軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五話 Side米崎 四年 人間らしさ

僕が支配する世界。霊王国と名付けた国から、六条屋敷に戻ってきた。自分のために霊王国から直接、人目につかない場所に【転移門】を設置してあるので帰ってくるのはすぐだ。

「で、なぜ呼ばれたの?」

「美鈴様と小春様がご帰還の場合は連絡せよ。とのご命令でした」

からくり族が霊王国に直接呼びに来る。女性型からくり族赤城型ヒノエ。赤城型は月城様からの技術提供で完成した汎用戦闘型からくり族だ。その中でもヒノエはハイエンドモデルで、レベル100ほどの実力がある。

残念ながら量産はできない。レベル100のからくり族を造るには希少なダンジョンアイテムを使用する必要があり、ハイエンドモデルはこれ一体だけだ。

「そうか。あの二人も帰ってきたか……どこにいるの?」

美鈴君たちと会うのも、彼女の父親にからくり族を一つ欲しいと言われてあげて以来だ。

「ここと同じく三層の"隔離"区画301となります」

「OK」

僕はさらにそこから手元に持っていた機械によって六条屋敷内を【転移】した。【転移】スキルが現れなかったので造ったものだ。造るのに時間がかかるし面倒だったが"今"はとある事情で、人目につくリスクはできるだけ避けたい。

「あ、博士だ。【転移】いいなー」

声をかけられて振り返る。赤髪と紫紺の瞳、もう一人が黒髪のツインテール。2人とも見た目が変わっている。大人びて何よりも【 転生(リィンカーネーション) 】したようだった。

「ずいぶんと見た目が変化したね」

「はは、おかげさまで」

「私は"こっち"じゃないんだけどね」

間違いなく彼女たちがいた。六条屋敷の奥の一室。他の探索者の目からは完全に隔離された場所。三英傑のために用意された部屋よりも、さらに奥にあることで決して誰も近づかない保証があった。

「博士【転移】を使えるの?」

「これは機械によるものだよ。五郎座衆が使用していた【異界渡り】を月城様と改良したんだ。あれほど不便なものでもないが、便利すぎるものでもない。まあ身内にしか渡してはいけないことになってるんだけどね。欲しいかい?」

「「欲しい!」」

美鈴君と小春君が二人で元気に返事をしてきた。2人とももう20歳か。出会った時が15歳であったことを考えると大人びるわけである。ただ大人になっただけではない。2人とも僕と同じく【転生】したのだとわかる。

以前とエネルギー量が全く違う。それは見れば分かった。僕と同じくレベル500を超えたのだ。ただ、榊君は根本の見た目は変わっていなかった。だがうっすらと別の姿が見えた。おそらく僕と同じく見た目が、"あれ"なのだろう。

ルビー級になると自分の姿を変えるのはさして難しくない。だから僕と同じく見た目を整えているのだ。2人に転移装置を渡すと、スキルで使えるほど便利なものではないと教えておいた。

「ところで博士も【転生】したんだよね?」

「したね」

「私はなんかこんな感じだけど博士はどんな感じ?」

榊君は僕に尋ねてきてふっと姿を変えると、顔まで完全に猫の人間となっていた。白猫でなかなか美しいと言える見た目だが、日本人の感覚的には一般向きな見た目でないのは確かだ。【呪い猫】という存在らしい。

「僕はこうだよ」

そう言って骸骨になった。さすがに裸はどうかと思い、専用装備である【幽玄王・霊羅】シリーズでゴールド級。白が基調の専用装備を着ていた。ただの骸骨でも服次第でずいぶんとゴージャスに見えるのだ。だが残念ながらまだ全ては揃ってない。

「ああ……博士」

「なんだい?」

「【転生】って、そうじゃないんだよなー。って思いませんでした?」

「私思わなーい」

「あんたは黙れ」

「僕も別に思わないね。さすがにこれでいると問題が多そうだ。とは思ったけどね」

僕は2人の顔が引きつっているのを見て姿を戻した。榊君はかなり自分の転生した姿が気に入らないようでツインテールの可愛い女性になった。

「猫が嫌なら好きな姿でいればいいじゃないか」

そう口にしたのだが榊君はどうも、僕の言い分は気に入らないようだ。ともかくこの2人とジャック君と土岐君。そして僕。この5人は順調にここまで来た。そしてルビーエリアになると全員が同じエリアになるので一緒に行動する。

だから、

「これからよろしく頼むよ」

とだけ言っておいた。

「——で、日本はどんな感じですか?」

美鈴君も榊君もそれが気になる。この2人は今、六条君のために1日も早く強くなろうとしている。だからこそゴールドエリアの中からめったに出てこなかった。それでもまず気になるのは干渉のできない場所にいる六条君より日本だろう。

「少しぐらい知ってるの?」

「はい。ちょっと外に出た 探索者(配下) から表向きの情報は聞きました。1年ぐらい前にかなり危機的なことがあったんですよね?」

20歳になり、大人びた美鈴君に配下なんて言葉を使われると違和感だ。六条君は子供のままだろうから、この2人が並ぶとどんな感じになるんだろう。少し余計なことを考えた。ただそう考えながらも本当に危なかった。

それだけは間違いなくて、彼女たちの姿を見たからだろう。あの時のことを思い出しながら説明してあげることにした。

『米崎ちゃんは反対ですか?』

千代女様が強めの目を向けてきた。この状況で 王(ワン) から持ちかけられた【月の魔女討伐】を拒否すれば、国内がまとまらない。千代女様は日本人狙いの他国の間者が、【千年郷】に入り込まれないようにかなり警戒している。

そんな千代女様は日本の今、【千年郷】内部の状況も一番理解している。今の現状にルビー級探索者の不満が"別の理由"で爆発しかけてるのも知ってる。だからこそ、僕がただ【月の魔女討伐】に反対するだけでは却下される。

僕は六条君の友人、黒木君の接触により、今回の件には絶対反対だった。王から戦争を終わらせる前に月の魔女を共同で討伐しようという申し出。それだけはしてはいけないと理解していた。

『でも、あ、あの、これを見てください!』

ふと1ヶ月ほど前に接触してきた青年のことを思い出しながらあの時喋っていた。どうせ六条君の同級生だったから【千年郷】内での優遇措置が欲しいとか言ってくるんだと思った。

その時まだ僕は、彼の情報の重要性は認識してなかった。

『俺が色々言うよりも、まず見てもらった方が早いと思うので見せますね。俺がどうしてもあなたに伝える必要があったことです。正直こんなに接触するのに時間がかかるとは思わなくて、間に合っていればいいんですけど』

彼は持っていたバッグからタブレットを取り出し、10チャンネルのアーカイブを見せてくれた。1から順番に見ていく。なんてことのない10区の人間の嘆き、悩み、勉強すればよかったはずの人生が、急に戦わなければいけなくなった。

それに順応することができない人間の不満を吐き出す場所。そして途中から現れたのが六条祐太を名乗る存在だった。こんな悪戯紛いの書き込みがなんだというのだ。彼は今この場にいないはずだ。この世界にいないのだ。

日付を確認してみるが彼がいなくなったから2年半も後のこと。だが内容は気になる。彼は常識外のことをする。まさかとは思いながら最後まで全ての内容を確認した。そしてこれが可能なことなのかと考える。

未来への時間移動というものは、10年後の未来にすでにいるということではないのか。途中の年代に接触するなんてことが可能だろうか。答えを出せず、この内容に嘘がないかどうかの確認をするために検索をかける。

10チャンネルのサーバーを無理やりこじ開けて通信記録を確認する。だが、六条祐太の固定ハンドルネームだけ、どこから書き込まれた内容なのか確認することができなかった。外国からの通信すら【千年郷】は制限していない。

日本が孤立しないようにできるだけ鎖国状態を避けたいからだ。せめて情報だけでも開いておこうという意図があった。だから外国のハッカーによるものか? 僕は黙ったまま1時間ほど確認を続けた。

【千年郷】システムと僕の今の能力をリンクさせると、世界中完璧と言っていいほど情報を集めることができる。今の日本に対して、探ろうとしているハッカー集団は多い。そういうものはことごとく潰すように気をつけている。

だからその線は正直薄いと思った。情報は開かれているが、スパイ行為は許していない。攻撃的な接触に成功しているものはない。結果として六条祐太の通信だけまるで、その意図が見えてこなかった。

ただ、探索者ならばこういうことができる。一番怖いのはこれが 王(ワン) の罠である可能性を捨てきれない。だが罠だと切り捨てると、本当だった場合、取り返しがつかない。この内容はそういうものだった。

『このポーションの内容だけど、確かなのかい?』

『は、はい! 一応持ってきました!』

1000万円のポーションを見せてきた。今では1億でも売りには出されないようなポーションだ。何しろ探索者にとって絶対必要なものであり、そして貴重すぎて使いにくいものだ。ただ、ポーション自体は全て同じものだ。

個別の認識番号があるわけではない。仕方がないので指紋が残っていないか確認してみた。そうすると六条君の指紋がしっかりとついていた。本物だ。指紋のつき方からしても間違いなくこれを彼は手に握っていた。

僕は10チャンネルの書き込み内容についてもう一度考えてみた。

月の魔女と英傑が戦わない。それは王にとって得をする内容かどうか。いや、どう考えても利益のある内容ではなかった。

『まずこれを見てほしい』

内容に嘘がないことを保証して、僕は黒木君から教えてもらった書き込み内容を部屋の中にいる全員に見せた。三英傑と千代女様である。結果、あの場で全員がそれを信じることと決めた。

そこまではいいのだ。六条君を生涯の伴侶と思っている千代女様は、六条君の言葉に逆らわない。龍神様も六条君を気に入ってる。内容が嘘でないのならば信じる。田中様と天使様は、そこまで自分の主張を押し通すタイプではない。

龍神様が信じる時点で、二人とも信じてくれた。でも、そこから先だ。英傑が悪神と戦わない場合、解決しなければならない課題がいくつもある。

まず、

『お前が”殺される”。それはまずい。お前が死ななくてよくて、その上で祐太の言葉を聞いてやれる。それにはどうすればいいかだ。米崎、よく考えてみてくれ。お前の決定に俺はしたがう』

龍神様は自分のできる範囲を理解している。こういうところはあっさり頼ってくる。そしてそれでいいと思った。万能の人などいない。王様は方針だけ決めればいいのだ。細部は得意な人間がやればいい。

人を使うのが苦手な王様は滅びる。そういう意味であまりにも優秀すぎて全てを抱え込んでしまった森神様は死んでしまった。だからこそ龍神様は王様の資質があると思った。それでいていつも問題が起きる渦中の人になりがちだ。

ここで我慢するのは龍神様にとってしんどかったと思う。

「そもそも探索者が抱いている不満って何ですか?」

「簡単に言うとね。六条君と僕への嫉妬だね」

「嫉妬か……。頭が良くなってもやっぱり人間ですね」

「まさに」

今までの話を聞いて以前よりは少しは考えるようになったらしい美鈴君。見た目だけでなく心も大人になったようには見える。赤髪に紫紺の瞳。一見すると思慮深く見えた。

「そうだね。一時期起こった六条祐太の急激なレベルアップも、成果も、内部事情を完全に把握していないものからすれば、"英傑に引き立てられたからできた"ことに見えなくもない」

「そんな考え方ひねくれてるー」

「ひねくれてるよ。人だからね。六条君がカインの撃退して見せたのも、月城様に好かれているから。あまりにも不可能すぎて、時間が経つほどに、彼女の手柄をもらっただけという謝った情報の方が信じられるようになってきた。これはレベルの高い探索者ほどその傾向がある」

六条君を気に入っている三英傑の前では、何とでも彼を褒められる。しかし六条祐太が英傑から評価されればされるほど、徐々にそれは嫉妬心へと変わってくる。最近はそれがピークのようだ。

「カインを倒したのは月城様で六条は何もしてない?」

榊君が言ってきた。美鈴君は今初めてそこまで気づいたみたいな顔で目を見開いている。

「その通りだよ」

「つまり、六条の努力は月城様と"寝る"ことだけ。こんな風に思っているものがかなり多いわけね」

さすが僕と同じ種類の人間だ。榊君は人の裏側をよく理解してる。

「それってかなり腹が立ちますね」

美鈴君が口を尖らせた。榊小春君も難しい顔をしている。今のこの状況は安全なのだが弊害がある。戦わずに安全な場所にいつでも逃げられる。ダンジョンの中で命がけの探索者にとっては簡単な状況。だから余計なことまで考える。

何よりも六条祐太が一瞬でできた三種の神器発見が、ルビー級とゴールド級総出になってもまだできない。その屈辱が余計に嫉妬心をこじらせる。今の日本の高レベル探索者は結果が出せないことに鬱屈しており、万事この調子だ。

僕がやったことですら月城様の知識をもらっているだけということにされた。まあそれは当たっているのだが、それは僕に言われても困る。そもそも月城様が僕に提案してくることを、僕以外が理解しようとすると時間がかかりすぎる。

探索者に研究畑出身者の高レベルが、日本には僕だけなのだから仕方ない。その辺は説明したができない腹立たしさは、理性を超える。さらに榊君は口にした。

「それに月城様と弁財天様は驚くほど美人だもの」

「ああ、まあそれもあるね」

六条祐太の女性人気の高さ。そして実際に付き合っている女性のグレードの高さ。大八洲国の大貴族と結婚話まで出る男が他にいるわけもない。女の嫉妬も怖いが、男の嫉妬も怖い。それにもう1つ問題がある。

六条君のレベルがトップランキング1000に載ってこない。パーティーメンバーが乗ってるだけだ。表にも出てこないから、月城家に籠もってると思われており、さらに高レベル探索者からの評判が悪化している。

「とはいえ彼がここまでして伝えた言葉を無視するのは非常に怖い。その怖さは僕こそが一番理解してるさ。でも今のこの状況で国内で争っている余裕はない。そこで——」

二人の顔を見た。

「外の情報を仕入れていたのなら知っているだろうが、残念だが六条祐太を"ダンジョン内で死亡した"と発表することにした」

「ええ!? 祐太死んじゃったの!?」

どうやら知らなかったようだ。榊君の顔を見ると知ってそうだから、彼女が美鈴君には隠したようだ。

「死んでないよ。あくまでもフリだ。色々考えた結果、これが一番不満の解消へとつながると判断した」

「でも祐太はちゃんと自分で頑張ってきたのに!」

「それは知ってるよ。だからこそ評価しすぎたのが今回の原因だ。よって【千年郷】において六条君に与えられた土地のすべては死んだんだから没収。さらには六条君への過剰な個人崇拝の禁止。そして僕も相変わらず口出しはさせてもらってるがダンジョンでの探索中に死んだことになった」

「それはさすがにひどくない!?」

「だからこんな奥の部屋か」

美鈴君の頬が膨らみ、榊君は六条屋敷の人に絶対見つからない場所に僕がいることを納得したようだ。そうしてなんとか高レベル探索者が不満を抱えないように配慮した。そして英傑が悪神と戦わない。

それはあくまで三英傑自身が判断したこととして発表した。

『婆が残した最後の【未来予知】だ。文句のあるやつは俺の前に出てこい!』

さらに森神様の名前を使った。死んだものに頼ることはできるだけ避けたかったが、今回ばかりは仕方なかった。

「ダンジョンのランキング1000に僕は【死霊王】とだけ載っているから、幸い米崎だと特定させるものは何もない。まああのランキングはそういうものだから大丈夫とは思ったけどね」

「それから1年経ってますよね。その方法だけで大丈夫なんですか?」

榊君が心配そうだった。

「大丈夫じゃないよ。森神様の名前を使って我慢をさせてるだけだからね。月の魔女は1年経っても日本に居座ったままだ。王はロロン達と共に世界秩序を再構築させている。僕たちという対抗勢力が残っているから、あまり無茶なことはせずに、飴もかなり与えているよ」

「こっちは孤立したままですか?」

「日本はメトの件で王に不信感を抱いたインドに、本土を【千年郷】の能力で復興させることを約束し、さらにカイン率いるヨーロッパ連合にも同じ条件を出して、三勢力での日英印神聖同盟に成功。死神が相変わらず現れないままの王の米中神王同盟と英傑の数では同数に保てている。ちなみに王はどういうわけか今になって中国を悪神から守り、北京の特級ダンジョンに本拠を移した。でも、そこから動かない」

「そっか……」

美鈴君が息を吐いた。このままずっと鎖国状態なんてことになれば、間違いなく日本は世界から孤立する。ほどよく外と接触する方法を模索中なのだ。だが、

『悪いが少し出かけなければならん。その間にお前が何か妙案を思いつけば連絡してくれ』

どうしても外せない用事があると龍神様も戦争が膠着状態になり、しばらくしたら姿を消した。目的が何なのかの予測もついたから止めることもできなかった。今は天使様と田中様の2人で何とか持ちこたえてくれてる。

ただあの二人だけではどうにも不安定だ。

「正直、六条に早く帰ってきてほしいですね」

「全くだ。彼は何というか物事を動かす何かを持ってるからね。ダンジョンも彼がいなくなってから眠ったようになっている。1月1日に毎年増えていたはずのダンジョンの入り口の数も増加しなくなったしね」

「10年は長いよ。私祐太より大人になりすぎちゃう」

どうしてこうもいろいろ考えなきゃいけないことが多いのか。長引く地球の戦争と桃源郷での神の座の争奪戦。正直桃源郷における神の座の争奪戦も同じぐらい大変なのだ。どちらに関しても敵が手ごわすぎる。王と信長。

「どっちもこういうことに関して僕より賢いんだよね」

「博士疲れてる?」

「少しね」

「頭がいい人でも疲れるんですね」

美鈴君が呑気なことを真顔で言ってくる。

「僕は自分の頭はいいと思ってる。でもね。こう見えて僕って肝心なところで運が悪いところがあるんだよ」

そう言って椅子に沈み込むと、榊君が肩を揉んでくれたので少し癒された。