軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十四話 聖勇国支配作戦

相手の戦力は高い。どの超越者たちも一騎当千の強さだと思えるし、実際にそうなのだろう。

「とはいえ俺たち全体の戦力はセラスの勢力を除く全ての組織を上回っている。皇帝ホロスにしろ帝王ロガンにしろ各個の戦力ならどうにかできる。これは間違いないと思う。その上でどう戦うかだ」

俺が口にした。できるだけ秘密裏に動いている。そして俺達が聖勇国に干渉していることにセラスが気づく前に、俺自身のレベルを999まで持って行きたいのだ。

「誰とも組んでないモンスターの各個撃破も良さそうだよね」

美鈴が言って、玲香が答えた。

「その場合、巨鬼獣カオスオーガ、氷狼王グレイシス、蠱惑蝶ベラミス、海王獣アトラディオ、地轟獣メテオ、天災獣ギガのどれかになるわね」

「玲香。もしも作戦がうまくいって、セラスの戦力以外を始末できた場合、俺とクミカはどれぐらいレベルアップするんだ?」

「それについてはちょっとラフォーネさんと博士に相談してみたいのよね。少し待ってもらっていい?」

「ああ、わかった」

事前準備をする時間はなかったから、今やるのかという話だが、探索者が思考加速した場合の計算能力は、スパコンを超える。

「ラフォーネ、博士いいですか?」

「いいぞ」

「構わない」

そうすると玲香は聖勇国に一番詳しいラフォーネと、米崎に【意思疎通】で相談し始めて、情報を洗い出して、考えてくれている。時間にすると1分ほど黙っていただろうか。玲香が声を出した。

「——レベルが上がっていくほどにレベルは上がりにくくなるから、エネルギーは大量に必要になる。そのことも考えて79レベル。全てのモンスターを倒すことができた場合、得られるエネルギーはクミカと合わせてそれぐらいね」

「ホロスとロガンの場合はどうなる?」

「一番先にすると考えて皇帝ホロスで……」

どうやらまたラフォーネと米崎に相談しているようだ。

「——ごめんなさい待たせて。先に調べておけばよかったわ。えっと皇帝ホロスは聖勇国で一番、広大な領地と資源を保有しているの。それに合わせて軍事同盟者の魔導王桜魔の支配域と、支配下にある恐炎竜ドルティラノが所持する【管理球】の全てを合わせるなら、134レベル上がると考えていいみたいね。同じ条件なら帝王ロガンが87レベルね」

「ホロスに比べてロガンはかなり低いけど、剣神ベリエルが放浪ばかりしていて【管理球】に関わっていないのも大きいね」

「ホロスとロガンは歴史的に見ても聖勇国での二大勢力でライバル関係よ。レベルはホロスの方が上だけど、戦えばどっちが勝つかは分からないと言われてるわ」

「そこを踏まえて考えるって事か……」

米崎も他の誰も作戦の大枠は俺から何か出てくるまで何も言ってこない。だからこういう時は俺が一番考えなきゃいけない。聞いている限り、一番相手にしやすいのは帝王ロガン、剣神ベリエル、雷光獣テスラの勢力。

そしてモンスターたちよりも上がるレベルも大きい。ただ、ここに手を出すと、その後はもう、他の勢力に隠しておくことはできない。勝てたとしても、広大な領地を持つ国を滅ぼすことになれば、絶対神セラスに100%知られてしまう。

「この世界の超越者はセラスの言葉には従うのか?」

それはラフォーネに聞いた。

「私は従わない。そう決めた。しかし、天災獣ギガや皇帝ホロスであっても、この世界の超越者はセラスに逆らうことはまずないだろう。理由はセラスには勝てないと分からされているからな」

「セラスは他の超越者たちと戦ったことがあるのか?」

「実際戦ったことがあるものは少ない。しかしセラスから『私の言うことを聞きなさい』と強いられたギガは嫌がった。そしてかつてギガは魔王になりかけた。しかしセラスにそれを止められ、一度殺されている。セラスは何度かそういうことをして自分の力をこの世界の超越者たちに納得させた経緯がある」

人の心とはあざないものである。どれほど相手が強いと数字でわかっていても、目の前でそれを見ない限りわからないことは多い。だからセラスは目の前でそれを何度も示したわけか。

「何なら見るか?」

「見られるのか?」

ラフォーネが頷いた。それならば見ておかないという選択もない。俺が頷くとそこには、恐ろしく強大な体を持つ、化け物がいた。その瞳は金色に輝き、体には不思議な紋様が浮かび、その相手に金色に光り輝く存在。

ギガと比べるとあまりにも小さい人間と同じ大きさ。それが巨大な剣を携え、その剣が振り落とされるところだった。光の柱が立ち上りギガの体が消滅していく。見ていればわかる。あまりにも格の違う強さなのだと。

『あなた達も逆らうだけ無駄ですよ。従わないなら死になさい』

その言葉を聞いて全員頭を垂れて恭順の意を示した。映像を見る限り、セラスに逆らうことは馬鹿だとよくわかる。たとえ俺がレベル999になっても、こんな女に勝てる気はしない。そうなるとやはり【黄泉孵りの卵】が必要になる。

だが【黄泉孵りの卵】を守っている炎龍神紅麗様に関わることはあの近藤局長や信長ですら避けた。炎龍神が俺とは同じ属性の相手とはいえ、関わるならせめてレベル999にならないと、それこそ死んでしまう。

「見ての通りだ。セラスに挑むことは狂気の所業。誰もがそう思ってる」

「これだけ実力差があるとそうなるよな。しかし、セラスの実力が間違いなくこの通りなら、帝王ロガンを倒せたとしても後が怖い。セラスが直接動かなかったとしても、勇者エンデの時みたいに他の超越者を動かされたら、こっちはレベル不足でセラス側に呑み込まれて終わる。そもそも人間はモンスターより恐ろしい。俺はそれを嫌と言うほど味わってる」

カインと戦った時、迦具夜は自分のルビー級専用装備を全て所持していたこともあり、カインに勝てると見ていた。それでも結果は負けて、アフロディーテがカインを殺そうとしてなかったら俺が死んでた。

ミカエラと戦った時も、向こうに負ける気がなければ俺が死んでた。

狼人間の狼牙と戦った時は、勝利することができたが、【炎帝・アグニ】を使用するというかなりオーバーキルをするしか安全に勝てると思えなかった。池本相手ですらドーピングしまくった。

基本的に人間の相手をする場合、レベルの差というのは思いっきり出てくる。現状のレベルの違いで皇帝ホロスや帝王ロガンに勝とうとすれば、かなり考えてなければ負ける。

「まあ戦力で劣るのはこっちだもんね。ここは安全策でやっぱりモンスターから各個撃破かな」

美鈴が言うと、榊が首を振った。

「だめよ。安全策を取ってたら、100%負けて終わるわ。時間をかければかけるほど向こうはこっちの動きに気づいて、それこそ総戦力で向かってくるわよ」

「だよな……」

榊の言葉に俺も頷いて、口を開いた。

「全面戦争と言ってもやり方は結構考えてたけど、やっぱり一番早く終わる方法を取ろうと思う。みんなには危険を強いるが、まず第一次侵攻で帝王ロガンの勢力の全てと、単独でいるモンスター全て。この2大勢力に対して同時交戦を行う」

「かなり危ないよ?」

美鈴が慎重な言葉を口にした。この10年でかなり苦労したようだ。無茶すれば死ぬということを何度も学ばされた顔をしていた。

「悪いが安全策を諦めるしかない。だが馬鹿の無策というわけでももちろんない。勝利できたものから、勝負のつかないもののところにすぐに応援に駆けつける。俺はもちろん戦いには参加するが、【管理球】の支配者の移行。これを最も優先して、俺がレベルアップすることを優先する。そして各自、貴重だとは思うが、勝てるアイテムを何か持ってる場合は、出し惜しみはなしで使ってほしい」

「OK、分かった。虎の子を出してくるぜ」

自分でもむちゃくちゃ図々しいことを口にしていると思うのに、ジャックは頷いてくれる。みんなもそれでいいようだった。俺の心には申し訳なさだけが募った。だから、

「こちらからも渡せる限りのアイテムは支給する。そしてもちろん使ってもらったアイテムは後々、俺が自分のガチャで必ず補填する。あと全員に、今回の作戦の参加報酬として10年分割になるが20兆円を支払おう」

それは事前に桜千と相談していた俺が出せる限度額だった。

『桜千。俺は今回の作戦に命をかける。これがダメなら俺は死ぬと思ってくれ。そしてそのために仲間に命をかけてもらう。それに見合うだけの対価を払いたい。桜千、どれだけ用意できる?』

『今回の作戦の参加人数を考えますと、一人10兆円で10年分割払い。その程度なら問題ないかと』

『20兆は無理か?』

『……畏まりました。主様の利権関係は私の方で密かに確保しているものが相当数あります。それらを使えば可能かと』

『他の人間に無理はさせてないか?』

『大丈夫でございます。【千年郷】の中は本来お金など必要ない完成したシステムです。その中で流通するお金をどれだけ生み出すかなど私の匙加減でいかようにでもしてみせましょう』

「え……」

「最後の部分がよく聞こえなかったんだけど」

「一人につき20兆支払うと言った。ラフォーネには俺がこの世界の支配者になれた暁には、国を一つ渡す。欲しい国は選んでくれ。お金でいいならそれでもいいが、その場合この国と円とのレート関係で金額は未知数になる」

「ほ、本気か?」

ラフォーネが驚いたようだった。超越者である。貧乏ではないし、むしろ金持ちだろうが、今回の戦争は言ってみれば地球丸ごとをかけた世界戦争と同じようなものだ。それに協力する見返りは、仲間だからなんて理由だけでは許されない。

具体的な報酬も当然支払わなければいけない。

「いやいや祐太。お前だってまだこの世界に帰ってきたところだろうが、そんな金どこにあるんだよ」

マークさんが聞いてきた。

「収入の予定はすでにあります。主に【千年郷】と桜千の利権関係といえばわかるでしょ?」

「ああ……。それならできるか……」

「羨ましい……。領地経営って結構難しくってさ。お金がどんどんなくなるのよ。みんなのためにってインフラ充実させたり、社会保障をちょっと手厚くしようとすると、簡単に赤字経営になるしさ。千年郷にある私達の領地も利益を出すのが結構大変なの。ゴールドエリアの七猫国も結構ガバガバな人多いから、本当お金なくて……」

榊が遠い目をしながら口にした。すっと美鈴を見ると、なぜか美鈴が目をそらした。ルビー級になれば千年郷に領地もあるし、ゴールドエリアもあるから金がないなんてことはない。俺はそう思ったが、実際はそんなことはないらしい。

所帯が大きくなれば収入は増える。しかし支出も増える。

「優秀で忠実な部下と利権って素晴らしい言葉よね」

なぜか美鈴が小さくなっている。どうも領地経営で何かやらかしたようだ。マークが言った。

「まあそうなんだよな。それに所帯が大きいと動かすのに時間がかかる。結果領地経営に時間を取られると、ダンジョンに入る暇がなくなってくる。そうするとレベルが上がらない。だから俺たちの代わりをしてくれる優秀な部下が欲しいわけなんだが、そういうやつらは悪いこともよくする。悪いことをしたからって厳しく罰しすぎると、今度はこっちのご機嫌をやたらとるようになって、本当のことを言わなくなる」

「うちもそれで思いっきり赤字出さされたよ」

土岐が共感して口にした。そして榊が、

「そういうわけでマジでお金助かります。今すぐ頂戴」

「ちょっと待て。ちゃんと後で渡すから」

逃げないでよ。と榊に言われた。目がお金のマークになっていた。昔の榊はイケメン好きなだけだった。でも美鈴という一撃の威力はあるけどものすごくお金のかかる親友を見捨てられないため、お金好きにもなったようである。

《六条君。ポーションの噂は聞いてるよ》

米崎が声をかけてきた。

《耳が早いやつだな》

《そういうのは真っ先に相談されるんだよ。一度渡すと言ったお金は反故にはできないよ。覚悟はしてると思うけどちゃんと払いなよ》

《分かってる。それで摩莉佳と土岐なんだが……米崎は大八洲国のお金って持ってる?》

《持ってはいるけど、今は日本と大八洲国で交流も始まってるから、お金のやり取りもあるよ。だから為替レートで考えた10年分割の20兆円の価値でいいと思うよ》

「土岐と摩莉佳さんは為替レートで考えることになるけどそれでいいか?」

「も、もちろんいいけど、それでもかなりの金額になるよ? 正直かなりの大貴族でも支払いに困るぐらいの金額だよ?」

「大丈夫だ。俺は持ってる男だ。結構まだ余裕はある」

顔では余裕を見せた。態度でも余裕を見せた。でも心ではちょっとビビっていた。桜千にもう一度確認した。

《大丈夫だよね?》

《主様。そのような粗末なお金。何一つ心配いりません。この桜千が即金であろうとすぐに用意してみせます。おかえりになられる頃には全て用意して目の前にお出ししましょう》

《桜千、頼りにしてるからな》

《何と嬉しい言葉でしょう。この桜千、主様のためならたとえその10倍の金額でも用意してみせましょう!》

《そ、そうか……》

桜千って絶対に悪質なホステスとかに騙されそうな男だよな。まあ俺は悪質なホストじゃないから大丈夫だけど。しかし、米崎は例外として、他のみんなは10年で20兆円というのは、思った以上に効果を発揮したようだ。

雷神様と千代さんもあまり気にした様子ではないが、その他全員お金の使い道を思わず考えてしまっている顔になっていた。最後に米崎が言った。

「まあお金の話は最初に決めておくのが重要だ。みんなもそれだけもらえば十分だね?」

無報酬でもやろうとしてくれていたみんなだが、報酬なんていらないと言い出すものはいなかった。領地経営を始めてみて、お金が入ってくると思っていたら、それだけ支出も多くて焦ってる人は多かったのだろう。

「問題がないようだから先に行こう。六条君からはまだ何かあるかな?」

「そうだな……」

ここにいる全員もうお金にも恵まれて、何の問題もなく裕福に生きていると思っていたが、どうも支配地域の経営とは簡単なことではないようだ。そう考えると、1つ渡しておいた方がいいと思えるものがあった。

「ところで回復手段に不安がある人っているのか?」

そうすると米崎と雷神様と千代さんを除く全員が手を挙げた。特に美鈴と榊は精一杯力の限り手を上げていた。

「お、思ったより多いな。完全回復薬を全く持ってない人もいたりする?」

「「はい!」」

榊と美鈴がすかさず手と共に声も張り上げた。他は全員手を下げた。榊と美鈴はどうもかなり色々なことで窮乏してるようだ。かわいそうな言い方になってしまうかもしれないが、パーティーにガチャ運1の人がいるとそうなる。

榊はあまりガチャ運が悪くないらしいけど、それでも美鈴のマイナスを補おうとすると俺か、フォーリン級のガチャ運が必要だ。何よりもレベルが上がれば上がるほど初期の回復薬ではあまり回復しなくなる。

例えばルビー級が初級ポーションを使ったら、『切り傷ぐらいは治るよね』って感じの回復しか期待できない。ゲームで初期の回復ポーションが、最初は全回復したのに、後半になると雀の涙ほどの回復しかしなくなる。

それと同じだ。初級ポーションはほとんど役に立たなくなる。そうすると中級、上級のポーションが必要になり、お金がものすごく必要になる。

「あ、えっと、2人はかなり厳しいみたいだから、エリクサー2本ずつと仙桃2つずつ渡すよ」

「祐太、マジ神!」

ちゃっかり横に座っていた美鈴が抱きついてくる。嬉しいのはわかるが会議中なのでやめなさい。

「エリクサー2本に、仙桃2個!?」

「少ないか? さすがにこれ以上はちょっと」

「逆よ! あんたさ。どういうガチャ運してるの? 本気で意味わからないわ」

榊の顔が引き攣った。それぐらいアイテムで苦労してきたのだろう。

「はは、こないだのガチャでエリクサー14本出たんだよ。上級ポーションも38本出たし、中級ポーションも117本出たし、これもいる?」

「お、おう、もうどう反応していいのかわからないわ。もちろん欲しいです」

「じゃあ上級ポーションは前のガチャでも結構出たから10本ずつあげる。中級ポーションは20本ずつでいい?」

「い、いいわ。す、すごい。回復がどんどんと潤っていく」

俺は早速マジックボックスを開くと榊の前に全ての回復手段を置いた。美鈴に渡すとなぜか駄目な気がしたので、全部榊に渡しておいた。

「おい、俺もそこまでくれとは言わんがちょっとはくれ」

ジャックが言った。

「慌てなくてもあげるって」

「もちろん僕も欲しいからね」

「すまんが私ももらっていいだろうか」

土岐にラフォーネも続いた。

「祐太すまん。正直俺も美鈴ほど悪い状況じゃないが回復手段は喉から手が出るほど欲しい。まあ俺自身は【超速再生】があるから、苦労することはないんだけど、摩莉佳がな」

「すまない。私もマークもあまりガチャ運は良くないんだ。私は貴族になりたてだし、マークはレベル上げに随分と手を焼いていた時期があってな。領地経営がまともにできていないんだ。まあ美鈴達の次ぐらいにはその辺に不安がある」

「そうなんですね。摩莉佳さんも美鈴たちぐらいに渡しときますね」

そう言って俺は手をあげた人たち全員にエリクサーや仙桃、ポーション類を渡していった。

「——貰い終わってから言うのもなんだけどさ。こんなに渡して本当にあんたは大丈夫なの?」

榊が聞いてきた。

「鳳凰の種族は回復手段が豊富なんだよ。だからめったにエリクサーとか使わないし、クミカも水の精霊魔法が回復で使えるんだ」

そして俺自身SPが切れない限りはかなり回復し続けることができる。それはエリクサーの効果を上回るほどで、回復手段はみんなに全て渡してしまってもいいほどだ。だから実際ほとんど渡してしまった。

それがみんなに命をかけてくれと言った俺なりの誠意でもあった。

「あるところにはあるもんなんだね。まあ祐太といた時間って短いけど、そういえばあの時ってジャブジャブとポーション飲んでたな。小春にあの時の感覚でポーション飲んだら頭を思いっきり張り飛ばされたもん」

《六条君。誰と誰が戦うのかの情報は皆で話し合わない方がいいと思うな。君が各自に【意思疎通】で同時個別会議をして決めていくのはどうかな?》

《俺もそれは思った。じゃあそうするか》

米崎の提案を聞き、俺はそこで全体会議を解散した。そして1人ずつ【意思疎通】で、誰と戦うかを決めていくことにした。今回の会議はまだ長引きそうだった。