作品タイトル不明
第三百四十五話 からくり進化
「とりあえずガチャの結果を知りたい。聞いてもいいかい?」
米崎が挨拶もせずに言ってきた。
「相変わらず話を先々進めるな……」
「良い"材料"が出てきた?」
「かなり出てきた。自分の魔法も【自動人形】というものが生えてな。からくり族を造るのに適した魔法らしいんだけど、米崎に聞いてからの方がいいと思った。まだ何もガチャから出てきたものには手をつけてない」
探索者として最も長い時間一緒にいた男である。大体考えていることはわかった。それに六条屋敷に戻ってきた時、最初に見たヒノエの姿からも想像がついた。この男はきっとヒノエを弄りたいのだ。
「そういう素直に僕に頼ってくれるところ、いいね」
俺は苦笑しながらも、米崎の表情から、早く出せと言いたそうな気持ちが伝わってきた。俺はマジックボックスを空中に出現させる。そこから【金星】シリーズと【太陽】シリーズを取り出した。
【太陽石】
【太陽の粘土】
【金星の頭脳】
【金星の魔法機】
【金星の糸】
【金星の魔玉】
【金星の気玉】
【金星の粘土】
それぞれの材料を広げてみると、米崎はじっと見つめていた。
「1つ提案がある」
それを見た感想も言わずに話を進める。そもそも今の俺の見た目は絶世の美少女だと思うが、気にも止めてないところも、相変わらずの米崎だ。それでも俺の答えは決まっていた。
「提案を聞こう」
「僕のからくり族ヒノエには金星シリーズを4つ使用している。【金星のスキル機】【金星の粘土】【ヒヒイロカネ】【金星の糸】だ。ヒヒイロカネだけ伝説上の鉱物だけど、金星シリーズには違いない。この4つと更にもう一つ【太陽の魔法機】が僕の10年間のガチャの成果だ」
「ああ」
「今君が見せてくれたアイテムの中に【金星のスキル機】と【ヒヒイロカネ】。そして僕の虎の子【太陽の魔法機】が存在しなかった。だから君のこのアイテムたちと僕のダブっていない3つのアイテム。それらを合わせて君を主と指名し直してヒノエを造り直したい。どうだろう?」
「ああ、造り直すのはそれで構わない。だがヒノエの主は米崎なんだろう?」
俺はヒノエに向かって確認する。
「はい。そうなります」
いくらなんでもこの世に存在しなかった俺を主にしておいてくれる。なんてことはやりようがないだろう。
「じゃあ、主は米崎のままでいい」
「なぜ?」
「なぜじゃない。そうしないと処分しなきゃいけなくなるだろう?」
「どうしてそれを……」
「桜千だ」
「そうか……。僕は別に彼女が死んでもいいと思ってるんだけどね。死ぬと言っても頭脳だけだ」
「俺が嫌だよ。人殺しはできれば自分が納得できる相手だけにしたい。だからお前が主でいい」
「ふむ……。君は結構、偽善的なところがあるからね。そういうところもあるんだろう。でも僕がヒノエを私利私欲に使うとは思わないかい?」
米崎が少し疑いの眼差しを向ける。
「いつものことだ。米崎、俺はいつもギリギリのクエストばかりだ。次は伊万里を殺さなきゃいけない可能性だってある。でも絶対に殺せないと思う。だから、その上で生き延びる可能性を一つでも上げるには、一緒に動く仲間がちょっとでも強い必要がある」
「僕が君に逆らえばヒノエの主が誰かなんて以前の問題か」
「それに、この10年でお前が変わってなかったら、裏切らないだろ」
俺は自信を持って答えた。俺は少なくとも短い間ではあるが一緒にいた米崎との時間を信じていた。
「君はそういうところが相変わらず思い切りがいい」
米崎はその瞳がどこか懐かしいものでも見ているようだった。米崎らしくもなくしばらく考えていた。俺はその間黙っていた。しかし米崎はそれほど待たせなかった。
「……僕を信じる。それで了承しよう、ヒノエ」
「はい」
つい先ほどまで自分が消されるかもしれなかったヒノエが動揺した様子もなく応じる。
「服が邪魔だ」
米崎は口にした。
「畏まりました」
ヒノエが答えると、現代風にアレンジされた和装が一つ一つ脱ぎ落とされていく。全ての服を脱ぎ終わると、ヒノエは生まれたての姿となり、それでも機械的な見た目を残していた。
「クミカ。協力できるな?」
俺は影から現れたクミカに尋ねた。
「もちろんです」
クミカが姿を表すと、米崎に微笑みかけた。クミカは米崎に救われた。だから俺が米崎を信用する以上に、信用しているだろう。
「ふむ。この3人ならかなり良いものができる。クミカ君は三精霊を使えるね?」
「はい」
「じゃあ、それをヒノエに宿らせてくれるかな。それと製造過程で【鑑定】を使って常に状況把握を頼むよ。それを僕の方にも送ってほしい。あと鳳凰の六条君は炎の精霊にとても好かれやすい。まあ魔法とスキルが優秀すぎて精霊まで手を出す必要はなかなかないだろうが、今回は使ってもらえるかな?」
「今すぐヒノエを造り直すのか?」
「これだけ材料が揃っていると面倒な工程は飛ばせる。それに時間をかけたところで大して変わらない。それなら早い方がいいだろう。微調整は後でする」
からくり族を造ったことなどない。自分の義体は何度も造ったことがあるが、今回は自分で意思を持って自立するからくり族である。何気に心の準備とかをさせてほしかった。
「必要なことは僕の頭の中にもう全部ある。心配はいらない」
「そりゃお前は大丈夫だろうけど、俺は何をしていいかもわからないぞ。炎の精霊だけでいいのか?」
炎の精霊が俺に従ってくれるのはわかる。自分のそばにいる気性の荒い炎の精霊が、俺が全然命令してくれないからちょっと寂しそうにしているのがわかった。何か指示されるなら嬉しくて仕方なさそうだ。
「追加で君は【自動人形】を唱えてくれればいいよ。それって僕は持ってない魔法で結構便利がいいんだ。その状態で頭の中に僕が呪文を直接送り込むから、3人でそれを唱えて心を合わせる。加えて僕は【超技巧】と【超頭脳】という2つのスキルがある。この2つを使って君たちへ常に指示を出し続ける。さて始めよう」
「ちょ、ちょっと待て。心の準備が!」
「何もない広い場所がある。そっちに行こう」
言葉にした瞬間、米崎は自分の向かう位置情報を送ってくれた。自分自身はさっさとヒノエと共にその場から消えてしまった。
「あいつ人の言うことを聞くっていう言葉が辞書にないのか?」
仕方なく俺もクミカを連れて、そちらへと【転移】で移動した。目の前が急に明るくなると、次の瞬間、着地する。
水の音がした。
どうやら桃源郷の外海へと【転移】したようだ。どこまでも続く青い海が広がっており、空は高く、雲一つない晴天が広がり、太陽がまぶしく輝いていた。その光は、海面に反射してきらきらと瞬き、眩しいと感じた。
少し離れた場所に米崎とヒノエがいて、俺たちもその横についた。それぞれの材料がヒノエの足元の海面に置かれていた。全てのアイテムは光に包まれ、海面を少し離れて浮かんでいた。
「では」
米崎の姿が不意に変化していく。彼は骸骨の姿をしており、白い僧衣をまとっていた。その僧衣は、純白であり、どこか神秘的な輝きを放っていた。光が当たるたび、僧衣の繊維が微かに光り、まるで星空のように瞬いていた。
その姿は、まるで死者の国から送り込まれた使者のようだ。骸骨の顔は無表情だが、どこか知恵と経験の深さを感じさせ、見る者に圧倒的な存在感を与える。その姿こそが聞いていた死霊王に違いなかった。
《リンクさせる》
死霊王が言い、俺たちの間に【意思疎通】が繋がった。裸のヒノエを中心に精緻な模様が描かれた魔法陣が大きく広がっていた。周囲には、青い海が広がり、魔法陣は、淡い黄色の光を放ちながら、周囲の空気を震わせている。
異界からの力がこの場所に集まるようだった。魔法陣の中心には、ヒノエが静かに立っていた。周りを取り囲むように、神秘的なシンボルが描かれ、俺たち3人の手によって、魔法の力が増幅されているように感じられた。
《いいよ》
《了解》
【自動人形】
静かに心の中で唱え、手をかざした。すると、魔法陣は一層強い光を放ち、生きているかのように脈動を始めた。光の帯が手から伸び、魔法陣のシンボルをなぞるように走り抜け、周囲の空気を震わせる。
魔法陣の外側で、光が渦を巻き、別の次元への扉が開かれるかのようなエネルギーが満ちていく。魔法の言葉が頭の中に、3人同時に浮かび上がった。
【【【火の精よ 燃え盛る力を与え
水の精よ 流れる命を宿せ
光の精よ 輝きを放ち
闇の精よ 深淵の静けさをもたらせ
我は精霊の主 炎の帝王
死者の王 全てを司る者
従い描け 至高なる体を
新たなる存在を生み出せ紡げ!!!】】】
四つの精霊が次第に集まってきた。精霊たちはそれぞれ異なる色を持ち、その姿は流動的で、形を定めることができない。まるで生きている水のように、美しく、そして神秘的だった。最初に姿を現したのは、青い水の精霊。
彼女は、波のような動きで周囲を取り囲み、透明な雫を舞い上げながら、柔らかな声で歌う。彼女の存在は、感受性と共感を与え、自動人形の心に流れる感情を宿らせる。次に、燃えるような赤い炎の精霊が舞い降りた。
火の竜をかたどった姿をした彼は、鮮やかな火花を散らしながら、力強さと破壊を象徴する存在として自動人形に近づく。炎の精霊がヒノエの周囲を囲むと、温かさが増し、ヒノエの内なる力が目覚めるような感覚が広がるのがわかる。
さらに白い光の精霊が現れた。神秘的な光を放ちながら、まるで太陽の光が大地を照らすように、自動人形に明るさと命の息吹を与えた。光の精霊がその周囲を包み込むと、ヒノエの中に新たな視点や理解が芽生え輝き始めた。
最後に最も力のある闇の精霊が姿を現した。形は不定形で、影のように流動的に変わり続けた。漆黒の霧が渦巻き、周囲には冷たい空気が漂い、まるで温度が急激に下がるかのような感覚を引き起こした。
そしてはっきりとした反発の意思を宿す。生意気なやつだ。こいつ逆らう気だ。瞬間クミカが俺の前で恥をかかされたことに怒る。
《この私の力が一瞬でも祐太様に逆らうことなど許さん!!!》
クミカの普段穏やかな心がマグマのように燃えたぎったのがわかった。
【従え 逆らうことは許さん!!!】
クミカの眼帯が取れて闇の色に光り輝くと、はっきりと分かる。これに従わなかったら闇の精霊は握り潰される。闇の精霊が慌てて頭を垂れた。そしてヒノエの体に静寂と深遠を与える大きな力が宿るのがわかった。
【【【太陽の意思を宿し
新しき命 目覚めよ
この機械に命の息吹を
永遠の光と共に 今 至高なるカラクリを創造せよ!!!】】】
俺たちの声が重なり合い、まるで一つの大きな力が生まれるようだった。その瞬間、ヒノエの体が燃え上がり、光り輝く水が混じり、周囲の空気が震える。闇がその全てを包み込み、まるで世界が変わるかのような感覚がした。
ガチャから出てきた貴重なアイテムを材料に、全てが造り替えられていく。ヒノエの機械的だった姿が、徐々に本物の人間のような形に変わっていく。カメラのようだった瞳は金色の瞳になり、髪の毛は燃え上がるような赤色に染まった。
自然と服が形成され、身にまとっていく。空中に浮かんでいたヒノエがゆっくりと地面に降りてくる。最初に目を向けたのは米崎だった。
「博士、ありがとうございます。おかげで強くなることができました。そしてお二人にもお世話になりました。失礼なことではありますが、お2人を私の第2位の主と定めさせていただきます」
彼女は俺たちにもぺこりと頭を下げた。その姿を見て、俺はやれるだけの戦力強化が本当に終わったんだと実感した。
「米崎。このまままず俺の所属するシルバーエリアに行く。いいな?」
「準備は十分にできてる」
いつのまにか死霊王の姿からいつもの背中の曲がった人に戻った米崎が返すと、そのまま今先ほどグレードアップさせた赤城型ヒノエとともに、俺の影の中に入り込んでしまった。
《おい、勝手に入るなよ》
《君の影の中は労力をかけずに移動するのに便利だね》
《人を無人タクシーみたいに言うんじゃない》
《僕は基本的にこの中でゆっくりさせてもらおうかな。結構広いし、ここで研究に没頭するのもいい。用事がある時だけ呼んでくれたまえ》
勝手に言い放ち、米崎は俺の影の中にある空間をさらに広げてしまう。人見知りの激しいクミカもいるのになんてことをするのか。
《何する気だ?》
《からくり族であるヒノエには僕がステータスを作ってあげなきゃいけないんだよ。そのための能力測定をするんだ》
本当に不思議な表現になるが影の中に空間を作って光で照らして明るくし、本当に台座の上に寝かせたヒノエの能力測定から始めていた。
《それ、必要なのか?》
《とても大事だね。からくり族であるヒノエには、ダンジョンから得られる補助が何もない。だからこちらで能力測定をしないと、どれぐらいの実力になったのか何もわからないことになってしまう》
《へえ》
もうちょっと文句を言おうと思ったのに興味の方が勝ってしまった。そうしている間にもシャルティーと切江も六条屋敷から少し離れた場所で合流して、空へ飛び出した。転移駅を利用して本洲に戻ってくる。
《うんうん、やはり、ルビー級のアイテムの効果が強いね。HPと力と魔力が2万近くある》
《え!? それ、俺より高くない!?》
《だが、もったいないことに金星アイテムとの力関係が悪いね。他のステータスとは1万以上の開きがある。これだとどれだけ力があっても全力で殴れば体が壊れちゃうね》
《どうするのがいいんだ?》
《君のガチャ運頼みだね。ヒノエのようなユニーク型が性能を上げるにはどうしても良いアイテムが必要になる》
それはわかってる。だが、ふと疑問がわいた。
《この世界ってさ。ガチャ以外にいいアイテムを手に入れる方法ってないの?》
《あるよ。それぞれのエリアではそれと同じ等級のアイテムが掘り出せる場所が必ずあると言われてる。クエストによってはそれが手に入れられるんだ。まあ君は特殊クエストばっかりで、そんなの全然やってないから知らないだろうけどね》
《俺、ダンジョンを楽しめてないな……》
《呑気にダンジョンを楽しんでる間に死んでしまうから仕方ないね。まあクエストを受けたりして探してる時間のない君だと、ドワーフ島に行けばルビー級のアイテムが製造されるらしいから、そこから購入するのも手だね》
《高そうだな……どれぐらい払えばいいんだ?》
《アイテムによって値段は全く違うけど、ルビー級アイテムともなるとまともな方法で購入するのは現実的ではないね》
《だよなー》
ガチャ運最強と言われる俺でも、さすがにルビー級アイテムを買えるほどの資金を用意できる自信はない。そもそも自分がどれぐらいの金持ちなのかもよくわからない。この時点で俺は米崎が自分の影の中にいることへの文句も消えていた。
俺は米崎と話しながらも、ダンジョンゲートをくぐって千年郷に戻ると炎の翼を羽ばたかせ空を飛んだ。空気が澄んでいて、周囲の風景が一層鮮明に映し出される。シルバーエリアの入り口があるのは6区だ。
その中でも池袋のダンジョンゲートが割り振られているエリアへと向かう。10年前の当初から同心円状に土地を造ったらしいが、区と区の間にはお堀のような海が作られていた。同心円状だと中心部に海がなくなる。
それをルビー級のとある探索者が嫌がったらしい。そのせいでわざわざ陸を移動させ海が造られた。
《あらゆる生態系を再現しており、内側の区ほど海の面積は広くなっております》
《ふーん、頑張ったんだな》
《お褒めいただけて嬉しく思います》
千年郷に入るとすぐに桜千が【意思疎通】でどんな用事かと話しかけてきた。そして千年郷についてわからないことがあるとすぐに教えてくれた。