軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十一話 レッド管理球

【管理球】のある地下への階段を降り続ける。薄暗い中、光の魔法で照らされ、影も一緒についてくる。靴音だけがやけに大きく響いていた。俺はテオ王に先導され、ヴィオレッタ王妃の横顔を見ながら話していた。

「ローレライは痩せた修行僧のような顔をして、白い聖衣をまとっていると言われています。この世界で最も主流な信仰、セラス教の高位僧はその姿を真似ているそうです。ですが、今いるローレライ様と当時現れたローレライ様は別人ではないかとも言われているのです」

「まあそうだよな。長生きすぎる」

「はい。いくら超越者でも700年も生きないのは私たちも知っています。無限に生きようと思えばそれこそ神にでもなるしかない。ですが、そうなるとこの世界に絶対神が二柱いることになってしまう」

「ローレライもレベル1000を超えてたらサファイア級が絶対神セラスと、死神と、ローレライの3人……あんまり本当だと思いたくないな」

「あの、ところでそろそろ到着するかと」

長い間、階段を降り続ける。そうすると目の前にレッド州の旗と同じ、炎を象る紋章が刻まれた大きな扉が現れる。それを見て玲香が口を開いた。

「この扉。【異界反応】でも通り抜けられない封印がかけられてるのよ」

炎の紋章がかたどられた門には手形が2つあった。テオ王が右の手形に触れる。そしてヴィオレッタ王妃が左の手形に触れる。そうすると門に描かれた炎の紋章に光が走り、ガチャンッと重い音が鳴る。

ゆっくりと扉が内側へと広がっていく。王と王妃、夫婦の共同作業でなければ扉は開かないようだ。それなのに一度も王と王妃の目線は合わない。夫婦関係はかなり冷え切っているようだ。

「どうぞ。この奥です」

テオ王は玲香からしゃべるなと言われた。そのためヴィオレッタ王妃ばかりが案内している。部屋の中に足を踏み入れる。そこは想像していたよりもはるかに広大な空間であった。結構大きなビルがすっぽりと収まりそうなぐらい広い。

支えも特に見当たらず、よく天井が崩れてこないものだ。何のためにこんな大きな空間がと思ってしまう。しかし、それぐらい大きな空間が必要なのだとすぐに分かる。

目の前にはエルダーリアで見たものより巨大な【管理球】が地の底より浮かび上がってくるのだ。以前は直径10mほどだったが、今回は20mほどもある。地下の広大な空間いっぱいに巨大な管理球が浮かんだ。

体積にすれば8倍もの違いになる。それだけエルダーリアとレッドではエネルギー量が違うということか。

「じゃあ祐太。行きましょうか?」

管理球に入るために浮かび上がろうとした俺の手を玲香が取った。

「玲香も入るのか?」

「もちろん。前任者は私なのよ。バルガレオルと違って私はまだ生きてるから、2人で入らなきゃ交代はできないわ。強引に勝手に変える方法もあるそうだけど、それをするとエネルギーの流れがかなり乱れて、自然災害などが頻発するわ」

「そんなことになればセラスたちにも気づかれるか」

「そういうこと」

俺と玲香、2人で宙に浮かび上がり、そのまま繋いでいない方の手を差し出すと、手の先から【管理球】の中へと包み込まれていく。完全に体が包み込まれた。だが最初、抵抗されるような、受け入れられていない感覚がした。

しかし玲香の方で管理権限を放棄したのだろう。頭の中にこのレッドの土地の全てが浮かび上がってくる。エネルギーが大陸の隅々にまで行き渡り、今のところ問題なく運営されている姿が可視化された。

広大な土地にたくさんの種族が存在しているのもわかる。モンスターも随分と多種多様なようだ。野良で発生しているダンジョンというものまであるのが分かった。それら全てを感じながら、管理権限を俺へと書き換える。

【レッド主要管理球に申請する。桐山玲香からの譲渡により、支配者の登録変更を行う。レッド大陸、エネルギー支配権第一位を六条祐太に変更】

世界とつながり、その中に完全に自分の名前が刻まれたのが感じられた。そこから桜千に連絡し、管理球の管理を任せる。世界は広い。本当に色々あるようだ。それらをゆっくりと桜千や玲香と相談しながら開発していく。

何もかもが無事に終われば、それは俺の一つの楽しみになりそうだった。さらにレベルの上昇を感じる。クミカともちゃんと分け合った。その結果、クミカと2人でレベル732になる。

一通りの管理球の手続きが終わると、俺は管理球から出てくる。そして管理球の下から玲香が受け取らずにいたコインが落ちてきた。

「……ルビーコイン104枚か」

それが空中に浮かび上がる。52枚ずつにまず分けた。そこからさらにエルダーリアの分も合わせて67枚。玲香が貯めてくれていたゴールドコインと合わせて、クミカと半分に分け合う。

そうしてからコインをマジックボックスに収納すると、

「新しい支配者様、よければ祝いの席を設けたいのですが、受け入れてもらえるでしょうか?」

ヴィオレッタ王妃が言ってきた。テオ王は黙れと言われたのを解除されておらず、何も喋らなかった。すごく喋りたそうな顔をしているが、ヴィオレッタ王妃がしゃべれば十分なので、玲香は喋らせる気がないようだ。

「必要ない。今は混乱を避けたい。引き続き変わったことをせず同じように国を治めてくれたらそれでいい。ただセラスについて分かっていることを全て【意思疎通】で情報として送ってくれ」

「畏まりました。では引き続きテオ王を中心とした。腐敗した政治でよろしいのですね?」

「それでいい。何もかも無事に終わればメスは入れる。それまでは何もしようとしないでくれ」

「了解しました。何もかもが無事に終わることを心より祈っております」

ヴィオレッタ王妃が再び頭を下げてきた。

「玲香。テオ王に俺が今言ったことを守るように、言っておいてくれ」

「了解。テオ王。何一つ変えることなく国を治めなさい。私と彼が今回したことに関しては一切秘密よ。そして言われるまで私たちが、今日、【管理球】に関わったことは外に漏らさないようにしなさい」

「……」

「玲香。しゃべっていいって言わないとダメだぞ」

「ああ、でも、この男の言葉は聞きたくないのよ。私たちが帰ってから喋っていいわ」

玲香って自分の嫌いな人間に対してドSだ。一切餌は与えないという言葉にテオ王の顔が悲しみに歪んだ。それにしても【心換帳】が本当に効果を発揮するとここまですごいんだな。

何気にクミカはこれでもまだ所持しているシルバーの専用アイテムは使ってない。シルバー級の専用アイテムが確か、

【もう一人の私】

というものだ。いわゆるドッペルゲンガーになってくれる人形なのだそうだ。レベルが高いほど使用時間が短くなり、今のクミカで1秒しか使えない。ただ、出現させるもう一人の私は、今の私と全く一緒。

専用装備まで再現してくれるらしい。1秒分だけとはいえ強力なアイテムに違いない。これを使って俺とクミカの2人がかりで一番強い超越者を倒す。それもありかと考えていた。考えながらも、【聖霊殿】から出た。

ヴィオレッタ王妃とテオ王をそれぞれの部屋に送り届ける。そうしてからそのまますぐにガチャを回しに行った。クミカと分けてもルビーコイン67枚、ゴールドコイン250枚を1人で回せることになる。

ゴールドガチャの結果で気になったのは、

【エリクサー】×14

【金星駆動機関】

この2つである。さらにルビーガチャは、

【羅刹の腕輪】

【太陽の魔法結晶】

【災禍の手紙】

【時の移動書・過去編】

の4つが出た。ゴールドガチャはもう出る必要のある専用装備がなくなったせいで、それが全てエリクサーに回ったらしい。エリクサーはどうやらガチャ運がいいとかなり手に入るようだ。そして【金星駆動機関】はヒノエの強化に使える。

「やはりお前にとってガチャが大きな武器だな」

レダが聞いてないのに話してきた。レダを担当している分割思考のもう1人の俺にはよく話しかけてくる。何気に今のところ俺たちのポジションの中で、一番気楽なポジションであり、ここを担当する俺が一番羨ましかったりする。

「まあそうなんだろうな。レダ、【災禍の手紙】だけ聞いてもいい?」

「それは事象への干渉アイテムだ。実を言えば私がその昔、この手で作って、ルルティエラ様に献上したという経緯がある」

「へえ、じゃあそれこそ使い方には詳しいか?」

「もちろん詳しい。これは手紙に相手の不幸を書き記すことができるのだ。そしてそれが必ず現実化する。相手の幸福を願うことはできず、不幸以外は書いても効果が出ないところにセンスを感じるだろう?」

「びっくりするぐらい迷惑な手紙だな。使用条件とかはないのか?」

いくらなんでも強すぎる。例えばセラスに【1分後に死ぬ】と書いてそれが実現するなら、アイテムの性能としてルビー級の枠すら超えると思えた。

「ルビー級が実現可能な範囲でなら大抵の不幸は相手に有効だ。まあ問題があるとすれば、相手が強ければ強いほど不幸が起きても回避してしまう可能性がある。それに相手は手紙を読むことができるから、どんな不幸が起きるのかは事前にわかることになる」

「相手が読まないと絶対発動しないのか?」

「発動しないな」

「気味の悪い手紙だなと思って、読まなかった場合は?」

「発動しないな」

「ダメじゃん……」

思わず顔が曇った。【災禍の手紙】は何と言うか怪しさ満点なのだ。外側は薄い黄色がかった紙で、ところどころに微細なしわや焼け跡のような斑点が散在し、その質感は、どこか冷たく、不安な気持ちにさせられる。

それは怪しい何かが封じ込まれている。強くそう感じさせる。手紙を開くと、内側の紙は濃い赤色をしていて、血のように生々しい色合いであり、見る者に恐怖を確実に与えるデザインだ。

「こんなもの大半のやつは読まずに捨てるだろ」

「残念だがそれは無理だ。1度届いた相手から絶対に離れん。それにお前の大事な娘なら、お前からの手紙はすぐに読むのではないか?」

目の前で怪しく微笑む桃色の神の可愛い女は、とても楽しそうだ。

「伊万里にこんなの使うわけないだろう」

「平和なことを口にするではないか。お前がレベル999になった時点で、その手紙とクミカとお前自身を組み合わせれば、高確率で伊万里を殺せると私は思うぞ」

「そんなことしない。嫌味を言うのはやめろ。でも誰に使うかが難しそうなアイテムだな……」

伊万里を巻き込むわけにはいかない。だから伊万里がそばにいないと分かってる相手に使いたい。だが、聖勇国で伊万里が常にどこにいるのか俺は知らない。それがわからないと使用は難しそうだ。

「あのさ。一応もう1つ聞いておくけど、この【時の移動書・過去編】は未来編とあんまり使用は変わらないのか?」

「そうだな。己が出せるエネルギー分、過去に戻れるというもので間違いない」

「今まで時間を止めるとか未来に対する移動とかだから理解できたが、過去って簡単にいじっていいものなのか?」

純粋にその疑問が湧いた。【明日の手紙】に関してもそれで未来が変わるとなると、かなり大げさな作業が必要になるようだった。例えば100年ほど昔に行ったとして、よく言われるバタフライエフェクトが起きたとしたらどうする。

世界を大きく変える責任を誰が取るというのか。

「良いわけがない。ただ……」

「どうした?」

黙ったので尋ねる。

「聞こえぬか?」

「何か言ったのか?」

「そのつもりだが……」

レダはそのまま何も喋らなくなって、若干気味が悪かった。しかし喋らないものは仕方がないので、俺はとりあえずマジックボックスの中に全てのルビー級アイテムをしまった。