軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四話 開戦

岩石ばかりの砂漠地帯を歩いていくと廃墟が見えてくる。五層には入国するための許可など何もなく誰でも自由に入ることができる。その入り口が廃墟なのだ。さらに数キロ歩いたところで両方の腕の手首から先がなくなったマッチョがいた。

横には翼を持った女の人もいる。メガネに砂でもついたのか拭いている。メガネをかけ直す仕草が、様になっていた。

「祐太。こっちだ!」

かなり大きめの声を上げる。土岐もこの辺りには監視の目がないと言っていた。ちゃんと監視しているのはゲートだけ。五郎左衆はまだまだ俺たちを相手に本気になれないようだ。俺たちの方も周りの目を気にせず走り寄った。

そんな俺たちの横を同じく無重力フィールドから出てきた人たちが、通り過ぎていく。人がいる場所までたどり着いた人だけが、ようやくここで生きる権利を得られる。つまりそこまで歩けないと生きることすら許されない。

体が弱いものから切り捨てられる。地球でも豊かでない場所ほどその傾向は強いが、大八洲国もその例外ではないようだ。倒れてしばらく動かないと、どこからともなく現れた巨大な死鳥が飛来し、死体を一呑みにしてしまう。

モンスターなのだと思うが、死体を回収することから死鳥の名前がついた鳥らしい。上空を10mを超えるような死鳥が100体ほどいるのではないかと思えるほど滞空していた。

「マークさん。その手?」

俺は慌てて駆け寄って、マークさんのなくなった手に目を向けた。

「ああ、大丈夫だ。ほら」

そう言って傷口を見せてくれた。ほんの少しずつだが治っていくのが目に見えてわかった。

「うわー、なんかすごいですね。これが例の?」

「ああ、大鬼の【超速再生】だ。大鬼の姿に変化したらもっと早く治るんだが、目立つから人間の姿でやってる。この姿でも徐々に回復してくるしな」

マークさんは強くなった。少々のことでは死ぬことのない圧倒的な生命力。そして大鬼ラストの魂はこんなものではない。人では考えられないような力。大鬼は何よりもマークさんに協力的だった。

ミカエラにしろラストにしろ。魂は宿主に協力的でないと害悪になるらしい。そして実際は害悪になることの方が多いのだという。

「本当、博士には感謝だ。五郎左衆との戦いでどてっ腹に穴が開いてな。おまけに両腕まで斬り落とされたんだよ。それでも俺は生きてる。腹はもう治ったしな」

マークさんが自分の服をめくって見せてくれた。確かに傷跡がある。それもゆっくりと修復してきて元通りの肌の調子に戻ってきていた。俺も欲しいぐらい重宝するスキルだ。思っていたら摩莉佳さんが話しかけてきた。

「1人ならマークは余裕で逃げられたんだ。それでも私を助けようとしたから、 木阿弥(もくあみ) に追いつかれて、腹に穴を開けられたのだ。そして私の首が取られそうになった。それを守ったマークは両腕まで斬り落とされてしまった」

摩莉佳さんが心配そうにしていた。以前よりもマークさんと距離が近く見える。それよりも木阿弥……久兵衛ならばそんなことはできないと思う。だが、裏の久兵衛。木阿弥の方がかなり強いみたいだ。

正体がバレて逃げる時は本当に大変だったと摩莉佳さんが教えてくれた。摩莉佳さんが単独で五郎左衆に潜入していて、マークさんはいざという時のために控えていたらしい。

そこに木阿弥が帰ってきて、うまく溶け込めていたはずなのに、急に周囲の様子が変わってしまった。20人もの探索者に囲まれて、向こうは完全に逃がす気はなかった。ただ大鬼の力を持ったマークさんは本当に強い。

HPと力と防御力が凄まじい。圧倒的フィジカルの権化。その上攻撃を受けても【超速再生】で瞬く間に治ってしまう。マークさんの本来の能力との相性はいまいちなのだが、それを補ってあまりあるフィジカル。

『さらに巨大な鬼に変化した? どういう仕組みだ?』

木阿弥に聞かれた。とても酷薄な目をした男だったらしい。

『そんなのお前に教える必要があるか!』

大鬼の棍棒を地面に叩きつける。それだけで地震が起きたようになったそうで自分でも驚いた。だが木阿弥も強かった。錫杖のようなものを振り回し棍棒と打ち合ったが、大鬼と力でも均衡してきたそうだ。

この時の木阿弥はとても召喚士のステータスではなかったらしい。

『摩莉佳。生きてるか?』

『なんとか。だがまずい』

探索者に囲まれた状況である。何よりも摩莉佳さんは不意打ちで背中を深く斬られていたらしい。早く逃げなければやばい。マークさんは摩莉佳さんを抱えて敵の攻撃を無視した。結果、腹に大穴が開き、木阿弥には両腕を斬り落とされた。

それでも摩莉佳さんを大鬼の巨大な口で咥えて、なんとか逃げ切ったというのだからすごい。

「とにかく無事で良かった」

マークさんをぎゅっと抱きしめる。これでパーティー内の男の数が4人になった。内心俺の心ははしゃいでいた。やっぱりこういうのが楽しい。

「はは、祐太。お前相変わらずモテてるみたいだな」

玲香とシャルティーを見て言われた。

「……」

コメントするべき言葉が見つからず黙ってしまう。摩莉佳さんを見ると特に驚いた様子が何もなかった。この国ではこれで当たり前なので気にならないようだ。そうするとマークさんは次に話を進めてくれた。

「さて祐太。聞いてた場所を調べたぜ」

摩莉佳さん救出時にマークさんがしていたのは大鬼の姿で、人間の姿はしていなかった。そしてマークさんは元の人間の姿だとほどよく弱く擬態できるらしい。だから周囲の人間に紛れることが余裕でできた。

頭に角があるだけの腕がない人間。五層ではこれっぽっちも目立たない姿であちこち調べ回ったらしい。それを今度は面が割れてしまった摩莉佳さんがサポート役で、帰ってくるのをやきもきしながら待ってたそうだ。

「どんな感じでしたか?」

「まず工場の規模だが、堂々としたもんだ。五層じゃ違法行為というものが存在しないらしくてな。ほとんどの地域で決まりらしい決まりもない。だからどんな薬物を製造するのも、なんの許可も必要ない。大会社の工場って感じの薬物工場が、五郎左衆所有だと隠しもせずに堂々と立ってやがる」

「それは酷い……」

「ここの連中はそれが悪いなんて考えもない。寿命が長いやつもそんなにいないから、一時的に快楽を得られる薬物で、気持ちよくなって死んじまうってのが、意外と理想的な死に方らしいぜ」

「科学も進んでるって聞いたけど」

「ああ、それはそうだ」

俺の言葉に次に答えてくれたのは摩莉佳さんだった。

「転移系の技術開発。魔法と同じ現象を科学的に引き起こす。ここは廃墟だが中心部にいくほど、より洗練された都市へと変貌していく。五層に落とされた者たちの中で、実はかなりの成功だったということも少なくないのだ。そういうものたちが、中心部の繁栄を謳歌している。五郎左は四年前にここを訪れたのではないかと言われている。そして中心部の成功例たちの助力を得て、【極楽粉】の製造に成功した。他の一般人向けの薬も造ってるそうだ」

「“中心部の人間の成功例”という存在は戦闘力的にはどうなんですか?」

「それは低い。ここの人間はルルティエラ様が与えてくれるステータスがない。レベルアップしない場合、元の体が弱すぎる。どれほど科学技術があっても元の体が弱すぎれば話にならない。それにやはり健康体ばかりのやつらの方が強い。ただ、一部では四層や三層にもない技術がある」

「それってかなり頑張ったんでしょうね」

必要のない命だと言われたもの達が、それでも上に負けないためにと造った。きっと寿命が短い中で何代も何代も重ねてようやく結実したものだと思う。

「そうだ。そして五郎左はその頑張りに目をつけた。正直ここの連中が哀れだよ。何千年もかけてようやく上にも負けない技術を開発した。それなのに最悪の形で表に見せてしまった。おそらくそう遠くないうちに伴藤家ゆかりの家から報復攻撃が始まる。遠距離魔法で五層全体が雑草すら生えないぐらいの状態になるかもな」

「それって桃源郷の神様が死んだらですか?」

「そういうことだ。五郎左はそれを知ってる。知っていて五層全体を使い潰す気だろう。それなのに犯罪者の五郎左はここではずいぶんと人気があるらしいぞ」

むやみやたらと人を殺す五郎左衆だが、ここの人たちにとっては探索者が薬の販売を大規模に助けてくれる。そしてそれを少なからず五層に還元してくれるらしい。ただただ自分たちが造り損ねた命を下に落としている者たち。

それよりも、人気が出るのは道理だ。そして俺たちはそれをここまで来て叩き潰しにきた。それを知らせれば全員から嫌われること間違いなしである。五郎左はやり手で続いて聞いた話では他国とも取引している噂まである。

「常識ってその場所の状況によってびっくりするほど変わるわね。薬物をくれる五郎左衆がヒーロー扱いか」

玲香が口にする。国連の仕事で世界中を飛び回っていた玲香には、それがよく分かるのだろう。そしてこの五層はそれが極端に出ている。

「まあそういうことだ」

摩莉佳さんが口にした。そしてマークさんが続いた。

「1万平米ほどの敷地がある工場の中にあらゆる麻薬がある。探索者専用の体も強化してくれる【極楽粉】。一般人専用の物も専門的に造ってる。全部を上げ出せばきりがないぐらい大きな組織だって分かってきたよ。もちろん祐太、【極楽粉】を試そうとするなよ」

「分かってますよ」

「気持ちは良くなるがハマれば終わりだ。それなしじゃあ生きられなくなった哀れな奴らの末路は、まあ言うまでもないよな」

「ですね」

そこら辺は日本と変わらないのだろう。そのことは容易に想像がついた。そしてそんなことを何百年以上もやってきているらしい。【極楽粉】は最近のものらしいが、薬製造自体はこの階層で大昔から行われてきたことらしい。

そしてそれが上の層にまで迷惑をかけ始めている。あまりにも哀れな五層の人間の生きる糧かと思い桃源郷のたぬきの神様は許してきた。そのたぬきの神様は死ぬ寸前になって、五郎左というたかがレベル200の人間に、悩まされている。

たぬきの神様は、慈悲深く笑うことが大好きな神様で、笑えないことが大嫌いだ。このままでは五層は火の海になる。最後の最後で笑えないと心を痛めているそうだ。

「各工場に探索者は何人ぐらいいそうですか?」

俺が聞いた。

「多分、俺たちが偵察した施設には5人ぐらいだと思う」

五郎左衆は俺たちがどこの施設をゲリラ的に狙うか分かっていない。久兵衛にはそこまで話していないし、話したとしても順番を変えればいいだけである。

「少ないですね」

「まあ武官が五郎左衆を潰しに、ここまで来たことは一度もないわけだからな。ガバガバなのも当然だろう。まだ警備の探索者がいるだけマシだ」

「五郎左衆は他にも施設がありますよね」

「ああ、桃源郷にはちょっと調べただけでも薬物工場が12箇所あった。その全てが五郎左衆と手を組んでる」

「その全てに探索者はいますか?」

「ちょっと調べた感じでは5、6人は必ずいるって感じだな。ただそれ以上の動きはなさそうだ。まあ言葉が悪くなってしまうが15歳のガキを相手にって感じなんだろう。木阿弥以外は前よりも楽になったって思ってるんじゃねえの?」

久兵衛ともう一人切江。この2人は油断できない。でもいくらこの2人が上級幹部でも、まだもう少しは余裕を持って動けるはずだ。

「薬物工場はルートを考えて一気に今日中に全て叩き潰しましょう。終わる頃には単純に考えて五郎左衆の探索者を5、60人は間引ける。ここの人間にはどれほど好かれていても、どの道殺人集団には変わりません。さっさとゼロにしてしまう必要があります」

望まれた悪だとて知ったことではない。人殺しが平気な頭のおかしい集団などさっさと潰してしまうまでである。

「全員で動くのか?」

「そうします。安全を考えすぎかもしれないけど、このクエストをこちら側は誰も死なないで終わらせたい。死ぬのは五郎左衆のみです」

「それはまた贅沢だな」

「でも悪くない提案でしょ」

まだ全然本気になれてない。そのうちに組織の根幹部分。一番失いたくないものを全て叩き潰す。余裕をかましているならば、その余裕を粉砕しなければいけない。そしてド真剣になる前にできるだけ戦力差を減らしてしまう。

甘いとは思う。でも実際に、危険度の高いことをしたらマークさんと摩莉佳さんを失いかけた。旧日本軍は人材を使い潰したことでも大きな敗戦理由になったという。やはり命は大事にでいきたいと思った。

「確かに。私も実際に死にかけてヒヤリとした。死んだら復讐もクソもあったものではないと思ったよ」

「ですよね……。命は大事に行きましょう」

「了解だ。六条、じゃあ動くか?」

摩莉佳さんが言う。

「ええ。シャルティー、工場に罠とかはないよな?」

「誰も敵が来ないのにそんなもの造りませんわ。邪魔ですもの」

「分かった。マークさん、摩莉佳さん、玲香、土岐、ジャック、シャルティー」

《そしてクミカ》

「行くよ」

「「「「「「《了解》」」」」」」

スピードに自信がある摩莉佳さんが道案内として先頭に立ってくれた。それに引っ張られて全員がグングンと加速していく。廃墟は100㎞ほど続いていただろうか。やがて森にさしかかる。時速は2000kmほど出ていた。

北海道の端から九州の端まで1時間ほどで移動してしまえるような速度で、ジェット機よりも早く動く集団。森を抜ける。三層にもあった成層圏を突き抜けるような意味不明な高さの山をただまっすぐに突き進んでいく。

山をあっさりと超えると人気が出てくる。様々な見た目のものがいる。トカゲのような者。巨人。小人。人間の体に無理やり馬の体がくっつけられた者。その全てが弱々しく見えた。見た目は普通なのだが、強くはなれないのが分かる。

衝撃波を巻き起こしながら 只人(ただびと) の目には止まらない。急に突風が起きた。そんなふうに思えたかもしれない。何しろ1.8秒後には俺たちは1㎞先にいるのだ。

《玲香。問題ない?》

俺は玲香の横に並ぶ。音速よりも速いために喋れないということもあり、【意思疎通】を送った。

《ええ、これは問題ないわ。ただ……》

《ただ?》

《次こそこの手で五郎左衆を殺したいの》

玲香は正義感に目覚めるような性格ではない。それでもこういうことを言うのだとしたら、理由は一つしかない。

《どうして?》

《無能だって思ったら次から連れてきてくれないでしょ》

《それは……》

無能だから連れてこないのではない。危ないから連れてこないだけだ。

《もうすぐ美鈴が帰ってくる。正直ちょっと妹には負けたくないのよ》

玲香は基本的に嘘つきだ。美鈴に負けたくないと少し思っているんじゃない。死ぬほど思っている。最後の最後、玲香が米崎の人工レベルアップに協力すると決めた。その背中を押したのは美鈴に負けたくないと思ったから。

《こんなこと考えたら嫌かしら?》

《それはいいよ。認める。どんなことがあっても一緒に連れていく。だから強くなってくれ》

そして、止めたら余計に意地になる性格なのだ。

《いいの?》

《何が?》

《美鈴にばれるかもよ。私もどこまで隠せるのか正直自信がない》

《ばれないように米崎も一緒に連れ回すよ。嫌がらないようにお願いしておいてくれ》

《ふふ、了解》

ちょっと気分が良くなったのが分かる。最初だから何もかも隅々まで玲香の心を読んでしまった。悪いとは思ってる。でもおかげでどういう時に何を考えるのかよく分かる。

《こういう部分はクミカと同じだな》

《少し違います。私は常に何があろうと祐太様とご一緒にいますから。正直離れると自分でも何をしでかすか分かりません》

玲香とクミカについては全部知っている。美鈴たちにはそれができない。全てを知るには好きになりすぎた。もし、少しでも俺の期待と違うことを思っていたら、そう考えるとどうしても心を読む気にはなれなかった。

俺が必要のないことに囚われているうちに、目標地点が近づいてきた。摩莉佳さんから、

《止まれ。最初の目標地点だ》

そう言われて目を向けた。江戸時代の町並みの中に迷い込んだような場所が見える。今の日本ではあまり建てられなくなった日本家屋が立ち並ぶ空間である。五層の町並みは江戸時代の街道のようだ。

ここの人たちは人によって生活レベルが全く違うらしい。無重力フィールドに近い場所ほど生活レベルは低い傾向にあり、壊してしまうのは申し訳なかった。ならば飛ぶか? でも無理やり空気を蹴って飛ぶしかない者が目立ちすぎる。

ただもっと静かに飛ぶ方法があり、でもそれは無理だと考えたことを否定する。“あの方”に乗れば全員気配を隠して飛べる。不遜な考えだと思った。

「気にするにゃ。黒桜は人を乗せるのが嫌いじゃないにゃん。それにここで一生懸命生きてる人たちが、建てたものは大事にしてあげないとにゃ」

そう言ってすぐに猫寝様が黒桜から大きな全長5mある尻尾3本の巨大猫になる。

「全員乗るにゃ」

「うぅ、私はダメですわよね」

「お前とマークは私が運んでやる」

シャルティーがその背に乗るのを遠慮した。それに気づいて摩莉佳さんが、マークさんを丁寧に、シャルティーを雑に持ち上げた。そう見えたのはきっと気のせいではないだろう。

「俺は【飛行石】で」

「バカ言うにゃ。大事なものは取っておくべきにゃ」

そう言われて咥えられると自分の背中に向かって器用に投げられた。後ろには玲香、土岐、ジャックが乗り猫寝様が飛んだ。街並みの10㎞ほど先に開けた場所がある。その先にある今までの建物とは全く違う建物。

地球の工場がそのまま移築されたのかというような見た目。あまりにも堂々と建てられた薬物工場だった。俺はかなり離れた1㎞手前の位置で、全員に一時停止を促した。

《土岐、摩莉佳さん。敵は気配を隠していないと思われる。位置を探ってくれ》

《《了解》》

相手の気配を探ることや、自分の気配を消すことが得意なのはこの2人だ。最も得意なのは猫寝様なのだが、この人にはいざという時以外は、黒桜ができること以上はしてもらわないように気をつけた。

俺たちが猫寝様を連れていることを知られることだけは絶対に避けなければいけない。下手をすれば敵が完全に隠れて出てこなくなるかもしれないのだ。

《結構多いね》

《ああ、10名ほどいるな》

《おそらく無重力フィールドに一番近い拠点だからだろう》

《六条。【極楽粉】と【異界渡り】という五層の発明品の存在を忘れるなよ。おそらく奴らは一時的にかなりパワーアップする。そして勝ち目がないと思ったら逃げるぞ。どうする?》

土岐と摩莉佳さんが口にした。

《敵がそれぞれ孤立する瞬間を狙いましょう。その瞬間に俺はクミカと、摩莉佳さんはジャック、シャルティーは土岐の3組に分かれて有無も言わさず殺して回ります。他に提案のある人は?》

《私とマークは?》

参加させて欲しそうに玲香が聞いてきた。

《玲香はまだまだ戦い方が雑だ。マークさんも話を聞いている限り戦い方が雑すぎる。2人ともいきなりレベルアップした弊害もある。俺たちがどう戦うか見て覚えてくれ。自分で俺たちと同じことができると思ったら言ってくれれば交代する。いいね?》

《正直そういう戦い方には全く自信がないがOKだ》

《……了解》

マークさんは大鬼の特性上、隠れるのが苦手すぎるぐらい苦手だ。どちらかというと南雲さんタイプなのだろう。おそらくこの戦い方では出番はないかもしれない。そして玲香は半人前扱いが不満のようだ。

それでも冷静な部分で、自分が半人前なのも自覚していた。結構プライドが高いからこういうことで慰めても無駄だ。

《じゃあ開戦だ》

焔将を抜く。五郎左衆との本格的な戦端が、こうして相手に気づかれることなく静かに始まりを告げた。