作品タイトル不明
2-15
「本当に違うのか?」
「ええ、違うと言っているでしょう」
「おかしいな、あのプレートがそんな簡単に割れるわけがないんだが……。いや、もしかすると、何らかの事故で壊れることもあるのだろうか……。馬車で移動するうちに割れてしまったとか?」
「きっとそうよ。あんな脆そうな鏡がついてるんですもの。持って歩いていたらいつの間にか割れていたって不思議じゃないわ」
「鏡? どうして知ってるんだ? マーガレットは実物に触れてないんだろう?」
エイデン様はお姉様を真っ直ぐ見据えて尋ねる。お姉様は怪訝な顔をした。
「どうして知ってるも何もバリアの魔道具ってそういうものじゃないの?」
「メイベル嬢が持っていたプレートはな。しかし、あれはヘイル侯爵家が魔道具店に注文した特別製だ。普通のバリアには鏡は付いていない」
エイデン様は疑わしそうな目でお姉様を見ながらそう言った。お姉様の表情が引きつる。
「どういうこと? 魔道具なんてみんな同じじゃないの?」
「同じ魔道具でも、使い道や販売する店によって形は大きく変わるよ。今回はメイベル嬢が怪我をすることが無いように、より効果の高い鏡のついたプレートを注文したんだ」
「じゃあ、私が知っていたバリアはそのより効果の高いタイプだったってことでしょ。そんなことで疑われても困るわ」
「鏡のついたバリアなんて一般には流通してないんだぞ。一番初めに思いつくのがそれなんてあり得るか?」
エイデン様は眉を顰めて言う。お姉様の顔が不愉快そうに歪んでいった。
エイデン様はため息交じりに言う。
「……あの魔道具が壊れていたせいでメイベル嬢は大けがをするところだったんだ。下手したら死んでいたかもしれない。これはバリアがあるからと危険のある作戦を決行した私も悪いが……。マーガレット、二度とこんなことはしないでくれよ」
「え、死にかけた?」
不愉快そうな顔をしていたお姉様の顔に、若干の焦りが浮かぶ。エイデン様は淡々と言った。
「ああ。大勢の魔獣にバリアもない状態で囲まれたら危険なことくらいわかるだろう」
「私は別にそこまでするつもりは……。ただメイベルが失敗すればいいと思っただけで……」
お姉様は言いかけてぱっと口に手を当てる。エイデン様はそんなお姉様を冷たい目で見ていた。
「……そこまでの悪意がなかったとしても、君がやったのはそういうことなんだ」
「ちょ、ちょっと! 私がやったなんて言ってないわよ! メイベルが自分で壊したのよ! そうに違いないわ!」
「まだ言い張るのか……」
エイデン様は呆れ顔になる。それからソファから腰を上げた。
「マーガレット、今まで何とか君との関係を改善出来たらいいと思ってきたが、無駄だったみたいだ。結婚は考えさせてほしい」
「え……? ちょ、ちょっと待ってよ! どうしてそんな話になるの!」
「妹にそんなことをするような女性と身内になりたくないからだよ……。後日、婚約の解消について改めて話し合おう」
「な……! 婚約解消ってなに!? そこまですることないでしょう!? ちょっと待ってよ、エイデン様!!」
エイデン様は縋りつくお姉様に構うこともなく、私に一言だけ「騒いで悪かった」と告げると、すたすた歩いて行ってしまった。
お姉様はエイデン様を追いかけて部屋を出て行く。廊下からはお姉様の怒鳴り声と、エイデン様の冷え切った声が延々と聞こえてきた。
私は部屋のソファにぽつんと残されたまま、戸惑いきってその声を聞いていた。