作品タイトル不明
第三百七十三話 超越者達
「米崎、この世界は意外と脆いのか?」
「私的な意見だということを忘れないで聞いてほしいのだけどね。壊れやすいままだと僕は見ている。でなければ機械神はこの世界をゴールドエリアにすることは、システム的にできなかったはずだ。ダンジョンというのはかなり完成されたシステムだ。完成されていればいるほど、たとえそれを生み出したものだとしても、自分が決めた事を破るのは難しいものだよ」
「そんなものか……」
俺はしばらく目を閉じて考えた。この世界に綻びがあるとして残りの99人にもまだチャンスがあるとして、その真実が分かるには結局のところ、セラスと接触するしかない。そして弱い俺がセラスに接触したら何もできずに終わる。
せめてレベル999はいる。その考えは変わらなかった。女神は俺にクエストで、伊万里に挑むことですらレベル999にすることを求めていた。残り99人にも可能性がある。この世界は他のゴールドエリアと同じく滅びかけている。
それは間違ってない気がする。ただその条件は、分かりにくく隠されているように思える。そもそもそんなこと米崎でなければ気づきもしないだろう。
「何かがこの世界をおかしくしている。米崎。そのことは頭に入れておく。でも方針はこのまま全面戦争でいく。それでいいな?」
「OK。それでいいよ。僕も可能性の高いことを一応君に教えておいた方がいいと思って口にしただけだ。『方針を変えろ』なんて話はしていないよ」
米崎が頷いた。
「じゃあ俺からもう1つだけ聞いておきたいんだが、玲香」
「何?」
「この世界には相当数の人とモンスターの超越者がいるみたいだが、モンスターの方が超越者の数は多いんだよな?」
「ええ、多いわね」
「そのモンスターは俺たちの敵なのか? 10年前の土岐の話じゃ、モンスターは必ずしも倒さなくてもいい存在だと聞いていたんだが、その認識でいいか?」
「いえ、この世界にいる超越者のモンスター達は、ほとんど【管理球】の支配者なの。【管理球】に関係ないモンスターでも、セラスが居るこの世界の上空にある【天壌無窮の神域】にいるか、皇帝ホロスか帝王ロガンに従属しているわ」
「俺とバルガレオルみたいな関係か?」
「そうよ」
《六条君ごめん。あの時僕はそこまでの情報は仕入れてなかった》
土岐が会議の邪魔はしないように【意思疎通】を送ってきた。
《いや、あんな時点である程度情報が仕入れられただけでもすごいよ。でも、大八洲国だとそうだったりするのか?》
《そうだね。言い訳っぽくなっちゃうけど、大八洲国だとネームドのモンスターでも、ほとんど国の支配とかには関わりのない奴ばかりだ。いや、僕とジャックで支配したゴールドエリアでも、超越者のモンスターがいたけど【管理球】の支配者ではなかった。モンスターは【管理球】の支配なんて誰かに命令されない限りやらないと思うんだけど》
《ということは誰か、いや、多分セラスに命令されているわけか》
《まあ思い込みは良くないけど、その可能性は高いね》
バルガレオルもそんな話をしてた。そうなるとセラスの一言で総攻撃とかしてきたらたまったもんじゃない。やはり隠密行動は心がけた方がいいと思えた。
「玲香、モンスターのことはわかった。会議を進めてくれ」
「了解。では、引き続き全面戦争の方針は変わらず。ということで話を進めるわね。まず、ラフォーネから聞いた情報と私がこれまで10年間調べ続けた情報をすり合わせて、私たちの主要な敵となる超越者の説明をさせてもらうわね」
同時進行で【意思疎通】で玲香のイメージしている映像が、俺たちの脳内に再現される。そうすると頭の中にかなり凄まじく大きな巨人が浮かび上がった。
「まず最初に説明するのがモンスターね。みんなの頭の中にも浮かんでると思うけど、こいつは巨鬼獣カオスオーガ。聖勇国のルビーモンスターとしては一番弱いやつ。鬼族らしいけど、とにかく大きい。身の丈102.5メートル。真っ黒な体をして自分と同じ重さがあるという金棒を持ち、そいつを平気で振り回す」
「それって本当か? 確か身長100mぐらいのやつの体重って5万トンぐらいになるって聞いたことがあるぞ」
ゴ〇ラがそれぐらいの体重だった。
「本当よ」
「……あの、お姉ちゃんその大怪獣みたいなカオスオーガで一番弱いの?」
美鈴が目をパチクリさせた。
「残念ながら残っている超越者の中でカオスオーガは一番弱いわね。まあ大きいから攻撃は当たりやすいけどね。その反面、回復力が高い。防御力も高い。レベルは865。この中で比較的一番弱いというだけで、ゴールドエリアに存在するルビーモンスターとしては破格のようね」
「……私と小春の七猫国に出てきた最後の魔王より強そう」
「おい、次に行け」
雷神様が面倒そうに声を出した。カオスオーガには心惹かれるものがないようだ。
「じゃ、じゃあ次に氷狼王グレイシスというレベル867のルビーモンスターよ」
玲香から送られてきたグレイシスの姿は、体長3mほどの氷をまとう眼光の鋭い狼だった。カオスオーガと比べると小さくて弱く見える。ただモンスターには小さいから弱い。大きいから強い。なんて理屈はない。
「まあ改めてこんなこと言う必要はないと思うけど、小さいから弱いなんてことはないわ」
「そもそも3mで小さいって感じる探索者の感覚の方がおかしいんだよね」
またもや美鈴が玲香に言った。俺がいない10年間の間にどうやらこの二人、姉妹関係を修復したようだ。それに心の底からほっとする俺だった。
「氷系の魔法やスキルは人間並みに使いこなすし、何よりも恐ろしく速いんだって」
「スピードタイプか。同じスピードで対抗するか、それを発揮させる前に仕留めるかだな」
ジャックが口にした。
「こいつは私に担当させてくれないか?」
そう言ったのがラフォーネだった。
「昔からよく知ってるやつなんだ。誰かに殺されるというのはどうもな。私に負けたら従えと説得してみたいんだよ」
ラフォーネはグレイシスが気になるようなが俺は言った。
「悪いがそれは待ってくれ。ラフォーネは俺たちの中でバルガレオルと共に、レベル的な制限を受けてない。レベル的に現状一番ラフォーネが強い。だから、ラフォーネをどこに配置するかは、超越者の情報を全部聞いてから決めたい」
「ではもし私以外が担当になっても、グレイシスはできれば殺さないでやってほしい。その、はっきり言っておくと私の友達なのだ」
「分かった。それは必ず守る」
俺が頷くとラフォーネは納得してくれたようだ。
「その次が【蠱惑蝶ベラミス】レベル874よ。こいつは見た通りとても綺麗な女の姿をとっている蝶のモンスターね。とても厄介なところが男性の誘惑が得意なの。なんなら女でも誘惑してくるわ。快楽を催す匂い、音波、光、色、触感、そして実際の快楽。あらゆるものを操って相手を捉えてくる。モンスターだけど異性としては以上なほど魅力的に見えるらしいから、ちょっと関わりたくないわね」
「綺麗なモンスターっているもんな」
俺は言った。それは俺を助けてくれたアラクネのアウラのことでよくわかっていた。そうするとジャックとマークさんが続いてくれた。
「確かに。オーガとかも綺麗なのいるよな。最初戦いになった時、殺しにくすぎて俺は逃げたぜ」
「ああ、それ、あるな。あんな美人、モンスターでも殺せねーよ」
ジャックとマークさんがうなずきながら話してる。ジャックはともかくマークさんは摩莉佳さんの目が怖いから、その話題はやめておけ。
「ふむ、ベラミスは六条君に担当させるのが良さそうだね」
米崎がそんなことを言うから、美鈴と玲香とシャルティーと切江の目が怖い。
「なんでだよ。普通に女同士で担当してもらった方がいいだろう」
「誘惑なんかの攻撃はね。魅力のステータスが高い人間には効果を発揮しにくいんだよ。六条君、おそらく君またかなり魅力のステータス上がってるよね?」
「まあそれは……」
「それならやっぱり君はベラミスの相手に最適だね」
何も悪いことをしていないはずなのに周りからの視線が痛い。これが今までの行いに対する罰なのか。ベラミスはモンスターなんだ。殺すんだからそんな目で見なくてもいいじゃないか。俺はもう一度ベラミスの映像を確かめる。
う、うーん。こんな綺麗な女の人殺せる気がしない……。
「まあ次に行きましょう。その次が地獄の門番ならぬ天の門番とでも言うべきかしら、三首獣ケルベロス」
玲香が言う。地球でも地獄の門番として伝説の中に出てくる有名どころのモンスターだ。八岐大蛇などの例もあるが、この世界にいる生物は意外と地球でも聞いたことのあるモンスターが多い。
「ひょっとしてそいつがセラスの門番をしてるって事か?」
ジャックが聞いた。なんとなく予測がついたんだろう。
「正解。そうよ。セラスが住んでる神殿で、こいつががっちり守りを固めてるらしいわ。レベルは932。こいつからもう全部900を超えてくるのよね。他にも——」
【雷光獣テスラ】レベル952
【海王獣アトラディオ】レベル971
【地轟獣メテオ】レベル983
【恐炎竜ドルティラノ】レベル943
「無茶苦茶だな。レベル900超えるモンスターなんてゴールドエリアで一体でも出てくるもんじゃないぞ。少なくとも俺と摩莉佳のゴールドエリアにはレベル900越えなんていなかったぞ。それが4体って……」
「残念5体よ。まだ一番強いのが残ってる」
玲香は今あげた4体のルビーモンスターについて、分かっている限りの情報を俺たちに話し、ラフォーネが持っていた見た目の情報も共有した。そしてモンスターの紹介をする上で最後に名前が上がったのが、
「——で、最後が、最強最悪・天災獣ギガ。バグみたいに強いモンスターばかりがいる聖勇国でも正真正銘最強。レベル999と言われてる化け物よ。その吐き出すブレスは一撃で嵐を巻き起こす。こいつが動いた余波だけで建物が崩壊するエネルギーの塊らしいわ」
「面白そうな敵だ」
雷神様が口にして、
「あ、はい」
玲香はどうも雷神様だけは怖いようで緊張してる。
「女。それだけ強いやつなら、誰かに飼われてるわけではあるまい。【管理球】の支配者だな?」
「はい。がっちり【管理球】を支配しているようです」
玲香によってさらにギガの情報が送られてくる。それはカオスオーガを二回りぐらい強くしたらこいつになる。そんな印象の化け物だ。全長200m。歩くだけで震度7の地震を起こすと言われ、少し力を入れられただけで島が沈む。
その吐く息で嵐が発生し、体から常にほとばしている稲妻が、触れることすら困難にする。モンスターでありながら大陸1つを支配し、ギガの棲む大陸では、人間の勢力よりもモンスターの勢力の方がはるかに大きいらしい。
人の超越者がその大陸を侵略しようとしても、成功したことは一度もない。
何度かセラスにギガをどうにかしてほしいという嘆願は届くが、セラスは無視、現状他の超越者ではどうにもならず、かなり長きに渡ってモンスターが幅をきかせる大陸がそのままの状態だ。
大陸の名前はギガノス大陸という。
そんな情報だった。雷神様は楽しそうにその情報を確認しているが、何か言ってくることはない。玲香は説明を続けた。
「それじゃあ人間の超越者に進むわね」
そう言って脳内に送られてきたイメージ映像は剣神ベリエルという男だった。鋭い眼光を持ち、いかつい顔の頑固おやじ。そんな表現がぴったりの中年男だ。
「名前の通り剣に強いわけか?」
「そうよ。そして唯一現状の私たちより弱いかもしれないわ。というのもベリエルはレベル697なの」
「へえ」
「おい、ベリエルを侮るなよ。私でも戦えば五分五分ぐらいの成績にしかならない。戦い方が恐ろしく上手くて、ベリエルは未来が見えているとも言われてる」
ラフォーネが念を押してきた。
「まあ基本的にレベルが下でも人間の場合、侮ると痛い目を見るからな」
「それにこの人ちょっと面倒なの」
「どういうふうに?」
「ベリエルは人間の超越者の中で唯一【管理球】の支配に関わってないの。帝王ロガンの昔からの親友らしいんだけど、放浪癖がすごくてね。とにかく1箇所にいることが少ないわ。どこにいるかもわからないし、相手にしたくないんだけど、帝王ロガンに何かあると気配を消して静かに現れるわ」
「……」
【管理球】に縛られず自由に動く探索者。そして気配を消す。全員の頭の中に千代さんの姿が浮かんだはずだ。絶対一番怖いやつだ。ラフォーネが付け加えてきた。
「ベリエルはスピードも私よりかなり速い。それに帝王ロガンとは唯一無二の親友と言っていい。ロガンに何かあれば、こいつはたとえ地上のどこにいても凄まじい速度で合流してくる」
「じゃあベリエルから始末するとかは?」
「こいつはそもそもどこで放浪してるのかが分からん」
「面倒な相手だね」
米崎が眉間にしわを寄せた。
「そうだ。そして帝王ロガンは【雷光獣テスラ】を従えている。この2人と1体のうちどれかを攻撃すると、3体全部ついてくるというわけだ」
「ベリエルはどう見ても近接専門。ロガンとテスラがそれをサポートできたら、相当怖い」
こちらが人数で攻める。そうすれば向こうも人数で守る。それは当然の帰結と言えた。俺はちょっと考えてから聞いた。
「他にも超越者同士のつながりはあるか?」
「あるぞ。皇帝ホロスは魔導王桜魔と軍事同盟を結んでる。これはかなり昔からあるらしいし、結構強固なものだ。どちらかが攻撃されれば、どちらかが助けに来る。そしてホロスは【恐炎竜ドルティラノ】と100年前壮絶な戦いを繰り広げ、自分の支配下に置いている」
「じゃあ一人でいる人間の超越者はいないってことか」
「そうだ。そして最も強力な共闘関係を結んでいるのがセラス様だ。本人だけでも十分に強いが、さらにローレライ、イマリ、死神。そして全てのモンスターはセラスの支配下だ。たとえギガでもセラスの言葉には逆らわないと言われている」
これだけ戦力を整えても、普通に戦えば簡単に押し切られて負けそうだ。さすがの南雲さんでもレベル499では何もできずに引き上げるわけだ。ともかく頭の中で整理してみた。
【魔導王桜魔】レベル845
【帝王ロガン】レベル878
【皇帝ホロス】レベル907
【天からの使徒ローレライ】レベル???
【東堂伊万里】レベル999
【死神コシチェイ】レベル1040
【絶対神セラス】レベル1500~
「改めて相手の戦力が化け物だな。正直僕たちなら楽勝かと思ったけど、セラスがこちらを敵と認識した時点で終わりだね」
土岐が言った。一度だけは【明日の手紙】でやり直しができる。しかしそれも相手にサファイア級がいる以上は完全に有利な条件とは言えない。サファイア級は時間が巻き戻っても神気で自分の記憶を持ち帰ってしまう。
【時の移動書・過去編】だとまた違うのだろうか。その辺が何とも言えなかった。あの時、過去編の説明をしようとしたレダの言葉が聞こえなかったのが気になっていた。