作品タイトル不明
3-10
訓練場まで着くとすでに学園長先生が待っていて、不思議そうな顔で見られてしまった。
「メイベル君、随分険しい顔をしているが何かあったのかね?」
「……いえ、なんでもないんです」
私はどうにか笑顔を作って首を横に振る。
先生は腑に落ちない顔をしながらも、それならいいがと言って、今日の訓練の準備を始めた。
***
訓練が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。
私はへとへとになって訓練場から戻り、校舎を歩く。
「あー、疲れたぁ……」
今日は実質学園長先生と一対一の訓練だったので、余計に大変だった。どうして先生の魔力はあんなに無尽蔵なのだろう。
反撃どころか、かわすこともままならないまま訓練は終わってしまった。
「でも、避けるスピードは速くなっている気がするわ! もっとがんばらないと!」
私はそう呟いて自分を鼓舞する。
すると、廊下の左の方から何やら人の声のようなものが聞こえてきた。
不思議に思ってそちらを覗き込む。
(あれ、ここはドレクスモルが隠れている恐れがあるから、入らないように言われている場所じゃなかったかしら……?)
この廊下の向こうには、湿地地帯に生える魔法植物を栽培している部屋がある。
そのため、この辺りはあまり日の光が当たらないよう整備されているのだ。つまり、暗い場所を好むドレクスモルが隠れるにはうってつけの場所だ。
私はそっと耳を澄ます。やはり、人の声のようなものが聞こえる気がする。
ドレクスモルを捕獲に来た先生たちだろうか。それならいいのだけれど、まさか生徒の誰かが迷い込んだんじゃ……。
不安に思っていると、中から先ほどまでよりはっきりした声が聞こえてきた。
「……やめろ……っ、やめ……」
悲壮な叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。
さっと全身から血の気が引いた。
廊下の向こうで、迷い込んだ生徒がドレクスモルに襲われているのではないか。咄嗟のことで防御の呪文も思い出せないのかもしれない。
すぐに先生を呼んでこようと踵を返す。
その時、後ろから一際大きな悲鳴が聞こえてきた。
駆けだそうとしていた足が止まる。
私が先生を呼びに行っている間に、取り返しのつかないことにならないだろうか。このままこの場を離れていいのか。
私はじっと廊下の奥を見つめた。
向こうからは逃げ回るような足音と悲鳴がまだ聞こえてくる。
……大丈夫、防御の呪文はちゃんと覚えている。学園長先生の訓練を毎日受けて、攻撃のかわし方だってうまくなった。
それに、精度にはちょっと不安があるけれど、私は魔道具なしでバリアを張ることもできるのだ。
ドレクスモル一匹くらい、大丈夫。
私はドキドキする心臓を押さえながら、おそるおそる廊下の奥に向かって歩き出した。