軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十三話 生存者

「マグマの海だ……」

改めて12英傑同士の戦いがどれほど恐ろしい結果を招くのかと思わされた。大八洲国に入った俺は、すぐに桃源郷にある自分たちの本拠地に戻ると、みんなには止められたが、その足ですぐに日本に戻った。

美鈴達は桃源郷の六条邸に置いてきた。念のために迦具夜だけついてきてもらい、ダンジョンの外に出ると日本中の気配を探ってもらった。さすがに死神がいたら、やめておこうと思ったのだ。

しかし死神以外も気配はなかった。念のために迦具夜が各地の音を拾って、俺に【意思疎通】で伝えてきてくれた限りでは全員引き上げた後のようだ。

8英傑側は誰もいないということが世間的にも確認され、日本中に出てしまい意味があるのかと思えた緊急避難警報も解除された。

【緊急避難警報解除。正式に8英傑側は引き上げたことが森神様広報より発表されました。今回の被害はとても甚大であり——】

そんなニュースが街頭アナウンスから流れる。俺は周囲を確認しながら、池袋から人工レベルアップ研究所の煮えたぎる大地を見た。そちらへと急いでいると迦具夜が「南雲の気配があるわよ」と言うのですぐに連絡し、返事が来た。

《祐太か。俺はちょっとメトの所に出かけてくる。お前は大丈夫だと思うが慎重に動けよ》

南雲さんはかなり今回のことに頭に来ているようだ。おそらくこれからメトのホームに報復攻撃を始めるんだろう。今現在のところ、探索者の世界はヤクザの論理とほとんど変わらない。舐められたら終わりだ。

やられたらやり返す。まあその辺は大八洲国もほとんど同じようだったし、元々地球上のどの国もダンジョンが現れる前から、そんなものだった。そして二度と手を出そうという気が起きないほどにダメージを与える。

やられて黙ってるやつは一生いじめられてるという感じだ。

《気をつけてください》

とだけ返しておいた。南雲さんは決して良識派ではない。必要とあれば無駄な血も流す。かなり過激な部類の英傑だ。本当に殺し殺されの凄まじい争いが始まってしまった。どれぐらい死ぬのか想像もつかなかった。

さすがにこんなことでテンションが上がるわけもなく、難しい顔になりながら、迦具夜に気配探知をお願いして、人工レベルアップ研究所があった場所まで来いたていた。米崎に確認したところでは、

『重要施設や大事な研究員は、向こうから宣戦布告が来てから、移動させてたからそこまでダメージはなかったよ。ただ、君の家族は死んでるかもしれない。申し訳ないことをした』

そんな話をしていた。相変わらずぬかりはない。その割に俺の家族は避難させてなかった。そして俺は、そのことを何も言わなかった。自分でも驚くほどに、あの父親が生きてても生きてなくてもどちらでもいいと思っていた。

到着して人工レベルアップ研究所地下にあった避難壕に行き、父親が死んでることを確認しても涙すらこぼれなかった。自分以外の家族と幸せそうに暮らすあの男が思った以上に、どうでもいい存在になり下がっていた。

俺は自分で思っていた以上にあの人が嫌いだったんだな。それでも全てが終われば墓だけは建てておこうと思った。ただ自分の父親よりも、芽依さんたちのことが気になる。そして榊の家族が死んだことが申し訳なかった。

「米崎というのは面白い子ね。あなたが少しでも大事に思ってる人間は全員ちゃんと生きてるように気をつけてる。それでいて、あなたが気にしない人間はちゃんと死んでる」

迦具夜がそんなことを言ってきた。

「……わざと殺したと思うか?」

「どうかしら。彼に聞いてみれば?」

「……やめておく」

そもそもエヴィーの家族が死んでる。俺はその人たちのことはどうでもいいとは思っていない。迦具夜は意地悪な言い方をする。ただ頭がいいので外れてもいないと思えてしまうことが腹立たしい。

「多分大丈夫でしょうけど、さっさと榊が生きてるか確認しましょう。私あの子のことは生きてて欲しいって思ってるの」

「……分かった」

「ねえ」

「なんだよ」

「お互い時間がなくなっちゃったわね」

「嬉しそうな顔をするなよ」

あの後、迦具夜が俺の寿命も確認した。落ち着いて魂を見れば迦具夜は人が自然死するタイミングが分かるらしい。その結果やはり俺の寿命も半年となってしまっているらしい。つまり俺もあと半年しかこのまま行けば生きられないのだ。

「だいたい悲観する必要ないんだよ。本来なら確実に即死していたところを半年間の猶予がもらえたんだ。むしろ時間はあるだろ」

「あら、ポジティブね」

「本当にあんたをレベル1000以上にできたら俺の寿命も回復するんだな?」

迦具夜がここまで移動しながら魂の確認や俺への説明をしてくれていた。それによればそういうことだった。

「嘘はないわ。詳しい心は分からなくても、私が本当のことしか言っていないことぐらいは魂の繋がりで分かるはずよ。私はもうあなたに嘘はつけない体にされてしまったの」

「変な言い方するなよ」

「私ね。あなたは怒るでしょうけど今とても幸せな気持ちなのよ。あなたと一緒の運命を辿れる。今まで本当につまらない人生だった。私は結構天才でね。やろうと思ったことはほとんど全てがうまくいった。それなのにこれまでピンと来た男が一人もいなかったのよ。つまらない男ばっかりが寄ってきて、うんざりだったわ」

「どうせ、お前のわがままが過ぎたんだろう」

「かもね。でも最後にあなたが現れた」

「お前のことを恋愛感情では見てないし、何よりも俺はそこまで大した人間じゃない」

ごく普通に腹を立て、正義感ぶったことなど全く思えない男である。女関係はだらしないし、考えることにはよく穴がある。迦具夜や米崎のように隙がないようなことはとてもできない。本当にごく普通の男なのだ。

それがたまたま力を持っただけなのだ。

「あなたに穴がないなんて思ってないわよ。そんな無茶な期待もしてない。でも私があなたに惚れた。その一点が素晴らしいの。おまけに最後の半年はずっと一緒にいてくれるでしょう。最後がそんなことになって良かった。私今ものすごくウキウキしてるのよ」

「それは良かったな。でも俺は半年で死ぬ気はないぞ。お前がレベル1000を超えればいいだけだろ」

「まあそうよね。もちろんそれに向かって、できる限り努力はするけど正直無理だって思うわよ。あなたが望むなら従いはする。ただ、どうせ無理なら、本当はジタバタせずに後の半年をあなたと一緒にゆっくり過ごすのもいいわ」

そんなことを言ってくる。そしてそれも本当だと分かる。どうやらかなり織田家を倒してレベル1000を迦具夜が超えることは難しいことらしい。

「それは俺が嫌だ。最後までジタバタあがきたい。どうしてもダメだとわかるまで進み続けたい。止まるのは嫌なんだ。きっと俺は止まったらまた腐ってしまう」

「腐ったあなたも見てみたいのだけど、どうしてもと望むならそれでいいのよ。私はあなたのそういうところも好きだから」

これはクミカの影響だろうか? 好き好きオーラがすごすぎる。それでもクミカが混じってると思うと嫌いにもなりきれないところが難儀だ。

「しかし半年か。短いな……」

「頑張ってね祐太ちゃん」

「他人ごとみたいに言うな」

「だって私はあなたに従うだけだもの。楽だわ。ずっと人に命令して生きてきた人生だから、人に従って生きる人生になるのも悪くないわ。ゾクゾクしちゃう。私をロープで縛ってみる?」

そんなことを言ってくる。迦具夜と俺では自分の命に対する考え方が違うらしい。迦具夜は貴族になる前の人生も入れると500年以上生きている。その間に一度も恋をしたことがなかったのが、心残りだった。

それをできたことで後悔がないらしい。逆に俺はあと半年で死ぬのは、文字通り死ぬほど嫌だ。あの瞬間、即死するよりはマシだったが、どうしても生きたい。美鈴たちを残して死にたくない。美鈴も伊万里もエヴィーもまだ15歳だ。

そんな歳で俺が死んだら絶対に他の男を見つけるに決まってる。たとえ俺が死んだ後でも、美鈴達を他の男に取られるなど、考えただけでも脳が焼かれる思いだ。だから何としてでも迦具夜をレベル1000以上にしなきゃいけない。

そして自分の生きる権利を取り戻すのだ。

「しかしどういう理屈でこうなっちゃったんだ?」

俺としては自分が【呪怨】に触れてないのに寿命が縮んだことが不可解だった。

「私の方があなたよりレベルが高いでしょ。魂が繋がってる状態でレベルが高い方の魂がダメージを受ける。そうするとレベルの低いあなたの魂にまで影響が及ぶの。もちろんあの時点であなたとは完全には繋がってなかったけど、本来、【呪怨】の呪いはあなた専用に作られたもの。発動すればあなたに一番影響がいくのは呪いの観点で言えば当然のことなのよ」

「当然なのかよ……」

あまりにも自分の方の寿命にも迫ってきていることで、父親が死んだことを考える暇がなかった。いや正直に言うと、俺は親父が死んで清々している。10歳で捨てた恨みは、死んだからと言って晴れるものではない。

だいたい俺のことを思っていると言いながら、浮気相手のところで子供まで作ってた。ふざけるなと思う。それを俺に会わせるな。そうか俺はあのガキを見て可愛いと思ったんじゃないんだ。ただ人の目があるから取り繕った。

そうでなければ泣かしてたかもしれない。そもそも自分は人間としてどうかと思うようなことをしながら、俺に命令ばかりしてきたこともムカつく。ダンジョンに入る前の俺は、お金を握られてるからそれに文句も言えなかった。

おまけに育児放棄中に誰も助けに来なかったのが、あいつの仕込みだったと分かって、余計に腹が立った。でも自分は今恵まれているからと誤魔化した。美鈴たちに自分の醜い姿を見せたくなかったのだ。

米崎はそれに気づいて殺してくれたか……。感謝していいのか何なのか……。いや、さすがにやっぱり死んでほしいまでは思ってなかったな……。クッソ、こんなあっさり勝手に死ぬなよ。なんか涙が出てきただろうが。

俺はグッと強引にその涙を拭った。

「迦具夜。お前には格好なんてつける意味がないからはっきり言っておくが、俺はこんないいところまで来て死ぬのが死ぬほど嫌だ。大好きな女を人に取られるのも嫌だ。何としてでも生き延びたいから、そのためにお前が必要なら絶対に生き延びさせる。わかったな?」

「了解。じゃあ成功したら私のことも好きになってくれる?」

「が、頑張ってみる」

「声が震えてるわよ」

「正直言うと本当にそういう対象として見てない。むしろ俺はお前が嫌いだ」

「ひどい人。でも私、顔は綺麗だと思うのよね。その辺で何とかしてよ」

「顔だけじゃな。やっぱ性格が大事だよ」

「祐太ちゃんだって、そこまで性格良くないでしょ?」

「それは確かに……俺はなぜモテてるんだろう」

「それは格好良いから」

「えぇ」

自分で自分の顔以外はそこまで格好良いとは思ってなかった。だから顔って大事なんだなと思う。きっと迦具夜も俺の元の顔を見たらこんなこと言わないだろう。

「本当はこんな顔だったんだぞ?」

俺はどうぞ嫌いになってくれと思って元の顔に戻った。

「無駄よ。私たちぐらいになるとね。魂を見てるの。体の形や姿。そんなものは私たちのレベルになれば簡単に変えられる。だから姿なんて本当にどうでもいいの。あなたがどれだけ醜くて不細工でも、そんなのは私が簡単に綺麗にできる。本当の魅力はね。魂の輝きなの。私はあの一瞬。あなたがとても輝いて見えた。だから好きなの。だから惚れたの。私にあなたはあの時、あんなことを言えた。そして本当にもう少しで完全に私から逃れた。ああ、なんていい男と思ったの」

「そうか……」

「だからね。顔なんて本当にどうでもいいのよ」

「でもお前だって顔は綺麗にしてるじゃないか。そんなこと言うならとんでもない不細工になっておけよ」

「自分のできる限りの美しい姿になる。それが私を見る相手への礼儀でしょう。もちろん不細工にはなれるわよ。でもできるだけ綺麗でいることも大事なことで、それが一番私を輝かせるわ。今の私のこの姿が私にとって一番美しい姿を保てる最高の自分。私はそう思ってこの姿をとってる。だからこれが私の本当の姿。あなたもそうでしょう? その姿が元の姿だったとしても、愛するものを前にわざわざ不細工な姿に戻る。そんなこと失礼だと思うでしょ?」

「それはまあそうだけど……」

そんなことを言われてしまうと毒気が抜かれて、俺は魅力80の姿に戻った。話をしながらも人工レベルアップ研究所の近くにある大楠ダンジョンが見えてくる。かつてダンジョン崩壊を起こした場所。その時も1万人以上が死んだという。

再び惨劇の場所となり、二度と誰も近づくことはないだろうと思えるほどひどい有様。普通ならマグマはすぐに冷えて表面が黒くなるはずが、メトの力によるものか、まだ高熱を保ったまま真っ赤に輝くマグマの海が広がる。

その様子を見つめながら大楠ダンジョンのゲートをくぐり中に入った。

そしてすぐに人を見つけた。

「榊!」

心の底からほっとする。入り口のすぐそばに榊が居た。そして他に美鈴の家族がいた。千草さんの姿も見えた。

「六条!」

思わず二人で抱きしめあってしまう。しかし榊は真っ赤になった後すぐに離れた。

「と、ごめん。こういうのはしない約束よね」

「それより、よく無事だったな。外の様子には気づいてるか?」

「ええ、ちょっと覗いてやばそうだからすぐに引き上げたわ。出ようとした時に太陽みたいなのが落ちてくるのが見えたの。美鈴の家族がこっちの方に走ってきてて慌ててダンジョンの中に引っ張り込んだのよ」

「小春ちゃんありがとうね。小春ちゃんがいなかったら、私のスピードじゃあ両親抱えてはまず無理だったわ」

芽依さんが言ってくる。

「いえ、助けるのが当たり前だし」

「でも六条君。小春ちゃん、私たちを先にダンジョンの中に放り込んだせいで大怪我してたのよ。あれ、すごい値段がする桃だったんじゃない? 背中がえぐれてたのがみるみる治っちゃって」

芽依さんの言葉に榊の背中を見る。装備が破損して背中が露出していた。榊の専用装備は初めて見るが呪師系統であり、どこか死神と似ていた。黒系統の装備なのだ。

「榊。あなた仙桃を使ったの?」

榊相手にはしゃべるのか迦具夜が聞いた。

「六条君。この人は?」

芽依さんが口にした。何もしなければ迦具夜は清らかな水の精霊のように見える。モデルをしてる人間ならばある種の到達点にも見えたと思う。

「えっと、俺たちの協力者です。見た目はいいけど、気難しいので直接喋りかけないでくださいね」

「ああ、了解」

芽依さんもそういうことには敏感で、すぐに頷いた。大八洲国の貴族にとってレベル100以下の人間は人間ではない。そんな話を聞いたことがある。だから下手に話しかけると見下されて、芽依さんが不快な思いをするだけだと思った。

「ちょっと聞いてるの榊」

「は、はい」

迦具夜にもう一度声をかけられて榊は自然と緊張した。

「これを使いなさい。なくなればまた言えばいいわ」

芽依さんを気にもせずに榊と話を続ける。迦具夜的に桃源郷五層での一件に深く関わった榊は高評価のようだ。あっさりと仙桃を出してる。

《六条君。あんまり声かけない方がいい感じの人よね?》

《そうですね。レベル969ですから、プライド高いんです。放置しておいてください》

《うわあ、怖。どうやったらそんな知り合いができるのか、お姉さん一度聞いてみたいわ》

芽依さんはこういう対応に腹を立てた様子はなかった。今回の戦争で誰が世界の支配者なのかはますますはっきりした。気安くレベルが高そうに見える人間には声をかけない。それが暗黙の了解になっていた。

「六条。これ、もらっていいの?」

榊が俺に聞いてくる。

「ああ、いいよ。どうせ胸を張って威張れるほどの方法で手に入れたものじゃないし」

「そうなの? まあもらえるものはもらっとくけどさ。あの、ありがとうございます」

榊がきっちり迦具夜に頭を下げた。翠聖様のシュミレーション結果を見ているから、迦具夜を知ってはいると思うが、あまり気にはしてないようだ。

「榊。お前の家族なんだが……」

そして言いにくかったことを言おうと思った。米崎が口にしていた避難壕は確認したが全員死んでた。俺と血のつながりがある男の子の傍らに1本ポーションが落ちていて、俺があの男の子にあげたものだとわかった。

飲もうとしてその前に事切れたようだ。

「分かってる。私が気づいて外に行こうとした時はちょうど太陽みたいなのが空から落ちてくるところだったわ。これはダメだって思った。家族を助けに行こうかと思ったけど、美鈴の家族以外は間に合わないって諦めた」

かなり泣いたのか涙の跡があった。しかし慰めている暇もなく千草小母さんの方も見た。

「千種小母さん、芽依さん。俺はこれから用事が多くて急がなきゃいけません。ここに置いて行くけど大丈夫ですか?」

何しろあと半年で死んでしまうのだ。本来なら何年もかかるという大八洲国の神の座の争い。それをなんとか半年で終わらせないと、死んでしまう。本当に泣けてくる状況だ。

「祐太ちゃん、もう行っちゃうの?」

千草小母さんが行ってほしくなさそうで、芽依さんもかなり心細いようで俺を見て言ってくる。

「できれば安全確保ができるまで、そばにいてほしいんだけど無理?」

「芽依。こんな男に頼るんじゃない!」

そして初めて美鈴のお父さんが口を開いた。顔は知らなかったが、一人だけ全くレベルが上がっていない様子だったから、この人なんだろうなとは思った。顔にどこか美鈴の面影がある。横にいるのが美鈴のお母さんなのだろう。

正直驚くほど綺麗な人で、憂いを帯びた瞳は美魔女という感じだった。千草小母さんも綺麗な人だけど色っぽさが強いが、美鈴のお母さんは儚げな美人という感じだ。

「あなたそんな言い方をしては……」

「何が悪い。こいつが全部悪いんだろう!」

「お父さんうるさい!」

美鈴のお母さんは強く言えないタイプのようで、旦那に逆らえないようだが、芽依さんがあっさりそれを遮った。レベル差があるので強く出られるとレベルが上がっていないものは黙ってしまう。父親であっても例外ではない。

「はは、えっと」

さすがに美鈴の親に俺は気を使う。一刻も早く本拠地に帰りたいが、もうちょっと何とかすべきかとも思う。あと半年で死ぬのだから気を使ってる場合じゃないのは分かってるが、どうしたものか。

「祐太ちゃん」

とこれは迦具夜に呼ばれた。

「うん?」

「この人たちが心配なら大八洲国へ連れて行ったら?」

そんなことを言ってきた。

「いや芽依さんたちのレベルだと2番目のゲートを潜れないだろう」

「潜れるわよ。私は貴族だから、国の脅威にはなりえないと判断したら、他国の人間を帰化させる権利があるの。三層の住民票は取れないけど、四層でよければ可能よ。住む場所は三層の祐太ちゃんの本拠地にしても大丈夫。逆にレベルが高いと他国の人間を入れる場合の手続きがかなり複雑になるわ」

「マジ?」

「マジよ。どの道日本はこの調子じゃしばらく、どこもかしこも危険な状態が続くでしょ。それならこの人達は大八洲国にしばらく住んで、ここが落ち着いてから帰ればいいでしょう」

事もなげに言ってきた。

《本気で言ってるのか?》

俺は思わず【意思疎通】で話しかけていた。

《もちろん》

《俺たちは半年で死ぬかもしれないんだぞ。その後どうするつもりだ》

《あら、私をレベル1000以上にしてくれるんでしょ?》

《それは、もちろんそのつもりだけど》

《それなら全く問題ないでしょう。私がこの程度の人数を養えないと思う? 言っておくけど私の財は莫大よ》

《……》

本気で言ってるようだった。そのせいで考え込んでしまう。迦具夜はこの後に及んで俺を嵌めたりすることはないと思う。となれば本当に大八洲国に連れて行けることになる。大八洲国に家族がいれば美鈴が安心するのは間違いない。

伊万里もなんだかんだで千草小母さんの心配はしてるだろう。俺のように実の父親が死んで心がほとんど動かないなんてことはないと思う。

《確認してみる》

俺はそう言うと美鈴の家族と千草小母さんを見て説明した。その結果ほぼ全員大八洲国へ行くことを望んだ。ただ、美鈴のお父さんだけは最後まで嫌がり、家に1人だけ残ると言い出して聞かなかった。

「本当にいいの? 私もお母さんもいないのよ」

「そうよ。あなた一緒に行きましょうよ。私が心配で仕方なくなるわ」

芽依さんと美鈴のお母さんが心配した。美鈴のお母さんも娘たちがいる場所に行きたいようだ。

《大八洲国のことを一般人に話せた》

《ルビー級になるとね禁止事項に対する扱いもかなり自由裁量が許されるのよ》

《レベルによってそんなに変わってくるんだな》

俺でも迦具夜が話した瞬間禁止事項が解かれたようだった。そういえば南雲さんもルルティエラのことを言ってた。いや、あれは禁止事項じゃないって言ってたか……。

「いいんだ。こんなやつ信用できん! 後でお前たちが『自分が間違っていた』と泣きついてくるのを家で楽しみにしておいてやる!」

どうも意地になっているようだ。レベルでも何もかも家族の誰にも勝てず、自分の仕事も放り出してしまった父親。今は娘の金を目当てにして生活している。いっそ哀れなほど父親ぶることだけが、最後のプライドである。

なんとなく自分の父親を思い出した。自分の後ろめたさをごまかすために、いつまでも俺の父親のふりをしていた。この人の目から見れば、きっと輝きすぎていている俺に対して引くに引けない。

本当にくだらない……。

そんなことになるぐらいならもっとちゃんと生きれば良かったじゃないか。

「美鈴のお父さん。半年して俺がまだ生きてたら、もう一度迎えに行きます。それまではちゃんと生きてるんですよ」

俺が言った。気後れはしなかった。ただ昔の自分を見るようで可哀想だった。

「お前に心配されるいわれない!」

美鈴のお父さんは俺と口を利く気もないようだ。でもなぜか放っておけなかった。自分もこういう時があったと本当に思う。だから半年して生きてたら、本当にちゃんと話をして迎えに行ってあげようと思った。

ただ、今は時間がない。

迦具夜をレベル1000以上にする。

確実に生き残る方法があるのなら、たとえどれほど無茶であろうとやりきるしかなかった。