軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十話 Side帝王ロガン、ローレライ

Side帝王ロガン

【天壌無窮の神域】それは絶対神セラス様が住む場所であり、天に浮かぶ大陸だった。今から800年前、1つの大陸が空へと突如として浮かび上がり、そのまま空中に存在するようになったと言われる伝説の大陸である。

それが嘘か本当かは知らないが、今も確かに空を飛び続け場所を定めず、魔法によるものなのかこの巨大な大陸が光を透化し、地上からは直接見ることはできない。俺はその光の迷彩を抜けて空に浮かぶ大陸を見つめた。

「何度見ても奇妙な辛気臭い場所だ。こんな場所でセラス様はなぜ何百年もおられるのか……」

俺はたびたびここに来る。この世界で1つの大陸全てを俺に任せてくださっているセラス様に、可能であるなら毎日会いたいからだ。それなのに神域にはローレライ以外の超越者は、入るために、その都度許可がいる。

そうして入ったところで、美しい白亜の宮殿があるわけでもない。ただ奇妙に平べったい巨大な建物があるだけだ。そこには優雅さも荘厳さも華美さもない。奇妙なほど無機質に感じさせる白くて広大な建物だった。

まあ、よく言えば機能的で、無駄のないデザインで、外壁は清潔感のある白色で統一され、窓は均等に配置されている。いや、やめよう。やはりセラス様の住まいにふさわしくない。人が住むための場所とは思えない。

俺ならこんな場所で住んでるだけで気が滅入りそうだ。それでいて下の世界には存在しない、からくりという生き物が動いている。何でも命令すればただ従い動く人形なのだという。あの不健康そうな男は変なものをよく造る。

どうしてあんな骸骨みたいに痩せた男だけがセラス様のそばにいるのか。俺は今日も納得がいかなかった。

「いや、最近では小さい女までいるんだったな。そういえば黒い服を着たローレライみたいな年寄りもうろついてるとか。セラス様は自分のそばに置くものをもうちょっと考えた方がいい。その点だけは趣味が悪いと言わざるを得ない」

「——今日は何の用ですか?」

この男の顔を見るのも何度目だ。不健康そうな顔をした男が白い聖衣を着ている。【転生】でそうなった。それは分かる。しかしどうしてその姿のままいつもいる。周りが気味悪がると分からないのか、今日も陰鬱な顔だ。

「バルガレオルが死亡したかもしれんぞ」

今日はちゃんと用事があってきたんだと口にした。

「あの炎の塊が死んだ?」

不健康そうな顔の男ローレライの口が一応動いて魔法で声が響いた。普通にしゃべればいい時でもこいつは魔法で喋る変なやつだ。

「珍しい。あなたがちゃんとここに理由があってくるのは何十年ぶりのことでしょう。いつもセラス様の顔を見に来てるだけなのに」

「今日もその目的が一番メインだ。セラス様はいるのか?」

「今、お休み中です」

「では帰る」

最近セラス様はお休みが多い。まさか体調が悪いのだろうか。俺のためにお休みを邪魔するなど考えられない。セラス様がお休み中でなく時間的余裕がある。俺はそういう時だけ、セラス様の顔を見れたら幸せなのだ。

「待ちなさい」

「悪いが俺もこう見えて忙しい。エルダーリアを見てきたいんだよ。本当にあの化け物が死んだのか自分の目で確かめてくる」

「あなたは本当にセラス様のためによく動くのですね。それで毎日ここに来なければ最高なのですが」

「セラス様のご機嫌伺いは臣として決して外せぬ日課だ」

「私がちゃんと居るんですけどね。まあそれよりも、急ぐでしょうから早く聞きましょう。バルガレオルが死んだとはどこからの情報ですか?」

珍しく興味を持って聞いてくる。超越者の人間ならばともかくルビーモンスターが死んだ程度、ローレライ気にも止めないと思っていた。

「1週間ほど前かな。向こうに入れてる間者の定期連絡があった。飛べる冒険者に海を越えて調べに行かせてみたら煉獄獣が死んで、また生き返った。そしてバルガレオルは自分を殺した人間に従った。そんな噂がエルダーリアのド田舎に流れているのをつかんで帰ってきた。少なくとも【蘇生】ができて、あの不死身の化け物を殺せる攻撃力のある超越者がエルダーリアにいるようだぞ」

「……外から来ている探索者というものたちの可能性が高そうですね。その男の名前は?」

「本当だと思っているのか?」

このローレライという男はバカじゃない。多分俺より頭がいい。それなのにこんな話を信じたのか。俺も念のために調べようとは思ったが、死んで生き返ったなどと言い出した時点でかなり胡散臭く感じていた。

「本当でなければあなたここに何をしに来たのですか?」

「セラス様の顔を見に。さっきも言ったはずだ」

「あなたは本当にぶれませんね」

「悪いか?」

「悪いとは言いませんが……いえ、それよりもさっき聞いたでしょう。バルガレオルを殺したという人間、名前だけでも分かっているなら教えなさい」

「本当かどうかわからんような話をして、セラス様の気を揉ませるのも気が引ける。ともかく俺自らが調べてくればわかることだ。お前も気になるなら帰ってきたらちゃんと教えてやろう」

俺は部屋を出ようとした。

「待ちなさい。あなたは相変わらず人の言うことを聞かない」

「待って!」

平べったい白い建物の中にある一応パイプ椅子という無機質な椅子が置いてある質素な部屋。そこに若い女の声が響いた。若い女はさらに続けた。

「ロガン。その話できるだけ詳しく教えて。その男の名前は?」

部屋のドアが開いていて、身長の低い、だが胸はでかい小娘が入ってきた。小娘が着るには重そうで、金ピカの鎧を着ていて、相変わらずド派手な姿をしたチビだ。

「これはこれはイマリ様。相変わらず小さくてどこにいるのか見えませんな。鎧だけが動いているのかと驚きましたぞ」

「つまらないこと言ってないでさっさと言いなさい」

「はあ? 小人のような体から声を出されても聞こえませんなー」

「聞こえてるでしょ!」

1人前に怒ってやがる。何も知らないクソガキが、一度その面を原形がなくなるまでぶっ飛ばしてやりたかった。こんなところでセラス様に守られてふんぞり返っているチビが……。

「確かに聞こえているよ。でもはっきり言おう。俺はお前が嫌いだ。お前の言葉に答えるなんてお断りさせてもらおう。お前みたいなちび女にこの帝王ロガンがなぜ従ってやらねばならん」

「私が国王よ」

「お前の存在全てが気に食わない。どうやったらセラス様がお前みたいな乳臭いガキをこの"聖羅国"の支配者にするんだ? そのでかい胸でセラス様を誘惑したか? いやいやガキすぎて無理だよな?」

ガキが一人前に腹が立ったらしい。腰に差したこれまた金ぴかの剣に手をかけた。だから俺も背中に携えた愛剣バルムンクを抜く。俺と小娘の気合いが高まって、簡素な白い建物に地震のような震えが起こった。

俺は一度このクソガキに誰が上か分からせたかった。

「ロガン。おやめなさい」

ローレライが言ってきた。

「聞けんな。この乳臭いガキが俺より強いなら止めるなよ!?」

「やめろと言いましたよ。やめないならば私が」

「……ローレライ。構わない。ロガン、建物だけ壊さないようにしましょう。外に出なさいよ。でかい男を恥ずかしく泣かせてあげるから」

全く怯えた様子はない。ガキだが気配からしてハリボテではなさそうだ。だがセラス様のあの戦うまでもないというような圧倒的な気配じゃない。この程度なら戦い方次第で勝てる。そう感じさせる時点でお前は失格なんだよ。

ここ数年こんなガキがトップだと言われてイラついていた心が表面化してくる。バルムンクを構えたまま、平べったい建物の俺が入ってきた方角の壁を土の魔法で吹き飛ばした。

「お前みたいなガキがお利口なことを言うから、それだけは聞いてやるよ。表に出ろ。セラス様のお休みの邪魔になる」

「ロガン。私はやめろと言いましたよ」

「聞かないと言っただろうが」

「それでもやめろと言いましたよ」

「しつこい!」

苛立って小娘に向かって一歩踏み出した瞬間だった。剣を振り下ろした先に誰かが入り込む。ローレライが余計なことをするなと思ったが、その姿を見て、慌てて止めようとする。だが、勢いがついて止められない。

振り下ろし、そして途中で止まった。金色の瞳、金色の髪、金色の唇。全てが輝かしいお方。その額に直撃する寸前で止まった。バルムンクがあと1cmでも進んでたら、傷をつけていた。

「お、おお、申し訳ありません!」

俺は慌てて後ろに下がり頭を下げた。あまりにも無礼を働いたことに土下座した。そうだ。ここには神聖なるお方がいるのではないか。俺は腹が立つと一番大事なことも忘れてしまう。それにしてもこれはやりすぎた。

「この命でどうか!」

バルムンクを自分の首に当てた。

「そんな必要はない」

しかしセラス様に止められた。

そう。

金色の美しいお方。

「絶対神セラス様。私のような不敬なものは、死んで当然のこと」

「行けません。あなたはこれからとても役に立ってもらうのです。名前は分かっているのでしょう?」

「名前……?」

何のことかと一瞬考え、先ほどの内容を聞かれていたのだと思い口にした。

「真意のほどに確信は持てないのですが、確か……ユウタ。ユウタ・ロクジョウ。そこの小娘と同じニホンとかいう国から来た蛮族です。それが何やら騒がしいようで、バルガレオルを殺した上に味方にしたと。ですがご安心ください。セラス様が気にするまでもない。ロクジョウなどという輩は、もし存在したとしたら、帝王ロガン自らすぐに始末してきましょう」

だが心の中でバルガレオルを殺したもの。というのは気になった。ほとんど不死身に近い化け物だった。それを殺してさらに生き返らせる。両方できる。本当にもしそんなものがいる。

いや、セラス様も名前を気にしているということは本当……。

言いながらもセラス様の次にチラリと小娘の姿を見た。いつも表情を変えずに澄ました顔をしている小娘だった。それなのに奇妙なほど顔が苦しげになっている。

「何だチビ女。知り合いか?」

「ロガン。この世界の支配者は伊万里様ですよ。ちゃんと敬意を示しなさい」

「……」

こればかりはセラス様に言われても嫌なものは嫌だ。俺はゴキブリでも見つけたというような顔になった。

「私はいい。それよりその名前間違いないの?」

「お前が聞くな。なぜ、お前の聞いたことを俺が答えると思っているのだ? お前は何様だ? 気になるなら自分で調べろボケ」

「ロガン。私はそのものが気になりますよ」

「も、申し訳ございません! このロガンそれ以上の情報がないのです!」

「では今回の非礼はお咎めなしと許しましょう。その代わりに少し遠出をしてその人物を調べてきてくれますか? 報告は私が聞きます。できるだけ急いでください」

「は! 畏まりました! 今日はここに来て良かった。すぐに1分も経たぬ間に調べて帰ってきましょう!」

セラス様から直接何かを頼まれるなど今まで一度もなかった。足繁くここに通う俺でさえ年に一度ローレライから頼み事をされるぐらいだった。それもあまり大きな仕事は任されない。あまりの嬉しさに心が浮き立つ。

早速、事に当たるために俺は自分が破壊した壁から出て、神域から飛び立った。

Sideローレライ

ロガンの飛び立つ姿を見送る。念のために周囲の気配を探るが、この場所に我々以外の誰かがいるわけもなく誰の気配もなかった。それでも昔からの用心深い癖は抜けない。何よりも死神がいつ現れるかわからない。

あの老人だけがイレギュラーだった。

「セラス様。あまり無理をするのは良くない。休んだ方がいい」

伊万里が言った。本当に心配そうだ。

「ええ、伊万里様。迷惑をかけますがよろしくお願いします。それにそんなに心配そうな顔をしないでください。私ももうあと少しのようですから、何とかなるでしょう。肝心な時に役に立たないなどということはないようにしますよ」

彼女はセラスの体を魔法で持ち上げる。きっと長く動き過ぎているのだろう。彼女が支えた瞬間にもう大丈夫だと思ったようで、体がぐったりとした。

「ねえ、こんな調子で本当に大丈夫なの?」

伊万里が聞いてきた。そのままセラス様の体を引き寄せて自分の手でしっかりと抱き上げた。セラス様は結構身長がある。彼女が持ち上げると、かなり奇妙な構図に見えた。

「セラス様が心配ですか?」

「そういうわけじゃないけど……」

「大丈夫ですよ。セラス様は私が彼のために用意した最高傑作なのですから。私がミスなどしないことは、あなたならよくご存知でしょう?」

「……それはそうだけど」

「あなたこそ大丈夫なのですか? いざ、彼が前に来たら泣き出して何もできない。などとなっては困りますよ」

「大丈夫。私はできるから。ちゃんと祐太を……」

最後の言葉を口にすることができず、彼女は黙ってしまった。そんな様子を見て、そうなることは分かっていたと私は笑う。セラス様はあまり外の空気に当てない方がいい。伊万里から私は預かると奥へと歩き出した。

「長かった……」

そう口にしてしまうぐらい長い年月だと感じていた。途中でもう何度も、そんなことしなくてもどうにかなるんじゃないかと諦めかけた。その度に彼の言葉が私の頭の中に響いた。

『なあ——。次は失敗するなよ。ちゃんと俺を——』

君はいつも私に無茶なことばかり言ってきたね。あれから時間がどれほど経った。

「ようやく会えるんだね。大丈夫。私はちゃんとあなたとの約束を果たしますよ……」

セラス様の体を調整槽の中に浮かべる。その様子を見ながらようやく、私の果たせなかった約束を果たす時が来たんだと思った。