作品タイトル不明
第119話 総力戦
【中国 レオ・ガルシア――】
“朱雀”の本拠地に来て四日目の朝、その知らせは唐突に 訪(おとず) れた。
少し大きめの 鴉(からす) のような召喚獣が連絡用の宿舎に飛び込んできたと、“朱雀”の団員が慌てた様子で報告しにきた。
「王さん! 見つけました。“統率者”です!!」
その場は一気に緊張に包まれる。
「間違いないのか?」
「“鑑定”した者によるとレベルの 桁(けた) が違うそうです」
王は確信が持てないようだったが、すぐに団員たちに討伐の準備をするように指示を出した。
「王、グレスならそいつが本当に“統率者”か正確に分かるはずだ」
「分かった」
“朱雀”の団員二十名と 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) 全員で、“統率者”の目撃情報があった四川省の山岳地帯へと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
レオたちと共に四川省の奥の山間に向かっている。車で5時間の距離だ。
中国の魔獣は山岳部や森林地帯から出現し、人が住む都心部へと向かってくる。
そういう意味では、山岳地帯と人が多くいる都心部の中間に我々“朱雀”の本部があるのは丁度良かった。
「王! フレイヤを先行させる。カルロ、頼む」
車の後部座席にいたカルロは、車内で 窮屈(きゅうくつ) そうに右手を上にかざす。
「いくよ、フレイヤ」
「うん、まかせて!」
「召喚――」
上空に光の魔法陣が展開し、その中から一体の飛竜が現れる。フレイヤは車の窓から屋根に移り、滑空してきた飛竜に飛び乗った。
カルロは 更(さら) に魔法陣を開く。
その中から、白い鳥を召喚したかと思うと、その鳥はフレイヤの乗る飛竜と共に飛び去ってしまった。
「これで現地の状況を報告してくれるだろう」
レオはこの戦いに勝つことに自信があるように見える。でも私は違う……。
かつて中国での“統率者”と戦った記憶が 蘇(よみがえ) るからだ。あの五条でさえ苦戦した神速の敵。
私たちだけで勝つことができるだろうか?
不安を抱きながら車は目的地へと近づいていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
上空から地上を見て回る。“統率者”の目撃情報があったのは、この辺りのはずだけど……その時、森林地帯に明らかな異変があった。
土煙を上げて移動する群れのようなものがある。
「リント、もっと近づいて!」
飛竜には名前を付けている。 聖域の騎士団(サンクチュアリナイツ) を辞めて名前を呼ぶ機会がなかなか無かったけど、またパートナーになれて嬉しかった。
リントは降下して土煙を上げる群れに近づいていく――
「あれは……狼?」
一体の大きな狼を先頭に、数百頭の狼が群れをなして移動している。あれが“統率者”なのかな? 王は獅子のような魔物だと言ってたけど……。
『見つけたの?』
私のすぐ横を飛ぶ白い鳥から声が聞こえてきた。カルロと連絡を取るための召喚獣だ。
「見つけたよ。みんなが来る方角に向かっているみたい。私が誘導してそっちに連れていくから、待ち伏せして戦う準備をお願い」
『分かった。全員に伝えるよ』
さてと、あとは私 た(・) ち(・) がミスらなきゃ戦いは有利に進めることができるはずだからね。
「行くよ! リント」
リントは私の声に応じて、群れの先頭にいる狼の“統率者”に向かって滑空していく。
◇◇◇◇◇◇◇◇
山間の 開(ひら) けた場所で、俺たちは陣取った。フレイヤが見つけた“統率者”を連れてきてくれれば、適切な配置に付いているこちらに 分(ぶ) がある。
少し時間があると思っていたが、そんな甘い話じゃなかった。
「旦那! もう来てるぞ。予想以上の速さだ」
空にはフレイヤの姿も見える。なるほど……これは厄介な相手になるかもしれないな。俺がそう思っていると王が団員に指示を出す。
「全員、配置に付いて準備しろ! 絶対に油断するなよ!!」
何百頭もいる狼の群れだが、重要なのは先頭にいる“統率者”だけだ。俺はルカに合図を送る。
ルカはそれに応え魔法の矢で先頭にいる狼を狙う。
放たれた矢は真っ直ぐに“統率者”に向かって飛んでいき、 捉(とら) えたかと思った瞬間――
狼は紙一重でかわし、こちらに突っ込んでくる。
「 光源の流星(ラディウスミーティア) !!」
フレイヤが放った光の矢は数十頭の狼を貫いたが、残りの狼にはかわされてしまった。光速の攻撃をかわすなんて……乱戦は覚悟するしかないか。
襲いかかってくる狼の“統率者”を風の斬撃で払いのける。
飛竜から飛び降りたフレイヤと合流し、狼の“統率者”と向かい合った。
作戦通り俺と王、フレイヤの三人で狼の“統率者”の相手をする。残りの数百頭の狼は“朱雀”の団員やカルロたちが相手をすることになるが……。
「グレス! どうだ」
「ああ、間違いない旦那! レベルは2962。“統率者”だ。餓狼種“フェンリル”、とにかく異常なくらい速さに特化してる」
狼の“統率者”であるフェンリルは、ゆっくりと足を踏み出し歩き始める。近づいてきたと思った瞬間―― 俺の真横にいた。
「くっ!」
俺が下から剣で切り上げると、すでにそこにはいなかった。
王の近くに行ったかと思うと王の攻撃を簡単にかわし背中を爪で切りつけ、気づいたら離れた場所を悠々と歩いている。
「こんのーーっ!」
フレイヤは光の歩法で一気に距離を詰めて切りかかったが、やはり紙一重でかわされてしまう。
いくら速くてもフレイヤの光速の斬撃を見てから 躱(かわ) せるわけがない。奴はフレイヤが動く前から感覚で、すでに躱す体勢に入ってるんだ。
「王、思ったよりしんどいな。五条はあんなのを倒したのか?」
「五条が倒した“統率者”はもっと速かった。存在を認識することさえできなかったからな……それに比べれば、まだマシな敵だよ」
五条はそんなのを倒してたのか………改めて、五条のデタラメな強さを確認できるな。
カルロたちは狼の群れを相手にしてるが、数が多すぎる。狼の魔物は攻撃力や生命力は大したことはないようだが、速さは異常だ。
“朱雀”の団員も攻撃がなかなか当たらず、生傷だけが増えていってる。
このままじゃマズイぞ。唯一フェンリルのスピードに付いていけるのがフレイヤだが、息があがり始めている。
フェンリルは瞬時に間合いを詰め、襲い掛かってきた。俺は剣に魔力を込め、風の斬撃を複数放つ。
一発がフェンリルに当たり、右前足を切り飛ばした。
「よしっ! これで素早くは動けないだろう」
そう考えたがフェンリルは、 徐(おもむろ) に死んだ狼の死体に近づいた。何をするのかと思うと、狼の死体は肉片へと変わりフェンリルの右足に吸収されていく。
ものの数秒で切断された右足は元通りになった。
「おいおい嘘だろ……」
絶望的な光景だ。あんな回復手段を持っているのか………こいつを倒さなければ劣勢の状況を 覆(くつがえ) すことはできない。
もはや撤退することも困難だ。どうすれば………。
フレイヤが後ろに下がった時、死角から一匹の狼が飛び出してフレイヤの右足に噛みついた。
完全に意表を突かれた形になり、一瞬ひるんだフレイヤに向かってフェンリルが襲い掛かる。
「くそっ!」
俺はとっさにフレイヤを 庇(かば) った。
フェンリルの爪が俺の左肩を深々と 抉(えぐ) る。考えなしに突っ込んでしまったため、予想以上に深手を負ってしまう。
フレイヤは自分の足に噛みついていた狼を剣で切り払い、俺のもとへと駆け寄る。
「大丈夫、レオ!?」
「ああ……なんとかな。だが……」
見回すと狼に囲まれている。更に多くの狼が、辺り一帯から来たようだ。
王や他の“朱雀”の団員も疲弊している。
中国の魔獣をなめていた………このままじゃじり貧だ。俺はほとんど動かなくなった左手を見る。
回復魔法を使うことはできるが、あまり得意ではないからな……この傷を治すには時間が掛かるだろう。
フレイヤも、あの負傷した足では、フェンリルの攻撃はかわせない。
王は複数の狼に襲われていて身動きが取れない状態だ。フェンリルはジリジリと距離を詰めてくる。
俺は剣を握りしめ相手の攻撃に備えた。
奴が襲ってくる瞬間、カウンターで一撃を与える。そう思って待ち構えていると、フェンリルは真っ直ぐには攻撃してこず、フェイントを入れるように横に飛び側面から襲い掛かってきた。
俺は動きに付いていけず、致命傷を覚悟する。
「ガッ!?」
フェンリルは何かに気づいたように、急に後ろに飛びのいた。なんだ?………そう思っていると、フェンリルの足元にポタポタと血が落ちていることに気づく。
負傷している? 何故だ。俺たちは何もしてないぞ。
そう思った瞬間――
爆発音が響く。何が起きたのかと辺りを見回すと、有利に戦いを展開していたはずの狼たちが次々に爆発して吹っ飛んでいく。
「ギャンッ!」
「グガァ!?」
何匹もの狼が悲鳴を上げ、のた打ち回り最後には絶命してしまった。何が起きているのか、まったく分からないうちに形勢は逆転する。
「どうしたんだ?」
王が 訝(いぶか) しげに聞いてきた。だが俺にも分からない………何故、と思っているとき気配を感じて空を見上げた。
上空には五体の飛竜が輪を描くように飛んでいる。
「僕の言った通りだろ。バンコクから行くとしたら、ここしかないって」
「……うん、本当だった……すごいね……」
目線を移すとフェンリルの前に、二人の子供が立っていた。
一人は銀色の拳銃を二丁持つ少年だ。
もう一人は自分の身長ほどもある杖を持った女の子。何故こんな所に子供がいるのか、訳が分からなかった。
「僕が誘導するから、後は頼むよエミリー」
ノア・シュミット
賢者 Lv99
【職業スキル】
魔道図書 Rank SSS 称号“知を支配する者”
「……うん、がんばるよ……ノア」
エミリー・シモン
魔王 Lv99
【職業スキル】
闇の加護 Rank SSS 称号“闇へ誘う者”