軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六話 Side南雲 四年 伊万里捜索

日本の方も俺が離れると色々とまずい状況なのだが、放っておけなかった。第三次世界崩壊、並びに第三次世界大戦とも言われる戦争は完全に膠着状態だ。そして 王(ワン) も月の魔女と戦う気のない日本に対して今のところ手を出す様子がない。

『田中、鈴。すまんが少しだけ俺に時間をくれ』

『正直今は大変な時なんですけどね。どうしてもですか?』

『南雲が別のところに行くのは危険だと思う』

『分かってる。でも祐太のことなんだ』

『『それなら仕方ない』』

2人とも祐太のことだと言うと頷いてくれた。俺はそれを聞いてすぐに飛び立つと、くれぐれも2人には俺がいない間、王と戦わないように念を押しておいた。

「【千年郷】の貸しがある。返さないと俺の良心が咎める。だからってあっちを放っておくのも気が咎める。体が2つあればいいんだが……」

田中も鈴も人を引っ張るタイプじゃない。あの二人だと国がまとまらなくなる。

「性に合わねえ。自分でも思うぜ」

自分の命などどっちでもいいと今まで生きてきた。それが急に自分の命を失わないように気をつけてる。そして周りを見て、我が儘を抑えてる。ババアにかけた迷惑を思う。そのままに託されたのだ。勝手に死ねない。

俺が死んでもババアがいた。だから死んでも後のことはババアがなんとかしてくれる。そんな甘えがあった。

「米崎も誰もサファイア級まで行きそうな勢いは感じん。桐山が唯一ガチャ次第なんだが、虹アイテムはマジで出ないからな。祐太ならここまで確実に来れたはずなんだが……まだ6年も居ない。いや、これも甘えか」

ただでさえ本来、接触できるはずがない場所から祐太はこっちに接触した。それでかなり 王(ワン) は困惑したようだった。あの時、俺が王からの終戦条件を断った時のやり取りは、今でも思い出す。

『悪いがお前と一緒に月の魔女討伐は断らせてもらう。理由はお前が"嫌い"だからだ』

『……え?』

完全に意表を突かれた反応になったのが痛快だった。何しろあの女はいつも超然として、掴みどころがなく、こういう姿を見せる女ではなかった。それが声からだけでもわかる。動揺していた。

『返事はそれだけだ。じゃあな』

この女と長く話すと言葉に惑わされる。王は手のひらの上で人を転がすのが好きなのだ。だからさっさと秘匿通信を切った。しかし即行でかけ直された。これに出ないといつまでもかけてきそうなぐらい何度も何度も。

さすがに面倒で電話に改めて秘匿通信でかけ直した。

『何だよ?』

『南雲、君は意味がわかってるのか? 日本の本来の土地がナディアに蹂躙されるんだよ。それを私が嫌いとか個人的な感情で見過ごすっていうの?』

『ああ、見過ごす』

冷静に返答する自分が、どこか他人事のように感じられた。

『ありえない。なくなったものはよみがえらないんだ。日本人全ての思い出の地が、なくなってもいいと? いつからそんな臆病になったんだい?』

『臆病風に吹かれたといえばそうかもな。まあ思い出がなくなるのは残念だけどよ。命あっての物種だ。それに思い出は無理でも写真を見たりして再現はできる。こっちのとあるアイテムを使えばそれも簡単だ。それよりも、お前と正面からやり合うんじゃなくて一緒に行動するっていうのが気に食わん』

その言葉が口をついて出た瞬間、彼女の反応が消える。たぶん、俺の本心が見えなくなったんだろう。しばらくして口を開いた。

『どうして? 仲良くしようよ。戦争を終わらせる前に、共に悪神と戦えば、遺恨もなくなるってもんじゃないか』

『二度目だぜ。俺はお前が嫌いだ。田中も鈴もお前が嫌いなんだとよ』

『ちょっと酷くない? いや、私が嫌いでも別にいいけどさ。それよりも戦争が終わらない悲劇を考えるべきじゃないかな?』

その言葉には冷静さが欠けていた。王の焦りが見える。

『罠の匂いがぷんぷんとするんだよ。下手に一緒に行動して“こっちが全員殺されました”じゃシャレにもならん』

その一言で、彼女は沈黙する。しばらくの間、互いの息遣いだけが通信の向こうに響く。やがて、彼女の声が戻ってくる。

『……正気とは思えない。それで日本の探索者が納得するわけない』

『納得させたんだよ。お前ならその方法ぐらい思いつくだろ』

俺の言葉に、彼女の苛立ちが伝わってくる。短い沈黙の後、彼女は電話を切った。

「あのバカ女、何をする気だったんだ?」

王とのやり取りを思い返しながら、心の中でつぶやく。彼女は何かを企てている。俺の知らないところで、何かが動いている。そう思うと、背筋が寒くなる。嫌な思考を振り払うように、目の前のダンジョンゲートに触れる。

かつて池袋にあった特級ダンジョンが、今は【千年郷】の5区に設置されている。ここからすんなりと目指す場所に入れるはずなのに、今回はその国の支配者の許可がなければ入れない。

【地球圏日本国所属サファイア級龍炎竜美。入国番号0899『 聖勇(せいゆう) 国』への入国許可をもらいたい】

【……許可できません】

伊万里がゴールドエリアで統一し、支配した【聖勇国】。伊万里の国であり、祐太が所属しているゴールドエリア。ゴールドエリアは支配したものが自由に国名を変えることができる。

シンプルな名前だが、悪くない名前だ。この中に入って伊万里と接触する。聖勇国の支配者である東堂伊万里のレベルは、伊万里がダンジョンに入ってから5年で999という神の一歩手前にまで到達した。

そのことはトップランキング1000で【真勇者】の名で刻まれており、確認したから知っている。あと1レベル上がれば伊万里は半神である。本来なら地球の戦争にすら参加できるレベルであり、勇者は悪神への特効もあるという。

それでいて伊万里は地球のことには興味を示さず、それどころか六条パーティーから抜けていた。どうしてそんな行動に出たのか、伊万里の不可解な行動について、俺は白蓮という婆さんから大事なことを聞かされていた。

だからどうしても伊万里と話さなければいけない。そして、

「玲香、悪いな。やっぱりダメみたいだ」

【千年郷】に設置されたダンジョンゲートの前で、後ろで俺の試みを待ってくれていた女3人を見た。彼女たちの表情には心配が色濃く浮かんでいる。

「ダメですか……」

その女の顔はかなり引きつっていた。俺は種族で言えば【炎魔龍】というものになる。この龍は総じてレベル1000を超えなければ【転生】しない龍で、これを"召喚獣"にするシルバー級探索者はきっとこの女が初めてだ。

「嫌か?」

聖勇国の支配者、伊万里に入国許可がされない場合、聖勇国に入る方法はここでレベルを上げている探索者の召喚獣となる。それが最も簡単だった。そして俺が選んだのは【聖勇国】に所属している玲香の召喚獣になることだ。

「いえ、その、彼のためだから頑張ります。6年後にようやく帰ってきた彼が伊万里に万が一にも殺される姿なんて見たくありませんし」

「伊万里の状態は明らかにおかしい。大八洲国の記録も調べたが、やはりこの国は本来の伊万里の所属国じゃない」

「本当……シルバーエリアで必死に頑張ってたら、急に外側から国が開いて、『すみません。もう決着ついちゃった』って言ってくるんですよ」

特級ダンジョンの前で喋っていたのは、祐太の女、姉妹で祐太に惚れてしまったという桐山美鈴の姉、玲香だった。タイトなボディスーツを着ていて、その姿は体にフィットしていて、肉体の線がよくわかった。

「私も自分なりに対処してみた。帰ってきた彼に何もできなかったなんて言いたくないし、大八洲国の探索局で、ダンジョン側に違法申請もしてもらったんです。でもダンジョンから申請は却下されてどうにもならないみたいで」

「まあそうだろうな」

白蓮から聞いた言葉の通りなら、むしろ主犯がダンジョンである可能性が非常に高かった。だとすれば、決定が覆るわけがない。それでも玲香は、どうにかしようと伊万里との接触を繰り返したらしい。

「まあ、俺は祐太がいない間の伊万里の保護者みたいなもんだ。伊万里がここで迷惑をかけてるんなら、対処を後回しにして放置してた俺も悪い。迷惑かけたな」

「あなたを責めてるわけではないんです。それに大変だったのは知っています」

「……玲香、レベルはいくつだ?」

「326です」

その数字を聞いて、俺は自分の中の力を放出していく。326まで自分のレベルを落としてしまう。今の日本で俺は一番死んではいけない人間になっている。しかし、白蓮の婆さんの言葉通りなら、この問題を放置するのもまずい。

「玲香、お前と主従契約をするぞ」

彼女は目を大きく見開いたが、すぐに頷いた。

「了解です」

俺が自分の召喚獣になる。その瞬間、玲香の心の中が俺に流れ込んできた。彼女の思い、祐太への深い愛情、そして今回のことで失望させたくないという強い意志。様々な感情が一つに絡み合い、俺の心にも響いてくる。

彼女の頭をポンポンと叩くと、彼女は顔を赤らめた。ともかく、玲香たちを引き連れてシルバーエリアのダンジョンゲートから入った。最初、裏路地のような場所に出て、そこから表を歩いた。

「やっぱここら辺はあんま変わらんな」

中に入ると、古き良き異世界の景色が広がっている。城壁に囲まれた都市が目の前に現れ、歴史の重みを感じさせる。そのシルバーとゴールドエリアは、ダンジョンで最初に産み出される世界の卵だと言われている。

だからこそ、俺の所属エリアとも違いは微々たるもので、やがて大八洲国や盤国、ユグドラシルといった特色が生まれてくるのだ。言わば世界の始まりの瞬間。そういえば、大八洲国の世界の始まりにいた最初の支配者は「まだいる」という話を耳にしたことがある。

神話のような話だが、確かに耳に残る。大八洲国の祖神など一体何年前の神なのか。それは名もなき神と呼ばれ、現存する古き神の中でもその名を知る者はいないらしい。

「名もなき神の名を呼べば起きるか……」

「え?」

「あ、いや関係ない話だ。というかお前ら何で後ろ?」

玲香にシャルティー、切江の3人が俺の背後についてくる。

「召喚獣にしたからって、あなたを使うわけにはいかないでしょう。というか、そんなの気を使いすぎて無理です」

「そうか……。いや、まあそれはいいんだが、実際のところこの世界はどんな様子なんだ? そもそも伊万里と普通に会えるのか?」

「何度か伊万里に接触したことはあります。数えるほどですけどね。ただ、どうやって彼女があそこまで強くなったのか。そもそもシルバーエリアにいなかったのはなぜなのか。それが許されることなのか。聞いてはみたけど、はぐらかされました」

「まあそうなるわな」

相手の方が強いのだ。いくらでもごまかされてしまう。

「あなたなら何かわかりますか?」

「そうだな。考えられるのは、『ここの元支配者がそれを許可した場合』だな」

「絶対神セラスが……」

その名前が出ると、俺も聞き覚えを感じる。ルビー級になったジャックから聞いたことがあった。

「でも、なぜ伊万里だけがそんなことを許されたんですか?」

「それは……」

白蓮との会話が脳裏をよぎった。

『ダンジョンから好かれるもの。今までたくさんおったがの。いずれその究極系が現れる。そう言われ続けてきた。そしてその究極系はな——』

白蓮は大事な言葉を言う前に、もう一度俺の顔をしっかりと見てきた。

『六条祐太、いや、ダンジョンに好かれるもの。それは、世界を壊す存在と言われておる。ずっとそういう伝説がある』

『……嘘じゃないのか?』

聞いたことがある話だ。でも誰も信じてない話だ。

『嘘ではない。これは偽りのない事実なのじゃ』

『何でだよ。それって……』

『おそらくあの坊やは究極系だ』

『でも祐太に特殊な出自はないだろ?』

『出自は関係ない。そして、わしも今までいろいろとダンジョンから好かれるものを見てきたのじゃ。じゃが、あの坊やの好かれ方は異常なのじゃ。女神は一刻も早くあの坊やを強くしたいと思っているようにしか見えん』

『ダンジョンから好かれてるやつがダンジョンを壊す。おかしくないか?』

『おかしい。でもそうなるのじゃ』

『どうして自分を壊そうとするやつを好きになるんだ?』

その問いが、俺の心の奥底に潜む不安を掘り起こす。祐太がそんなことをするとは、到底思えなかった。

『その理由の答えは持っておる。そしてそれを伊万里の嬢ちゃんに伝えようともした。しかし逃げよった。正直逃げるのは予想外でどうにもならんかった』

『自分から接触しに行くことはできなかったのか?』

『難しいのじゃ。かなり準備してそのポイントにだけ現れるようにせんと、わしは機械神と女神、両方から嫌われておる。特に女神のわしの嫌い方は目に入ればすぐに殺そうとしてくるくらいだ。だから会おうとすれば、ちゃんとした場所に来てくれんことには会うことはできんのじゃ』

どうにも面倒すぎて頭が痛くなってきた。

『あんたは伊万里と同じ勇者だが、祐太を裏切ってないんだな?』

『裏切るというより伊万里の嬢ちゃんは六条祐太を殺そうとしておる』

『殺すのか? マジで?』

『マジじゃ。わしも機械神から「そうしろ」と言われた。じゃがそもそもわしは納得できんことをするのが大嫌いじゃ。勇者とは実のところダンジョンを壊そうとするダンジョンに好かれたものを殺すワクチンのような役割を持っておる。しかし、それをわしがしない』

『だからルルティエラに嫌われてる?』

『機械神は勇者側でな。女神はダンジョンに好かれたもの側なのじゃ。でもわしは機械神にもつかないし、何なら女神の方が味方なのに、勇者というだけで女神は嫌う』

白蓮の婆さんは緑茶をずずっとすする。ずっと逃亡生活をしている。その割に明るい婆さんだと思った。

『なんか大変だったな』

『全くじゃよ。いい加減見逃してくれんかのう』

『で、実際のところあんたはルルティエラの考えがわかってるのか?』

『まあさすがにこれだけの時間探し回っているから、ちょっとだけは分かってることはあるんじゃよ。みかんもう1つ食うかの?』

俺はもう正直遠慮したかったが、みかんを手に取った。みかん以外はないのだろうかと内心思いながらも、彼女の気遣いを無下にするのも気が引ける。いくつ目になるのかわからないみかんを手に取った。

『——というわけじゃ』

『それはまた……』

かなり長い話だった。そして限りなく面倒な話だった。女神は女神で、勇者を殺そうとし、機械神は機械神でダンジョンから好かれたものを殺したい。同じルルティエラなのだから、意思を統一しろと言いたかったが、そんなことは無理な話だ。

ともかく、どうも操られている様子もない正気でいるらしい伊万里は、自分で考えて動いているようだ。そして俺は今こうして聖勇国に来て、伊万里を探す最大の理由がある。

『おそらく伊万里の嬢ちゃんは勘違いをしておる。それを教えてあげて欲しいのじゃ』

この世には不可解なことが多い。俺は玲香に位置情報を送ってもらい、伊万里が住むという城までの道を急ぐ。心の中で不安が渦巻く。伊万里の勘違い。それがどんなものかも聞いた。しかし同時に勘違いしてない可能性も高かった

その場合本当に祐太と伊万里は殺し合いを始めるかもしれない。できればそんな話を祐太に聞かせたくはない。そして何よりもそれではダメなのだ。できれば俺がなんとかするのが祐太にとっても、世界にとってもいいのだ。

しかし、

『今の伊万里にお主がレベルを落とした状態で勝つなど不可能じゃ。勇者は残酷なほど強い。あるいは元のレベルでも負けるかもしれん。それは忘れんように頼むぞ』

【真勇者】

『それだけは本当に敵にしてはいけない。世界は必ず真勇者を勝たせようとする』

白蓮の婆さんの言葉を思い出すと、どうすれば一番良いのかと俺は頭を悩ませた。