軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十七話 支配方法

雷神様に今後の方針を全て話す前に俺は、玲香のところに現れた。彼女の複雑そうな表情を見て言葉に悩む。玲香が居なくなってなかったことだけはほっとしたが、俺たちに言われたことに心の整理がついている様子ではなかった。

「玲香、まだ強くなりたいか?」

俺がそう問いかける。美鈴達が登っていくのに自分は『裏方に回れ』と言われる。俺が同じ立場なら間違いなく嫌だし、俺なら美鈴たちから離れると思う。幸いレベル499だ。どこででも自分の幸せを見つけられる。

無理に上の人たちに付き合う必要はない。そう自分に言い聞かせていなくなると思う。

「いいえ、自分でもわかってるの。私のこの胸のコアには別の99個の魂がある。今まで私はこの子たちに従ってもらってきた。私が強くなって日本の混乱を救える手助けになる。そのことを条件にね」

「うん」

玲香の魂を俺は見る。玲香以外の99の魂が、玲香が登っていくための才能を支えている。命を捧げてまで、誰か1人を強くしたいと死んだ者たちだ。誰もが何とか玲香を支えようとしてくれてる。

「でも、この子たちも苦しいと言ってる。もし、この99の魂たちと共に全員でルビー級になって【転生】なんてしたら博士の言うように体が崩壊するわ。自分でも分かってたのよ」

「無理しなくていいよ」

優しく返した。玲香の心を傷つけたくなかった。

「残念だけどね。私はこれ以上無理だったのよ。だからここにいるわ」

「嫌なら離れても本当にいいんだ」

あえて口にした。

「離れてほしいの?」

「いや、贅沢な言葉だと思うが一緒にいてほしい。玲香と一緒にいるとなんていうか落ち着くんだ」

「じゃあ一緒にいるわ。大丈夫、あなたが思っている以上にルビー級が一夫多妻になるのは今や普通なのよ。それにハーレムの中にルビー級以外の人間がいない方が珍しい。才能は遺伝しにくい。名選手の子供は名選手にならないし、探索者だってそう。妹がルビー級でも私は違う。いい加減それぐらい受け入れられるようになってきたわよ」

「玲香。俺のために生きてくれるか?」

「仕方ないわね。戦闘以外で面倒なことは何でも頼んでいいわよ」

これから玲香を抱きしめたいような気分が高まってくる。しかし、後ろには米崎と雷神様がいて、早くしろ。という雰囲気だ。玲香もそれは十分わかっている。俺は咳払いをして、玲香がこの様子なら大丈夫だろうと話題を変えた。

「玲香、バルガレオルは聖勇国の超越者たちの中で弱くはなかったな?」

青蛙と比べてみると数倍強く感じたバルガレオル。それでも俺が超越者のモンスターと戦った経験は2体目だ。そんな経験で知ったかぶれない。聖勇国にも、ひょっとするとヨルムンガンドクラスの化け物もいるかもしれない。

「弱い? いえ、バルガレオルはとてつもなくタフだから、戦って殺すことはレベル900以上でもかなり難しかったみたい。実際南雲もバルガレオルのことは『レベル499で倒すなら協力者がいる』って言ってたわ。つまり、少なくとも私が今支配しているレッドにいた超越者たちよりは強かったってことよ」

「ルビー級って同じレベルの中でもかなり幅があるからな。その辺が不安だったんだが、やっぱり全面戦争でいけそうだな」

「どういうこと?」

「うちのパーティーにレベル680以下の人間は玲香だけだ。そう考えるとうちのパーティーメンバーはここにいるルビー級と全員死なずに戦えると思うんだ」

「バルガレオルを倒せるあなたが基準で考えていいの? 言っておくけどあなたに同レベル帯で、勝てる探索者なんて私の知ってる限りいないわよ」

「そんなことないだろう」

「あるわよ」

玲香が真顔で言ってくる。俺は別に学校の頃から喧嘩に強かったわけでも、元が格闘家だったわけでもない。純粋にダンジョンの中に強くなっただけだ。それ以前に武道嗜んでいた人も多いだろうし、負ける相手はいると思った。

「何を考えてるのか想像つくけど、あなたの探索者としての才能は、日本にいるほとんどのルビー級の探索者が嫉妬したほどよ。そのあなたを基準に考えてるとパーティー仲間を死なせるから気をつけなさいよ」

「言いたいことはわかるが、俺のパーティーメンバー全員をここに入れて、同時多発的に戦いを起こす。そして一気にレベルを上げる。その方針は変えるつもりはないぞ」

「悪くはない考えだと思うし、反対はしないけど、方法は考えた方がいいと言ってるだけよ。個人的には各個撃破より、全員で固まっている方が良くない?」

「「「ダメだ」」」

俺と米崎と雷神様。3人同時に口にした。

「ど、どうして?」

「その辺が君がなかなか強くなれなかった原因でもあるよ。君はちょっと臆病が過ぎるんだよ」

米崎が口にして俺が続けた。

「玲香、それはみんなで一緒にして安心したいだけだ。おそらく予感なんだが、それだと向こうもトータル戦力で挑んでくる。そうなるとレベル差がもろに出る。そもそも一箇所にそれほどの超越者が集まったら聖勇国自体が崩壊しかねない」

「ああ、そうか……」

「俺の考えでいけば、各地で勝利できたパーティー仲間の手に入れた【管理球】を俺が掌握すれば、俺のレベルがどんどん上がっていく。俺のレベルが上がれば召喚獣としてここに入ってきた仲間のレベルはそのたびに上がっていく。このスピード感ならいけると思わないか?」

俺が玲香の目を見た。

「それは確かに。クエストならあまり理不尽な強さの違いがある行為はできないけど、ゴールドエリアの実質は侵略戦争。向こうは侵略戦争に対して理不尽な戦力を揃えて一気に叩き潰しに来る。ゴールドエリアでは本来そういう理不尽な状況に対して、覆してそれでも勝つ知恵が求められる」

「だから俺はそれを時間だと思った。そして幸い俺はそれを最大限に短くする戦力にあてがある。ゴールドエリアは普通にやればかなり時間がかかる。でも戦力があるなら、時間が短ければ短いほど成功率は高いし、俺が伊万里に接触されたとしても、かなりの高レベルで戦える」

「あなただけが美味しい話。みんな納得できるかしら?」

「そこは俺の人望次第」

そうつぶやくと今度は雷神様を見た。

「雷神様も超越者に勝って【管理球】を手に入れた場合。俺に譲ってもらうことになります。それでも構いませんか?」

「お前は私に働かせて”自分だけがもらいたい”わけだな?」

「無理強いをするつもりはありませんが嫌ですか?」

雷神様にとっても悪い話ではないはず。雷神様の目的は、どうしても超えられないレベル1000の壁を超えること。俺に期待しているのは、サファイア級になるきっかけである。それさえ与えられればいいのだ。

「召喚獣なのだ。好きに使え。我の目的に反しない限り逆らいはせん」

「良かった。玲香もレッド州の支配者の交代を了承してくれるか?」

「いいわ。雷神様の言葉じゃないけど、私の目的はあなたの裏方だもの。でもレベルが上がりきって999になったとして、結局伊万里を殺せないあなたはどうするの?」

一番の問題。俺自身のことを玲香が聞いてきた。

「その時、考える。と言いたいところだが、さすがにちょっとは考えてるんだ。他人任せにはなるが、俺が伊万里を殺せないことは、白蓮様が理解してくれているみたいに思える。南雲さんに伝えた内容からもそう思えるんだ。それなら俺が伊万里のことで行き詰まれば、接触してくれないかなと期待してる」

「白蓮様……南雲に声をかけた偉い神様よね」

「ああ、そうだ」

「もしその接触がなかったら?」

「もしそれがなかったら、なんとか伊万里を拘束して聖勇国から連れ出す。そうすれば聖勇国の支配者は俺になる。その状態で聖勇国を鳳凰国にする。そうすれば俺が許可すればいくらでも上のレベルの人間をこの国の中に入れられる」

「もしかしてそれで全力状態の南雲を呼ぶの?」

「違う。そんなことで南雲さんを連れ出したりしないよ。あの人は日本の要なんだ。個人的な用事で呼んでいい人じゃない。大丈夫、サファイア級で最強の探索者にここに来てもらうさ」

「それは誰?」

「さあ誰かな。ともかくその探索者に協力してもらってセラスを殺してみる。セラスはおそらく機械神にとっても重要なコマのはずだ。殺されたら何かが動く」

「セラスを殺す?」

「やるなら徹底的に行かないと意味がないだろう」

「そりゃそうだけど、相手は真性の神かもしれないのよ」

玲香が呆れていた。だがこれには伊万里が関わっているのだ。セラスとローレライと死神。この3人はことごとく許す気がなかった。

「理解してるつもりだ。それでもやらなきゃいけない」

「博士はいいんですか? 今の話だと博士も超越者とサシで戦わなきゃいけなくなるじゃないですか?」

「玲香君の心配通り、僕は臆病だから若干の心配事は抱えることになるね。ただそれでも六条君が求めるなら、いつも通り準備して敵を叩き潰すまでだ」

骸骨の顔で呟く米崎。骸骨の眼窩が赤く光る。米崎の戦い方には興味があった。米崎はやるとなれば徹底している。雷神様と米崎と千代さん。ここに俺も入れて4人で確実に早い段階で超越者に勝つ。

そうすればもうこちらのレベルはかなり高くなる。俺のレベルが800に近づけば、全員相当自由に動けるようになるはず。だからこそ急ぐ。分かってしまえば対抗策を取る方法がある作戦である。その動きをされる前に決着をつける。

「まあ私はサポートに回ると決めたんだからあなたに従うだけだけど、せっかく私が裏方に下がる覚悟を決めた直後に死なないでね。それと、そういうことなら、先にやっておいた方がいいと思うことがあるわ」

玲香が言ってきた。

「うん?」

「ガチャコインだけどまだ増えるわよ」

「レッド州の分か?」

「ええ、そう。と言っても支配者交代をしたらガチャコインって出てくるものじゃないのよ。モンスターはガチャを回さないからさっきみたいに出てくるけど、私がその都度回収していたりすると、支配者が交代してもガチャコインはないの」

「それは仕方ない。玲香だってガチャは回したかっただろうし」

何よりも妹の方はあんなにガチャが好きなのだ。

「いいえ、遠回しな言い方になるけど、私はガチャコインは回収してないわ。ガチャコインは必要とする人のレベルに応じて、その階級のガチャコインが出てくる。私が回収してたら全部ゴールドコインになっちゃうの。だから一気に出てくる分は回収してなかったの」

「それで良かったのか?」

「いいの。期待してていいわよ。レッドは結構広い。エルダーリアよりも都会よ。人も多くてエネルギーも大きい。だから【管理球】からルビーコイン100枚は出てくると思う。それと毎年出てくる分の余剰分は回収しておかないともったいないから回収してた。それが10年間でゴールドコイン500枚になるわ。それも渡す」

「クミカと分けてルビーコイン50枚。ゴールドコイン250枚か本当にいいんだな?」

探索者にとってガチャコインほど大事なものはない。これがなければどんな探索者でも先に進めなくなる。だから俺でも必ずクミカと半分にする。これだけはクミカが俺に譲ろうとしても変えられない。

雷神様たちも欲しいだろうが、それよりも俺のレベルが上がった方がいいから我慢してくれてる。そういう理由もなしで、パーティーで誰かがガチャコインを独占すれば、それはもうパーティー継続が不可能なほどの亀裂になる。

「馬鹿にされるかもしれないから言いたくなかったのだけど、正直言うとね。私には専用装備がないのよ」

「専用装備がない?」

その言葉に驚いて目を瞬いた。

「ええ、きっとたくさんの魂が混じりすぎてるのね。色んな可能性がありすぎて専用装備が出てこない。だから本当にいいの。だってレベルが上がっても専用装備はないんだもの」

「そ、そんな状態でよくここまで来れたな……」

むしろその言葉に驚いた。玲香は俺のことを無茶だと言うが、自分だって無茶じゃないか。99の魂を抱えて自分の体が崩壊する。その可能性だってあっただろうに、よく頑張ってこれたものである。

俺のためだろうか? いや、自惚れるのはやめておこう。でも玲香を大事にしなきゃなとは思う。弁財天に玲香。恋人と再開していくたびに等しく大事に思える。それが俺の欲深さかとも思えた。

「私はかなり運が良かった。あなたと南雲というダンジョンから好かれたものが、かなりレベル上げを手伝ってくれたもの。けど、誰かにすがらないと上に行けなくなってる自分が嫌だった。私はもっと早くこうするべきだったのかもね」

「もしそうしてたら、俺はシルバーからやるしかなかった。そうなればここの情報もほとんどない。セラスと伊万里に完全支配されている聖勇国で今頃行き詰まってる可能性が高い。それに玲香のせいで、南雲さんという探索者として超優秀な人が入ってきて、セラスは結構困ったと思うぞ」

「あら、少しは役立った?」

ちょっと泣きそうになっていた玲香が笑う。

「とてもな」

そう言うと先ほどもやった話の続きをする気はなかった。玲香ももう慰めてほしそうではなかった。

「米崎、一緒に来てくれ」

話題を変えて歩き出した。

「了解」

「雷神様。少し外にいた"彼女"と話してきます」

「分かった」

「玲香。桜千が煉獄迷宮のダンジョン製作を始めている。思考分割した俺もいるから一緒にやってくれ」

「了解」

思考分割して桜千とダンジョン製作を話し合っていた俺を【意思疎通】で、今度はそちらの俺と玲香を繋げる。米崎とクミカもまだ表に出たままで後ろをついて歩き出した。

「米崎、"彼女"の位置の把握はできてるな?」

「もちろん。ついてきてくれ」

俺が言っている彼女とは誰のことかといえば灰燼ラフォーネのことだ。未だに向こうからの接触がない。そのことが気にかかっていた。あまり考えたくはないが、セラスの部下で、すでにセラスに連絡をしに行こうとしている。

その可能性は完全否定できない。ただそれなら監視していた米崎が止めるはず。何よりも米崎と話す限り、米崎はセラスと内通している可能性は低いと考えているらしく、先に立って歩いてくれた。

森の中に米崎が足を踏み入れた。この辺はバルガレオルの影響が少なかったのだろう。雪が溶けておらず足を踏むたびにシャリッと音が鳴る。その心地よい音を聞きながら米崎に話しかけた。

「まるでスパイ映画みたいだ」

「その意見に賛成だよ」

もう癖のように【機密保持】で話している。感覚器官まで性能が上がりすぎる探索者は、互いに声を拾われないように警戒するのが日常だ。

「スパイは成功した?」

「ああ、君がバルガレオルと戦う前に、僕は君に言われた通りラフォーネと接触した。まあ接触したけど向こうは気づいてなかったな。だからマークだけつけておいた。彼女の下に幽霊ゾンビを埋めてある。不透明だが物質をすり抜けられるし、気配がゼロに近いから、彼女にずっとついているんだ」

「お前ホラーみたいなことするなよ」

「その注文は難しい。僕の能力はほぼホラーみたいな能力だからね」

「びっくりするから俺にはしないでくれよ」

割と本気で言った俺の言葉を米崎は無視した。そんなことはどうでもいいと、米崎はラフォーネと接触した様子を映像付きでそのまま俺の頭の中に送ってきた。