作品タイトル不明
第118話 駆け巡る衝撃
世界に衝撃のニュースが流れる。「五条将門、死亡」その情報を信じられない人は多かった。五条将門は 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) と並んで、世界の人々の希望だったからだ。
だが、それが嘘ではないことはすぐに分かる。
通信状態が悪くなり、電話やインターネット、テレビなどが使えなくなった。“厄災の日”を思い出す人たちの前に再び化物たちが姿を現す。
以前と同じように恐怖を撒き散らす化物たち……その中に、“統率者”らしき怪物がいることも確認される。
今まで被害が少なかった地域でも魔物が 跋扈(ばっこ) し、人々は絶望した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
【中国 レオ・ガルシア――】
俺たちはタイのバンコクから、なんとか中国まで逃れることができた。
本来であれば、空路でヨーロッパの安全な国まで行きたいところだったが、通信状況が悪くなったことと、空にも化物が出現している可能性があったため飛行機での長距離移動が危険と判断された。
そのため行ける範囲で最善と考えたのが中国だ。中国には強力な異能者である“朱雀”の団員が五十人以上いる。
今、向かっているのは“朱雀”の本拠地がある中国の成都市だ。空港に降り立ち、何台かの車に別れて乗車し移動していた。
「ゴジョーが死んだなんて……悪夢にしか思えない」
この車には、俺とグレス、フレイヤが乗っている。フレイヤは唯一、黒騎士と戦ったことがあったため、何か腑に落ちない表情をしていた。
「黒騎士は五条に勝てる実力とは思えないと言ってたな、フレイヤ。五条の動きがいつもより悪かった気がするが……どう思う」
「私が戦った時より、黒騎士は強かったと思う。でも五条に勝てるとは思わないよ……何かがおかしい気がした」
やはりフレイヤも違和感があったか、だとすると――
「グレス、鑑定はしただろ? どうだった」
「それが……」
グレスは言い淀んだ。どうしたのかと思っていると……。
「鑑定できなかったんだ……すまない旦那」
「鑑定できない!? そんなことがあるのか?」
馬鹿な、グレスは“魔眼”という固有スキルを持っている。いかなる者も鑑定できるスキルなのに……今までこんなことは一度もなかった。
「まったく見えなかったのか?」
「いや、名前はヒュブリス、勇者でレベルは99だった。通常の鑑定の能力は問題なく発動してたが、詳細が見えなかったんだ」
「“魔眼”の力だけが、発動できなかったってことか」
どういうことだ……まさか――
「固有スキルを封じるスキル……!?」
「旦那! それだ。それなら五条が調子悪そうだったのも説明が付く、あいつは信じられないほど固有スキルを持ってた」
「グレス以外、私たちは固有スキルを持っていない。ゴジョーにとっては“天敵”みたいな相手だったんだね……やっぱり私たちが援護してれば……」
「それは無理だフレイヤ、あの二人の速さにはとても付いていけなかった。ヘタをすれば余計、五条の足を引っ張っていただろう」
今更、後悔しても意味が無い。これから何ができるかが重要なんだ。
「黒騎士について分かったことは二つだな」
「二つ? 固有スキルを封じる以外に何が分かったの?」
「職業が勇者なら“光の加護”のスキルを持っているはずだ。フレイヤが戦った時は夜だった。五条が戦った日中の方が強かったのは、それが理由だろう」
黒騎士と戦うなら夜だ。俺の“光の加護”も使えなくなるが、あいつの力を減少させる方が重要だからな………。
【中国・四川省 成都市】
“朱雀”の本拠地に着いた俺たちに、最悪の情報がもたらされた。
「また世界中に魔物が現れ出した?」
「ええ、情報が流れてすぐに通信障害が起こったんで確認は取れないんですが、イギリスやアメリカなど多数の国で魔物が激増したそうです」
答えてくれたのは“朱雀”の副団長、 劉(りゅう) さんだ。
「イギリスということは、またドラゴンが……?」
「大量に現れたと聞いています」
俺を始め、カルロやアンナも顔が曇った。五条に保護を頼まれた子供たちをイギリス政府の機関に預けてしまったからだ。
イギリスのドラゴンが激減していたため、甘く見ていた。
「子供たちを、よりによって最も危険度が高いイギリスに行かせてしまうなんて…………完全に俺のミスだ」
俺は拳を握りしめ、激しく後悔する。
「君のせいじゃないよ。レオ、こんな状況になるなんて誰も思っていなかった。俺もその一人だからね」
カルロはそう言っているが、イギリス行きを指示したのは俺だ。責任が俺にあるのは間違いない。
「今から救出に向かうのは難しいよ。イギリス政府を信用するしかない」
確かに行きたくても、現状イギリスまで行く手段がない。何もできないことがただただ歯がゆく、何より五条に申し訳なかった。
あの惨劇から三日がたつ。俺たち 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) は“朱雀”の本拠地で待機する日々が続いていた。
「ダメだ旦那、やっぱり連絡を取るのは無理だ」
「そうか……」
イギリス政府と連絡を取りたかったが、“魔素”が増えている影響か通信状況がより悪化している。
スイスにいる 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) の後方支援を担当するメンバーとも通信が断絶されているせいで、世界の状況がまったく分からない。
「王たちは、まだ戻ってこないのか?」
「ほぼ全員で捜索に行ってるけど、そうとう苦労してるみたいだね」
この中国でも大量の魔獣が 溢(あふ) れ出し、犠牲者が大勢でている。“朱雀”の団員は総力をあげて中国の“統率者”の捜索にあたっていた。
だが、カルロが言うようにかなり苦戦しているようだ。
中国政府からは“統率者”の討伐に関して協力要請を受けている。無論、要請などされなくても王たちと協力するつもりだが……。
「王たちが“統率者”を見つけ次第、俺たちも出る。準備だけは 怠(おこた) るな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
“朱雀”を三班に分け、魔素の強い所を中心に捜索しているが“統率者”を見つけることができない。
以前は、五条がいたから討伐に成功することができた。
もし、今回もあの時と同じぐらい“統率者”が強かったら…………そう考えると、絶望的な気分になる。
「王、ここは一旦戻ろう。ここには居ないのかもしれない」
劉の言葉に気が重くなる。遠方に捜索に出た二班とは直接連絡が取れないため、もし“統率者”が見つかれば本部の方に、召喚獣を使って連絡を入れることになっている。
私たちは“朱雀”の本部に戻ることにした。
捜索から帰ろうとする我々に、冷たい雨が降る。
「五条……お前は本当に死んでしまったのか……?」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「旦那! 王たちが帰ってきたぜ」
“朱雀”の団員、数十人を引き連れて王が帰ってきた。施設の入り口で荷物を降ろしている王に声を掛ける。
「どうだった?」
王は首を横に振る。
「団員と一緒に必死に探しているが、手掛かりも無い。こっちには何か連絡はあったか?」
「いや、こちらにも何の情報も入ってきてない」
「そうか……」
王は疲れ切ったように 項垂(うなだ) れた。
「王、こんな時になんだが、サルマンが“朱雀”に貸し出した武器や防具はどれぐらいあるんだ?」
座り込んだ王に代わって、副団長の劉さんが答えてくれる。
「二十人分の武器と防具がありますね。これのおかげで、かなり助かっています」
「二十人分か……」
「何かあるのか、レオ」
俺の問いかけに、疑問を持ったカルロが聞いてきた。
「仮に俺たちが中国の“統率者”を倒したとしても、それで問題が解決するわけじゃない。世界中で魔物が現れた原因は間違いなく、黒騎士が空にかかげた黒い宝石のせいだ」
「レオが見たっていう、空に昇った宝石のこと?」
「そうだ。あの宝石を破壊しなければ、この地獄は終わらないだろう」
その場にいた全員が暗い表情になる。
「俺たちは、もう一度バンコクへ行って黒騎士、そしてあの“統率者”と 対峙(たいじ) することになる。そのためには異能者と、異能者が使う武器が必要だ……だが……」
「没収されたサルマンの武器は8割が処分されたらしいし………圧倒的に数が足りないってことだね……」
カルロは唇を噛みながら、 苛立(いらだ) った表情を浮かべた。
「あのハンスの野郎が余計なことしたせいで、今になっても迷惑かけまくってるじゃねーか! どこにバックレたか知らないが、見つけたらぶん殴ってやる!!」
エリアスが珍しく感情的になっていた。それはそうだろう、俺も気持ちはまったく同じだからな。
施設の部屋に戻ろうとした時、憔悴しきった王が小さな声で呟く。
「レオ、五条は本当に死んだと思うか? 私は信じられない……」
こんな弱気になっている王を見るのは初めてだ。何か希望になることを言ってやりたいが、そんな甘いことを言ってられる状況じゃない。
「王……もし五条が生きてたら、世界がこんな被害を受けているのに放っておくだろうか? 五条の死は受け入れるしかない」
俺たちだけでやるしかない……俺たちだけで……。