作品タイトル不明
4-3
「大変だったんですね……。けれど、侯爵家のご令息に婚約者がいないなんて珍しいですよね。今まではそういうお話はなかったのですか?」
この国の貴族は、大抵の場合十代半ばになると婚約者を決める。高位貴族の場合は特に早い時期から婚約者が決まっている印象だ。
侯爵家の生まれであるレナード様なら、すでに婚約者がいてもおかしくないと思うけれど、今まではそういうお話はなかったのだろうか。レナード様のような方なら、探すまでもなく婚約したいという人が殺到しそうなものなのに。
私が不思議に思って尋ねると、レナード様はなんだか複雑そうな顔になってしまった。
聞いてはいけないことだっただろうか。
私がちょっと慌てていると、レナード様は神妙な顔で口を開いた。
「今までは本当にラスウェル侯爵家を継ぐのか、このまま魔法を極めて魔法省に入るか決断できなくて、待ってもらっていたんだ。将来のはっきりしない段階で婚約者を決めるのはよくないと思ったから」
「なるほど……」
「でも、今は別の理由もあって」
そう言うレナード様の頬はわずかに赤らんでいた。私は気になって身を乗り出す。
「別の理由とは?」
「いや、その。僕は父上が引き合わせてくるご令嬢と結婚したいと思えなくて。僕は……」
レナード様は歯切れ悪く言う。待ってみたけれど、なかなか答えは返ってこない。
しかし、私はなんとなく察しがついてしまった。
「なるほど。お気持ちはわかります」
「え?」
「レナード様は、結婚相手は自由に選びたい派なのですね! 確かに一生一緒に過ごす相手ですもの。誰かに決められた相手よりもご自分で選びたいという気持ちはわかります」
私がそう言うと、レナード様は脱力してしまった。
そうなんだけど、でもそうじゃなくて、とやっぱり歯切れ悪く言っている。
私は首を傾げてレナード様を見る。
結局レナード様が婚約者を決めたくないもう一つの理由は教えてもらえなかったので、話題を変えることにした。
レナード様に休んでいる間の魔術院の授業のことを教えたり、逆にレナード様にこの一週間の苦労を聞いたり。
一時間ほどそんな話をしていたところで、あまり長居してはご迷惑になってしまうのではないかと今さらのように思い至った。
「レナード様、長居してしまってごめんなさい! よく考えたらお忙しい時期でしたよね。私はそろそろ帰ります」
「え、全然構わないのに。もう少しゆっくりしていきなよ」
「いえ。レナード様は今、将来の結婚相手を探す重要な時期なんですもの! お邪魔になってはいけないので、私はお暇させていただきます」
私はそう言いながら立ち上がる。
レナード様はなぜかまた複雑そうな顔になってしまったけれど、門のところまで見送ってくれた。