軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十六話 ルビー級②

「装備が使い物にならないわね」

思わず弁財天が口にしていた。まあ俺も含めてのことなのだが、クミカは特に装備がレベルに追いついていない。そもそもずっと迦具夜として動いていたから、装備の問題などあるはずもなかった。それがクミカとなれば全然話が変わる。

何しろクミカは大八洲国・本洲にあるガチャ屋敷でガチャを回してから、ガチャに触れてない。ガチャ運7とかなり高いことになってるが、ガチャを回してなければどれだけ高くても装備は手に入らないのだから。

「申し訳ありません……」

クミカがシュンッとする。

「い、いえ、こっちこそごめんなさい」

クミカが悲しそうな顔になったので弁財天も謝った。

「にしても不思議だな。表に出てるのはクリスティーナだろ。それなのに今まで排出された専用装備って全部ミカエラのだよな?」

俺の声には疑念が混じっていた。周りの空気も少し重くなり、彼女たちの表情が思索に沈む。

「それは私もあまりよくわからないのですが……。おそらく我ら三位一体の中で、ミカエラと私と迦具夜のガチャ運が合わさって強化されたように感じます。そしてそうなると専用装備は一番探索者として才能の高かったミカエラに引っ張られるようです」

「それって人魂装備の魂はどうなるんだ?」

専用装備には魂が宿っている。そしてその魂は専用装備の主の死と共に一緒に消えるはずなのだ。

「普通だと肉体が死んだ場合、専用装備の魂もいなくなるはずなのですが、不思議とミカエラの専用装備の魂は残ったままのようです」

「理由は?」

俺は更に問いかける。クミカはその目を伏せ、しばしの沈黙の後に口を開く。

「ミカエラは祐太様と同じぐらいダンジョンに好かれていたように思います。だから彼女に関しては特殊なことが多いです。そもそも使用している魔眼からして性能が破格すぎますし」

「不満はないのか?」

俺はクミカに目を向ける。その問いは、彼女の心の内を探るためのものだった。ミカエラの専用装備は消えていないのに、生きて表に出ているクリスティーナの専用装備が消えている。本来なら逆のはずなのだ。

「ありません。私はクミカです。このステータスもミカエラが一番強く表に出ていますが、ミカエラ1人だとこのステータスにはならないのです。あくまで我らは三位一体。クリスティーナでも迦具夜でも、ましてやミカエラでもないのです」

彼女の言葉は、俺の心に静かな感動をもたらした。クミカは個人でありながら、三人の集まりでもある。その複雑な感情が、言葉の裏に潜んでいるのが分かる。彼女が抱えるアイデンティティの葛藤は、すでに終わっている。

「なるほどね。迦具夜は死んでも生きてるのね。執着の強いところが迦具夜らしいわ。まあ、そういうことなら私はますますあなたも助けなければね。それとクミカさん。あなたのクエストの項目には思い当たることがあるわ。シルバーとゴールドとルビー。このクエスト結果は多分迦具夜のものだわ」

「ということは10階層までのクエストは多分ミカエラだな」

「祐太君。ミカエラさんってストーンエリアで全部SS評価だったの? 本当に死ぬほど危険な苦難を乗り越えてばかりしないとこんなのにならないわよ?」

「ああ、ミカエラはそれがありえるんだ」

俺は彼女のことを思い返す。あのお荷物になるどころか、逆に害悪にしかならない最悪の友人三人を抱えてダンジョンに入っていたのだ。彼女の魔眼があったとはいえ、よくレベルアップできたものである。

ましてやクエストなどどうやって達成したのか、意味不明で頭が混乱するほどだ。

「10階層まで全部SSがありえる……。ちょっと信じられないけど、そうして見るとクミカさんのステータスは本当に3人が混じってるのね」

弁財天の驚きが、俺の中でも共鳴する。クミカは、一つの体に三つの魂が宿っている。その存在が、俺にとっても何よりも心強い味方となる。

「祐太様。私はそろそろ……」

クミカは俺に近づいてくると、俺の影の中に入っていく。長く出ていたから少し疲れたようだ。彼女と心を再びかっちり繋いで、その安心の中でゆっくりと眠り出した。静かな瞬間が流れ、心が穏やかになっていくのを感じる。

「不思議な状態で安心できるのね」

弁財天は俺たちの様子を見つめながら、何かを理解したようだ。彼女の目には少しの感嘆が宿っている。

「まあちょっと俺も変わってるし」

「かなり解放して心をつないでる状態?」

「ああ、そうだ」

「以前蒼羅様の中で私とした状態と似てるわね。あの時から手慣れてたものね」

弁財天の言葉にはちょっと皮肉も混じってるように思えた。しかし本気で言ってるわけではないようで、すぐに話題を切り替えた。

「さて、祐太君。最後に私から一つだけ頼んでおきたいことがあるの」

「頼み事?」

「ええ、結構大事なことなんだけど三種の神器についてなの」

「ああ、揃えたんだよね」

「いいえ、三種の神器は一つまだ"手に入れてないまま"なのよ」

その言葉を驚いた。てっきり全部手に入れているものだと思っていた。だから神になったのだと思っていた。しかし弁財天は揃えないまま神になったのだという。

「【千年郷】は祐太君が手に入れてくれた。【幻影の円環】は迦具夜が手に入れてくれた。でもね。炎龍神・ 紅麗(こうれい) 様のところにあると言われてる【黄泉孵りの卵】は手に入らないままなのよ」

「三種の神器が揃ってないまま神様になったってこと?」

「その通り。そして私は桃源郷神として、最後の三種の神器は自分で手に入れたいと思ってるの。ただこれがかなり難しいのよ」

「場所がわかってるように聞こえるけど?」

俺の問いに、弁財天は少し考え込むような表情を浮かべる。

「場所は確かに分かってる。それでも、最後のアイテム【黄泉孵りの卵】。この入手難易度は他の2つと比べてもかなり高い。そしてこれをもしも他の貴族が手に入れたら、私に成り代わって桃源郷神になることができるでしょうね」

「チートアイテムなのか?」

その言葉を口にした瞬間、俺の心には強い興味が湧き上がった。もし本当にそんな力を持つアイテムが存在するのなら、手に入れる価値は十分にある。

「ええ、はっきり言ってチートよ。何しろ【黄泉孵りの卵】は"サファイア級までの探索者を1人だけ生き返らせた状態にできる"のよ」

……その言葉が脳裏に響く。生き返らせることができる。

「……」

一瞬、言葉を失った。

「それって制限なく?」

「魂が消滅していない限り制限はないわ。まあ生き返らせていられるのは1人だけだし、別のサファイア級を蘇らせたければ、今、生き返らせている相手は再びあの世に還ってもらう必要があるけどね」

「それは確かにチートだ」

「ええ、先の争いでも、これを手に入れていたら勝利が確定していた。それだけにアイテムのある場所がとても面倒でね。結局誰も手に入れられなかったの。私も神になってからまだ一度も手を出せてないわ」

弁財天の言葉には、悔しさが滲んでいる。彼女がどれほどそのアイテムを手に入れたいと思っているのか分かる。神になったと言っても三種の神器はどれも自分で手に入れていない。それは弁財天にとっての弱みになるだろう。

「さっき紅麗様とか言ってたよな?」

子供までできた弁財天の恥は黙っていられなかった。

「そうなの。【黄泉孵りの卵】は炎龍神・紅麗様の【逆鱗】にあると言われてるわ」

「その龍神様。名前からして蒼羅様が炎になった感じ?」

「そうよ」

俺の心に一瞬の混乱が走る。蒼羅様が炎の姿になっているのか。それは想像以上の存在感だろう。紅麗様の力を思うと、近づくことすら恐れ多い。

「……」

俺は思考を巡らせる。どうすればその逆鱗に近づけるのか。おそらく、ただの探索者では到底無理だろう。

「祐太君。私の頼み事は急いでないの。他に誰も取りに行こうとしないでしょうしね。それでもあなたに伝えたのは、伊万里さんのことがどうにもならなくて、どうしても力が必要って場合に【黄泉孵りの卵】があるってことだけ教えておきたかったの」

「俺に使わせてくれるの?」

「もちろん。手に入れられたら気が済むまで使ってちょうだい」

「それは助かるな……でも本当に危なそうだね」

「命がけになるでしょうね。必ず一緒に行くから一人で行っちゃだめよ」

「ああ、でも弁財天。この件は本当に最後の最後奥の手で考えておくよ。色々考えてくれてありがとう」

「いいのよ。だってその……ふ、夫婦みたいなものだし」

その瞬間、弁財天の顔が真っ赤になった。思わず目をそらす。彼女の言葉が、心の奥に響いたように感じる。心のどこかで、弁財天との絆が深まっていることを実感する。

「正式の夫婦はもうちょっと待ってね」

「わ、わかってる。10年ぐらい先でいいから。慌てなくていいから。でも、あの子たちが死ぬ前にはちゃんとできればって……」

祐希丸と玉姫。ルビー級やサファイア級で子供を産むなら、ほぼ間違いなくその子供は先に死ぬ。

「分かってる。そこまで待たせたりしない。ともかく、【黄泉孵りの卵】については、南雲さんに伊万里の話を聞いて、ゴールドエリアに行って伊万里の状況も考えて、その上でもう一度考えてみる」

「ええ、そうしてくれればいいわ」

「他に何かある?」

「いいえ。これで伝えるべきことは伝えたし、やるべきことはやったわ」

弁財天の言葉は、少し穏やかさを帯びていた。隣り合って座ってる。お互いここから近寄りたくなる段階である。

「それで……祐太君、急ぐ?」

顔を覗き込まれた。何をしたがっているのかは言わずもがな。10年もご無沙汰だったのだ。シャルティーや切江はゴールドエリアについてくるから、特に焦ってなかったが、弁財天はそうはいかない。だから口を開いた。

「子供達に会うとさ。別れにくくなるから2人が起きるまででもいい?」

「もちろん」

あの二人を見てると無性に可愛くなった。何もかも忘れてこの子達のために生きてればそれでいいのではと思えた。それぐらい子供の威力というのはデカかった。でもそんなことはしたくなかった。

俺の人生の大部分は伊万里とともにあった。それは強い思いで、どうしても仕方のない状況になったら、伊万里のために死のうと思える。それなのに俺は弁財天の赤いドレスの上から少しだけはみ出ている乳房に手を伸ばした。

久しぶりの弁財天の匂いに脳がしびれる。

魔法によるものなのだろう。弁財天の赤いドレスが消えていく。俺は華に装備を外してもらって、その柔肌を手の中に感じる。お尻をしっかりと握った。口の中に柔らかい部分を含んだ。

「ベッドは?」

「ここ」

部屋が全て入れ替わり天蓋付きの豪華なベッドが現れる。弁財天をベッドに寝かせた。ダンジョンが現れなければ伊万里と生きていく人生だった。あの時南雲さんと出会ってなければ、ダンジョンで死んでた人生だった。

それがこんなところでこんな人の相手をしている。弁財天と体をつなげた。気持ちよさの中に意識が溶け込んでいく。俺は弁財天の中をゆっくりと確かめながら進んだ。

「——祐太君。2人があと10分ぐらいで起きるみたい」

弁財天の声が、朝の光のように柔らかく俺の心に届く。子供達の部屋から離れていたが、その気配を感じ取っているようで、子供たちの眠りが浅くなってきたことを把握していた。

窓から差し込む朝日が、薄明かりの中でキラキラと輝いている。子供たちは昨日の遊び疲れから、穏やかな夢の中にいるのだろう。

「2人は今日学校どうするの?」

「10年ぶりに父親が帰ってきた日ぐらい休ませても問題ないし、私もサファイアエリアでレベル上げばかりしてたから、あまり構ってあげられてないのよ。だから、この後、久しぶりに3人でどこかに出かけてみようと思ってるの」

その言葉に、家族と過ごす時間の大切さを感じている。あまり考えたこともないことだった。

「一緒に行きたいけど無理だな」

弁財天との繋がりが切れ、肌のぬくもりが失われると、急に寂しさが心に忍び寄る。しかし、いつまでもそのぬくもりを求めるわけにはいかない。俺は体についたいろんな体液を炎で浄化する。

心の中でも、煩悩が消え去ることを願ったが、この興奮はまだしばらく続きそうだ。

《華。服を頼む》

《は、はい。主様は相変わらずエロエロなのです》

《いいから早く》

装備が体にフィットする感覚を楽しみながら、横を見ると弁財天も赤いドレス姿になっていた。

「2人の顔を見てから行くよ」

「ええ、祐太君。またね」

「ああ、またちゃんと帰ってくるよ。多分その時は授業参観か三種の神器の件のどちらかだと思う」

「分かった。授業参観はまだもう少し先よ。ちゃんと調べて連絡するわ。三種の神器はいつでもいいわ。まあ夫に言われたら何においても優先するけどね」

「了解。じゃあ」

最後に弁財天の唇にキスをして、同時に【転移】する。彼女はついてこなかった。俺は祐希丸と玉姫がすやすやと眠っている子供部屋へと再びやってくる。念のために気配は消した。そうすると、触れられても気づかないだろう。

「ごめんな。10年放置してちょっと遊んだだけ。次はもうちょっと一緒にいられるようにするから」

ベッドに静かに座ると、二人の頭を撫でた。祐希丸と玉姫はくすぐったそうに身をよじって、無邪気な笑顔を浮かべる。

「可愛いな……」

こうして子供たちと接することは初めてだったから、こんなにも心が和むとは思わなかった。

「不思議だな」

ふと、昔、家に帰ってこなくなった親父の顔が思い浮かぶ。俺は彼を憎んでいたわけじゃない。ただ、もっと大事にしてほしかっただけなのに……。でも、いないのではそれも叶わない。

「お前たちがそんなことにならないように、頑張ってくるな」

覚悟を決めて立ち上がる。俺は【性別改変薬】を飲んで再び女になる。身体が変化していくのを感じながら、最後に子供たちに目を向けた。

外は朝の静けさに包まれており、鳥たちがさえずる声が心地よい。シャルティーと切江がすでに準備万端で待っていた。吉祥天の姿も見え、彼女に挨拶をする。

「吉祥天様、お待たせしたようですみません」

「いえ、もっとゆっくりしてほしかったくらいですわ。おはようございます、六条様」

「おはようございます」

「そして【転生】おめでとうございます」

「「ご主人(様)。おめでとう(ございます)」」

吉祥天の言葉に、シャルティーと切江も続く。

「ありがとうございます」

「それにしても、実質1年ほどで【転生】するなんて、きっとあなたが初めてではないでしょうか。誠にお姉様にふさわしい旦那様ですわ。どうぞこのままどこまでも高く神におなりなさいませ」

「気が早いですよ」

「ふふ、そうでしょうか? 南雲はかなりそのつもりですよ。それにとても良い【転生】をされたのだとお見受けします。問題なければ種族を教えていただいてもよろしいですか?」

皆の視線が俺に集まる。期待に満ちた眼差し、その中には少しの緊張感も感じられる。俺はゆっくりと品良く膨らんだ胸を張り、心の中で決意を固める。

「鳳凰と」

その一言で吉祥天の目が驚きに見開かれ、シャルティーと切江も口を開けている。

「まあ!」

吉祥天が手で口を押さえ、信じられないという表情を浮かべている。

「鳳凰……本当に?」

「はい」

俺は自分のステータスを開き、種族名を3人に見せた。

「なんと素晴らしい。単一種族だけでも十分優秀なのに、鳳凰。文句なしですわ。南雲から聞いていた時は私も半信半疑でしたが、今は確信します。きっとあなたは神とおなりになられる。あるいはダイヤモンドに手が届くかも。なるほど、才能があるというのはこういうことなのですね。自分がどれほど非才なのか、よく分かりましたわ」

「くれぐれもこのことは」

「分かっております。まだ余計な混乱は避けたいでしょう。決して外に漏らすことはないと誓います」

「ありがとうございます」

吉祥天が再び前に立ち、南雲さんのところへ案内してくれる約束を思い出す。

「お願いします。じゃあ行こうか」

「「はい」」

俺が手を差し出すと、吉祥天は少し戸惑いながらも、その手に触れた。シャルティーと切江もそれに続いて、俺の身体に触れる。温かい感触が広がり、そして、そのまま【転移】が始まった。

視界が一瞬歪み、次の瞬間、俺たちはロッキー山脈のような高い山に覆われていた盆地から移動していた。空気は清々しく、朝の光が山々を照らしている。

「長距離転移……しかもほとんど違和感を感じさせない」

周囲の景色を見渡しながら、自分で思わず感嘆の声を漏らす。自分の力が強くなったことを実感し、ちょっと自慢気な気持ちがこみ上げてくる。

「なんか自慢しちゃいました」

「ふふ、能力は使ってこそですわ。そういうことなら、場所を送らせてもらいますね」

吉祥天が微笑みながら、南雲さんの屋敷の位置情報を送ってくれる。俺はそれを受け取り、桃源郷1層の黒い輪っかを越えて移動し、さらにそのまま【転移駅】に【転移】すると、朝早くからちらほらと人影が見え始めていた。