軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十一話 家主

「いえ、俺が手に入れたというより、みんなで手に入れたと思ってます。千年郷の主は事情があってこれからも俺が務めなきゃいけないんですが、今まで通り南雲さんが探索者のトップで一番の有力者です」

「そう言っていただけるとほっとします」

山田総理は元から俺の性格は聞いていたと思う。むちゃくちゃ言い出す人間ではないと理解しているようで、俺の答えはわかっていたようだった。それでも探索者の気紛れは怖い。本当に心の底から安堵しているようだ。

「それよりも俺がいなくても、これだけちゃんとこの千年郷を運営してくれたこと本当に嬉しく思います」

「ありがとうございます。六条様が復活されたことは誠に日本にとっての慶事でございます。そして、今後、決して六条様の存在をないがしろにするようなことはないと、誓わせていただきます」

「はは」

こんな初老の人に畏まられて、こちらの方が恐縮してしまう。山田太一。昔から与党の中にいて、ダンジョン肯定派として知られていた。今の日本はおそらく全員ダンジョン肯定派だろうが、ダンジョンが現れた当初はそうではない。

ダンジョンに入ってレベルが上がると人間は化け物になる。比喩抜きの化け物になる。そういう風に信じられていたような時代でも、この人はダンジョンに肯定的だった。今から考えるとかなり先見の明がある人間だと言える。

しかし当時はそれでかなりの変人として扱われていた。さらに政治仲間と一緒にダンジョンの中に入ってレベルを上げたことで、その変人ぶりは揺るがないものとなった。当時はあまりの変人ぶりに、次の選挙では落ちるとすら言われていた。

しかしそこからどんどん世界情勢が変わった。ダンジョン関係の混乱が続き、解散総選挙が行われる前に日本でも大楠でダンジョン崩壊も起きた。それでも日本ではまだ小規模なことだったが、世界では人がモンスターに食べられる。

そんな姿が当たり前のように街中で見られるようになった時である。日本は今まで平和さえ唱えていれば平和でいられると信じていた。それが崩れ去っていく世界を見て、日本でもダンジョンを認めるものが増えていったのだ。

その追い風もあって、俺がダンジョンに入る頃にはこの人が内閣総理大臣だった。それが今も……。

「随分長く務められておられるんですね。苦労したでしょう」

間違いなく歴代最長内閣だ。ここまで長い政権となってくると、いろいろ膿も溜まっていそうだ。

「こんなこと言っては何ですが、あまり長期政権を続けるのは、国にとって良いことではないのです。いい加減変わりたいところなのですが、どうにも跡が頼りなくて」

「どういう風に?」

「その、まあ、六条様や南雲様は抑えてくださるから良いのですが、抑えてくれない探索者の方と話しただけで家に引きこもって出てこない始末で……」

「ああ、なるほど、レベル差による威圧は怖いですからね。それに総理大臣となると、何百年も千年も生きるような人たちと普通に話せることが絶対条件になるんですよね」

やっぱりそれが一番問題なんだ。俺も最初に南雲さんを見た時、これからこの人に殺されるんじゃないかと思うほどビビった。それを考えると山田総理は随分と頑張ってる方だろう。南雲さんが声を出してきた。

「まあさすがにもうそろそろかとは俺も思ってるんだけどな。ぶっちゃけ山田が一番やりやすいんだよ。国民の評判はまだまだ悪いが、探索者の支持率も高いしな」

「最近の世論調査では10区支持率24%です」

「それは10区のことですよね。探索者の支持率は?」

「……68%です」

ということは、よっぽど一般人には好かれにくい政策を決めてるんだ。まあ基本的に大多数が喜ぶ政策って探索者全盛の時代には合わないものばかりだろう。それにクミカ情報では山田総理はレベル43だ。

山田総理は確か当時はレベル13で有名だった。

あれから10年の間にレベルが上げたということか。少しでも探索者とのやり取りで心労が減るように、自分自身でかなり苦労してレベル上げをコツコツと頑張っているのと、別の理由もあるようだ。

《どの道、元気なじいさんだな》

《口では辞めたいと言っていますが、まだまだ若い者には負けない思いも強いようです。多少後ろ暗いこともしているようですが、政治を円滑に進める上で必要な範囲は超えてはいません。このまましばらく任せておいて大丈夫かと》

《了解》

「とにかく頑張ってください」

クミカの見立てでは、このままこの人がトップが一番日本にとっていいようだ。誰でもできるように見えて、一番トップの人だけは本当に代わりが見つかりにくい。特に総理大臣となるとよほど舵取りが上手い人間じゃないと無理だ。

南雲さんとしては山田総理以外だと、一般人の管理が難しくなるし、うまく探索者と調整することができるレベルの低い人間がいない。

《山田は結構運も良いんだよ。もう何回も殺されそうになってるんだけどよ。それも案外うまく切り抜けるんだ》

《ああ、そういう人間っているんですよね》

《でも最近探索者にはまってきてるみたいでよ。探索者として自分を試してみたい思いも強いみたいなんだよな。それはやりたいならならしてやりたい気もするんだが》

《代わりがいないか》

《そういうことだ。そんなやつは全員探索者をやりたがって政治になんて関わろうともしない。そもそも政治に詳しくない。山田みたいなのは本当にレアケースなんだ》

探索者だけは年齢が関係ない。それにレベル100なんかを超えてくると本当にいろんなことができるようになってくる。さらにレベル200を超えてくると空も飛べるようになってくるし、宇宙空間にだって出れるようになってくる。

なまじ南雲さんなんていう本当に何でもできる探索者と接する機会の多い山田総理は、年齢が関係ない探索者という職業を極めてみたい。そう思うようになったとしても理解できた。

「大丈夫ですよ。探索者って死ぬ1年前ぐらいまで元気らしいですよ」

まだ時間はあるぞ的な意味で言った。

「きゅ、99まで元気ですか……」

山田総理は知らなかったのか明らかにがっくりしたような顔をしている。99歳まで総理をやらされると思ったのか。否定しておきたいところだが、ありえないことでもないので下手なことは言えなかった。

「ところで今日呼んだ理由ですが、【千年郷】にはいくつか主がいないと許可されない機能があるようです。桜千」

「はい。そのことなのですが……」

同時に俺の頭の中に管理権限【壱】を所有していないと解放されない【千年郷】の機能について、流れ込んできた。ポーションのことや、千年郷緊急事態における非常警戒モード。そして千年郷拡張システムに関する案内。

それら全てが頭の中に入り込み、桜千の方は俺がさらに話を先に進めるように言うと会話を途切れさせずにそのまま続けた。

「主様、改めて私からお詫びをさせてください。誠に今日まで独断で【千年郷】を運営してきたことをお詫びさせていただきます」

「う、うん?」

感謝しこそすれ怒るわけがないので、顔に戸惑いが浮かんだ。

「実を言えば、本来【千年郷】のシステムは、主様がいなければ、何一つとして動かすことができないものなのです。以前にも申しましたが、それでは主様が私を手に入れた本来の目的に合致しないと思い、創造主様とも相談させてもらい、正式の許可をもらわず運営を続けてまいりました」

「それはもういい。俺がそれで怒らないことはもう分かってるだろ」

「主様が寛大なことはこの桜千しばらくお話しした情報から十分に理解しております。今日ここに来ていただいたのは、ポーションの件もなのですが、正式に指示をいただきたく思いました。そして命令系統を元に戻したいのです」

「命令系統?」

桜千が南雲さんと山田総理を呼んだ上で、こんなことを言ってくるとは思わなかった。それはここまでなんとか日本を沈ませないためにも頑張ってきた南雲さんにも山田総理にも失礼な発言に思えた。

「桜千。それが祐太のアイテムとしての筋なわけだな?」

南雲さんが口にした。

「なるほど。桜千殿にとってはそれが当然なのですね」

山田総理も理解できるようだった。

「はい。私としてはここに住む以上”誰が主か”? それだけは分かっていただきたいのです。あなた方はあくまで主様の慈悲により間借りしているだけだと理解していただきたい」

「お、おい!」

「いい、いい、祐太。桜千は本来お前のアイテムだ。弁財天様が許可をくれてるのも、お前の影響によるところが大きい」

「いや、でも、俺はたまたまここにいるだけみたいなものです。俺がなんにもしてこなかった10年間のことは聞きました。南雲さんがどれだけ大変だったのかもよく知ってる!」

「まあ苦労はしたさ。だがお前がいなかったら、俺は日本を沈ませてたかもしれん。だからいいんだ。それより、祐太、俺たちはここに住んでていいんだな?」

南雲さんが穏やかに見てきた。南雲さん自体はここに住めなくなったからって困ることは一つもないだろう。吉祥天様との縁もある。今の生活を変えずに生きていく方法はいくつも持っているだろう。それでもこう言った。

俺はそのことに結構驚いた。

「南雲さんがそんなこと言うなんて……10年で結構変わった気がします」

「まあずっとこの国を背負わされてきたからな」

「この国のトップは変わらず南雲さんのままです」

「主様私が言いたいことは」

「分かってる。俺のことを考えてるんだとは思う。でも、出しゃばりすぎだ」

「主様は不快に思われるとは思います。でも必要なことだと思うのです」

「だから!」

俺がかなり厳しいことを言おうとした瞬間。

「怒るな祐太。桜千は何ひとつ悪いことは言ってない。実際のところそれが事実だろ。つまり、まあ、お前が【千年郷】の"家主"って事だ」

「家主……」

「一番それがしっくりくる言葉だろう。くく、家主さん、家賃いくらだ?」

「た、タダでいいですよ! こんな広い場所を1人で何に使うんですか。桜千もそれでいいよな!?」

急に驚くことを言い出すから、本当に冷や汗が流れた。桜千なりの忠誠心だったとしても、こういうことは事前に話しておいてほしい。ただ、心の冷静な部分では、こういう話は早い段階でちゃんとしておく方がいい。

そういうことが理解できてしまう自分もいる。そしてまず間違いなく俺に聞いたら、そんな図々しいこと南雲さんに言えるわけがないと先延ばしにしたことも理解できた。

《桜千、これからこういうことはちゃんと先に言えよ》

【主様はこういうことをうやむやにしそうでしたので、私としてはどうしてもはっきりさせたかったのです。申し訳ありません】

こいつなんか短い付き合いなのに俺のことを理解してる。

「この桜千。主様の決定に従うまでです」

「だそうです」

そしてなんだか奇妙な笑い声が聞こえた。

「は、はは、ははハハハ! そうだ! 探索者の世界はこれだから面白い!」

山田総理は桜千の言葉がかなりツボに入ったようだ。レベル43。この辺ぐらいから探索者は段々普通に生きてきた頃と全く違うことができるようになってくる。そして目の前で国の土地を全て所有する人間を見た。

いろんな意味で探索者とはたまらなく魅力的なのだ。俺も色んな問題さえなければ探索者をもっと純粋に楽しんでる。山田総理もそれがたまらなく魅力的に思えてしまうのだ。

「山田総理しっかりなさい。言っておきますが主様や南雲様は特例中の特例です。普通の探索者がそこまで行くのはまず不可能と思っておいた方がいいですよ」

桜千は冷静に口にした。

「お、おお、それはそうだ。失礼。取り乱しました」

「さて、それでなのですが、主様が帰ってくるまで私の機能をいくつか今まで制限してきました。それを正式に許可をいただけることにもなりましたし、その1つを解放しようと思います。南雲様、山田総理、ついてきてください。主様、認証を行ってください」

「ああ、分かった」

以前のように横幅が10mほどある桜の大木。超巨大な桜の傘の下、それから比べれば小ぶりな桜の大木。その佇む木に俺は手を触れさせた。桜の幹が両側に開いていき、以前見たあの時と同じ光景だった。

大木に見えていたのはカモフラージュで、実際は千年郷の制御室としての役割を満載された部屋が開いていく。懐かしい桜の木の香りが制御室に充満していた。俺が中へと入っていく。南雲さんはいつも通りサングラスをかけて気楽そう。

山田総理はこんな場所があったのかと不思議そうにしている。どうやらここだけは本当に主の許可がなければ入れないようだ。中央には意匠の凝った木の台座がある。その上には、以前見た時と同じだった。

俺の頭よりも一回り大きな球体が光を放ちながら浮かび上がっていた。その球体から声が響いた。

【ようこそおいでくださいました我が主。再び会えたこと嬉しく思います。後ろの2人とは直接は初めてですね。私は中央制御端末、桜千弐号です】

「ああ、俺は南雲友禅だ。よろしく頼む」

「私は山田太一というものです。いつもこの素晴らしい——]

【改めての紹介は不要ですよ。私は桜千壱号とほとんどの感覚を共有しています。壱号が見たものは私も見ています】

その言葉に壱号が続けた。

「私と弐号はほぼ一心同体のようなものです」

「分割思考とは違うのか?」

「少し違います。壱号と弐号で翠聖様は別々のものとして創造されました。それはどちらかに何かがあった時、どちらかがその役割を交代しても問題ないようにとのバックアップシステムのようなもの。ですから私と弐号は分割思考というよりも、相互保管システムとも呼べる存在です。まあ私の詳しい説明はいいでしょう。ともかく主様は現在急いでおられるので手早くいきましょう」

「新機能があるとか言ってたな」

南雲さんが聞いた。

「はい。というのも現在日本がアメリカから購入しているポーションがありますね」

桜千が俺の方を見てきて、俺はそのまま桜千に説明を任せると目で合図した。桜千が開放していない機能は他にもある。その中で早くしておかないと無駄に人死にが出る。そう思うものは一つだけだった。

他の機能に関しては緊急性がなく、何よりもするとなれは準備が必要なものが多く、とりあえず保留する方針だ。

「このポーションですが低級ポーション。いわゆるあなたたちが5000万円のポーションとよく口にしているものです。アメリカから購入するために終戦後も随分と高い値段で買わされていますね」

アメリカはそれを外貨獲得の手段としている。そんな情報も頭の中に流れ込んできて、ポーションの需要は日本だけでも年間20兆円規模にも上るようだ。世界を合計すると300兆円ほどのお金が動き、アメリカ経済の稼ぎ頭だった。

そのお金はアメリカの復興資金や経済再生資金としても役立てられ、アメリカの主要産業となっている。そんな状況だった。日本はそのポーションを買い付ける大得意なわけだが、全然足りないのが現状だ。

正直に言ってしまうとこれだけ国民がダンジョンに入るなら、ポーションはあればある分だけ欲しいほどだ。そしてそんな足元を見られて千年郷システムで儲かっているだろうと、他国よりもさらに+2000万円高く買わされている。

「幸い日本は【千年郷】システムのおかげで、資金は潤沢です。吹っ掛けられても他国よりはかなり大量に買い付けることはできているし、国から補助金を出して他国よりも低い値段でポーションが流通している。ですが、できればもう少し欲しい」

そこは安くして欲しいじゃないんだ。山田総理がそんなことを言ったのを見て、よっぽど資金が余ってるんだと思えた。これに桜千が答えた。

「そうでしょうね。そこで、現在50万円になっているポーションや、500万円になっているポーションも含む3種類の低級ポーションですが、【千年郷】では年にかなりのハイペースで作ることが可能です。具体的には5000万円のポーションは年産100万本。500万円のポーションは年産で1000万本。50万円のポーションは年産で1億本製作することが可能です」

「そ、そんなに作れるのですか?」

山田総理が一歩下がった。単純に計算してみても、アメリカから融通してもらえるポーションよりも、7.5倍の規模になる生産量だ。アメリカの年間生産量の半分は行くんじゃないかと思えた。

「【千年郷】は日本の全てを運行しているのですよ。本気になればもっと作れます」

「どうして今まで作……。あ、いや、失礼しました」

山田総理は口にした瞬間、桜千に冷たく見られて文句を言いそうになったのを口の手前でぐっとこらえた。

「山田総理」

「は、はい」

「あなたには理由を話しておきますが、他の人間には適当な当たり障りのない理由を考えておいてください。理由は簡単です。私の機能は主様からの許可がないと制限されるものが、本来かなり多いのですよ。主様が復活された事がこの福音に繋がったと思ってください」

桜千はなんというか主である俺を意地でも上に持って行きたいという気合いを感じる。俺はそこまでガツガツするつもりはないし、南雲さんに申し訳ない気持ちが、先に立ってしまう。

何よりも俺が上に立ったところで日本は治まらないことは目に見えてる。その辺は桜千も分かってるから、知らせるのは南雲さんと山田総理だけにしているのだろうが、本当に愛の重いやつである。

「了解しました。日本の総理としてその点に関しては、十分に配慮させていただきます」

「そうされるのがよろしいかと」

「それで私がこんなことを言うのは僭越かもしれませんし、このようなことが代わりになるとは思いませんが、現在日本政府としては、【千年郷】システムのおかげで資金は潤沢に足りております。それを全て国民に還元すれば、国民が怠け者になるのが目に見えているほどです」

「ふむ、続けてください」

「そこで、日本が買い付ける全ポーションの代金は、全て六条様の口座に振り込まれるということでどうでしょう?」

「え?」

「なるほど、いいでしょう採用しましょう。それが千年郷の家賃代わりにもなるというわけですね。山田総理、あなたはやはりよくわかっていますね。かねてより復興資金が必要とはいえアメリカのふっかけ方には頭に来ていたところです。少し外にも回して思いっきり喧嘩を売ってやりましょう」

「ふふ、それは面白そうですな」

「ただ主様は伊万里様の問題を解決されるまで、自分の復活の公表は待ちたいとお考えのようです。ですから、南雲様、一旦主様のお金を預かっておいてもらってもいいでしょうか?」

「別に今さらちょっとぐらい金が増えても変わらん。その辺は自由にしろ」

南雲さんももはやお金などどうやって使ってもいいかわからないぐらいあるのだろう。全く興味がないようだった。俺としても収入が1億円を超えた時点で、もはや現実感は何もない。ただ何だかいっぱいある感じだった。