軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十六話 千年郷内

やっぱりまだ繋がらない……。

「なあ、俺らが4人で帰ってもつまらないと思わねえか?」

南雲さんの【転移】で一気に宇宙空間に出て【機密保持】に切り替えて話を始めた。そんな時にジャックが急に言い出した。何を言ってるんだこいつは? そう思ったのは俺だけではないようで、

「は?」

南雲さんは意味がわからなかったようでジャックの顔を見た。

「いや、ほら、だってな……」

「うん?」

悪神からの距離も相当離れ、気が抜けていたのだろう南雲さんの表情が少し変わった。それでジャックが【意思疎通】で南雲さんと雷神様にも何か声をかけてる気がした。時間にして1秒もかかってなかったと思う。

それでも南雲さんたちのレベルを考えると、【意思疎通】での会話を数分したのではと思えた。俺は内緒話にあまり良いイメージがない。学校に通っていた頃、内緒話といえば、常に俺の悪口を言われてる気がした。

今から考えると話す内容を全部俺にするなど、みんなそんなに暇じゃないだろうと分かるが、あの頃の俺は被害妄想が強かった。ただこの3人がそんなことするわけもない。でもやっぱり内緒話は嫌いで口を開きかけて閉じる。

俺のコミュ障はなくなったように見えて相変わらずで、特にそれは女性よりも男性の方に強い。南雲さんやジャックに内緒話をしているのを指摘したりしたら、嫌われないかと思ってそんなこと言えなくなった。

《レダ、どう思う?》

《常識的に考えるとその程度で怒る人間が、あれほどお前を早く助けに来るとは思えんが》

《いや、でも、ひょっとすると分からないじゃないか》

俺がそんなことを言うとレダの感情が伝わってくる。呆れられてるかと思うがそれは"面白い"という感情だった。

《お前はこういうところが一番臆病なのだな》

《面白がってる? なんだよ》

《気分を害するな。いや、私もずいぶんと長くダンジョンから好かれるものを見てきたが、ルルティエラ様が気にされる存在にはお前のようなものが多い。実力はある。それなのに自信がない。他のタイプもいるのだがな。やはり総合的に見てお前のようなやつが多い。その中でもお前は典型的だと思うと愉快でな》

《そういう分析はいいから。ジャックに話しかけていいか?》

《私には全く問題ないと思えるが、実際どうなるかは知らん》

《その際のジャックへの聞き方は『なんだよ内緒話かよ?』っていう聞き方でいい?》

《だから実際どうなるかなど知らんと言っているだろう》

『なんだよ内緒話かよ?』

それは何だかものすごく友達同士の会話みたいで内心うずうずした。しかし、地球からもかなり離れて迷うように振り返った。地球の全体が目に入り機械神ルルティエラの巨大な姿が目に入って息を呑む。相変わらず地球を抱いてる。

うっすらと瞳が開いた気がして、思わずそちらに注目していた時、南雲さんが俺より先に口を開いてしまった。俺は話しかけようとした言葉を再度呑み込んだ。

「……まあそうか」

なにか南雲さんが納得している。

「面倒な。どうしてそんなことに付き合わねばならん」

雷神様は心底嫌そうだ。

「いいだろ。六条って察しが良すぎて滅多に驚かん。だから俺はこいつの驚いた顔を一度見てみたい」

ビシッとジャックに指差された。なんだ。サプライズか何かでもしてくれるのか? というか、こいつよく南雲さんたちにタメ口を利けるな。

「豊國、まあいいんじゃねえの。千代女達は1日、2日、いや3日は向こうで留まるだろう。時間移動がズレるかどうかなんてこと誰も知らないわけだしな。だが、祐太、お前どうせすぐ出るんだろ?」

「そのつもりです。迦具夜と伊万里のことがどうしても俺は気になります」

伊万里のことは後で南雲さんから追加情報が聞けるようだが、今一番気になってるのは迦具夜のことだ。というのも迦具夜と俺はどれだけ離れていても"魂で繋がってる"。それがこの世界に俺が現れてから繋がりを感じない。

それに誰も迦具夜の名前を出さない。【千年郷】が1000年借りられるようだから、迦具夜が勝ったはず。だが、それなのに迦具夜の名前が出ない。出てきたのは弁財天の名前だけだ。どうして迦具夜の名前は出てこない。

「どうせこいつはまたすぐ大変なんだ。ちょっとぐらい遊び心があってもいいだろう。豊國、お前、伊万里の件に付き合う気満々なんだろ?」

南雲さんがそう聞いた。

「まあな」

「じゃあ、いいじゃねえか。俺も今の状況じゃ祐太についていけない。あと、ジャックはレベル999の限界まで上げるつもりだろう」

「ああ、そのつもりだ」

そのすぐ後、南雲さんは【意思疎通】をまた1秒ほどした。南雲さんから何か言われたようで、雷神様はため息をついた。

「六条。我は先にシルバーエリアのゲート前で待ってる。自分で先に確かめたいことを確かめたらすぐに来い。わかってると思うが我も一緒に行く。つまり一時的に我はお前の召喚獣になる。雷獣たる我を自由に使える。これを名誉に思うだろう?」

「え、ええ、まあ」

「だったら、それで文句もないな?」

「それは……ないです」

としか言いようがない。俺は自分に好意的な相手を否定するのは苦手だ。それにここで嫌だなんて言えば、雷神様はまず間違いなく恥をかく。何というか、そんなことはさせられない雰囲気のある人だ。

それにこの人とは、一度だけレベル1000を超えるための手伝いとして【明日の手紙】の能力を使う約束をした。俺はそれを覚えているし、約束した以上、守る義務がある。だから反対する理由はなかった。

「って、ことだ。祐太、俺は【千年郷】のどこかにいるから用事が終わったら桜千に連れてもらってきてくれ。あいつは【千年郷】の中で起きてること全部把握してる。伊万里の話はお前に必ずしなきゃならん。ちゃんと来いよ」

「了解です……」

『あの、でも』

そう続けようとしたが、美鈴とエヴィーによって散々鍛えられた女性関係と違い、やはり男というか友達関係には躊躇が生まれる。俺が何も言わないでいると3人は宇宙空間で【転移】を行い、その姿が消えた。

中学時代こういう時は必ずその後に嫌なことが起きた。背中に【生きてることが、恥ずかしいので自殺します】と書かれた張り紙が貼られているのを俺だけ気づかずに授業の終わりまでいたり、気づいてとったら池本に殴られたり。

だから余計に聞きにくかった。だが俺の過去もわかってる南雲さんがいて、そんなことするわけもない。それなのに過去の経験から、どうにも嫌な予感が拭えない。この宇宙空間では本当に小さい【千年郷】が見えてくる。

点のようにしか見えないそれがようやく人の身長程になり、目の前に来た。俺は【千年郷】に声をかけた。

《久しぶり。桜千のおかげで俺は助かったみたいだ。ありがとう》

【お礼など全く必要ありません。むしろ私はこの10年間、 主(あるじ) 様の心を満足させられることができていたかどうか、ずっと不安に思っておりました】

《ああ、日本人を受け入れたことだよね》

【左様でございます。主様のお時間がお許しになる限り、詳しい内容をお伝えさせていただきますので、ともかく今は千年郷に触れてください。そうすればすぐに中に入れます】

《分かった。ところで桜千は、南雲さんたちがどうして先に帰ったかわかる?》

【……おそらく主様の驚きが、彼らがいることで阻害されると考えたのではないでしょうか。私にはよく分からないのですが、主様はまず千年郷をゆっくりと歩かれてはどうでしょう? 千年郷内部におられた時からの南雲様たちの言葉から推察するに、通常の人間であればそれで気づかれるのだと思われます】

《ふうん、分かった。そうしてみる》

まあ少なくとも昔のような嫌な思いをすることはないだろう。俺にとって嫌なことなら桜千もこんな言葉が言わないだろうし、言われた通りにしてみることにした。しかしその前に念には念を入れておく。

【天変の指輪】を使い、目立たないように容姿を中学時代の姿に戻してから、そのまま【千年郷】に触れるとすっと中に入れた。少しの間空間を移動した違和感を感じる。目を閉じていたのだがゆっくりと開いた。

「——おお、すごい!」

中央にある巨大桜がすぐに目に入った。そして池袋駅が目の前にあった。日本がそのまま再現されてるのか。俺が住んでたタワマンまである。実際の池袋駅はもう消滅してしまったがここには普通にあるのだ。

線路を見るとリニア新幹線が走っていた。空を見ると空中に光る線の道路が引かれていて、空飛ぶ車も一般化されているようだった。人通りも多くて結構繁華だ。驚くというのはこの光景のことだろうか?

《ちょっと未来的だけど、そこまで極端ではないし、むしろほとんど日本自体が移築されたみたいになってる方が驚いたな》

【この区はこのように日本をほとんど移築したような光景ですが、他はかなり違いますよ】

《どんな感じに?》

【はい。現在トラブル回避の目的もあり、日本は探索者レベルによって棲み分けが行われております。それは1区から10区に別れており、日本がほとんど再現されたような光景になっているのは10区と商業区のいくつかに見られる光景です。他は完全に自由に皆様建てておられるので、ピラミッドや空中都市などまさに千差万別といった様相です】

《へえ……確かに色々見てみたいな。でも、レベルによって完全に棲み分けるのって問題が起きなかったのか?》

【当初は差別的な政策とそれを強要されることにショックを受ける人間も多かったようです。ただ、政策前よりもかなり治安が改善されたこと、諸外国に比べて、日本はかなり日常生活において恵まれていることが判明してくるほどに、ショックから立ち直っていく人間が増えていきました。何よりも現在、景気も安定して好調であることから、政府の方針に明確に反対する勢力はごくわずかです】

《南雲さん上手くやってるんだ》

南雲さんの性格からして、かなりそういうことは苦手だと思う。特に英傑が自分一人では、相当苦労したはず。俺は改めて南雲さんを尊敬する気持ちが湧き上がってきた。

《なあ、桜千。この近くに俺の住んでたタワマンの部屋があったんだけど、それって再現されてたりする?》

俺は自分の住んでいたタワマンとそっくりの建物があったので、見上げて口にした。【千年郷】を手に入れるのに結構貢献したし、10年間いなかったと言っても、さすがにそれぐらいの部屋は確保されててもいいよなと思う。

【……残念ながらあのビルに主様の部屋はございません。あの部屋はかなり人気が高く、高額での落札が後を絶たないのです。無理に確保する理由付けも難しく……】

《そっかちょっと残念》

まあ10年だもんな。10年も何もしてないやつがそんな部屋用意されるわけもないか。

【は!? いえ、このような言い訳をして申し訳ございません。やはり主様にとって思い出深き場所は残しておくべきでした。現在、住んでいるものをすぐに退去させますので少々お待ちください】

《いや、ごめん。そんなの悪いし、住んでる人がすでにいるんならいいんだよ》

【いえ、ご安心ください。退去させたものにはそれ以上の部屋を用意いたしますので、不満が出ることは決してございません】

《そうなの?》

【はい】

《じゃあまあ住むところがないのは困るし、そうしてもらえるとありがたいかな》

何よりも伊万里との思い出の場所である。できればなくしてしまいたくなかった。

【畏まりました。山田総理にあらゆる業務を停止し、最優先ですぐに手配するように指示いたします。ですが住むところがないという心配は全く必要ございません。諸事情により主様の領地は、現在、誰も使用されていない野山となっております。しかし、主様の帰還に合わせて、私からも要望書を提出し、私が指定した場所に新たに主様の領地を確保いたしました。秘密裏にならざるを得ないのが申し訳ないのですが、すでに何不自由なく暮らしていただける住宅の建設も完了しております】

《領地?》

【はい】

《部屋じゃないの?》

【領地内に建設した建物に部屋はたくさんございます】

《……ごめん。領地って何のこと?》

よくわからない単語が多い。言葉自体は知ってるが領地と言われるとピンとこないどころじゃなかった。そしてだんだんと分かってきていることは、何と言うか、ジャックが面白がっていたのは、こういうことなのではと思えた。

【本来千年郷中にある全ては主様のものということになります。ですが、主様がおられない10年の歳月の中、それだけでは主様が私を利用しようとした本来の目的に全く合致しないと判断いたしました。そのため日本国の住民全ての受け入れ、それに伴い千年郷の治安が保たれるように様々な施策を私は受け入れました。まずこのことに対して問題はございませんでしょうか?】

《全く問題ないよ。逆にそうしてくれてなかったら、日本のあの状況じゃ俺や他の人たちが頑張った意味が全くなくなるところだった。ありがとう》

【そう言っていただけてほっといたしました。領地というのはその際にできた取り決めです。先ほどお話しした10区はレベル10までのものが住むエリアなのですが、今までと同じく、経済活動による土地の運営をメインとしております。9区も同様です。しかしそれ以上の区はレベルによって土地が領地として与えられ、その中の土地をどういった形で運営するかは探索者個人の自由となります】

《じゃあ俺にもその土地があるってこと?》

【左様でございます。南雲様は現在、日本国に残った唯一の英傑。そのため広大な領地を有しております。本来ならば主様にも用意されていたものなのですが、現状主様の帰還を知るものは、一部のもののみであります。このため秘密裏に領地を用意した方が良いと判断され、南雲様の土地の1部を主様の土地として自由にお使いするということで了承を得ております】

《それっていいの?》

【全く問題ございません】

桜千の言葉を聞きながらも、池袋駅から周囲を見渡す。懐かしい高層ビルの街、人の賑わい、それは10年前のあの光景とほとんど変わっておらず、池袋駅の前には1つだけ、ストーンエリアへと続くダンジョンゲートへの入り口があり、ダンジョンショップもあった。

レジのお姉さんもいるのかと思って覗き込むと、相変わらずいて、なんだかほっとした。あの人いつもあそこにいるよな。そんなことを思いながら自分の領地というものがどういうものなのか、見ておこうかと思う。

《そんなに評価してくれなくてよかったんだけどな。どんな広さなんだ?》

領地というからにはかなり広い家が建ってる気がした。10年も何もしていない俺がそれほど大層なものを与えられたことが申し訳なく思えた。

【東京都と同程度と思っていただければ間違いないかと思います】

《東京都ってあの東京?》

【はい。あの東京で間違いないと思われます。南雲様はいずれ主様が英傑となられると信じておられるらしく、そうしてから正式に自身よりも広大な領地を所持してもらう方針のようです。私もその方が煩わしいトラブルに巻き込まれずに主様は探索に力を注げるかと判断し、その意見を受け入れました】

《な、南雲さん。俺にすごく期待してくれてるんだな……》

【その点は南雲様だけのことではないと思いますが】

《まあ千代さんとか、どうしてか雷神様とかも期待してるな》

【いえ、そういうことではございません】

《じゃあどういうことだ?》

【すぐにお分かりになられるかと思います】

桜千は何だか大げさな奴だ。創造主の翠聖様にも似ているうさぎ耳の美男子を思い出す。それにしても……。駅ビルから歩き出して街をゆっくり眺めてるわけだが、なぜか、正面から向かってくる人がかなりよく俺を振り返る。

そして振り返った後、なぜかのんびり歩いてる俺の後ろをついてくる。

ぱっと振り返るとそれは若い女の人ばかりだった。声も出さずにじっと俺の方を見ていたようだが振り返ると慌てて全員視線を逸らした。これは一体何の反応だろうか。ひょっとすると今の自分の姿を間違えたかと確かめる。

体の各部を見る。そうすると確かにこれは俺の昔の姿だ。眼球をもう一つ用意して空中に浮かべると、自分の姿を外からも確認する。冴えない男子が一人いる。頼りなさそうに揺れる瞳、うつむき加減の体。

クラスの中に1人はいる冴えない男子。

女子から、

『六条だけは絶対ないわー』

と言われた男子。中学時代の俺も頑張ってたんだが、少なくとも若い女の子が追いかけてくる顔じゃない。それなのにどうしてみんな追いかけてくる。ジャックから察しがよすぎると言われている俺だが全くわからなかった。

《ジャックいる?》

《いるぞ》

《お前見てる?》

《見てるぞ》

《これ何?》

《……》

【意思疎通】が切れた。

「ちっ、これのことか……」

すぐにそのことは察しがついた。だがやはり理由がわからない。この顔に若い女の子たちばかりがついてくる。いつの間にか俺は犯罪者にでもなって指名手配をされてる? いや、違う。それだと若い女ばかりの理由がない。

俺は首をかしげて怪しみながらも、再び歩き出した。