮(さえぎ) るほどの巨大な蛇の形となった水は、私たちを威圧するように頭をこちらに向けている。

「海の水が川を逆流しておる! あれが、あやつの能力【海流操作】じゃ」

オーケアノスは高々とかかげた手を振り下ろす。上空で止まっていた大蛇は勢いよく私たち目掛けて落ちてきた。

「さらばだ、古き友よ」

凄まじい質量の水を前に、私たちは為す術なく立ち尽くしていた。大蛇が直撃しようとした瞬間――

「えっ!?」

ドーム状の空間に 阻(はば) まれ、水の蛇は消滅してしまう。これにはバトラーやオーケアノスも驚いたようだった。

「バカな……海水を操るのは能力じゃが、水が直撃するのは事象の結果……能力ではないぞ!」

バトラーの言葉にアイアス自身も戸惑っている。

「これは……予想以上だな。君を過小評価していたようだ。固有スキルによって起こされた現象すら無かったことにする力か……これは私の方が 分(ぶ) が悪いな」

オーケアノスを乗せた巨大な鳥は、旋回し私たちに背を向けた。

「今度はこちらも充分な準備をしてくることにするよ。また会おう、バトラー。そしてアイアス」

そう言うと、怪鳥は東の空へと飛び去ってしまう。

「助かった……のか?」

そうアイアスが言い、私も緊張から解放されてその場に座り込んだ。

「あんな奴らと、これから先ずっと戦うことになるんじゃぞ。本当にその覚悟はあるのか!」

「………望むところだよバトラーさん」

アイアスは力強く答える。

「私も、自分にできる限りのことはしていきます。覚悟もあります」

こうして私たちの4年にも 及(およ) ぶ、魔神との戦いが始まったんだ。

◇◇◇◇◇◇◇◇

俺は自分の剣を見つめた。黒騎士に……アイアスという男にそんな過去があったのか。この剣を使うなら生半可な覚悟ではダメだ。

「そういえば黒騎士もこの剣を“ 王の振るう聖剣(カレトヴルッフ) ”と呼んでいたけど、俺が鑑定したときは“エクスカリバー”と表記されてたぞ」

『恐らく、この世界において最も適切な名前が示されているんだろう。鑑定した時に出る“王”というのが誰なのか、 未(いま) だに分かっていないからね』

鑑定の表示が絶対ではないってことか……。

「それで……その後はどうなったんだ?」

俺は話の続きを 促(うなが) した。決して明るい未来が来なかったことは知っている。だが、アイアスやバトラーがどうなったかは知りたかった。

『君の想像と、たいして違わないと思うが……』

ラーゼスは苦笑いを浮かべる。

『私たちは当時12人いた“神将”のうち7人を殺し、4人を戦闘不能にした。魔神に支配された世界においては、ありえない出来事だ』

「じゃあ、魔神王と……」

『ああ、とうとう魔神王と直接対決することになる。だが、最後にオーケアノスが立ちはだかったため魔神王と1対3の構図には持ち込めなかった。私たちが魔神王と戦っている間、バトラーはオーケアノスを押さえていてくれたんだ』

ラーゼスは 俯(うつむ) いて言葉を切った。

『アイアスの能力は魔神王の全ての能力を封じ、その剣は喉元に迫る。私が召喚したゴーレムもアイアスを補助していたんだ………だが、魔神王は能力が無くとも地力が強すぎた』

何かを思い出すようにラーゼスの表情が曇る。

『アイアスが放った全力の剣は魔神王の 頬(ほほ) をかすめ、 僅(わず) かに傷を付けた。魔神王はカウンターでアイアスの心臓を貫き、片手で高々と持ち上げる。私は串刺しにされたアイアスの映像が今も頭から離れないよ』

俺と戦った黒騎士の壮絶な過去を聞いて言葉が出なかった。あれだけ強かった黒騎士でも魔神王には、かすり傷一つ付けるのが精一杯だったってことか。

『アイアスは体に朽ちることのない魔法をかけられ、魂は永遠に束縛されてしまう。バトラーもまたオーケアノスとの戦いに敗れ、その体にかけられた不死の呪いでアンデッドと化してしまった』

「アンデッド……」

『君は以前、彼に出会っているはずだ』

「まさか……東京にいた“不死の王”か!?」

ラーゼスは黙って 頷(うなず) く。ショックだった。知らなかったとはいえ、ラーゼスの仲間を俺が殺していたなんて……。

「……すまない」

『君が謝る必要なんて何もないよ。魔神に 囚(とら) われ、永遠の奴隷とされていた私の仲間を解放してくれた。ただただ感謝しかない』

ラーゼスは微笑むが、俺は複雑な気持ちになる。

『その後、命からがら逃げ出した私は追手を振り切るため、この“次元の迷宮”に逃げ込んだんだ。それが数百年前の情けない話だよ』

「数百年!?」

『そう、大昔の話だ。そして私はこの“次元の迷宮”で魔神王を倒すための研究をすることになる。当初は、私が持つ“無限収納”の魔道具から材料を取り出し使っていたが、次第に外の世界にも干渉できるようになっていったんだ』

ラーゼスは自分が使っていた魔道具や材料、手足として使っていたゴーレムなどについて説明してくれた。

『そして魔神の世界に起きた変化に気づくことになる』

「変化?」

『彼らは自分たちの世界を完全に捨てて、次元の異なる君たちの世界に侵攻することを決めたんだ』

「どうしてそんなことを……。理由は?」

『詳しくは私にも分からない。だが、かなり急いでいたのは間違いない』

急いでいた? 向こうの世界では、魔神は絶対的な支配者のはずだ。なのに慌てていたなんて……何かあるのか?

『私は、これを千載一遇のチャンスと 捉(とら) えた。以前より考えていた計画を実行することにしたんだ』

「それがあのガチャだったのか?」

『そうだ。君たちの世界の人間から対象を選んで、その者に能力を渡し、魔神に対抗してもらうというものだよ』

選んでってことは、ガチャは偶然現れたわけじゃないってことか。

「どうして俺だったんだ?」

『二つ理由がある。一つは一定の魔力量を持っていること、君たちの世界では魔力を持っている人間がとても少ない。私の作った魔道具はある程度の魔力がないと使えないからね』

「俺に魔力なんてあったのか………二つ目は?」

『性格だね。本気で人のために戦ってくれる人じゃないと意味がないから、どんな人間かを長い期間、観察していたんだ』

「俺のことを、ずっと観察してたってことか?」

『何人か候補がいたんで、同時に見ていたね』

ずっと見られてたのか、ちょっと嫌だな。

「他にも候補がいたなら、最終的に俺になった理由はなんだったんだ?」

『君は、とてもお人好しな人間だ。車椅子の男性が横断歩道で立ち往生していた時、助けようとして別の車にはねられたことがあっただろう?』

そういえば、そんなことあったな……2年ぐらい前の話だけど。

『あれを見た時、笑ってしまったんだ。そして、この青年にしようと思った瞬間でもあった』

「本当にそんなことで?」

『……君はどこか、アイアスに似てたんだよ』

ラーゼスは穏和な表情で微笑む。話を聞いて俺の前にガチャが現れた経緯は分かった。だけど、どうしても分からないことがある。

「なんでガチャを引かせるなんて回りくどいことをしたんだ? 普通に渡してくれても良かったんじゃないのか?」

『なかなか面白味があっただろ?』

「いや、本当のことを言ってくれよ!」

『冗談だよ。仮に一度に色々な力を渡したとしても、君は使いこなすことができなかっただろう。君が成長するにしたがって少しずつ渡していくつもりだったんだ』

「それで一回一万円にしたのか?」

『だいたい君が使えるお金のペースを考えて一万円にしたんだ。だが、君は私の予想以上にカプセルを引いてしまうことになるんだが……』

「ガチャは俺が引いた物と、もう一つあったんだろ?」

レオ達が使っている“武器のガチャ”があったはずだ。

『いや、私が用意した物は全部で三つあった。魔神王を倒す英雄を作る“能力のガチャ”多くの人々が魔神王の軍勢と戦うための“武器防具のガチャ”世界に警告と準備を 促(うなが) す“アイテムのガチャ”だ』

三つ? そんなにあったんだ……。

『だが、うまくいったと言えるのは君くらいかな。武器防具を引いた人間は殺されてしまい、意図しない人のもとへと流れてしまった。その後、人は自らの手で魔神の勢力に対抗するための武器を破棄してしまう。これも予想外の出来事だ』

「やっぱり、あの武器は必要不可欠だったってことなのか?」

『いや、君を始め、心ある人たちが未知の脅威に対抗するための武器や道具を作り始めた。これによって失った武器防具の代わりにはできると思うよ』

今まで準備してきたことは無駄じゃなかったんだ。それが分かっただけでも少しだけホッとした。

『“アイテムのガチャ”はアンゴラに設置したんだ。ここには特に魔力の高い少女がいて、私の作った魔道具“予言の指輪”を与えたが警鐘を鳴らすことに失敗してしまった』

「そうか……。魔神たちはどうやって世界を侵略するつもりなんだ?」

『まず、魔物や“神託の獣”を送り込んで君たちの世界の人間を減らした後、大軍勢を率いて侵攻するつもりだ。魔神はともかく一般の兵士は、この世界の人間たちと変わらないからね。少しでも敵となる戦力を削ぎたかったんだろう』

「止めるにはどうしたらいい?」

『魔神王を倒すしかない。他の魔神をいくら倒しても魔神王がいる限り、いくらでも生み出されてしまう』

「じゃあ、俺が魔神王を倒せば世界は元通りになるってことだな」

『君では魔神王に勝てないよ』

「え?」

ラーゼスが断言したことに驚いた。

『私が作り出した君は、魔神王の劣化版に過ぎないからね』