作品タイトル不明
第三百四十三話 ルビー級アイテム
「こ、これは……」
「ふむ、【ルビーの果実】だな」
目の前に現れたのは、まるでルビーのように美しく輝く果実だった。見た目も華やかで、可食部分がすでに盛り付けられている。その光景は、心を引きつけるものがあった。こんなに目を引くものが出るなんて、正直期待が膨らんでしまった。
「なんかよさげだけど果実か……」
だが、心のどこかでがっかりしてしまった自分がいた。外れではないけれど、外れに近いというか。少しだけステータスが上がるなら、それよりも専用装備が出てほしいと思ってしまう。
「阿呆、ルビーカプセルに外れなどないぞ」
「いや、でもさ。正直微妙だな。ステータスがちょっと上がるより、できれば専用装備が出てほしかったな」
「お前は【ルビーの果実】の価値がよくわかっていないようだな。【ルビーの果実】はそもそも名称が違うだろう。素早さの果実や、力の果実ではなく、【ルビーの果実】だ」
「ルビー級がそのまま名前になってる?」
「そうだ。ルビー級のガチャから出てくる果実は1つしかない。そしてその効果は全主要ステータスであるHP、MP、SP、力、素早さ、防御、器用、魔力、気力、知力の10ステータスが+1000だ」
「ファ!?」
思わず変な声を上げてしまった。まさかそんなにステータスが上がるとは思ってもみなかったのだ。その驚きは、まるで心臓が跳ね上がるような感覚を伴っていた。
「ま、マジ!?」
「嘘をついてどうする。食べてみろ」
「なんか食べるのもったいない」
とはいえ、食べなければステータスは上がらない。俺はありがたさに拝みながら、真っ赤な血のような光沢を持つ芸術品にも見えた【ルビーの果実】を手に取った。まるでりんごの一切れのように切り分けられたそれを口に含む。
瞬間、天にも登るような美味しさが広がった。甘くてシャリッとした食感、口の中に爽やかさが広がる。すると体が輝き出し、ひときわ赤く強く光る。力がみなぎっていく感覚がした。
全ステータス+1000ということは、今の上がり幅から考えて、レベル65上がったようなものだ。今まで感じたことのないほどの力が、俺の中で渦巻いている。これって実質的にはレベル715のステータスになったということだ。
考えてみれば、他のゴールドの果実もまだ開けていないカプセルの中にあることを考えると、それらも全て合わせれば、本当にレベル80ぐらい上がったことになる。これは大きな変化だ。かなり大きい。
全ての果実を合わせると、ステータス的にはレベル730ぐらいになるかもしれない。鳳凰という種族も考慮すると、普通のレベル800ぐらいの人なら互角に戦えるかもしれない。
「普通のレベル800ぐらいと戦えるんじゃないか?」
「普通のレベル800などおらん。レベル800を超えるようなものは才能豊かな者だけだ。そのことを加味すると、今現在の状態で戦えるのはレベル750までだろうな。忘れるなよ。向こうもガチャを回しているのだということを」
「そ、そうだった。みんな回してるんだった。でも一番問題の伊万里ってガチャ運普通だぞ」
「とはいえ999であろう。ガチャ運がいくら普通でもレベル999であればガチャ運6になるものが多い。その場合のルビー級アイテムの排出率が60分の1だと言われている。レベル999まで到達していることを考えるとお前がいくら破格にルビーコインを急激に手に入れたと考えても、向こうは10年の間にその3倍は手に入れてると考えるべきだ」
「ってことは持ってるアイテム的には俺とあんまり変わらない……」
「そこはお前がガチャ運最強なところだ。おそらくルビーコインが向こうに255枚ほどあったと考えれば、ルビーアイテムはお前と同じく4つとなるところだが、通常のガチャ運だとガチャ運6になるのはレベル900である時が多い。この場合200枚ほどはガチャ運5で回した可能性が高いからルビー級アイテムは二つの可能性が大きい。ルビーガチャになるとゴールドカプセルの排出率が上がることを考えると、ゴールドの専用装備は完全とはいかなくてもかなり揃えているといった感じだ」
「そ、そうか……」
だとするとやはり俺はガチャによってかなりレベル差を埋められている。とはいえ、真勇者の方が種族的にも上だとすると、このレベルでは勝ち目がない。
「まあ通常ならばこんなガチャ運などないからな。本来なら話にもならないはずが、話にはなってる。これから出るルビーアイテム次第ではどうなるかは分からん」
「よし」
落ち込んだところで仕方がない。俺以上のガチャ運をなどないのだ。俺以上の幸運はないのだ。そう考えると頑張るしかなかった。俺はさらに次のカプセルを開けた。すると今までになかったことが起きた。
というのも出てきたアイテムが大きかったのだ。どれぐらい大きいかと言うと俺の身長を超えていた。中から現れたのは"巨大な鐘"だった。それは異様な存在感を放っていた。思わず息を呑む。巨大化したその鐘は見覚えがあった。
大きなお寺にある梵鐘のようだ。あの大きな木槌で打つやつだ。吊るすための枠組みにはどこかおどろおどろしい獣の形が彫られている。恐る恐るそれを持ち上げた。化け物のごとき力があるため、簡単に持ち上がる。
しかし、その時に吊るされた木槌が動いて、鐘を響かせそうになった。
「馬鹿者! 鳴らしてはいかんぞ!」
レダらしくもない大声。相変わらずレダの部屋で俺と向かい合わせに座って優雅にしゃべっていたのに、明らかに焦っていた。その言葉が耳に入った瞬間、冷や汗が背中を流れた。梵鐘が鳴らないように、木槌を【念動力】で固定した。
「な、鳴らさないようにするの? これでいいのか?」
「それでいい。そのアイテムは【冥界の梵鐘】だ。鳴らすと冥界から一体だけ獣を呼び寄せる。強力な獣が呼び寄せられるが、敵味方関係なく襲いかかる。元の冥界に還すのも非常に難しいため、呼び出したままにもなる。また厄介なものを引き当てたな」
その言葉を聞いた瞬間、思わず顔が青ざめる。レダの様子からして、レダですら使ってしまうとどうにもならないようなアイテムだと考えられた。レダがどうにもできないようなアイテム。俺なんてもっとどうにもできない。
「絶対それって厄いやつじゃ……。これって当たりと言えるのか?」
「ううむ。貴重なものが出たという意味では外れではないが、つまらんことになられては困るので言っておくが、地球では絶対に出さんことだ。1歩間違えば"星が壊れてしまう"からな」
「もしかして危なすぎて使えない?」
「いや、まあ、大八洲国なら出したら須佐之男が殺してくれるだろう」
「何が出てくるんだよ」
「お前にも分かりやすく言えば梵鐘を鳴らしたら八岐大蛇が出てくるような感覚だ。そして一切こちらの言うことは聞かん」
「ああ、それ、あかんやつや……」
悪神の割に、こういうことをちゃんと教えてくれるレダに感謝しながら、俺は頭を抱えた。でも厄介なアイテムではあるが、何か使い道があるかもしれないと思い、マジックボックスの中に入れておくことにした。
「次行きます」
次のカプセルも開けることにした。本当にすごいものばかり出てくる。自分の運命を決めるサイコロを振ってる気分だ。よく考えたら、サファイア級のアイテムが出てくるとしたら、【千年郷】とかになるはずだ。
その一歩手前のルビー級がしょぼいわけがない。そのことを改めて実感しながら、俺は覚悟を決めて続けてパカッとルビーカプセルを開けた。ドキドキする心臓の鼓動が耳に響く。どれもこれもすごいが、あまりにもすごすぎて心臓に悪い。
だからこそ【炎帝・アグニ】をメトが異常なほど大事にしていたのも納得できる。通常のガチャ運でルビーの専用装備など出たら、大事にするに決まっている。ドキドキしながら中身を見ると、そこには見覚えはあるが、存在感が全く違う粘土があった。
「これ、やっぱりからくり族の材料か?」
「また良いものが出たな。お前の言う通り、【太陽の粘土】だ。【太陽石】と【太陽の粘土】この2つがあれば、金星シリーズを揃えていくバフを加味しても、からくり族の製造はこちらを使った方が性能が良くなるぞ」
「おお、なんかこれは普通に嬉しい。厄いアイテムじゃなくて良かった」
思わず口元が緩む。これがあれば、からくり族の武器や防具がさらに強化される。俺の心の中にある自分が強くなれるビジョンが、また一段と鮮明に膨らんでいく。俺はその嬉しさのままに、さらにルビーカプセルを開けた。
ここまで嬉しいのだけど、でも、心の中に常に引っかかっていたことがある。それは、ここまですごいアイテムが出てきたけれど、一番出てきてほしいと思っているものがまだ出ていないことだ。
そう、"ルビー級専用装備"である。専用装備が出てくれないことには、俺の心も今一つ盛り上がらない。期待を胸にカプセルを開けると、巨大化した中身が姿を現した。
「来い、頼む!」
心の中で祈るように念じると、出てきたのは赤く"炎を纏う刀"だった。その瞬間、手に取った瞬間に名前が頭に浮かんできた。
【炎帝・羅刹】
《そうか。我の主となるべきは鳳凰か。さすが我にふさわしき主》
不思議なほど手に馴染む感触。この刀はただの武器ではなく、まるで俺の一部のように感じられた。思わず左側にさした。その下に【赤竜・垓の刀】も差したままだ。二刀流というわけではない。同時に使うには力のレベルが違いすぎる。
羅刹を振るった瞬間、全てを斬り裂き、燃やし尽くしてしまうイメージが頭に浮かんだ。相当追い詰められない限り、使うのは恐ろしい刀だと感じた。心の底から高揚感が込み上げてくる。これぞ、専用装備の力だ。
《よろしく頼む》
《必要になればいつでも抜け。全て燃やして灰にしてくれる》
彼はそう言った。羅刹は男だと感じる。美火丸も焔将も垓も男だったし、華が異例なだけで専用装備は、同性が出てくる場合が多いようだ。それと同時に【炎帝・アグニ】のことも思い出した。
メトの死亡とともに俺のマジックバッグから消えた。今なら使えたのに残念だと思った。アグニは、狼男を相手に一度だけ使用したが、目標を殺すどころか制御できずに周囲ごと敵をマグマの海に変えてしまった。
今、俺はこの羅刹の刀を使いこなせるのだと理解できる。もし使いこなせている状態でルビー級の羅刹を使えば、もしかしたら一つの都市ごと燃やし尽くしてしまうかもしれない。それほど恐ろしい威力を感じる。
ともかく、これで全てのルビーカプセルを開き終わった。心の中で大きな達成感を感じながら、さらにゴールドカプセルを開ける決意をした。
俺は、先ほどのガチャ結果を見つめた。目の前には、
【時の移動書・停止編】
【金星の瞳】
【金星の魔法機】
【赤竜・垓の指輪】
【赤竜・垓の履物】
【赤竜・垓の額当て】
【赤竜・垓の魔法護符】
【力の果実】
【素早さの果実】
【エリクサー】×2
【倍加薬】
【水先案内兎】
といった、豪華なアイテムが並んでいた。全てルビーガチャを回した結果だ。
「な、何気にこっちの結果もすごいな。レダ、わからないことを説明してもらってもいいか?」
レダは少し考え込んだ後、口を開いた。
「ふむ。恐ろしいやつだ。いかに破格にガチャコインがあり、ガチャ運がいいとはいえ、一度のガチャでゴールド専用装備を全て揃えたやつは、きっと後にも先にもお前だけだろう」
レダは目を細めながら言った。俺は先ほどのガチャで6つの専用装備を引き当ててしまった。さらに今のガチャで4つ。これで10個全てのゴールド級装備が揃ってしまった。
この運の良さはまさに奇跡的で、特にゴールドの引きが非常に良かった。これにより、専用装備が完全に揃い、俺は全て身に着けることができた。
ただ一つ残念なのは、華のストーリーが解放されていないため、華は美火丸のような首飾りにはなっていなかった。どうするべきか悩んだが、今は少しでも強くならないといけない時期だと割り切り、装備を切り替えることにした。
《ごめんな》
《いいえ、華は主様にとっての最強が一番嬉しいです。それになんとなく分かるんです。きっともうすぐですよ。主様が華のことを本当に理解するのは》
そんなことを言ってくる。華のストーリーがもうすぐ開放されるのか? それは何か自分にとっても大事なことがわかるような気がして、俺は期待した。
「どうかな?」
「まあ良いのではないか?」
「もうちょっと褒めて欲しいところだな。華、どう?」
《主様かっこいい!》
「ふふん」
華が素直に褒めてくれるのが嬉しい。俺は女の姿のまま、垓は女相手だとちょっとやりにくいなと思いながら仕方なく、女性装備になってくれた。【赤竜・垓】の赤い鱗に金色の装飾が施された美しい装備は、俺の体にぴったりと馴染んだ。
装備しているだけで、力が2倍、3倍にも上がったような感覚が体を駆け巡る。華の時に感じた頼りなさが消えた。今の俺のレベルにもこいつはついてくると感じられた。
「ルビー級のバフは+1000か。果実より一つ少ないけど知能以外の8ステータスについて、まだ一つ目なのにってところがまたえぐいな」
「本来ならば十分どころではないが、相手が真勇者となるとこれでもまだ足りん」
「ゴールド級の専用装備を全て揃えたことで新たな装備スキルも現れてる。
ルビー級【 金華火繚乱(きんかかりょうらん) 】
自分のスキルだと頭に浮かんでくるな……。そうか……。翠聖様にもらった金華繚乱が変化したか。こういうのもあるんだな」
「できればサファイア級【天炎】が使えればよかったのだがな。さすがに帝シリーズとはいえ専用装備が羅刹一つだけでは無理だな」
「それだよな」
俺はつぶやいた。伊万里の現在のレベルは999。機械神がどこまで真勇者の味方をしてるのか、それが全ての運命を左右するかもしれない。俺は少し不安に思い口にすると、レダが続けた。
「まあ確かにな。こちらが女神に味方されるのと同じほど、機械神が味方をすれば、勝ち目は薄いだろう」
「どっちが強いとかあるのか?」
「残念だがあの方のもつ力の理解は私でもできない。またどちらが強いかなんて比較は意味がない。その2つが争えばダンジョンなど消し飛ぶだけだ」
「そっか」
「それにしても、時の移動書が出たか」
「おお、レダ。これはすごいんじゃないか?」
「すごいな。停止編はそのままの意味で時を止めることができるな。ゴールド級の性能ならば、使い切りではなく複数回の使用が可能だろう。ただし、止められる時間はそこまで長くないぞ」
「読んでみたら消えたりしないよな?」
「それは大丈夫だ。使用しなければ消えないはずだ。先ほども言った通り数回はいける」
「よし」
俺はそれを聞いて本を開いた。そうすると時の構造が頭の中にするすると入り込んでくる。それはどうにも奇妙な感覚だった。なぜ理解できるのかと思った時に、おそらく時の狭間でずっといて魂を強化した副作用だと思えた。
俺は次々とページをめくって最後まで見た時、本がかすみのように消えた。
「消えた……お前まさか"覚えたのか"?」
レダが今度こそ驚いたという顔で見てくる。
「あ、ああ、なんか理解できた」
「この程度のレベルのものが時間を理解する……。やはり私の行動には価値がある。お前、時をどれぐらい止められそうだ?」
今までで一番レダは興味深げに聞いてきた。
「1秒も止められない。せいぜい0.1秒ぐらいだと思う」
「探索者としては十分だ」
探索者にとっての0.1秒は10秒にも20秒にもなる。特に素早さに特化している俺は、時を止めていられる0.1秒の間にできることがかなりある。
「ふむ……これがあるならば一方的に殺されるということはないかもしれんな。正直お前がどうやって勇者に虐殺されるのかと楽しみにしていたのだぞ。そうでないなら、女神はどうされるのか疑問だったのだが、なるほど道は示されるわけか」
「お前褒めてる裏でそんなこと思ってたの?」
「悪く受け取るな。お前がネガティブなことばかり言うなと言うから黙っていたのだ。そもそも言葉にしたところで意味などなかった」
「そ、そうだけどさ」
ともかくちょっとだけ光は見えたんだ。真勇者でも時間を止めて無力化できるのは、確かに有利ではあった。しかし、何か悪い予感が拭えないのも事実だ。レダが次のアイテムの説明に移った。
「【倍加薬】はどうだ?」
「通常は1分だけステータスを倍にするものだ。ただし、その伸び率が5000を超えると、それ以上は上がらない」
「結構すごい性能だな。【時間停止】と【倍加薬】は使いどころだな。こっちが止められるとわかると対策を取られかねないから、結構慎重にいかないと。この【水先案内兎】はどうなんだ?」
「【水先案内兎】は、道しるべのようなもので、自分が向かうべき場所がわからなくなった時に一度だけ先導して、場所まで連れて行ってくれる。その場所は使用者にとって、現在最も利益になると思われる場所に導いてくれると言われているな」
「おお、何気にこれが一番嬉しいかも」
俺は素直な気持ちを口にした。迷った時に助けてくれる存在は、まさに俺にとって欠かせないものだ。カプセルから出てきて佇む奇妙なウサギが、瞳を閉じたまま目を覚まさない姿を見て、少し笑ってしまった。