作品タイトル不明
第130話 闘気
ガチャを作った!? 目の前の男が?
確かに何かの思惑は感じていたが、その本人が直接出てきたとなれば 俄(にわ) かには信じられない。
『自己紹介がまだだったね。私はラーゼスという』
ラーゼスと名乗った男は階段に向かって歩きだす。
『詳しい話は後にしよう。とりあえず先へ進もうか』
「おい、ちょっと待て!」
俺がラーゼスの腕を 掴(つか) もうとすると――
「え?」
手が相手の体を 透過(とうか) し、触れることができない。
『これは私の実体ではないからね』
「お前は……」
『私が実際にいる場所まで 辿(たど) り着けたら話をしよう』
そう言ってラーゼスは階段を下りていった。実体じゃないから鑑定ができなかったってことか?
俺は直ぐに後を追いかけて次の階へとやってきた。
見渡すと男の姿がない。
この階も上の階と同じように結晶によって岩肌や石柱が作られていたが、異なるのは少し進んだ先に開けた場所があることだ。
そこはドーム状になっており、小学校の体育館ほどの広さがある。
全体に明るく、開放的な空間だ。ラーゼスは開けた空間の中央付近に立ち、俺が来るのを待っているようだった。
『職業ボードは使ったかな?』
突然言われたので一瞬、なんのことだ? と思ったが、恐らく黒騎士を倒した時に現れた職業ボードのことだろう。
“伝説の勇者”と表記された職業ボードは、ここに来る前にはすでに使っている。いままでの職業ボードとは違い、表面をタッチすると光が 溢(あふ) れ体に強大な力が流れ込んできた。
ステータスを鑑定で確認すると、職業は普通に“勇者”と表記されているので今までと変わりない。
何が違うのか具体的に分からないまま、今に 至(いた) ってしまう。
「あの職業ボードも、あんたが用意したのか?」
『ああ、そうだよ』
「どういう効果がある物なんだ? よく分からなかったが」
『フフフ……すぐに分かるよ。そのために準備したものが、ここにあるからね』
「ここに? 何があるんだ」
俺がそう問いかけると、ラーゼスは何も言わずに特定の場所を指さす。その場所に目を移すと岩の壁に何かが埋まっている。
「あれは……」
生き物だ。だが人間ではない。もっと毛むくじゃらで……猿?
『あの“神託の獣”に勝つことができたら、また話をしよう』
ラーゼスはそう言って消えてしまった。
困惑していると、猿が埋まっている壁から 微(かす) かに音が聞こえる。見ると壁から小石が落ちてきた。
――瞬間、爆発するように壁の岩が弾け、中から真紅の猿が姿を現す。
死んだように動かなかった猿が、息を吹き返して地面を蹴り、こちらに突進してきた。
驚いたのは、その速度だ。
爆発的に加速し、気づけば俺の目の前にいる。
足を含め、全身にオーラを 纏(まと) っていた。間違いない、これは“気功武術”だ。相手が打ち込んでくる正拳突きを俺は両手をクロスして防ぐ。だが――
衝撃で体が浮き、後方へ弾き飛ばされる。
「ぐっ!」
このパワーとスピード。パワーはスプリガン並、スピードはキマイラ並か!
大地を蹴って加速し、縦横無尽に駆け回る。猿が踏み込むたび地面が割れ、体からは”気”が 噴(ふ) き出していた。
高速で繰り出される拳をギリギリで 躱(かわ) すが、空気を打った拳は想像を絶する衝撃を生み出す。
風圧だけでまともに立つことができず、体勢を崩すと猿の魔物はすでに俺の 懐(ふところ) に入り込む。
猿は足を蹴り上げ、俺の 顎(あご) をガードごと打ち抜く。そのままバク転して俺と距離を取り、武術の達人のように構えた。
俺は 堪(たま) らず後退する。
恐ろしく強い体術を使う魔物だ。鑑定を行使すると――
ハヌマーン
獣人種 Lv3923
■ ■ ■
■ ■ ■
「“統率者”か……」
ハヌマーンは地面が激しく砕けるほど踏み込んで、こちらに向かってくる。
俺も相手に合わせるように距離を取った。ハヌマーンは接近戦を得意とする敵だ。一定の距離を保てば有利に戦えるだろう。
そう思っているとハヌマーンは急に立ち止まる。
距離があるので大丈夫だろう。そう考えた次の瞬間――
「ぐあっ!?」
顔面を蹴り飛ばされる。ハヌマーンは足に 纏(まと) った“気”を長く伸ばし、 鞭(むち) を振るうかの 如(ごと) く薙ぎ払ってきた。
更に距離のある場所から突きを放ったと思えば“気”が大蛇のように長く伸び、襲い掛かってくる。
躱(かわ) すのに精一杯で反撃できない。気功にこんな使い方があるのか……。
俺は剣を抜いて振り上げる。ハヌマーンの腕を切り落とす勢いで斬りかかったが、体に届くことなく“気”に 阻(はば) まれて止まってしまった。
“気功”の強度が半端じゃない! こんな奴がまだいたのか。
空気を殴るととんでもない衝撃波が生まれる。回避不能の攻撃だ。俺は吹き飛ばされるが、なんとか体勢を立て直す。
恐らく“気”を使った技なんだろう。俺や 王(ワン) でもできない“気功”の使い方だ。これは“気功武術”を極めたからか、あるいはそういうスキルがあるのか?
『なかなか強いだろう?』
突然、ラーゼスが戦っているすぐ 傍(そば) に現れる。こいつ自身はホログラムみたいなもんだから、リスクも無くどこにでも現れることができるのか。
「おい! なんなんだコイツは。なんでいきなり戦わなくちゃいけないんだ!! 説明しろよ、説明!」
『そんなことを言ってる間に来ているよ』
「え?」
鞭のように“気功”で伸びた蹴りで足払いを喰らう。「痛っ!」と叫びながら頭に血が上ってきた。
気功は普通の攻撃と違い、体の外ではなく内側に直接ダメージがくる。
こんなの何発も喰らってられない。
そう思って俺は剣に炎を宿し、魔法剣で迎え撃とうとした。ハヌマーンは空中に飛び上がったので俺の攻撃を避けることはできないはずだ。
俺は猿の着地点に入り、落ちてくるのを剣を構えて待つ。
いくらなんでも空は飛べないだろう。そう思っていると――
ハヌマーンは空中を蹴って移動した。更に空中を蹴って自由自在に飛び回り、高速で移動する。空中を蹴る度に火花のような光がほとばしった。
あれも“気功”の力なのか!? 俺が驚愕していると猛スピードで放たれた蹴りが持っていた剣を弾き飛ばす。
四方八方からの攻撃に防戦一方になってくる。俺が全身に纏った“気功”では、ハヌマーンの“気功”の強度に通用しない。
レベルが4000もない相手だと思っていたが……。
『レベルだけで相手を測るのは良くないよ。どんな技術や能力を持っているか分からないからね』
確かにその通りだ。少し自分が強くなったと油断していたのかもしれない。俺は自分の右手に“気”を集中した。
キマイラの神速にも近い速度で、ハヌマーンの拳が目前に迫る。
“神眼”で攻撃をギリギリ 躱(かわ) し、右手に集めた“気”の 塊(かたまり) をハヌマーンの腹に叩き込んだ。体はくの字に曲がり、口から大量の血を噴き出す。
そのまま腹にめり込んだ 拳(こぶし) を振り抜くと、ハヌマーンは壁まで飛ばされ岩肌に叩きつけられた。
ぶつかった岩肌は粉々に砕け、ハヌマーンはピクリとも動かなくなる。
「ハア……結構苦労したな」
俺が倒した“統率者”を見ていると、ラーゼスは楽しげに話しかけてきた。
『やはり強いね。君が倒したのは“神託の獣”と言われる魔物だ』
「“神託の獣”?」
『特殊な力を持つ生き物で、我々は彼らを“神の代弁者”として古くから 珍重(ちんちょう) しているんだよ』
「珍重って……人類の敵にしか見えないが」
『確かに、今は魔神たちによって利用される存在になってしまったからね』
どこか悲しげに語るラーゼスは俺に向かって笑いかける。
『もっともハヌマーンは本当の“神託の獣”ではなく、私が実験によって作ったものだがね』
「作った?」
『フフフ……その話は、また後にしようか。テイムはしないのかい?』
俺は 促(うなが) されるようにハヌマーンをテイムする。リストボードを確認すると――
【テイム】
神格種 ヴィシュヌ SSS
神竜 ヒュドラ SSS
岩の巨人 タイタン SSS
炎竜王 シヴァ SS
羅刹種 ラーヴァナ SS
獣人種 ハヌマーン S
妖精種 スプリガン AAA
魔獣種 キマイラ AAA
精霊種 不死鳥 AA
金属の巨人 ギガス A
竜種 飛竜 B
金属の巨人(中位) B
問題なく表示されていた。
『さあ、次の階へ行こう。こっちだよ』
「おっ……おい、ちょっと待て」
俺は慌ててラーゼスの後についていった。