作品タイトル不明
1-7
「……これは」
「俺と君が婚約するときに紋章を刻んだ契約板だ。俺の紋章は消してあるから、これはメイベルに預けておくよ。どうするかは君の好きにしていい」
「え……、な……! 私との婚約を解消するということですか!?」
私は大いに戸惑ってしまった。この契約板は、婚約をする際に両者が紋章を刻むものだ。婚約の証と言ってもいい。ここから紋章を消すと言うことは、その婚約をなかったことにすることを意味する。
顔を青ざめさせる私を見て、ブラッド様は愉快そうに笑った。
「俺はメイベルにちゃんと考えて欲しいんだ。勝手に魔術院なんかに入学して、夜遅くに男と二人で街中を歩いているなんて、君がそこまで軽薄な令嬢だとは思わなかったよ。メイベルには態度を改めてちゃんとした令嬢になって欲しい」
「それはブラッド様に私といると疲れると言われたから、私なりに改善しようと……!」
「言い訳は聞きたくない。これからどうするのかよく考えてみてくれ」
ブラッド様はそう言うと、さっと席を立ってしまった。
私は返された契約板を呆然と眺める。確かに私も勢い余ったことをしてしまったけれど、ここまでするなんて……。
私は打ちひしがれて、しばらく立ち上がることも出来なかった。
翌日、ラネル魔術院に向かったものの、いつも通り楽しい気分にはとてもなれなかった。
私がどんよりしているせいで、クラスの子たちに何度も心配されてしまった。どうにか空元気を出して、その日の授業を乗り切る。
授業が終わった後、私は憂鬱な気持ちで授業で使った機材を返すために倉庫まで歩いていた。
機材を戻し終えると、入口のところにレナード様がいるのに気づく。彼は私と目が合うと、心配そうに口を開いた。
「メイベルさん、今日はなんだか元気がなかったけど大丈夫?」
私は作り笑顔で返す。
「大丈夫です。なんでもありません」
「本当に? もしかしてあの婚約者と何かあったんじゃないか」
図星をつかれて、つい顔が強張ってしまった。レナード様は私の反応を見て何かを察したようだった。
「やっぱりそうなんだ。もしかしてあの日僕が一緒に歩いていたせいかな。そうだったらごめん」
「いいえ、レナード様には関係のないことですから謝らないでください! ただ、私が彼を怒らせてしまっただけで……」
「怒らせた? 前にもそう言っていたけれど、メイベルさんは何も悪いことをしてないと思うよ」
レナード様は真剣な顔で言う。
私の悩みのことで真剣になってくれるレナード様に心が緩んで、つい今までのことを洗いざらい話してしまった。話しているうちに、レナード様の表情がどんどん引きつっていく。
「つまり、君の婚約者は君が魔術院に入ったことで怒って、当てつけのように君の姉君とパーティーに参加すると? その上契約板まで突き返してきたのかい?」
「はい、でも私も随分勝手なことをしてしまいましたから……」
「それだって、もともとは婚約者のほうが君に態度を改めるように言ったのが原因なんだろう? 君ばかり責めるのはフェアじゃないよ。そもそもいくら婚約者だからといって、ルヴェーナ魔法学園への入学を取りやめさせることからして間違ってる」
レナード様は、まるで自分のことのように怒ってくれている。そんな姿を見ていたら、私の心は少しだけ軽くなった。
「ありがとうございます。レナード様。そう言っていただけて少し元気になりました」
「メイベルさん。君はこのままでいいの?」
「私に選択肢なんてないですから」
私は力なく言葉を返す。
ブラッド様に言われたことをずっと考えていた。これからどうするべきか。
きっと私はラネル魔術院を辞めるべきなのだろう。魔術院を辞めて、ブラッド様に謝って許してもらわなくては。私にはそれしか道はないのだ。
悲しい思いでそんなことを考えていると、レナード様は少し迷った顔をした後で口を開いた。