作品タイトル不明
第三百三十四話 転生(リーンカーネイション)
「でもその場合、キークエストはどうなるんだ?」
俺は言葉を発した。ストーンからブロンズ、ブロンズからシルバー、シルバーからゴールド、階級が上がるたびにダンジョンからの承認が必ず必要になる。そのために俺はミカエラを殺し、五郎座衆を殲滅し、青蛙を討伐した。
そしてゴールドからルビーに上がるためには本来、ゴールドエリアの支配がキークエストのはずだ。俺はそんなことをしていない。探索者の一つの到達点。ルビー級になるのにキークエストをしなくていいのか。
「その点は抜かりなくよ。迦具夜は10年前、あなたと別れた後に、"私のこの件"をダンジョンから与えられるルビー級昇格へのキークエストにならないかと申請したの」
その言葉に、俺の心の奥に眠る期待がふつふつと沸き上がる。そういえばそんなこと言ってたような。
「それがちゃんと通ったってことか?」
「そうよ。自分が死んだ場合でも確実にあなたをルビー級にする。それにはあなたの活躍が、桃源郷神が生まれるために必要不可欠なものだった。それが認められる必要がある。そして、それが認められた場合、ダンジョンからルビー級昇格の許可が降りる。祐太君との約束を守るために、そういう手はずを迦具夜は10年前、祐太君と別れた後にダンジョンに申請したの」
俺はその言葉を聞いた瞬間、あの日の迦具夜を思い出す。あの時、別れ際の迦具夜の目の奥にあった決意が、今でも俺の心に残っている。
「その内容でOKが出たのか?」
「ええ、ダンジョン側からの返答はその申請でOKだったみたいよ。私が迦具夜から教えてもらったダンジョンからの返答は——」
【可能。キークエスト希望対象者、六条祐太が桃源郷神の誕生に関わった場合、そしてそれが桃源郷神が月城迦具夜と弁財天のどちらかであった場合、六条祐太の功績は大と考えられる。早期での千年郷獲得、日本側の探索者と月城家との橋渡し、どちらもなかったことになれば、月城陣営から桃源郷神が現れる可能性は限りなく低いと言える。よって変速的ではあるがルビー級昇格への条件は満たす】
「というものだった。私が桃源郷神になった以上、このクエストは無事に達成された。まあつまり祐太君側のキークエストへの要件はすでに満たされていて、月城陣営が勝ち残るかどうなるかという状態だった」
「俺がいない状態でいいのか?」
「祐太君が10年後に帰ってくることをダンジョンは申請時点で承知していたしね。何よりも結果が全てよ」
この世はよくも悪くも目に見える形が大事だ。俺は中学で池本からの虐めに苦労したけど、先生からの評判は俺より池本の方が良かった。俺が虐めに我慢してるだけでは誰も見向きもせず、そしてダンジョンという結果を出した。
その結果、俺が池本を殺しても誰も問題としなかった。
「報酬が欲しいなら上に見える形で対価を示せか……」
ダンジョンにとっての対価とは、物や金ではないらしい。ダンジョンはそんなもの人が考えられる以上にすでに持っているから必要ない。だからダンジョンが人に与える条件は、その人が持つ可能性を対価として示すこと。
《レダ。この考えどうかな?》
《それは間違いないな。ルルティエラ様は人の可能性を見るのが好きなのだ。だから私も交渉によって人の可能性を見いだすのが好きなのだ》
俺はその言葉を反芻しながら、心の中で何度も考え直す。可能性を示すか……。そんなことを考えていたら、弁財天が自分のステータス画面を開いた。
【桃源郷神・弁財天より機械神ルルティエラ様に申請】
【了。内容申請されたし】
【六条祐太は先の桃源郷・神の争奪戦における。弁財天の勝利に深く貢献したことを申請する。この成果により六条祐太をルビー級へと昇格させることを承認されたし】
【桃源郷神・弁財天よりの申請内容を受諾。こちらから桃源郷神へ伝えるべきことが一つあります】
【伝えるべきこと?】
意外な言葉だったのか、弁財天が首をかしげた。
【同様に存在するクミカにも、六条祐太と同様の申請あり。クミカの魂は月城迦具夜とともにあり、その功績を大と評価する。それとともにクミカに六条祐太と同等の報酬を渡すことができます。受け取りを承認しますか?】
「……」
弁財天の動きが止まる。彼女の表情は動揺というよりも、深く考えているようだった。
「迦具夜はやっぱり死のうとする気持ちの方が強かった……」
今のダンジョンからの言葉を聞く限り、迦具夜は自分が死んだ後に現れるクミカのクエストまで申請していた。こんな準備は自分が死ぬ気でなければできない。
【弁財天。返答は速やかにください】
「あっと【申し訳ありません】クミカ、祐太君。断らないわよね?」
「ああ。当然受け取る。クミカもそうするよな?」
「私は祐太様の心のままに」
「……」
弁財天はまだ思索にふけっていたが、やがて心を決めたようにダンジョンとの会話を再開した。
【その形でお願いします】
【了。六条祐太。クミカ。両名は桃源郷神の争奪戦において最も大きな貢献を果たしたと評価します。よってルビー級への昇格を承認。 転生(リーンカーネイション) を開始します】
俺たちは自分のステータス画面に現れた受け取りボタンを押した。それとほぼ同時に、ドクンッと心臓が激しく脈打つ。ドクンッドクンッと心臓の動きはさらに激しくなり、体が熱くなってくる。
そしてレベルアップの度に光っていた体が、それよりももっと強烈な光を放ち出す。自分が生まれ変わる。それはこういう感覚なのか。今までのレベルアップで人として強くなってきただけが、ついにその枠を超えていく。
いや、人の枠など今まででも十分超えていたんじゃないかと思えるが、今までの力はあくまでレベル10までの人間の体の強化にMPやSPというエネルギーを上乗せして、超人的な体の動きになっていただけだった。
それが転生すると再び体自体も強くなっていく。そういう話を聞いたことがあった。操れる力も強大になり、人をはるかに超えた存在に生まれ変わるんだ。内側から込み上げてくる熱と光がさらに強烈になり、赤い光を帯びていく。
炎龍・烈は俺を『赤に連なるもの』だと言っていた。その意味は知らないが、それを証明するように赤い光が強烈に強くなっていく。体が燃え上がるように熱い。あまりにも熱すぎて、体がまるで灰になっていくようだった。
「い……いや、違…………」
なんだこれは……手がボロッと本当に崩れた。体が壊れていく。崩れていく。これが転生……。
《レダ。大丈夫か?》
《喋りかけるな。私は全てを見逃したくないのだ》
レダが俺の中でこの体の崩壊を回避しているのか? どうやってるのかわからないが、こいつは何でもできるのだ。心配などするだけ無駄か。
「ゆ、祐太君。体が崩れてる。ここまで変わるの?」
俺の全ての体が灰になる。脳みそすらも灰となり、こんな状態でなぜ思考が残っているのかと考えるのも不思議なほど。そしてその灰の中から再び体が構成されていく。これが転生。まさに何もかもの生まれ変わり。
ゆっくりと体が再構成されていくのを感じる。最初は薄い感覚だったが、徐々にその感覚は強くなり、俺の身体が新たな形を成していく。胸のあたりから、温かく、力強いエネルギーが湧き上がるのを感じた。
弁財天の心配そうな声が、どこか遠くから聞こえてくる。彼女の声は俺の意識を引き戻すが、同時に俺はこの新しい体の感覚に没頭していた。自分の存在が、まるで新たな命を宿したかのように感じられた。
「……」
呆気に取られたように弁財天が俺を見つめていた。彼女の目には驚きと、どこか安心感が混ざっているように見えた。
「終わった?」
ずっと意識がはっきりとあった。しかし、自分がどうなっているのかよくわからなくて、弁財天に聞いていた。
「え、ええ……」
彼女の声が震えているのを感じる。緊張感が漂い、周囲の空気がピリピリと張り詰めている。
「どうかした?」
「い、いえ、かなり珍しいタイプの転生だと思って驚いてしまって」
「普通は違うの?」
「普通は自分の元の種族を活かす形で転生するの。体が灰になってその中から生まれるのは、かなりレアな転生のケースよ。それにクミカも」
言われてそちらを見た。クミカの体がなくなり、ひときわ強い白い光と、それよりは劣る水色の光、そして黒い光が輝いて、それぞれに玉を形成していた。それぞれの色の光球が近づき、混ざり合う。
《3つの力の可能性。それらがうまく混ざり合う。不思議だ。魂の融合などうまくいくわけがないというのに、それぞれがお前という男を助けるという目的で一番弱い魂を輝かせようとしている》
自分が黙れと言ったくせに、レダは俺に話しかけてきている。彼女の言葉からは興奮と興味が滲んでいる。
《普通ならどうなるんだ?》
《最も強い可能性を示している黒の魂に2つは無理矢理従わされる。そのことに2つが反発して、全ての魂の崩壊が起きるものなのだ。しかしそうならない。どうしてだ? 黒のミカエラよ。表に出るこれほどの好機はないだろうに》
《ミカエラはそんなの望まないんだよ》
俺の心の中で繰り広げられる会話。しかし、周囲の光景は今、俺の目の前で展開されている。3つの魂が合わさり、そこから人の形が徐々に形成されていく。おへその部分からどんどんと体が作られていき、胸の膨らみが形成され、お尻も出来上がり、手が伸びて足が伸びていく。
そして以前と同じプラチナブロンドの髪が伸びて、黒と水色が混じる。目の前に現れたのは、群青色の専用装備であるゴスロリ服を着た少女。
以前と違うところは、右目が眼帯を当てて隠され、左目が水色になっていた。そして額に開いた瞳は黒く染まっている。光が収まり、彼女が完全に形を成すと、俺は思わず息を呑んだ。
「見た目はそんなに変わったように見えないけど」
俺はクミカを見ながら言う。彼女の外見は親しみやすく、かつ不思議な美しさを持っていた。しかし、その変化の裏には、クミカが持っている力強さがあるのかもしれないと、直感的に感じ取った。
「はい。2人は変わらず、私が前に立つようにと求めました。一番弱い私がこれからもあの二人に助けられ、祐太様と共に生きていきます」
「これからもよろしくな」
その言葉に、俺の心が温かくなる。クミカの存在は、俺にとっての光であり、支えでもあった。彼女がそばにいてくれることで、孤独感が和らぐ。これからも一緒に戦っていけるという実感が、俺の中に力を与えてくれる。
「この命続く限り決して離れません。ところで、祐太様は翼が生えたのですね」
自分の背中に感じる異物感。真紅の翼が背中に生えて炎をまとっている。赤い炎が体の周りにも揺れていて、それでもそれを収めようと思うと翼も炎も消えて元の俺に戻った。本気で戦おうとするともっと体が変化する。
その感覚は、まさに新たな力を宿した証。
「やっぱり2人ともすごく変わった種族になったわね。予想してたのにそれでも驚いた」
弁財天が言ってきた。
「今までよりはるかに強くなれた気がする」
「きっと誰よりもあなたは強くなれる」
「そうであればいいんだけど」
「ね。ステータスを見ましょうよ。あ、でも、も、もちろん私は見ないわ」
弁財天の緊張した様子が、少し面白い。
「何を言ってるんだよ。弁財天に見せられないなら、俺のステータスは他の誰にも見せられないってことになっちゃう。クミカも一緒に3人で見よう」
クミカがトコトコと近づいてくる。俺はステータスにおける大事な項目を確認していく。心臓が高鳴り、期待と緊張が入り混じる。どんな力を得たのか、どれほどの成長を遂げたのか。
画面が表示され、俺の新しいステータスが浮かび上がる。数値は以前とは比べ物にならないほどの上昇を見せていた。新たに得た力が、俺の中でどのように作用するのか、興奮と期待が込み上げてくる。
「すごい……」
思わず声が漏れた。クミカと弁財天もその画面を覗き込む。攻撃力、防御力、素早さ、何よりも今まで見たこともない項目がいくつかあった。きっとルビー級になったから現れた項目なんだ。
種族:鳳凰族
レベル:650
職業:千年郷の主
称号:桃源郷神の聖夫
HP:9467
MP:4978
SP:7677(1950)
力:9666(+2250)
素早さ:10450(+2250)
防御:8545(+2250)
器用:8064(+2250)
魔力:4433(+1950)
気力:9412(+1950)
知能:3787
魅力:90
ガチャ運:9
装備:シルバー級【焔竜・華の額当て】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の胴鎧】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の脛当て】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の籠手】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の陣羽織】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の魔法護符】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の物理護符】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の刀】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の叢雲の糸】六条祐太専用装備
シルバー級【焔竜・華の履き物】六条祐太専用装備
シルバー級【マジックバッグ】(200kg)
ブロンズ級【美火丸の首飾り】六条祐太専用装備
サファイア級【天変の指輪】
魔法:シルバー級【機密保持】(常時発動可)
ゴールド級【徹甲爆弾レベルMAX】(MP200)
ルビー級【バリア】(MP1~∞)
ルビー級【自動人形】(MP300~∞)
ルビー級【赤天核】(MP1000)
ルビー級【転移レベル6】(MP300)
ルビー級【異界化レベル3】(MP500)
ルビー級【マジックボックスレベル3】(3000㎏)
精霊魔法:ルビー級【炎精使役】(1000体)
シルバー級【水精使役】(300体)
シルバー級【光精使役】(300体)
シルバー級【闇精使役】(300体)
スキル:ルピー級【紅炎鳥】(SP400)
ルビー級【紅炎龍刃】(SP500)
ルビー級【金剛力レベル4】(SP200)
ルビー級【超自然レベル1】(常時発動可)
ルビー級【念動力レベルMAX】(常時発動可)
ルビー級【探索界レベル4】(常時発動可)
ルビー級【索敵糸】(SP1~∞)
ルビー級【炎蛇百連撃】(SP500)
ルビー級【韋駄天レベル8】(常時発動可)
ゴールド級【認識物可視化】(常時発動可)
ストーン級【永続睡眠耐性】(常時発動可)
ルビー級【意思疎通レベル7】(常時発動可)
統合魔法:サファイア級【鳳凰鏖殺翔】(EP10000~)
装備スキル:ストーン級【縛糸】(SP8)
ストーン級【斬糸】(SP13)
ストーン級【炎流惨】(SP18)
ストーン級【斬糸繰々】(SP25)
ブロンズ級【灰燼】(SP52)
ブロンズ級【獄斬】(SP70)
ブロンズ級【煉獄斬】(SP99)
シルバー級【炎華鏖殺陣】(SP113)
シルバー級【糸華死縛陣】(SP143)
ゴールド級【叢雲焔】(SP300)
ゴールド級【焔閃光】(SP300)
種族スキル:ルビー級【超速再生レベルMAX】(SP1~600)
サファイア級【炎無効】(常時発動可)
サファイア級【復活】(1日1度)
サファイア級【鳳凰飛翔】(常時発動可)
クエスト:二階層S判定 三階層S判定 四階層S判定 五階層SS判定
六階層S判定 七階層S判定 八階層S判定 九階層SSS判定
十階層S判定
シルバー級昇格キークエストSS判定
ゴールド級昇格キークエストSSS判定
ルビー級昇格キークエストSSS判定
入国許可:大八洲国 ユグドラシル国
資格:ダンジョンシステムアクセス権・D
「ま、まあ、聖夫! け、結婚はまだなのに困るわね!」
弁財天がよほど【称号:桃源郷神の聖夫】が嬉しかったのか、真っ赤になって恥ずかしそうにしている。その姿はまるで初恋の少女のようで、思わず微笑んでしまう。しかし、彼女の隣にいるクミカの様子が少し気になる。
彼女はその光景を見て、若干イラッとしているのが明らかだった。弁財天はその様子に気づいたのか、急に咳払いをした。
「ゆ、祐太君、あなた本当にガチャ運がおかしなことになってるわ」
弁財天の言葉に、俺は苦笑いを浮かべる。
「それはみんなに言われる」
「レベル1000を超えてもガチャ運9なんてめったにいないのよ。真性の神でもこんなにないものも存在するんじゃないかしら」
「そんなにすごいの?」
《レダ。幾つ?》
《比べるだけ無駄だ。私とお前ではレベルが違いすぎる。ただ、レベル650でガチャ運9は私も聞いたことがないな》
ガチャ運について否定はしないところを見ると、真性の神や悪神でもガチャは回すんだ。どちらかと言うと、そちらの方に興味が引かれた。俺の心の中で、どんな神々がどんな運を持っているのか、少しだけ想像が膨らむ。
「それにしても聖夫?」
聞き慣れない言葉に、俺はクミカがあまり面白く思っていないと感じていた。しかし、弁財天に尋ねた。
「これは神の序列一位の夫という意味なの。まあ、一位もなにも私には祐太君以外の夫はいないのだけど、大八洲国ではかなり名誉なこととされているの。その、祐太君ごめんなさいね」
「どうして謝るのさ」
たとえどれほど好きな彼女がいたとしても、普通なら子供ができたら諦めて、子供ができた相手と結婚する。それは日本の常識で生きてきた俺には不思議なことではなかった。
ただ、結婚を弁財天がしなくていいと言ってくれているだけだ。俺の実年齢は16歳になるが、今の日本ではレベル3を超えた時点で成人が認められるし、大八洲国でも15歳を超えたら成人と見なされる。
ダンジョンがそんな俺を弁財天の夫と考えたのは、当然のことだ。
「だって正式に夫になってもらったわけでもないのに、こんな表示が出てしまって嫌でしょ?」
「嫌じゃない。ただ、全部終わるまで待ってほしい。伊万里のこととか、自分がダンジョンを破壊するとか言われてることとか。全部どうなるかわからないけど、終わったらちゃんとここに帰ってきて、中途半端なことにだけはならないように頑張るから」
俺の言葉に、弁財天は少し安心したように頷いた。
「うん。じゃあ待ってるわね」
「どうして祐太様の称号なのに、祐太様が主体ではないことが称号になるのでしょう」
クミカの言葉が、少し不満げに響く。彼女は、俺と弁財天の関係に対して、素直に喜べない気持ちを抱えているようだった。彼女の瞳には、俺が"弁財天のおまけ"のように見えているという苛立ちが宿っているのだ。