軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十五話 Side祐太 米崎 動機究明

Side祐太

氷狼王グレイシスに今回の侵攻作戦に参加してほしいと頼み、承諾してもらって、任地に向かってもらった。その直後、極寒の地ノルディアで俺は、作戦開始の合図をする前に考えるべきことを考えるため、雪原に座り込んでいた。

紅麗様がいなくなり、スキルも魔法も使い放題となり、快適な温度で寒いと思うこともなく銀色にきらめく雪景色の上で考える。景色は綺麗でも俺はかなり悩んでいた。今回の作戦に対する胸騒ぎが大きかった。

「米崎がこの世界の昔にいた」

【焔竜・華】のストーリーにあった事実。この事実は重い。聞かなかったことにしたいが、そうすれば間違いなく作戦は失敗する。胸中は不安でいっぱいだ。今までは、どんなことをしても勝つための道筋がちゃんと見えていた。

結果としてうまくいかず、負けそうになったこともある。それでも考え自体は間違っていなかったと思えた。それなのに今回は米崎が関わってる。そしてその米崎は今の米崎じゃない。おそらくかなり未来の米崎だ。

その未来の米崎が、華のストーリーに存在した過去にいると、俺は推察していた。今の米崎が、俺を裏切ってるとはどうしても思えなかった。全員の準備は着々と進んでいる。このまま行けば予定通りの期日に作戦は開始できる。

でも開始すればもう止まれなくなる。

「やるべきと思いながらやってないことは、あと2つなんだよな」

ここまで順調に動いていて、それでも、まだしていないことが二つある。2つはかなり実行に悩む2つで、やるべきかやらないべきか、自分の中に問い続けていた。でも、

「やらないなんてことが許されるわけないよな」

俺はそう呟くと、悩んだ末に米崎に連絡を入れた。

《米崎、俺は今から伊万里に【災禍の手紙】を出して、ローレライの調査を千代女様に頼もうと思う。お前はどう思う?》

俺は疑った声が出ないように気をつけた。

《君はいつも一番効果的だと思うことしか最終的には選ばない。僕はその方針に反対することはない。思うままにやるべきだよ》

そんな答えが返ってきた。そう言われて俺は随分と悩んだ。やはり米崎の言葉は俺にしっかりとした道筋をつけてる。今の米崎が裏切ってる可能性はない。いや、むしろ、

『それが六条君の最後の願いなら仕方ない』

俺の願いを守ろうとしている可能性が高い。

だとすると未来で何かが起きる。その何かを知らなければいけない。知っている可能性のある人物は、セラス、ローレライ、伊万里の誰かだ。セラスは強すぎる。レベル1500以上のやつが、どれぐらい強いのか?

俺には想像がつかなすぎて調査対象にはできない。調べるならローレライか伊万里、このどちらかしかいない。そして、ラフォーネに聞いてみたところ、セラス、ローレライ、伊万里はいつも同じ場所にいるらしい。

「そうだな。思った通りにやるか」

雪原で考え込んで座り込んでいた俺は顔を上げた。俺自身は調査になんて出られない。そんなことをしている暇は残念ながらない。だからそれができる人間に頼む。俺は、千代さんに【意思疎通】を入れた。

《千代さん》

《はいはい何ですか?》

俺に連絡されて嬉しくて仕方がないという感情が、千代さんから伝わってくる。

《千代さん。今、とても胸騒ぎがしてるんだ。多分このまま進んでも俺は失敗する》

《祐太さん、偶然ですね。私もなんだか妙だなとは思ってましたよ》

千代さんは俺の言いたいことがわかってると思う。それでも平和に話していた。この人はいつも必要だと思えば“殺してきた人”だ。エヴィーの時のようにそれを止める人はいない。

《これはきっと千代さん意外に頼んでもうまくいかない》

《よかった。何も頼まれなかったらどうしようかと思っていたところです。さすが私の選んだ祐太さんです》

千代さんは俺が感情に流されず、理性的に選択したことが嬉しいようだ。

《千代さん。【天壌無窮の神域】に行ってローレライと“伊万里”が何を考えているのか調べてきてほしい》

《では帝王ロガンのところは抜けますよ?》

《構わない。代わりはバルガフレアとグレイシスがしてくれる。だから頼む》

千代さんの快い返事があった。今回の件に関して余裕など何もなく、最も良いと思えることをするしかない。とりあえずこれで一つ目は終わりだ。後は千代さんの結果を待つだけだ。

「最後は」

【災禍の手紙】がまだ手元にあった。誰に出すべきなのか悩んだままだった。本当に伊万里に出すのか。レダの話では【災禍の手紙】はよほどのことがない限り、その用途を知っている人間はいないらしい。

だとすれば届いた手紙を読みたい。【災禍の手紙】がそばから離れないのなら、余計にその中身を確かめてどんな呪いがあるのか知りたいと思うのではないだろうか。だからきっと俺の出した手紙は伊万里に読まれる気がした。

「紅麗様のところには結局行かずか?」

何気なくレダが聞いてきた。『以前は俺と会っていなかった』という言葉を残してくれた紅麗様。その言葉だけで今回の件のヒントに随分となった。以前はということは以前があったということ。その意味するところは重要だ。

「紅麗様が言ってたことは守らなきゃいけない。まずレベル999に上がることが先決だ。それから紅麗様に会いに行くのがいいと思ってる。ダメもとで今会いに行くなんて失礼なことできる相手じゃないし」

「ふむ……。それもお前なりに考えた結論というわけか」

レダにそんなことを言われると、いい子ちゃんにしてないで紅麗様のところに先に会いに行くべきなのかと思える。しかし今会いに行っても、結果は全く一緒になってしまう。どう考えてもそれでいいとは思えない。

間違ってたら【明日の手紙】

これも正直あまり良い手だとは思っていない。ローレライがもしレベル1000を超えていたら、記憶の持ち帰りをされてしまうし、ましてやローレライが米崎なら、【明日の手紙】の対策なんて真っ先にしてるだろう。

「いつも追い詰められているな。だからこそ究極系というわけか」

「ちょっとだけダンジョンに好かれて、榊みたいにダンジョンを楽しみながら、探索したかったな」

「難儀な星の元に生まれたな。まあ見ている私としては楽しいがな」

「お前は変なこと考えないでくれよ」

「安心しろ。私はいつでも傍観者だ」

本当にそうなのか。レダほど疑わしいやつはいなかった。しかしレダにまで警戒心を向けるリソースはどこにもない。俺は意識を自分の本体に戻した。

「クミカ。俺は【災禍の手紙】を出す先を考えたよ」

今回は予想できないことが多い。おそらく未来に何かが起きるから、それで過去に干渉した存在がいるから今が見えにくい。そして俺はきっと普通ならしない選択を選ばなきゃいけない。きっと“以前”の俺はそうしていないだろうから。

「はい。祐太様。私が精霊に言って、必ず秘密裏に届けさせます。どのような宛先でもちゃんと届けさせていただきます」

「じゃあ【災禍の手紙】は“伊万里”に届けてくれ」

レダが俺の言葉を聞いて喜んだ気がして腹立たしかった。

「そ、その宛先で、いいのですか?」

クミカが聞いてくる。それでも俺は宛先を変える気はなかった。ちゃんと相手が死なないようにも気をつける。相手は俺からこれが届けばショックを受けるかもしれない。それでも俺は余裕を持っている場合ではなかった。

だから【災禍の手紙】は最も良いと思えるタイミングで伊万里に届けてもらえるように頼んだ。

Side米崎

聖勇国には奇妙なことが多かった。そもそも六条君達がここに来た時点ですでに聖“羅”国という世界統一を成し遂げた国が存在していたのだという。他の国は全てその国の属国だった。しかし、属国という位置づけはおかしい。

通常は国名を名乗らず、州か県か領と呼ばれる。世界が統一されれば支配された国は、例外なく国としての地位を剥奪される。そもそも世界は生まれた時から探索者が入らないと、“壊れるように設計”されている。

世界が生まれ壊れかけていること自体が探索者のクエストの一部だ。つまりダンジョンの中に起きる全てのことは探索者がいて生まれ、世界は探索者のために存在している。地球のように地球が存在するから人間がいるわけじゃない。

ダンジョンの中の世界はすべからく探索者が先なのだ。そして統一された世界は大抵の場合、支配した探索者を神として成長していく。

「やはり六条君の世界だから特殊なのか……」

「博士、また調べておられるのですか?」

ヒノエが緑茶に砂糖とミルクを入れて出してくれた。探索者になる前は、あまりに糖分ばかりを摂取することが好きな僕の食生活は、よく人から咎められた。

『うあー、そんなに砂糖ばっかり入れてて病気になっても知らないわよ』

『他の栄養はサプリから摂取してるから大丈夫』

『秀樹、その糖尿病まっしぐらの言葉、本気で言ってる?』

咎めてくる人は決まっていて、いつも研究仲間の特定の女性だった。あまり人と関わることが好きじゃない僕に、無理やりにでも関わってこようとする。かなり変わった趣味のある女性だった。その頃の僕は人に好意などもたなかった。

生物学的な人には興味があった。それが行き過ぎていたのだろう。研究対象としての興味以外を人に抱くことができなかった。だから僕の心配なんて無駄なことをする女性の感情が、理解できなかった。

そう。

だからあんなに簡単にあの日僕は逃げ出したのだろう。あの場で自分の命を優先させることが何よりも大事だと思った。他の命のことなど興味がなかった。それなのにあの日からあの女性の声が消えない。僕は……。

『秀樹。女の体を始めて経験した気分はどう? やっぱり女を支配した気分になる?』

『特に感想はないな。もっと気持ちいいから人が猿のようになるのかと思っていたよ』

『ふふ、なんだか、そういうこと言うと思った』

「博士?」

僕がしばらく動かずにいることにヒノエが僕の顔を覗き込んでいた。どうしてだろう。ヒノエの顔は彼女ととても似ている。あまりに似ているのが嫌で何度か造り直したが、それでもどうしても似てしまう。

僕たちが造り出すからくりは、造形を手で掘るわけじゃない。最初から魔法で生み出す。それだけに余計に造り手の心が反映されてしまう。僕はヒノエの頬に触れた。人ではない証拠として冷たい頬をしていた。

「何かご用でしょうか?」

「ヒノエ。僕は今度こそね。どんなことからも逃げたくないんだよ」

ヒノエにこんなことを話しても仕方がないのに、懺悔を口にする。

「逃げる……ですか。何か悩みを抱えられておられるのはずっと以前から感じておりました。ヒノエでよろしければお話を聞かせていただきたいのですが」

「……」

ヒノエに話せば気持ちが楽になる。でも僕は自分の気持ちを軽くしたいとは考えない。このままどこまでもこの思いが心の中で、熟成され、たとえ何があっても消えることなく持ち続けるのだ。

「ヒノエ、聖勇国の奇妙な点はやはり目につくね」

完全に違う話題とした。

「他の方々は気づいておられないのでしょうか?」

ヒノエは僕の話に合わせた。ヒノエの顔は相変わらず目の前にあったので、追い払うように手を振ると、ヒノエが離れた。

「気づいているだろうし、考えてもいるだろう。ただ“僕が一番考える”というだけのことだ」

パーティーの中にはそれぞれの役割がある。六条パーティーで方針を決めるのは六条君。そこからさらに詳細に作戦を決めるのが僕。気になったことをとことん突き詰める。こればかりは性格だ。性分だから言われなくてもそうする。

理解できないことを調べるため、六条君のいない10年の間には玲香君に頼んで聖勇国の中に入れてもらい、聖勇国のあちこちを旅したこともある。世界の歴史の痕跡を調べるためだ。

その結果わかったことは、この世界の歴史は意外と古い。1万年近く昔からあるようだ。しかし世界の歴史の痕跡は消されていた。文献は僕が調べた限り千年前以前は存在しなかった。誰かがこの世界の歴史の痕跡を消している。

気づかれないように気をつけてはいたが、千年前にあったはずの最も栄えていた王朝。それがあると言われていた場所は、自然の野山に変化していた。掘り返してみてようやく遺跡となるものがいくつか見つかったのだ。

「昔を消したがる理由。昔に何かあったということだね」

「消している人間の目的は何なのでしょう?」

「この世界についての何かを隠したいんだろうね」

「何かとは?」

「僕の推測が正しいなら、この世界が壊れかけているという事実に気づくヒントが昔の文献にはたくさんあったんじゃないかな。それを隠すためにできるだけ今を生きる人たちが昔のことに触れないように気をつけてる。千年も情報が遮断されれば、例え超越者でもこの世界のことに疎くなる」

僕がこの世界を一番不可解に感じたことは、聖勇国の前には聖羅国が存在していて、世界は安定しているのにシルバーエリアに探索者が入ってきたこと。入る必要のない場所に、探索者が入ってきた。

そしてセラスは全ての強者を従えたのに世界を曖昧なまま放置して、セラスという絶対強者がいるのに、他の国も相当数存在し、世界はいびつなまま進んでいた。それをセラスが伊万里君にあっさり譲った。

「セラスはなぜそんなことをしたのでしょう?」

「考えられることはいくつかあるが最も大きな可能性としては、セラスには世界を統一する支配者たる資格がなかったんじゃないかと僕は思うんだよ」

「それはつまり、この世界においてセラスが一番強いのが嘘ということですか?」

「いいや、セラスは度々超越者たちに自分の力を誇示している。それは世界の記録の中にかなりの数、残っている。それは間違いない。ヒノエ、その場合、セラスは何者だと思う?」

「強いのに支配者の資格がないですか……」

ヒノエは分からないようだった。六条君ならきっと簡単に思いついたと思うが、知能とひらめきには相互関係があるようでない。どれほど知能指数が高い人間でも、誰も思いついたことのない発明を必ず成し遂げるわけではない。

また必ずしも発明家は知能指数が高いわけではない。頭がいいだけではどうにもならない部分がある。ヒノエの知能は六条君を超えているが、彼ならここまで言えばもう答えを導いていた。

そしてヒノエにとってはあまりにも身近すぎて余計に思いつかないのだ。

「あまり良くないね」

「期待に応えられず申し訳ございません」

「そっちはいいんだよ。ただ、僕が考えている通りの理由でセラスが、支配者として君臨しているようでしていないのだとしたら、僕としてはあまり考えたくない可能性が出てくる」

「それは?」

「セラスは人間ではない。という可能性だ」

「それは博士にとって都合が悪いのですか?」

「悪いと言い切るには語弊があるかもしれない。ただそこに僕がいるのなら、今僕たちがしていることは全て無駄になるかもしれない。その意味するところの事実が僕に理解できていない。これは良くない」

「……博士申し訳ありません。どういうことでしょうか?」

「つまりヒノエ、セラスはきっと人類に分類されるいくつかの種族じゃない。奴隷と言った類のものでもない。この線も結構考えたけど、奴隷はレベル500を超えた時点で、大八洲国でもどこの国でもその身分から解放される。想定されているセラスのレベルは1500以上。だから奴隷の線も消える。もし奴隷だったらかなり違った考え方もできたのだが、おそらくセラスは……」

「まさか……」

さすがにここまで言えば気づくか。

「からくり族……ですか?」

「正解。そして……」

僕が聖勇国を調べ始めてからセラスとローレライに、何か僕と似たものを感じた。それは調べれば調べるほど、強くなっていく。世界を旅するほどに気持ちが悪くなるほど、“僕ならきっとそうする”ということが増えていく。

「困ったね……」

「博士。私に何か手伝えることはありますか?」

「……どうやら僕はこれから何か大きなミスをするようなんだよね。いや、違うか。考えている通りだとするとそのミスの歴史はもうないことになるのか。いや、僕がもしも修復のために、いや、違う。それだと伊万里君のことの説明がつかない。さて、理解できないな。僕はどうして“六条君を殺したい”のだろう」

「は、博士……」

考えていることが口に出てしまった。ヒノエならば聞いていたところで大丈夫という思いだった。しかしヒノエはからくりなのに、顔から血の気が引いて青くなっている。あまりにも動揺して一歩二歩と後ろに下がった。

「失礼を承知で口にします。博士。それだけはいけません。私はそれだけは聞きたくありません。六条様は私を造ってくださることに多大なる貢献をしてくださっています。ですから、たとえ博士の命令でも六条様の殺害だけは聞きがたく、なんとか考え直していただくことはできないでしょうか?」

「ヒノエ。素晴らしい」

僕はこんな時なのに心から笑顔がこぼれた。

「マスターの心に逆らうことがちゃんとできている。しかもおよそ必要と思えない時に逆らっているわけではない。そのタイミング完璧だ。知能回路が人の心と言っていいほど順調だな。それでこそヒノエを生み出した僕の心も報われるというものだ」

「博士。あの、私のことはいいのですが、それよりも」

「ああ、今の話は僕の話じゃないんだよ。ただ調べれば調べるほど僕にたどり着くというだけのことなんだ」

「……博士。不出来な私をお許しください。もう少し分かるように噛み砕いて教えていただけないでしょうか?」

「……分かるように言いたくないから、わざと分からないように言ってるんだよ」

「そうなのですか? 私にはまだ理解できない人間心理というものがあるのですね」

ヒノエが考え込みだした。それにしても随分と厄介なことになっている。六条君を殺そうとしているのが、僕、もしくは僕に類する何かならば、どうあっても引けない事情があるはず。それに抗うことはおそらく相当困難だ。

「僕がこういう結論に導かれるということは、そろそろ六条君も僕の存在に気づいてるかな」

いけない。それはそれで彼がどうするのか楽しみにしている自分がいる。しかし、僕に気づいてなければ皇帝ホロスは今回の作戦に入れなかったはず。彼は仲間を死なせたくない思いが強いだけに、安全策を選んでいた。

通常の探索者ならかなり危険でも、彼なら皇帝ホロスを入れさえしなければ、無理なく第1次侵攻をこなしてしまったと思う。しかし六条君はそれでは遅いのだと気づいた。だからギアをもう1段上げた。

「この状況は……」

どこかに出口があるだろうか、おそらく予定通りに進まされている。このままたとえ六条君がレベル999になっても、問題は解決しない。こちらが敵の行動理由に気づけていないのが問題だ。その問題を何とかクリアしなければいけない。

「目の前のことも結構大変なのだけどね」

地轟獣メテオ、実を言えば結構早くに発見していた。僕の幽霊ゾンビを地の底まで潜らせて世界中を調べた。その結果かなり早く見つかった。それでも、考える時間が欲しくて連絡はかなり遅くした。

もう僕以外の準備は整っている。このまま進んでいいのか。考えながらもあまり引き伸ばして六条君のレベルが上がりきる前に、セラスが動き出すのはもっとまずい。僕は六条君にメテオを見つけた連絡を入れた。