軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百五話 ボーナスタイム

【自然化】を唱える。そして日本で見かける大企業の工場みたいな入り口を超えて、工場内へと入り込んでいく。敷地内には建物外にも人がかなりいて、その目の前を通り過ぎるが、誰も俺のことには気づかなかった。

【自然化】を唱えると普通の人では、目の前を通っても気づかないのだ。それでいて、俺は人の気配を読むことに関してここまですごくない。多少は出来るが土岐や摩莉佳さんほどじゃない。だがクミカは結構得意なのだそうだ。

《クミカ。いいか?》

《畏まりました》

ひょこっと首だけ出してきた。そこかしこに従業員の人がいる。【自然化】の良いところは触れている他者にも影響がある。影の中でも触れていることになるらしい。一般人は生首にしか見えない者が、地面を移動している。

それでも見えないからクミカの生首が真横を通っても、無反応。それは探索者にも言えることだ。警戒している探索者ならともかく敵が来るとも思っていない探索者なら、かなり近づいても察知されることがない状態だ。

《どうだ?》

生首状態のクミカに聞いた。誰の目にも止まらない状況なのだからもっと出てきたらいいのだけど、クミカはこれ以上出てくると疲れるらしい。生首状態ならいいのか?

《います。10mほど離れているようです》

《たったの10m?》

《そうです》

10mの距離。それでも俺は位置が分からない。クミカに【意思疎通】で座標を送ってもらわないと気づきもしなかった。この敵は隠れるのが得意な探索者のようだ。

《警戒していないと言っても、常駐スキルまで外すほど馬鹿じゃないか》

《そのようですね。頭を爆発させましょうか?》

クミカはとにかく頭を爆発させたがる。だが血痕があちこちに飛び散って、その証拠隠密に時間がかかる。それは避けたいので心の中で、ダメだと思うとクミカはそれで分かる。工場の敷地内に入ったが、敵は塀の外側にいるようだ。

クミカとの感覚は【意思疎通】で共有できるから正確な位置が可視化された。遠回りして敷地内から出る。そしてミカエラや土岐やジャックの戦闘経験から、こういった敵がどこまで近づくと気付くのか理解する。

塀の陰に隠れて、角を覗き込めば五郎左衆の探索者がいる。そのことがクミカを通して理解できる。

《これ以上は無理か……》

他の人の戦闘経験からその距離を割り出すのは不思議な感覚だった。

《はい。これ以上近づくと敵の常駐スキルに引っかかります》

それを聞いて呼吸を整える。焔将に手をかけた。今回は俺から人を殺す。クミカに頼れば簡単なのは分かっていたが、俺も手を汚す覚悟がいる。敵に悟られない程度に地面を強く蹴った。角を曲がった瞬間に相手の後ろ姿が見える。

黒い軽鎧を着て、後ろ姿からは細身の男であることだけが分かった。

敵は気配を読むのが多分得意。その予測は当たり、俺が近づいていることに気づいて、それでもまだ敵だと認識しきることもなく緩慢に振り返ってくる。その首を振り返りきる前に焔将で横に薙いだ。首がその場に留まった。

それはなかなかの美少年だった。体がバランスを保つことができず、ゆっくりと俺の方へと倒れてくる。その体を受け止めた。頭が横にずれていき、地面に転がっていく。特になんの恨みもない相手をあっさりと殺した。

そこまでの動揺はない。腹の立つ相手でも池本の時の方が動揺したなと思う。傷口は焼いた。だから血は流れない。落とした首と体に手を触れさせた。今回のために用意したマジックバッグに死体を収納する。

《ここからは急がないと》

それぞれの敵がどの位置にいるのか。おおよその位置は聞いていた。俺は工場建物外の敵2名が担当。他に敵4名が建物内を見回っている。更に敵4名が休憩所で待機している。この4名が不審に思う前に自分の役割を終えてしまう。

それが最高であり最低ライン。工場内を素早く移動していく。1万平米は工場としては大きいが、探索者が動く空間としてはかなり狭い。次のターゲットまでそのまま直進して、右の建物を曲がればそれで敵がいた。

まだ姿までは見えていないが、今度は俺にも分かるほどはっきりとした気配だ。

《次はクミカがやるか?》

《畏まりました》

息を殺して敵の後ろにまたもや潜んで近づいた。そして敵を目にして少し驚く。豚の頭を持つ大きな生物が歩いていた。

《オークですね》

《ああ、モンスターが五郎左衆なのか?》

俺がシャルティーに聞いた。

《六条。それは薬と奴隷女を餌に釣っているモンスターですわ。レベル200ですが強さは人間ほどではありません。ちなみに250人の中には入ってませんわ。準メンバーという感じでしょうか。よく使い捨てのコマとして利用してましたの》

《クミカ。問題ないよな?》

《問題ありません。幸い先程の者より気配を読む能力が低いようです。祐太様。ゆっくり後ろから近づいてください》

オークを見たことで、クミカの子宮が疼き、性的な興奮が高まる。クミカの頭の中に次々とゴブリン集落で経験した思い出したくない日々が、去来していく。一瞬にして感情が爆発しそうになった。

《クミカ。今は俺と一緒にいるんだ》

《りょ……了解……》

その感情の忌々しさにクミカが自分を恥ずかしく思っている。

《クミカ。ただ、粛々と行え》

《祐太様……》

《大丈夫。大丈夫だから》

3mの距離まで近づく。これでもまだ気づいていない。クミカが俺の影から体の全てを出してきた。この出ている間、俺とクミカの繋がりが薄くなる。【意思疎通】が最大限にで繋げなくなる。

クミカがそれを怖がっている。俺はクミカの手を握る。それでも相手は気づいていない。そしてすぐにクミカは引っ込んでしまう。

《やっぱり無理か?》

《いえ、もう終わりました》

クミカが言う。そして【意思疎通】を最大限に求めるようにつないできた。そのことで何をしたのか分かった。俺でも何か力を使ったのかと思うほどわずかな動き。オークの体が揺れて、大きな音を立てて倒れた。

まるでそれは眠っているようだ。もしくは意識を失って倒れているだけに見えた。だがもうこれで死んでるのだ。脳みその中心部と心筋に小規模な爆発を起こし、くも膜下出血と心筋梗塞を同時に併発させて殺した。

《“これ”は簡単にできるのか?》

《かなり近づかないと無理なのですが、二度と動くことはないでしょう》

《そ、そうか》

痕跡を残さないように体内で、極小の爆発を起こす。かなり繊細な魔法操作でCTスキャンで撮影しても、病気にしか見えないらしい。俺はその死体を再びマジックバッグの中に収納した。

クミカは俺の要望を完璧にこなしてくれた。俺と完全に繋がると感情の爆発もすぐに収まったようだ。そのことで摩莉佳さんと土岐に【意思疎通】を入れる。

《祐太組。状況終了》

《早いな。少しだけ待っててくれ。こちらももう終わりだ》

《僕もあとちょっとだね。と、シャルティーが終わらせてくれた》

《摩莉佳組。状況終了》

《土岐組。状況終了》

全員の状況がほとんど変わらない。そして後の2人の方がレベルは高い。ほとんど同時に仕事が終わった。向こうの方が全員レベルが上とはいえ、リーダーとして仕事を遅れなくてよかった。

《ポイント乙に集合。残り4人を殺す》

《《了解》》

俺の合図を聞いて素早く全員が動き出す。同時に多少不安も沸いた。同じことを美鈴たちにもさせる。まるで作業のように人を殺していく。俺はこれが作業の一環だと自分に言い聞かせて動いている。これが最も被害が少ない。

俺はもう割り切れているが、美鈴たちはどこまで割り切れるだろう。ともかく4人一塊で休憩所で休んでいる探索者を処分する。今はそれに集中しなきゃいけない。実際、これの難易度は高い。

本当ならば4人組が外に出るのを待ちたい。だが、時間が経てば経つほど探索者同士の【意思疎通】を行う可能性は増えていく。敵は仲間から【意思疎通】の返事がないだけで、一気に警戒度を上げてしまう。

そして桃源郷の中にいる仲間全員に【意思疎通】が送られたら終わりだ。

そこからこちらの難易度も一気に上がってしまう。まあそれでも【異界渡り】は転移とはかなり違う五層の科学技術の産物で、急に五郎左衆が集合して現れるなんてことにはならないらしいが、どのみち探索者のスピードである。

《かなり綱渡りだよな》

《仕方ありません。とにかく早く一人でも殺す。そのことに専念いたしましょう》

クミカの返事を聞いた。探索者との戦いにおいて人数が少ないことはかなり不利。どの戦いにおいてもそうだが、人数が少なくなった時点で、逃げることを考えた方が利口だ。

《問題は猫寝様のカードをいつ切るかだな。一度に限定せずに何度も切れば楽だけど、完全に追い詰められる状態で俺たちが勝てば勝つほど向こうが逃げ出すリスクは高まる》

悩みながら移動していた俺は、それほど動くこともなくすぐに土岐達の姿が見えた。摩莉佳さん達も合流して、6人になる。

《しかしあれだな。探索者って思いのほか不意打ちに弱いんだな》

思わずそんな感想が漏れた。今回襲撃したのはレベル200ではなかったのかもしれない。それにしても思っていたより弱かった。

《実際その通りですわ。同じ人間同士で考えれば分かります。後ろからいきなりブスリなんて刺されたら、どれだけ格闘技の達人でも、お年寄りにすら殺されかねない。ですから基本的に探索者はどんな時も油断してはいけないのですわ》

《その条件は探索者でも変わらないか》

そういえば、いろんな物語でも、不意打ちされると結構簡単に強キャラが死ぬ。それだけ正面から戦うというのはリスクが高いということ。それに今回のクエストは楽に殺しても、なんのペナルティもない。

チートと呼べるほどの力がないなら、こちらに死人を出さないためにはそれを活用する必要がある。

《私はそれをあなたで学びましたわ。ふふ、まあこの状況はとても幸せですからいいのですけどね》

シャルティーが俺の手を持って胸に当てるものだから思わず揉んでしまった。さすがに周りの目が気になってすぐに離した。

《六条。ボーナスタイムにどこまで稼げるかだ。それ次第で結果が変わる。急ごう》

ジャックが言い、休憩所らしき場所に目をつける。その中をよく土岐と摩莉佳さんが探った。2人の話では休憩所の中にいる人間の数が増えている。10人はいるらしい。

《全員探索者か?》

だとすると早速こっちの動きがバレたことになってしまう。

《ううん。ちょっと待ってね。これは……普通に喋ってるし聞こえるんじゃない?》

土岐が言う。俺は聴覚を最大までよく聞こえるようにする。そうすると中の声が聞こえてきた。

「しかし、五郎左衆に喧嘩を売るとはバカな探索者もいるものですね」

「はっ。その通りだ」

「この五層で我らに楯突くアホがいる。驚くべき間抜けどもだ」

「しかもたかが15歳に率いられているらしいの」

「そんなの相手に厳重警戒とは木阿弥様や切江様の心配性にも困ったものよね」

「面倒臭いよな。なんでこんなとこ守らなきゃいけないんだよ」

「まあまあそう言わずに」

探索者は男と女が二人ずつ。他の6人は五層の人間のようで、強さは感じない。ただそこそこの見た目ではあった。そういう状況なのかと思った。だが、よろしくやってるというわけではないのだ。ただの歓待役のようだ。

《五層の人間か……どうする?》

摩莉佳さんが聞いてくる。当然リーダーなので判断を任されてしまった。

《全員殺してしまうのが一番いいんだが、お前の方針に従うぜ》

ジャックが言ってきた。

《……》

生かすも殺すも俺次第。ビルの中では見捨てた。でもこの状況は違う。この人達が死ぬのは俺たちが殺した場合のみである。いくらなんでもこの人たちに罪があるというのは酷すぎる。ただの犠牲者たちだと言っても差し支えない。

《シャルティー。眠らせる毒とかを持ってるか?》

無関係の人間を殺す。殺されるのを見逃すのとは違う。目撃者は残したくないから殺すのが理想的だ。簡単に殺すこともできる。ただそれをしてしまうと自分の中で、正義というものがあまりにも曖昧になる。

《ありますけど、【睡眠】を使うと状況的にはかなりおかしなものになりますわよ》

《なんで?》

《自分たちとはレベルの違う探索者が急に全員姿を消したとしても、ここの人達は、あの通り、『五郎左衆は文句を言いながら警備をしてるから、遊びにでも行ったのだろう』と思うぐらいですわ。でも眠らせた一般人があそこにいればかなりのバカでない限り、私たちの存在に気づきます》

《無関係な人間は殺せない。そう決めてた。だからそれは守る》

自分の中で明確に正義の線引きをしておく。ジャックと同じだ。同情心があるからではない。多分俺はそういう心に欠けている。ただ、そうでなければ自分自身が、一番自分を嫌いになってしまう。

《眠らせた後に人の来ない場所まで運ぶ。行方不明ならここの従業員は探索者が何かしたのだと思って口をつぐむ可能性が高い。どうだ? それとも五郎左衆は五層の人間には一切酷いことをして来なかったのか?》

《いえ、案外してますわ。まあその線で行きましょう。六条がそう決めたのなら私に文句はありません。どの道あなたには逆らえない体にされてしまいましたし》

シャルティーが視線を送ってきて、ジャックが背中を叩いてきた。そして決めたら早く動かなきゃいけない。俺、土岐、クミカ、摩莉佳さんで気配を消して接近した。相手が警戒する様子はない。敵は密閉された空間の中にいる。

手を出すには建物を壊すかドアを開けなければいけない。工場にあるようなドアである。ノブを回して開ける。それではダメだ。たったそれだけの時間を与えただけでも、探索者ならば戦闘態勢を整えてしまう。だから、

「おい! 貴様! こんなところで“薬”をやるな!」

大きな声で俺が怒鳴った。

「なんだよいいじゃねえか!」

ジャックがそれに反応した。同じくかなりの大声だ。

「お、ここに可愛い子ちゃんがいるって聞いたぜ!」

「止めろ馬鹿! そこは五郎左衆の方々が休憩している場所だぞ!」

「なんだよ騒がしい」

「工場内での薬の使用は禁止しているはずなのですが……」

「黙らせろよ。そうじゃないと殺すぞ」

「それはご勘弁を。少し様子を見てきます」

女性が外に出てくる。五層の人間で、かなり際どい服を着ていた。俺たちはその女性がドアを最大限に開くタイミングを見計らった。まず気配を消すのが得意な俺、クミカ、摩莉佳さん、土岐で部屋の中に侵入。

【自然化】を唱え、究極的に周囲と同化し、そして室内を見た。接待用のテーブルとソファー。テーブルの上には茶菓子。探索者以外は全員立っている。俺が右奥の女探索者を目標に動く。何か違和感を感じたのだろう。

「!?」

立ち上がり自分の装備に手をかけるが、できたのはそこまでだった。動く前に俺は先ほどと同じく焔将で首を斬り落とす。傷口を焼いて血が出ないようにしている。他の人間の様子を見た。

土岐は男の探索者の頭部と心臓を短剣で突き刺し、血が吹き出す前に素早くマジックバッグの中に収納してしまう。摩莉佳さんは意外と力技で男の後ろに位置すると、首をねじ切っていた。

クミカが一番スマートだ。倒れた女探索者は眠っているようで、死んでるようには見えなかった。

「……?」

「急にいなくなりましたね」

呟いたのは際どい服を着た男。俺的には全く嬉しくないが、これで楽しめる女もいるのだろう。そして彼ら、彼女らには何が起きたのか分からなかったようだ。

ただ、急に元気だった探索者の首が1周回って前に向いたり、姿が消えたり、頭から上がなくなったり、まあこの状況について行けという方が難しいだろう。

ただ俺や摩莉佳さんが殺した探索者を見て、

「ひっ」

俺が叫びそうになった際どい服を着た女性の口を抑える。シャルティーの毒蛇がそれぞれに噛みつく。しばらくもがいていたが、10秒もしないうちに眠ってしまった。五層の人間は全員寝息を立て始める。

その五層の人間を猫寝様が乗せてくれて、工場から離れた遠くに寝かせておく。そのまま俺たちは次の目標地点に駆け出した。そして次々と拠点を回り、ことごとく不意打ちで殺して回った。

其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、

そんな言葉が頭に浮かんだが、俺自身が一番よく分かっていた。これはそんなに格好良い行いではない。ただ人を殺して回っているだけだ。二箇所目にいたのは、日本人の男パーティーだったが容赦しなかった。

三箇所目は五層の人間を巻き込んでしまい10人ほど死んでしまった。四箇所目、五箇所目、六箇所目は問題なく殺せた。だが七箇所目で俺は久しぶりに誰かを殺して吐いた。胃の中のものが全部出た。

玲香が心配して背中を撫でてくれたが、休んでいる暇はなかった。

「ダメ。休みなさい。次は私がやるから」

「でも」

「大丈夫。十分に君のやり方を見せてもらったから、無理しなくていいの」

結局、玲香の言葉に甘えてしまうが、玲香を誰かに任せることだけは嫌だった。だから一緒について行き、八箇所目と九箇所目で殺す部分だけ任した。任せた玲香も吐いていた。

「悪人だとは思うのだけどね。でもおかげでかなり訓練にはなった。後は全部私がやってあげるわ」

こういう時の玲香がどう考えるのかは、状況が特殊すぎてわからなかった。ただ俺を守りたいと思ってくれていることだけは分かった。

「いや、多分もう大丈夫だ。次からは俺もやる。一緒にやろう。罪が半分になるわけではないだろうけどね」

「本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だって」

「うぅ。すまん。本当は俺が前に出るべきなんだがな。やっぱり静かにやるってのは無理そうだ」

「良いですよマークさん。おかげでかなり気持ちが楽になってきました。もう50人殺しましたか?」

《62人目にゃ。それにしても悪いにゃ。私がもっと……》

猫寝様は黒桜の姿をしているとはいえ、できるだけ前には立ってなかった。猫寝様は猫以外にはなれないみたいだし、できるだけ知られるわけにはいかない。だから今はクミカの能力で影の中に入ってもらっている。

《いや、大胆な行動に出れるのもいざという時、黒桜を頼れるからだ》

敬語を使いそうになるのを抑える。隠れているのだから構わないのだが、いざ外に出た時癖が出る。どう見ても召喚獣に見える黒桜に敬語を使えば一気に怪しまれてしまう。

《そう言ってもらえると嬉しいにゃ》

10箇所目の製造工場の手前だった。桃源郷の五層でも中心に近づいてきていた。確かに中心部はかなり繁栄しているように見えた。五層の人は四層に憧れているのだろうか。四層に似た未来的な建物が目立つ。そして工場はというと、

《……しまってる》

閉鎖されていた。今まで開きっぱなしだったものが、しっかりと閉鎖されているのだ。空は夕焼けで、血のように赤かった。五層でも空には日本で見るのと同じような月が上り始めていた。

《工場が就業時間を過ぎてしまった?》

《いやそれにはまだ早すぎる。夜の8時までこの工場は開いているって話だ》

マークさんの話を聞き、胸騒ぎがする。気配をうまく隠しているから正確にはつかめない。それでも僅かにだが感じられた。工場の中からただならぬ殺気がただよっている。

どうやらボーナスタイムは終了したようだ。