作品タイトル不明
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そんなことを思いながら横にいたカレン様に視線を向けると、彼女は至極気まずそうな顔でそろそろこちらを離れていくところだった。
「お待ちください、カレン様」
すると、レナード様がいつもより低い声で彼女を呼び止める。カレン様はぎくりと肩を揺らして振り向いた。
「なんでしょうか、レナード様」
「……言わなくてもわかっていますよね。なぜメイベルさんを舞台に連れていったんですか? 新作展示会のショーで旧作のドレスを着ていたら、場違いになることはわかっていたでしょうに」
「別に悪意があったわけではありませんわ。演者の急な欠席で主催が困っていたので、代理にちょうどいいと思ってメイベル様を呼んだだけです」
カレン様は澄まし顔で言う。レナード様の表情が引きつった。
「そんな説明で納得できるとお思いですか。カレン様。メイベルさんを困らせたこと、彼女に謝ってください」
「レ、レナード様! 私は大丈夫です! カレン様も悪気があったわけではないでしょうし!」
ピリピリした空気に、私は慌てて間に入る。レナード様はでも、と納得いかなそうに私を見た。
すると、突然どこかから明るい声が飛んできた。
「あっ、君、さっきのショーに出ていた子だよね! すごくよかったよ!」
声のしたほうに視線を向けると、明るい茶色の髪の青年が楽しげな表情でこちらへ向かってくるところだった。彼の連れらしい黒髪の女性が、突然失礼よ、と言いながら青年を追いかけてくる。
「えっと、ありがとうございます」
「ショーの最中に衣装が変わる演出なんて驚いたよ! ああいうのもいいね」
青年はレナード様とカレン様が揉めていたのに気づいていないようで、にこやかに話しかけてくる。
「そうおっしゃっていただけて嬉しいです」
「本当によかったよ。いい演出だった! 最初は赤いドレスの子の引き立て役として登場して、後から逆転する感じが斬新だね! やっぱり引き立て役がいると主役が輝くな」
青年は腕組みして、一人でうんうん納得している。私はぽかんとしてしまった。
「引き立て役……」
「ちょっと、いいかげんにしなさいよ! 引き立て役なんてどちらのご令嬢にも失礼でしょう!?」
「いたっ」
青年の連れの女性が、青年の背中をバシンと叩く。よほど強い力で叩かれたのか、青年は前のめりによろけていた。
女性は怒り顔で青年の背中を押しながら、こちらに視線を向けて申し訳なさそうな顔をする。
「この人が失礼なことを言ってごめんなさいね。あなたの最初のドレスも、赤いドレスのご令嬢も綺麗だったわよ」
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、また。ほら、さっさと行くわよ!」
女性は文句を言う青年の背中を押しながら、どこかへ去って行ってしまった。
私は呆気に取られてその様子を眺める。レナード様も先ほどまでの冷ややか表情から、すっかり気の抜けた表情になってしまっていた。
「……は? カレンが……引き立て役……?」
後ろから、カレン様の虚ろな声が聞こえてくる。
青年の乱入でぴりぴりした空気はいつの間にかどこかへ行ってしまい、その後はなあなあに別れることになった。