軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十五話 個別全体会議

作戦会議は一旦解散してそれぞれ自分の部屋に帰ってもらった。玲香の領主館であり、玲香の部屋は実用性重視の現代風の部屋だが、客室などはこの世界に合わせてちゃんと華やかに飾り付けられている。

俺の部屋も昔ながらの造りになっていた。高い石の壁に囲まれた部屋は、職人がこだわった感のある装飾に彩られ、やたらと豪華な四柱式のベッドに腰掛けた。そしてパーティーメンバーとそれぞれに思考分割して、話し始めた。

《美鈴》

目を閉じ、心の中で呟く。美鈴に呼びかけると同時に、米崎、玲香、榊、ジャック、土岐、摩莉佳さん、マークさん、雷神様、千代さん、ラフォーネとも会話する。これで頭が混乱しないのだから、知能というステータスはありがたい。

今はもう5000を超えて、人間で言えば500人分の脳みそが1つにまとまっているというぐらいの意味になる。それだけの処理能力があって10や20人と話したぐらいで頭が混乱するわけもなかった。

《聞こえてるよ祐太。こうやって話すのも久しぶりだね》

明るい声で返ってきた。エヴィーのこととか色々気になるだろうが、その先を聞くのは怖いようで、深く聞いてこなかった。俺もそうだ。伊万里のことで精神的にいっぱいで、エヴィーのことからはまだ逃げてる。

自分の悪い癖だと思うが、なかなか直りそうにない。エヴィーもきっとこの10年で随分と変わってる。その変わってる部分を知ることが怖いのだ。

「聞いて傷つくぐらいなら知らない方がいい。知らなければ傷つきようがない。今となっては俺をここまで臆病にできる相手はいない。過去のトラウマ。昔のことなんてもうどうでもいいぐらいになれた。そのはずなんだけどな」

自分のつぶやきは誰にも聞かれなかった。ともかくベッドに腰掛けた体勢から、近くにある椅子に移動した。パーティーメンバー全員の命がかかっている話し合いだ。誰も死んでほしくない。だから気合を入れた。

コンコンとドアを叩く音がする。

「ご主人様。お飲み物をお持ちしました」

「どうぞ」

シャルティーと切江がドアを開いて、俺が好きなコーヒーとケーキを置いた。

「何かいたしましょうか?」

シャルティーのメイド服は胸の部分が開いていた。シャルティーは自分の唇に手を当てた。こういう時のシャルティーの"何か"には、エッチな項目も入っている。10年ぶりにもっとしたいと顔に書いてる。だがダメだと手を振る。

体と心で思考分割してエッチなことをするのは可能だが、そんなアホなことをする気はない。

「私がお舐めしているだけでもいいのですよ?」

スパンッと切江に頭を叩かれて、シャルティーは頭を抑えた。

「ご主人。シャルティーの馬鹿はともかく、用事がなければ本当にもう下がってるけど?」

「切江、他の部屋にも頼む」

そう言うと切江が一礼して、シャルティーを引っ張っていき下がっていった。シャルティーはもともと俺に【媚薬】を飲まされて仲間になっている。そのせいもあるのかもともとの性格なのか、女性陣の中で一番エッチが好きだ。

何気にその次にエッチ好きなのが美鈴だったりする。俺がいた時はそうだった。そんな美鈴との会話も続けていた。

《美鈴、まず聞いておくけど一人で大丈夫か?」

それでも美鈴は俺の部屋に来たりはしなかった。正直、美鈴には申し訳なく思っていた。弁財天との間に先に祐希丸と玉姫ができてしまった。会議終わればちゃんと美鈴と子作りをしなきゃいけない。そう考えて頭を振った。

シャルティーのせいでムラムラしてしまった思考を切り替える。

《一人で大丈夫って祐太。あのね、私、祐太より探索者としての経験10年多いんだよ。その上10歳年上のお姉さん。祐太に頼られることはあっても、心配されるなんて心外だな。こう見えてルビーモンスターとも何度も戦ってきてるんだから》

《そ、そうか……》

《そうよ。お姉さんにドンと任せてよ!》

《分かった。じゃあまず何ができるのか教えてくれるか?》

10年して美鈴も俺の知っていた美鈴ではなくなっている。10年ぶりに帰ってきたら初期メンの伊万里とエヴィーがいなくなっていた。自分の中でこの3人が一番心の支えだった。そのうちの2人がいない。美鈴だけは失いたくない。

《私は気配を消すのと【毘沙門天の弓槍】での一撃の威力。デバフとバフ。あと新しく出た虹装備【広目天の筆】というのがあるよ。書いた文字を2文字まで現実にできるの》

《へえ、なんか変わった武器だな》

《武器なのかな? どこにでも書ける不思議な筆でね。空気にでも文字が書けるんだよ。例えば空気に【竜巻】って書くと、竜巻が現れるの。威力はそこにこめたSP量で決まってね。全部注ぎ込むと、超巨大竜巻になる。まあ探索者には超巨大竜巻なんて効かないからやらないけどね》

イメージが俺の頭に送られてきて、映像が展開される。気配を消し、敵に近づいて、敵にデバフをかけ、自分にバフをかけ、【広目天の筆】で【毘沙門天の弓槍】の矢に【貫通】を書き一撃で仕留める。

俺のイメージに流れ込んできたのは、一人で超越者のドラゴンを殺した時の映像だった。

《美鈴、この戦い方だと気配を読むことが苦手な相手の方がいいな?》

その映像を見てこれができるのなら、確かに大丈夫だと思えた。というより俺より強いんだと思えた。やはり10年の差は大きい。

《まあそれはそうしてくれると助かるかも》

《第一次侵攻作戦で敵となるのが、単独でいるモンスターの、

【巨鬼獣カオスオーガ】レベル865

【氷狼王グレイシス】レベル867

【蠱惑蝶ベラミス】レベル874

【海王獣アトラディオ】レベル971

【地轟獣メテオ】レベル983

【天災獣ギガ】レベル999

この6体、そして、

【雷光獣テスラ】レベル952

【剣神ベリエル】レベル697

【帝王ロガン】レベル878

この2人と1体になる。作戦目標は2人と7体。玲香とラフォーネが持ってる情報だと、この中で気配を読むのが苦手と言われているモンスターは【巨鬼獣カオスオーガ】、【地轟獣メテオ】、【天災獣ギガ】。このどれかだ。まあ気配を読むのが苦手ということは、破壊力と防御力が桁外れに高いってことになる。【毘沙門天の弓槍】があるから火力不足の心配はないだろうけど、美鈴は誰と戦いたい?》

俺は尋ねた。もう昔のように全部俺が決めるなんて必要はないと思えた。

《……改めて聞くとどれも強そうだよね。うーん、でも天災獣ギガにしようかな》

美鈴があっさり口にした。俺があげた中で帝王ロガンと天災獣ギガが最も厄介な敵だ。その一角と戦うと言ってきた美鈴は、

《多分、こいつ私以外で今のレベルで倒せる人いないと思うし》

《……》

《祐太?》

俺が返事をしないので美鈴が聞いてきた。

《おーい》

《あ……と、ごめん》

《はは、祐太が悩んだ時の癖、懐かしいな。10年前も考え込んでよく黙ってたよね》

《そうだったかな》

《うん、そうだった》

《いや、昔の話はいいんだ。それより美鈴、本当にギガでいけるのか? こいつ多分バカみたいに強いぞ》

こいつは今のレベルで、単独撃破は無理だと思っていた。だから何人かで組んでもらおうと思っていたのだ。

《うん。1回やらしてみてほしい。私の能力って上手く決まるとかなりのレベル差ひっくり返すから。特にこういうタイプには刺さりやすそうに思えるんだよね》

《能力を聞いた限り確かにとは思うけど……》

《あ、今の私の実力、疑ってる?》

《そんなわけじゃないんだ。ただ、万が一にも死んでほしくない。それだけなんだ。美鈴、かなり自信はある?》

《100%の自信はないよ。でも五分五分ぐらいの自信はある》

それは嘘ではないと思う。美鈴だって成長してるんだと思う。だが【天災獣ギガ】の名前を口にした時の美鈴の軽さが気になる。もし昔みたいにあんまり考えずに決めてたら、美鈴が死ぬかもしれない。

俺はかなり美鈴に失礼なことを思いながら、ともかく簡単には決められず、美鈴を俺以上に知っているはずの人間。榊と話している分割思考した俺に、美鈴について聞いてほしいと送った。

《榊は俺と動きたいわけか……》

《そ。私って自分だけで戦うことももちろんできるけど、サポート系が結構得意なのよね。どうせあんた雷神様か千代女様誘って帝王ロガンと戦うつもりなんでしょ?》

《今考え中だ。全員の作戦状況は共有しないようにするつもりなんだから、そういうことを言うな》

《はーい。それでどうよ。私たまには美鈴以外と戦いたいのよね。あの子とは10年間もう散々苦労を共にしてきたから、たまには他もつまみたいわけよ》

榊は榊で話していたから、美鈴と話している俺の話題をいきなり、途中で割り込ませる訳にもいかずちょっと待ってもらった。しかし【天災獣ギガ】って本気かよ。いくら美鈴が成長したと言っても無理があるだろ。

カオスオーガが一番いいと思うのだが、それじゃ嫌なのだろうか。そもそも今までずっと榊と一緒に戦ってきたんだろう。一緒じゃなくていいのか。俺は榊との話に、一段落つくのを待って、美鈴の話題を入れた。

《榊。美鈴のことを聞きたいんだけどいいか?》

《急に美鈴? あんた美鈴が好きなのはわかるけど今はそれどころじゃないでしょう》

《ち、違う。俺だってこんな時に色恋話なんかしねーよ。ただ今の戦力的な部分がどうかなと思っただけだ》

《どうだか》

《本当に違う。そうじゃなくて美鈴と話してる俺が言ってきたんだよ。美鈴がどんな作戦で行くか決めるにあたって、美鈴について一番詳しいお前に聞いてほしいって》

《ふーん……》

《実際のところどうなんだ? 昔よりは器用になってると思うが、一人で戦って大丈夫なのか?》

《あの子一人で戦いたいって言ってるの?》

《他の人間の作戦は安全上の理由で、共有しないでおこうと思ってる。一緒の作戦で動く場合のみ情報は教える》

《まあ大方、あの子、天災獣ギガと戦いたいとか言い出したんでしょ?》

《……》

よくわかるなこいつ。さすが10年も美鈴とコンビを組んできただけのことはある。それ以前から親友関係だったし、俺よりはるかに美鈴を理解してる。他のパーティー仲間の情報は共有しないようにしようと思っていたのだが……。

《言っとくけど美鈴は私に何でも喋っちゃうわよ》

《まあ、そんな気がするな……。いや、むしろ榊に相談せずにしようとしたら失敗しそうで逆に怖いまである》

どの道、美鈴は榊にだけは黙っているのが苦手そうだ。というか黙っててもばれそうだし。しかし榊にこう言われるということは、美鈴は結構無茶を言う方か……。

《相変わらず危なっかしいところは抜けてないな》

《まあね。あの子死ぬほど危なっかしいわよ。特に2つ目の虹装備が手に入るまでなんて、むちゃくちゃしようとするから大変だったんだから。シルバーなのにルビーに挑もうとしたり、私に悪いからとか言って、夜中にこっそりいなくなった時はどれだけ心配したか》

《美鈴はやりそうだな……。よく見つけられたな》

《呪師の能力に未だにあの子にも教えていない秘密があるのよ。それでまあなんとかいつもあの子の暴走は抑えられてる》

《苦労かけてるんだな。でも榊がいてくれて本当に良かったよ》

《まああの子の面倒を見たのは私の意志だけどね。それとあの子の能力的に天災獣ギガは一人じゃ無理よ。絶対にやらせたらダメ。あんたにいいとこ見せようと思ってむちゃくちゃ言ってるわ》

《美鈴は自分の能力に自信があるみたいだけど》

《まあ確かにあの子の能力って、羨ましくなるぐらい本当に優秀だから、相手に刺されば倒せる可能性はあるけど》

《そうか……》

少し考えた。美鈴と会話を続けている俺とも話し合った。そしてまた1つ榊に聞いてみることにした。

《じゃあ榊と組んだらどうなんだ?》

今回の作戦、ヒノエも入れてこちらは人数的には相手より戦力が大きい。手強い敵と戦う時は、多人数で挑める余裕がある。

《私?》

《そうだ。10年も一緒に戦ってきたなら、お前もその方が落ち着くだろう》

《まあ私と組めばなんとかなるかもしれないけど、六条。あんた人の話聞いてる? 私はたまには美鈴と別行動したいのよ》

《じゃあお前たちはコンビで戦ってくれ》

《私の意見を無視するな!》

美鈴は昔から自分の能力を理解しながらも、能力以上のことをする癖がある。ああ見えて結構見栄っ張りなのである。その美鈴の手綱をずっとしっかり握ってきた榊がコンビなら、もうこれ以上の安心要素はなかった。

《うるさい。お前の気分なんて知るか。全員絶対死なないようにと思って作戦を考えてるんだ。一番美鈴の能力が発揮できる状況がわかってるのに、それを外すことができるか?》

美鈴のわがままなら聞く。でも榊のわがままなど知らん。

《まあそうだけど……》

なんだか気に入らなそうに榊は俺を見てくる。ここまでレベルが上がった【意思疎通】だと、リアルな榊の姿を3Dのように目の前に浮かべることも可能だった。

《そんな顔するなよ。なんかして欲しいことあれはしてやるから》

《何でもしてくれるの?》

《変なこと頼むなよ。俺が嫌じゃない範囲にしてくれ》

そういえば前にも榊とはこんな約束をして、貞操を奪われそうになった。

《何でもって言ったでしょ。嫌でもやってくれるんじゃなきゃ嫌だ》

《……》

何を言ってるんだこいつは。榊がじっと俺を見ている。なんかこいつ逆らいにくい顔してるな。

《か、可能な限りでなら……》

《よし! 言質は取ったから約束守りなさいよ!》

榊の上手くいったという感情が伝わってくる。美鈴を俺以上に知っている榊である。今回のことで美鈴を最初から1人にする気なんてなかった気がする。その上で自分の一番欲しいものが転がり込んでくるまでそんな姿は見せない。

10年で随分と交渉上手になったようだ。なんだか変なことを頼まれそうで怖いが、美鈴に《榊が一緒に戦いたがってる》と伝えると、かなり嬉しそうな顔をしていた。そして無理に一人で戦うなどと言わず、あっさりと、

《じゃあそうする》

で、二人の敵が決まった。榊もだが、美鈴も結局この形になるのが最初からわかってたんじゃないのか。美鈴に俺以上の理解し合える相手ができたようで、やはり寂しい。

《2人ともここからは本当に秘密だ。お互いにそこからは余計なことは言わずに、俺にも相談せずに自分で作戦を立ててくれ。俺が持ってるアイテムで必要なものがあれば供与する。リストは伝えておく》

《《了解》》

そこで美鈴も榊も俺との【意思疎通】を切り、二人で話し始めたはずだ。美鈴が部屋から出てきて榊の部屋に行く気配を感じる。

「直接話し合うか」

それが一番いいと思って、俺は自分のリソースを他の人間に向けた。そうするともう2人、敵が決まりかけていた。

《巨鬼獣カオスオーガがマークさん。【蠱惑蝶ベラミス】が摩莉佳さん。これで問題ないですね?》

《ああ、俺の方は一番レベルの低い敵で申し訳ないが、同じ鬼族だ。手の内が分かりやすいから、一刻も早く倒して摩莉佳と合流するぐらいのつもりだ》

《私もそれがいいと思う。私の方も早く終わればマークにすぐに合流するつもりだ》

そう口にしたのはマークさんと摩莉佳さんだった。俺は2人で行動しないのなら、お互いの情報は共有しない方がいいのではと言ったが、この2人は、

『お互い死ぬ時も生きる時も一緒。どちらかが死んだらどちらも死ぬ』

そう決めているらしい。だからマークさんと摩莉佳さんは俺も入れて3人で話していた。そもそも摩莉佳さんとマークさんは同じ部屋にいる。聞いた話ではこの2人の仲の良さは相当なもののようで、お風呂も2人で入るらしい。

《でも摩莉佳さんの相手の蠱惑蝶ベラミスって、かなり怖い気がするんですが……》

誘惑系の能力が高い敵は怖い。名前からしてそうだとわかるし、玲香やラフォーネの情報でもそのようだった。だから俺は絶対的にそういうことが得意な千代さんに頼もうかと思ってたほどだ。俺たちの中で誰が一番強いか?

それは千代さんで間違いない。だから万が一でも負けた場合面倒なことになるベラミスだけは、確実に殺してくれる千代さんにしようかと思った。

《安心しろ。こう見えて私は誘惑系の能力に対して耐性が強い。私には【奈落の華】ですら効果がない。それに……》

チラッと摩莉佳さんはマークさんに意識を向けたのがわかった。その様子におそらく夫婦で戦ってきた2人である。何らかの夫婦特有の能力がある気がした。この二人もまた。お互いの間に秘密を持つことはできない。

お互いを一番大事に思っている。マークさんが反対していないということは、摩莉佳さんは大丈夫だとマークさんも思っているか。俺は自分に必要な所持アイテムだけ、別にして2人にも必要なアイテムがあれば使ってくれと伝えた。

あとは二人で相談して細かい作戦など、決めてもらうことにした。俺は次にラフォーネにバルガレオルとともに氷狼王グレイシスを倒してくれないかと話を持ちかけた。