作品タイトル不明
第129話 不退の迷宮
洞窟の中へ入ると、そこは意外に明るく、岩肌や石柱などが“結晶”のような物でできていた。
俺は 出入(ではい) りが自由にできるか確認するため、入口に向かう。
「やっぱり出られないな」
入口には見えない壁があるかのように外に出ることができない。瞬間移動しようと思い、亜空間を開くため手をかざす。
「これもダメか……」
空間にはなんの変化もない。脱出不可能なのか?
地面に落ちている小石を投げて時間を止めてみる。小石は止まることなく放物線を描いて、そのまま下に落ちた。
どうやら“時空間操作”の能力は使えないみたいだ。
万が一に備えて剣や道具は、あらかじめ装備していたので特に不都合はない。
ここに来る数日前――
◇◇◇◇◇◇◇◇
「先生、これ僕たちから」
そう言ってノアは少し大きめの箱を渡してきた。何かと思って中を確認すると、そこには防具一式が入っている。
「これは……」
「先生、いつも普段着で戦ってるイメージがあるからね。少しでも役に立てばと思って」
それは防具として質の高そうな物ばかりだった。
「用意するの大変だったんじゃないのか?」
「製作は僕と双子のガブリエルとラファエル、素材集めはみんなに協力してもらったんだ。大変ではあったけど、今作れる最高の物ができたと思うよ」
ノアは自信を持って俺に装備を渡してくれる。その気持ちだけでも嬉しかったが装備を鑑定してみると、想像以上に凄い物だった。
【星鉄の胸当て】 SSR
物理耐性(上昇)
魔法耐性(上昇)
自己修復機能
・上昇ランクは使用者の魔力量によって決まる。
【ヘラクレスの手甲】SSR
筋力増強(上昇)
物理耐性(上昇)
自己修復機能
・上昇ランクは使用者の魔力量によって決まる。
【風神のレギンス】 SR
俊敏増強(上昇・大)
物理耐性(上昇・中)
魔法耐性(上昇・中)
【太陽のマント】 SR
物理耐性(上昇・中)
魔法耐性(上昇・中)
寒熱耐性(上昇・中)
精神耐性(上昇・中)
どれも実戦に使うのに充分な性能だ。特に魔力量によって防御力が向上する物は俺の特性に合わせてくれたんだろう。
「それとコレ……」
「これは?」
ノアが見せてくれたのは黒い革の手袋だった。
「魔道図書の最終ページに書かれてた魔道具なんだ。材料が足りなかったせいで完成しなくて…もし材料になる“輝石”を見つけることができたら使ってみて」
「ああ、ありがとう。もらっていくよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
今、装備している物は全て子供たちにもらったものだ。そして腰には黒騎士の剣、エクスカリバーがある。
たとえ“時空間操作”が使えなくても対処することは可能だろう。
俺は洞窟を慎重に進みながら、他の能力は使えるかどうかも確認していく。どうやら召喚魔法も使えないようだ。
召喚魔法も別空間から、魔物や魔物の“魔核”を取り出さなきゃいけないからな……“時間”と“空間”に関係のある能力は使えないってことか?
洞窟の奥を目指して道なりに進む。かなりの距離を歩いたが目に入ってくるのは見る角度によって七色に光る洞窟の結晶だけだ。
しばらくすると突き当りの奥まった場所に、地下に向かう階段があった。
「地下か……どれぐらい深いんだろう?」
『気になるかい』
声に驚いて振り返ると男が立っている。まったく気配を感じなかった。
男は白いローブと眼鏡を掛けていたが、どちらも見慣れないデザインだ。明らかに文化の違いを感じる。
俺は慎重に距離を取り、鑑定を行使する。
しかし何も鑑定できない。
この空間では鑑定も使えないのか? それともこの男だから鑑定できないだけなのか? 俺が男の出現に戸惑っていると……。
『そんなに警戒しなくていいよ。私は君の敵じゃない』
その男は長い 白髪(はくはつ) だったが老人という見た目ではない…… 白髪(はくはつ) も年を取ってなったというよりも、元々そういう色だと言われた方が自然に感じる。
男は笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。
敵かどうかは分からないが油断するわけにはいかない。相手を足止めするために、俺は能力を発動する。
「 重力圧殺(グラビティプレス) !」
手加減して10倍程度の重力の負荷をかける。並の人間なら一歩も動けないはず……そう思っていると。
男は何事も無かったかのように歩いてきた。効いてないのか!?
『能力をうまく使っているようだね。嬉しいよ』
この声は念話で頭に直接送られてくる……。だとすればコイツ自身も異能者ってことだ。
「止まれ!」
俺は剣を抜いて男を“威圧”した。俺が“威圧”の能力を発動させれば常人なら泡を吹いて気絶してもおかしくない。
だが、男はケロっとした顔で特に気にしている様子もなかった。
「お前は誰だ!? ここで何をしてる!」
男は、まるで友人に語り掛けるような 穏和(おんわ) な声で話しかけてくる。
『待っていたんだよ。君が来るのを』
「俺を!?」
『そうだ。君を こ(・) こ(・) に(・) 来(・) さ(・) せ(・) た(・) のは私だからね』
「どういう意味だ?」
『長い時間は掛かったけど、目的を達することができた』
男の言うことが理解できなかった。俺が困惑した表情をしていると……。
『ああ……そうだね。分かりにくい言い方だった。そうだな……君にもっとも分かりやすく伝えるとしたら……』
男は指をアゴに当て、考えるような仕草をする。
『君が引いていた“ガチャ”は、私が作ったものだ……そう言えば理解してもらえるかな?』
「何!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
………遥か雲の上、巨大な黒い戦艦が浮かんでいる。その中で 跪(ひざまず) く黒い法衣を着た老齢な男性が、暗がりに座る男に話しかけていた。
「すでに4名の“神将”が先陣として現地に入りました。すぐにでも使命を果たし 吉報(きっぽう) が届くと思われます」
「…………ヒュブリスが殺されたそうだな」
「は……はい、地球にいた一人の異能者に敗れたと……」
「私のお気に入りの人形だったんだが…………まあいい、その異能者は今どこにいる?」
「それが……報告では“次元の迷宮”に入ったと聞いております」
「“次元の迷宮”?」
暗がりに座る男は何かを思い出すかのように、含み笑いを浮かべた。
「ああ、ヒュブリスと一緒にいた【錬金術師】が逃げ込んだ場所か」
「理由は分かりませんが一度入ったら出ることができない場所ですので、気に掛けることもないかと」
「そうか、その異能者とは一度会ってみたかったが…………そうは思わんか? オーケアノス」
「ハッ…… 仰(おお) せのままに」
老齢な男は立ち上がり、部屋の外へ出る。
小さな 錫杖(しゃくじょう) のような物を鳴らすと、二名の騎士が 馳(は) せ参じた。
「“王”の 勅命(ちょくめい) である。“次元の迷宮”に向かい、ヒュブリスを倒した地球の異能者を捕らえてこい。生きていればどんな状態でもかまわん」
二人の騎士は 兜(かぶと) を外し、オーケアノスの前で 跪(ひざまず) いた。一人は金髪の男性で屈強な体格をしている。
一人は背の高い女性で、黒い髪の合間から妖艶な美貌を覗かせていた。
「お任せください。オーケアノス様」
神将ハイペリオン
魔神種 Lv3776
「“次元の迷宮”……面白そうね」
神将テミス
魔神種 Lv4011